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異世界の英雄よ、現実世界でもう一度   作者: ヘンリー
第五部:元『英雄』の戦う理由
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京都英雄百鬼夜行㉓『相性バツグン』

「リチャード・L・ワシントン……!?」


 城壁の上に降り立った英人は、神妙な面持ちでその名前を呼んだ。


 先程の光弾は一昨日『影狼』に対して放っていたものと性質こそ同様であったが、その時とは威力がまるで違う。

 鵺に与えたダメージを鑑みれば、それは上級魔法にすら匹敵するだろう。


(だが、光弾に含まれている魔力量自体はそうでもない。

 良くて中級程度)


 英人はリチャードの持つ二丁拳銃に視線を移す。

 一昨日も今回も、光弾はあの小さな銃口から放たれていた。


 つまりリチャードの技とは込めた魔力を極限まで凝縮させ、貫通力と威力を上げるという代物。

 さらにはそこに驚異的な連射速度も加わり、結果的には『異世界』における上級魔法すら凌駕する威力となったのだろう。


 単純故に、強力。

 彼が『国家最高戦力エージェント・ワン』たる所以を、たった今英人は理解した。


「……おお元『英雄』か。

 随分と焦っていたようだが、大丈夫かね?」


「おかげ様でな。

 それより、その『魔法』はお前のオリジナルか? 一昨日も見たが」


 英人は二丁拳銃を指さすとリチャードはああ、とそれを持ち上げ、


「まあオリジナル、というより古い友人の意見を参考にして練り上げた物だがね。

 色々試したが、これが一番性に合ってる」


「グ、ク……!

 今のは『魔法』……光? 炎? 分からない、困った」


「お、もう完全復活か。

 さすがにあちら産の『魔獣』は怖いな。

 まあいい、ここは私に任せ給え」


 再生を終えて再び大翼をはばたかせる鵺に対し、リチャードは二丁拳銃を構える。


「いいのか?

 見ての通りそいつの再生能力は凄まじいぞ」


「問題ない。生憎とああいう手合いは得意な範疇でね。

 それより元『英雄』は壁の外を頼む。私からすればそちらの方が少々しんどそうだ」


「あっちはただでさえ手が足りないんだが……まあ良いだろ。

 その代わり、打ち損じるなよ」


「それは有り得ぬ仮定だ」


 その言葉に、フッと小さく笑う二人。

 そして次の瞬間、


「『絶剣リヴァイアス流転八連瀧オクタヴィア』!」


「『愛故に銃を取るパトリオット・バースト』!」


 両者は同時に『魔法』を放ち、己が敵を迎撃した。

 鵺はその頭部が吹き飛び、結界の穴に殺到した『怪異』の群れは次々と水龍に飲まれていく。


 その様子をリチャードは満足そうに見つめ、


「……思った通りだ。

 やはり我々は相性がいいらしい」


 そして不敵に笑った。

 




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





『大封印』周辺の森では、刀が縦横無尽に舞っていた。

 だがそれは決して比喩などではなく、本当に刀がひとりでに舞って数多の『怪異』たちを斬って回っているのである。


「グッ!」


「ギャッ!?」


 闇夜に次々と化物たちの断末魔が木霊する。

 刀が通った跡には、『怪異』の死体だけしか残らない。

 そこははあまりにも静かで疾い、一方的な殺戮現場となっていた。


「周囲の『怪異』どもを倒して包囲から逃れつつ、我らへの攻撃も怠らない、か。

 驚異的な能力の精度だな」


 飛来する刀を捌きつつ、木蓮は呟く。

 360度全方位から来るかもしれない白刃の斬撃、厄介な事この上ない。

 さらにそれに気を取られていると、


「覚悟!」


 白秋自身が直接切り込んでくる。

 しかも周囲には浮かせた刀もあるというおまけ付きだ。


 おそらく並大抵の術者であれば、成す術もなく白刃の餌食となっていることだろう。

 だが木蓮は静かに笑い、


「――『木呪防式もくじゅぼうしき絡蛇からみへび』」


 前方に数百を超える木の根を張り巡らせて迎撃に出た。

 地中から伸びた根はまさしく蛇の如くうねり、白秋の身体へと殺到する。


「はぁっ!」


 しかし白秋はそれを巧みに捌き、根を足掛かりに跳躍。

 周囲の白刃で根を切り裂きつつ、今度は上空から袈裟斬りにすべく大きく刀を振りかぶる。


「『木呪攻式もくじゅこうしき槍衾やりぶすま』」


「『操刀そうとう奥義・刃界乱撃じんかいらんげき』!」


 そして空中で、幾百もの木の根と六つの白刃がぶつかり合った。

 次から次へと延びる根の群れを、高速で飛び回る白刃が次々と削り取っていく。


「おおおおおおっ!」


 最初こそは拮抗していたが、徐々に白秋が押していく。

 そしてついに根の勢いが微かな緩みを見せた時。


驩兜かんとう、覚悟っ!」


 白秋の一太刀が、木蓮の身体を袈裟に裂いた。


「ぐっ……成程、やるな。

 中々の使い手だ。尊敬に値するぞ刀煉の当代よ。

 だが残念だったな」


 肩口から血を噴き出しつつ、木蓮は笑う。

 瞬間、白秋は刀を引き抜いて即座に間合いを取った。


「貴様……偽物か!」


 白秋がそう叫ぶと、木蓮の姿をしていた「何か」は大きな笑い声を上げながら姿を変えていく。

 そして後に残ったのは斜めに裂けた、人の形をした木のみ。


 白秋は咄嗟に周囲を見渡して木蓮の姿を探すが、その姿どころか気配すら感じない。

 その必死の様子を見。永木はクスリと笑った。


「白秋殿。

 いくら探しても、木蓮様はもうここにはおられませんよ」


「永木……。

 なら奴は今、どこにいる」


 白秋の問いに、永木は黙ってある方向を指さす。

 その方角は、北西。


「まさか……」


 白秋の頬に、一筋の汗が伝う。

 それは鹿屋野の本拠地、鹿屋野大社のある方角であった。





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 鹿屋野大社、境内。

 そこには石畳で出来た道が一本、本殿へと向けて通っている。

 本来であれば観光客の類は近づく事すらないが、日頃から手入れは徹底されており夜にあっても白く光っているのが特徴的だ。


「――まるで駄目だな。腑抜けている。

 やはり私が立つべきであったのだ」


 しかしその石畳は今、血と肉によって朱く染まっていた。


 その肉片の本来の持ち主は、鹿屋野の本拠地を守護する呪術師たち。

 しかし精強を誇る彼らは、たった一人の『怪異』の手によって反撃の機会すらなく殺されてしまっていた。


「……ふむ、意外だな。

 佇まいこそ小奇麗にはなってるが、漂う空気は千年前とまるで変わっとらんとは」


 本殿へと歩みながら、木蓮は吐き捨てるように言う。

 周囲の護衛は粗方始末し、残るは本殿のみ。


 木蓮は堂々と、本殿へと押し入った。


「なっ……貴様、驩兜かんとうか!」


「どういうことや!?

 何故こやつがここに……!?」


 突然の来訪者に、金麗きんれい銀麗ぎんれいが同時に声を上げる。

 本殿の中では両老婆と杜与とよを始めとした鹿屋野家宗家の面々が、神体の前で必死に祈りを捧げていた。


「成程、あの城壁はここで制御しているわけか。

 して、けいが鹿屋野の当代か?」


「……驩兜かんとう


「……その名で呼ぶなよ、子娘」


 木蓮から放たれる圧に、宗家の人間たちは思わず冷汗を流す。

 鹿屋野の中枢を担う人間である以上彼らもまた優秀な呪術師なのだが、目の前の相手は格が違った。

 しかし杜与は当主としてただ一人、負けじと言葉を返す。


「……ここは、鹿屋野の総本山。

 『護京方陣』の外にいたはずのそなたが、どうしてここまで」


「何、我の術でここまで転移しただけのことよ。

 『路』自体は封印される前から既に繋いでおいたからのう。

 後はそれを辿るだけだ」


「何故そんなものが此処に繋がって」


「無論、此処が我の庭であったからよ」


 そう言って木蓮が右手を上げた瞬間、大量の木の根と幹がどこからともなく生え、本殿全体を侵食し始めた。


「! 土もないところから……! しかもこの速度」


「我の『力』は、場所を問わず瞬時に樹木を成長させるというもの。

 しかしさすがは我が庭、成長具合が良いわ」


「そなたは、一体……」


 恐る恐る尋ねる杜与に、木蓮はニヤリと笑う。


「知らぬか? ならば教えてやろう。

 我の名は鹿屋野かやの 木蓮もくれん

 鹿屋野家の正当なる初代である」





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「おおおおっ!」


 三対六枚の蒼翼を羽ばたかせ、英人は『怪異』の群れを次々と屠っていく。

 リチャードが鵺を受け持った以上、後顧の憂いはない。


 英人はそのまま音速で邪気の奔流を真一文字に切り裂き、酒呑童子の下へと飛び降りた。


「……やるな、人間よ」


「そりゃどうも」


 そして両者は同時に飛び掛かり、剣と拳がぶつけ合う。


「グウゥゥッ!」


「おおおおっ!」


 その余波は周囲の木々すらなぎ倒し、『怪異』すら寄せ付けない。

 凄まじいレベルで拮抗する両者の力。

 しかし徐々に酒呑童子がその自慢の膂力でじりじりと英人を押していく。


「……良い。良いぞ、ようやく調子が出てきた。

 今度はこちらの番だ!」


 そして一気に魔力を開放し、英人の身体を弾き飛ばした。


「くっ……」


 英人は空中で態勢を整え、地面に着地する。

 顔を上げると、そこには先程以上に大量の魔力を纏った酒呑童子と、千を超える『怪異』の群れが英人を包囲していた。


「牛鬼に土蜘蛛、天狗に飢者髑髏がしゃどくろ……有名どころばっかだな」


「我等も総力を以て、貴様を潰させてもらう。

 しかし解せぬことよ。精霊を分離させてなければもっと有利に戦えたであろうに。

 いらぬ情が仇となったな、人間」


「いや、そうでもないさ」


「……何?」


 酒呑童子がピクりと眉を動かすと英人は立ち上がり、絶剣を虚空へとしまう。


「『神器』を、使わぬというのか」


「神の武器と言えども、武器は武器でしかない。

 俺の真骨頂はこっちさ」


 そして英人は左腕を前に向け、構えた。


「――『最強』を、見せてやるよ」


 その言葉と共に、左腕からは眩いばかりの光が放たれる。


左腕(レフトアーム)再現情報入力(インストール)――」


 今から宿すは、かつて共に『異世界』を救った『英雄』の力。

 彼は純粋な腕力だけで数多の『魔族』を打ち倒してきた。


(借りるぞ、飛翔ひしょう……!)


英雄変化トランスヒーロー・オン・『最強の戦士ウォリアー・オブ・ストロンゲスト』!」


 それは五人の『英雄』の内の一人。

『最強の戦士』と呼ばれた少年、足柄あしがら飛翔ひしょうの左腕であった。


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