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おそらくは、彼の平穏な世界征服   作者: あおいろ
第二話 剣士にラブソングを…
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謎多き乙女たち

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 星空のもと突如とつじょ火山が噴火し紅蓮ぐれんの炎を夜闇よやみげた。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


 次いで真っ赤に輝く火口から、あふれる溶岩と共に150メートルはあろう〝鬼〟が地獄の底からすように現れる。


 ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!


 さらに大地をくだき黒い氷で出来た巨大な帆船はんせん……否、海賊船が深い地の底から現れ、火山のふもと幾筋いくすじも流れる溶岩の川の1つをわたっていく。


「ったく、ヤバかったんだぜい」


 海賊船の甲板かんぱんに立つのは、波打つ紺碧こんぺきの髪を胸まで伸ばす、身長190センチを超えるたくましい体躯たいくの少年。


間一髪かんいっぱつであったのじゃ」


 他にも甲板には、頭頂に一本角いっぽんづのを生やす少女や12本の三つ編みをヒザに届かせる少女、それにヒザを抱えてちゅうに浮く少女や〝黒い氷の海賊団ブラックアイスパイレーツ〟の団員たちもおり、


仕出しでかしてくれるものじゃのう……〝守り刀〟め」


 一本角を生やす少女が、夜闇に浮かび上がるように火山のいただきに立つ紅蓮ぐれんの〝鬼〟をにらみつける……と、


愚妹ぐまいめ、さなぎより羽化うかしたのでつかまつるか」


 白い和装の女をよこきし、長大な蛇行剣だこうけんを背負う総髪そうはつの少年が甲板に降り立った。


「良かった。みんな無事だったんだね」


 直後、タンクトップとホットパンツの少女をお姫様だっこする少年が、白金色の髪を足首まで伸ばす少女と乳白色の髪をヒザまでなびかせる少女、それに黒髪を肩に届かせるメガネの少年をともなって甲板に降り立つ……と、


「《《メチャクチャ》》強い重圧コスモを感じるっぺよ……!!」


 メガネの少年が〝鬼〟を見て、その場の総意を代弁するようにつぶやいた………

                       

                   ◆


「やはり、この重圧は……!!」


 火山のふもとの海賊船から離れた地点で、白い和服を着て白い髪を足首まで伸ばす女がうなるようにらし、


「……どーすんだ、ししょお?」


 忍者にんじゃ装束しょうぞくの少女が女の横で女と同じく〝鬼〟を見ながら、一帯を震撼しんかんさせる重圧に冷や汗しつつ問う……だが、


「……決まっている」


 答えたのはオレンジ色の髪の男であり、


「あれが地球の新たな戦力ならば……我らが帝国にあだなす存在ならば……」


 やはり冷や汗しつつも歯をしばり、男はその身を炎に包むと──


「この場で打ち倒すまでよ!!」


 巨大な〝炎の鳥〟となり〝鬼〟へばたく!!


「やめろフゥオーコ!!」


 白い髪の女──ワイクナッソが制止するも〝炎の鳥〟は炎のような紅蓮ぐれんの〝鬼〟へ一直線に飛んで行く。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


 だが〝鬼〟は雄叫おたけびつつ燃え盛る炎の剣を振り下ろし、迫りくる〝炎の鳥〟の右の翼を斬り飛ばす!!


「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 人に戻ったファルコ・フゥオーコが大地に落ちてのたうち回る。その右腕は肩から斬り落とされ、切断面の肉は溶けて液状になった上、蒸発して水蒸気を上げていた。


「いかん! 道化どうけよ! あいつも強制きょうせい撤退てったいだ!!」


 ワイクナッソが叫ぶや、空に浮く真紅の道化師ピエロが鏡と鈴がついた長杖ちょうじょうを輪を描くように一回転させる。


 しゃらんっ


 刹那、ファルコはそばの空間にいた真紅の穴に消えた………


                   ◆


「〝嵐の騎士団(ストームナイツ)〟でも歯が立たないか……」


〝炎の鳥〟がせられた光景に、煌路こうじが海賊船の甲板でつぶやき、


「なんで、ちょっと嬉しそーなんだ次期当主サマ?」

「うん? まあ幼馴染の成長を嬉しく思うところは、ちょっとあるかな♪」


 六音りくねがジト目でただすと、煌路はお姫様だっこしている少女に《《どこか自慢げに》》微笑みかけた。


「……ハッ、kill(キル)すう6000万の〝殺人記録マーダースコア〟4位はダテじゃないってか……つっても、あんなアメリカの奇祭みたいになったのを〝成長〟で片づけていーのか?」

「奇祭って、ネバダ州の『バーニングマン』のことかな? 近年は規模がどんどん大きくなって、燃やす人形も20メートルを超えているって聞いたけど」


 ジト目を強める六音を甲板に下ろしつつ、


「でもほら、火焚凪かたなも人形も《《大きく》》〝成長〟しているのは同じだよね」

「あの祭りって、元々は失恋を忘れようとして人形を燃やしたトコから始まったらしーぞ?」


 ジト目だった六音が、どこか同情的な視線を〝鬼〟へ向ける……直後、


「コウジ!!」


 目の覚めるような青い髪を足首までなびかせ、純白のスリーピーススーツを着た女が甲板に降り立ち、


「なかなか《《炎上》》してるな♪」


 常闇とこやみのような黒髪をヒザに届くポニーテールにして、地球軍の〝特務部隊とくむぶたい〟の白い軍服を着た女も甲板に現れる……と、


「おつかさま、デュロータ。助かったよ。リオさんを呼びに行ってもらえて」


〝担任〟の登場に級友たちががまえる中、煌路が青い髪の女へ柔和にゅうわに微笑み、


「気にすることは無い。大した用事でもなかったことだしな」


 青い髪の女──デュロータは周辺を圧迫あっぱくする重圧に顔を強張こわばらせ、緊迫きんぱくした雰囲気で応える……が、


「お前こそ大事だいじないようで何よりだ。日頃ひごろから言っているだろう。お前の無事が最優先だとな」


 ふとほのかに微笑み、かすかに雰囲気をゆるめ、瞳の奥に熱をめた眼差まなざしを煌路へ向けた……


「「「「「!!」」」」」


 途端、《《恋する乙女のごとき》》デュロータの態度に級友の女子たちが燃えるような重圧を発し、


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


〝鬼〟も熱く叫び、大きく炎の剣をふるい巨大な炎の斬撃ざんげきを海賊船へ飛ばす!!


「弱き者、なんじの名は女なりか♪」


 だがポニーテールの女──鷹岡たかおかリオが取り出した緑の勾玉まがたまが放った光に炎の斬撃はされ、煌路は鋭い視線で勾玉を見ると、


「それが……」

「ああ、お前の〝歩行器〟だ。バッチリ仕上げといてやったぞ♪」


 リオがえらそうに笑みつつ勾玉を差し出し、受け取ろうとする煌路の右のてのひらに乗せる……と、勾玉は水面に沈むように手の中に入ってしまい、わずかに顔をしかめる煌路へリオは一層偉そうに笑み、


「今度はコケるなよ赤ん坊(ベイビー)♪」

「……勿論もちろんですよ。自分の〝失敗〟は自分でかたをつけます」


 顔を引き締めた煌路が、火山のふもとの海賊船から火山の頂上に立つ〝炎の鬼〟を見据みすえる。


御屋形様おやかたさま


 その時、よこきしていた女をかたわらに下ろした総髪の少年──津流城つるぎが甲板に正座してうやうやしく煌路へ奏上そうじょうし、


「我が妹の元へおもむかれるならば、どうかこれを」


 白木しらきさやに納められた日本刀を腰から抜くと、横に向け左右のてのひらに乗せて煌路へ献上けんじょうした。


「これこそは我ら兄妹が……否、我が妹がこの世に生まれ落ちたおり、共にこの世にあらわれたとされる一対の刀のかたれにつかまつりまする」

「君たち兄妹が生まれた日……君たちの両親を含めた八重垣やえがきの一族が滅んだ大火たいかから、君を助けてくれた刀だね……いいのかい?」

御意ぎょい


 刀を受け取りつつたずねる煌路に津流城は深く頭を下げると、自身が背負う紫に輝く蛇行剣だこうけんを見やり、


「某は、新たな愛刀を得たのでつかまつりますれば」


 次いでかたわらに横座よこすわりしている白い和装の女──沙久夜さくやに目をやり、視線をわしてうなずう。


「そうか……それじゃあこれは、ありがたくもらっておくよ」


 津流城と沙久夜の深いきずなを感じさせる仕種しぐさに、煌路は満足そうに微笑むと白木の鞘に入った刀を握りしめ、


「行こう、姉さん」

「はい、コロちゃん」


 自身も白金色の髪の少女──ウィステリアと視線を交わし、深く頷き合う……と、姉弟の体が光に包まれ、


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


 同時に〝鬼〟も光り出し……姉弟と共に〝世界〟から姿を消す──が、その寸前の刹那にも満たぬ一瞬、ウィステリアだけが黒い球に包まれ煌路や〝鬼〟とは別に消えていた。


「!」


 それはZクラスの生徒たちさえ気づけぬ一瞬の出来事だったが、唯一ゆいいつ気づいたリオはかすかに眉をひそめ……


「あのバカ……」


 口の中で、誰にも聞こえぬつぶやきをらした………


                   ◆


「ここは……」


 空も地面も無いくろな空間にウィステリアはいた。


「コロちゃんや火焚凪さんと、引き離されてしまいましたか……」


 煌路と共に〝異元いげん領域りょういき〟へ移る寸前、黒い球に包まれこの空間へ転移させられたのだったが……


「何のつもりですか……ブレイクさん」

「さっすが若奥様わかおくさまでやがるのですよ♪」


 宇宙誕生以前の〝永遠の無の世界〟がごとき暗闇くらやみでも、清淑せいしゅくな気品をまとって毅然きぜんとする少女の前に右目に片眼鏡モノクルを付けた少女が現れ、


「フラッターはモチロン、みのエヴォリューターもペチャンコな重力も平気でやがるのです♪」


 《《凄まじい高重力が渦巻く》》真っ黒な空間で、平然と話す少女たち。


「ま、オッパイにかかる重力をいつも〝消滅〟させてる若奥様ならヨユーでやがるのですか♪」

「『若奥様』と呼ぶのはやめてくださいと、いつもお願いしているではありませんか、ブレイクさん……」


 一縷いちるの光も無い真っ黒な空間で、溜め息しつつもりんとするウィステリアに対し、


「ノッピキナラナイ事情で、火焚凪に若奥様を会わすのは禁止でやがるのです♪」


 片眼鏡モノクルの少女は、暗闇を照らすようなナマイキな笑みを浮かべた………


                  ◆


「今のは……」


 煌路が静謐せいひつしろい荒野でつぶやいた。


「間違いない、ブレイクの技だったよね……」


〝異元領域〟へ移る寸前、ウィステリアだけ他の場所へ移動させられたのだ。


「何のつもりか知らないけど……さすがに悪戯いたずらが過ぎるかな……ん?」


 全てにおいて姉が最優先の少年は目元を険しくするが、チノパンのポケットに違和感を覚え手を入れる……と、緑のビリヤードの球が出てきた。


「ふ~ん……」


 瞳を冷たくしつつも納得したように溜め息し……


 バキャッ


 右手で球をにぎくだく。そして……


「まったく……彼女の悪戯にも困ったものだよね……」


 共に〝異元領域〟に来た〝もう1人〟へ目を向け、


「それとも……君の主君として、1人でことを収めろってことかな……ねえ、火焚凪」


 巨大な紅蓮ぐれんの〝鬼〟へ、ありったけの親愛をめて微笑んだ………


                  ◆


 ゴバアッ!!


 薄暗い洞窟どうくつの地面を砕き、2メートルを超えるありが地中から現れ、


「……間に合わなかったか!」


 蟻の背が割れ、中からでっぷり太った体を石のよろいで包んだカエルのような顔の男が出てくる……と、


「お疲れさんどすえ、最後の当主殿♪」


 ほぞを噛む男──草薙くさなぎ弥麻杜やまとの後に、白釉はくゆうのような白い顔にはんなりした笑みを浮かべる少女が現れ、


戦場いくさばには〝分体ぶんたい〟の羽蟻はありを残しはって、〝本体〟は地面にもぐって逃げとったんどすな~♪」

七里塚しちりづか……葛葉くずは……!」


 弥麻杜が息をのんで振り向くと、少女──葛葉は右肩から胸に流す黒釉こくゆうのような黒髪をまみ、それをたばねる鼈甲べっこうかみめをペロリとめつつ、


「そないにしてまで、ここにはる理由があったんどすえ? 〝里〟の民はおろか、女房にょうぼう子供こどもも死んでもうたゆうんに」

「!!」

「ま、死んでもうとるんは、あんさんも一緒なんどすけどな~♪」

「!?」


 弥麻杜が目をくも、葛葉は一片の曇りも無い笑みで、


「忘れたワケやないどすえ? 黒い巨人にならはった太華瑠たけるはんに腰から下を吹っ飛ばされ、湖乃羽このははんに〝黄泉国よもつくに〟で使役しえきされとったことを」

「……!」


 弥麻杜が《《血の気の無い》》顔を苦渋くじゅうに歪めるも、葛葉は微塵みじんも邪気の無い笑みで……


「ま、その前にも一度死んどったんどすけどな~♪」

「っ!?」

「〝瀬織津せおりつ顕現けんげん儀式ぎしきのあと、崩れた鍾乳洞しょうにゅうどうに巻き込まれて〝八鱗刀はちりんとう〟もろとも死んどったんどすえ~♪」


 驚愕きょうがく硬直こうちょくする弥麻杜に、葛葉は手品のたねかしをする子供のように笑み、


「せやから、沙久夜はんにもろうた〝瀬織津〟のうろこ仕込しこんで生き返らせたんどす。そのあと太華瑠はんにはふられてもうたワケどすが、湖乃羽はんがゾンビにしてくれて助かったんどすえ。さすが姉妹、ええチームワークどすな~♪」


 毛ほどのうしろめたさも無い少女に、弥麻杜はすでに止まっている心臓が暴れるように鼓動こどうする錯覚さっかくとらわれつつ、


「な…何のために、そんなことを………」

豆腐とうふを斬ってもためりにならんのどすえ~♪」

「なんだと……?」


 弥麻杜がさらに困惑こんわくするも、葛葉ははんなり笑んだまま洞窟の奥を見る……と、太い木の格子こうしを手前にしつらえた池のようなみずまり……水牢みずろうがあり、


「あれが、火焚凪いもうと殿どのの〝里〟でのやったんどすな~♪」


 《《無人》》の水牢を前に邪気の無い笑みをほころばせ、


「1人の女子おなごをあそこに閉じ込めとくんが、〝里〟や家族を守るより優先順位が上やったんどすえ当主殿?」

「……!!」


 弥麻杜が目を見開き、一瞬の葛藤かっとうを見せる……が、


「……あれは……あれこそは……この世にあってはならぬ〝鬼子おにご〟だ……!」


〝鬼〟の形相ぎょうそうで葛葉をにらみつけ、


「お前は知っているのだろう。〝鬼子〟を輩出はいしゅつした一族が……〝八重垣やえがき〟が、なぜ断絶したのか……!」

津流城あに殿どの火焚凪いもうと殿どのが生まれはった夜……正しくは《《火焚凪殿が》》この世に生まれはった瞬間、八重垣の領地が業火ごうかに包まれて一族郎党いちぞくろうとう焼き尽くしてもうたんどすな~♪」


 お気楽な葛葉の声に、弥麻杜はさらに顔を険しくして、


「そうだ……立ち会いのため八重垣の当主の屋形にいた我が弟は、全身に火傷やけどを負いながらもかろうじてび……我が屋形にたどり着き、ことれる前に事の次第を伝えたのだ……」


 故人こじんいたむように顔をせ、


「あの夜、あの屋形にて……ふすましに、一つめの産声うぶごえ男子おのこの生まれをげる声が聞こえ、次いで二つめの産声が聞こえた瞬間……全てが業火に包まれたとな……!」


 憎悪ぞうおの業火を瞳に燃やしつつ顔を上げ、


「業火は一晩に渡り燃え盛り……日が昇りようやく鎮火ちんかしたところで、我らは八重垣の当主の屋形へ向かったのだ……だが……」


 はらたしい記憶にいらちつつ、


「八重垣の領地は、一面の焼け野原となっており……当主の屋形があった地に、二本の白木しらきさやに納められた刀と、二本の刀がそれぞれ発する光にそれぞれ包まれた二人の赤子が……《《無傷》》の男と女の赤子がいたのだ……」

「見つけたんは、それだけやなかったんどすえ?」


 葛葉の《《確認する》》声に、弥麻杜は忌々《いまいま》しげに顔を歪め、


「八重垣の当主の屋形は、〝里〟を収める地下空洞の内壁を背にしてっていた……そして、屋形が焼け落ちあらわになった内壁の一角いっかくに、屋形により隠されていた洞窟が口を開けていたのだ………」

「それが、この洞窟どすな~♪」


 葛葉は自分がいる洞窟の内部を見回して、


「そのあと、火焚凪いもうと殿どのは赤子の身ながら強烈な重圧をらしはって、〝里〟をくだんの〝暗黒節あんこくせつ〟に沈めたんどすな~♪」


 感心するように笑みつつ、


「ほんで、あんさんらは〝元凶〟を何とかしようと手を尽くしはったんどすが……刀の光に守られとった火焚凪いもうと殿どのに、傷ひとつ付けられんかったんどすえ~♪」


 洞窟の奥に目をやり、


「せやから、あんさんらは洞窟の奥のでっかい水溜まりに水牢を作らはって、赤子やった火焚凪いもうと殿どのを、やっこはんを守っとった刀と一緒に閉じ込めたんどすな~♪」


 《《無駄な》》努力をねぎらうように、


「そうして誰もやっこはんに触れさせんとけば、いずれ重圧が収まるとおもわはって……せやけど」


 《《当然の》》結果を告げるように、


「その後も若様に連れてかれるまで、水牢の中から重圧を出しまくっとったんどすえ~♪」

「一体どういうことなのだ!!」


同類なかま〟を誇るような少女に弥麻杜は錯乱さくらんしそうな勢いで、


「水牢に入れてからめしもやらなかったのに普通に育ち、誰とも話していなかったのに言葉まで覚えていたんだぞ奴は!!」

「ほんでも、《《なぜか》》この牢の中やとやっこはんは力の大半を使えなくなってまうどすからな。せいぜい、〝里〟のあちこちに自分の幻を映したり……」


 弥麻杜が眉を吊り上げた。


「牢の中から、太華瑠たけるはんの右手を斬り飛ばしたり……」


 弥麻杜がギリッと歯ぎしりした。


「〝里〟を〝暗黒節〟に沈めるくらいしかでけへんようになってまうんどすえ~♪」

甚大じんだいきわまる脅威だ! やはり奴をはなつなど断じてゆるせん!!」


 弥麻杜が冷たい体に灼熱しゃくねつ執念しゅうねんを燃え上がらせた。


「その程度、やっこはんの《《本来》》の〝力〟を思えばカワイイもんどすえ~♪」


 片や葛葉ははんなり笑んだまま、冷徹に真理を語るように、


「そもそも、さっきも言ったどすな? 自分よりはるかに強いもん小細工こざいくおさえんとしても、長くはたんのやって」


 笑みの奥に自戒じかいめるようなおもむきで、


「それは自分が高みにのぼるんやなく、高みにおるもんを自分がおる位置に引きずり下ろすあさましい所業しょぎょうどすからな」


 ほのかにほろにがさのにじむ笑みをかせ、


「そんなん上手うまくいくワケないんどすえ~♪」

綺麗事きれいごとなどくそらえだ!! 分からんのか!?」


 冷徹な真理に対し、熱い執念しゅうねんをさらに燃え上がらせる弥麻杜……だが、


「奴をばなしにすれば世界が〝暗黒節〟に沈み……かつての〝里〟以上の命が失われるんだぞ……!!」


 熱い執念の奥に、冷たい〝何か〟をただよわせ、


「そうだ……我らが、あの禍々《まがまが》しい〝鬼子〟を滅ぼさなければ……〝鬼子〟に、この世が滅ぼされるんだぞ……!!」

「どっちが滅ぼし、どっちが滅ぼされるか、それは〝弱肉強食〟ゆう世の真理が決めてくれるんどすえ~♪」


〝綺麗事〟を叫ぶ弥麻杜を、さらなる〝綺麗事〟で斬り捨てる葛葉……だったが、


「やっぱ〝欲〟と同じく〝恐怖〟の恩恵おんけいあってこそ、人は全てを捨てて懸命けんめいになれるんどすな♪」


 漂う〝何か〟の正体を見抜みぬき、嬉しそうなつぶやきを口の中でらす……そして、


「つまり、あんさんは世界の平和のため、多くの人の命を救うため、火焚凪いもうと殿どの幽閉ゆうへいして……殺すつもりやったんどすな♪」


 邪気の無いはんなりした笑みを浮かべ、


「せやけど、それがかなわんかったから今回の計画を考えたんどすえ~♪」


 屈託くったくなく笑みをほころばせ、


湖乃羽このははんはあんさんをたばかって野心を成そうとしたワケどすが、あんさんも湖乃羽はんに黙って〝ほんまの目的〟を……〝悲願〟を果たそうとしたワケどすな~♪」


同類なかま〟をたたえるように笑みを輝かせ、


「〝瀬織津せおりつ〟の顕現けんげんは二番目の目的で、火焚凪いもうと殿どのを〝儀式〟の〝にえ〟にして抹殺まっさつする……それこそが、あんさんの〝悲願〟やったんどすえ~♪」


 少女の笑みで、薄暗い洞窟がまぶしく照らされたように感じた。


「……だが、それも失敗した」


 対して〝弥麻杜なかま〟は、世の理不尽りふじんに絶望するように暗い顔になる……が、


「一体あいつは何なのだ!? 今日だってそうだ! お前らは〝儀式〟の〝にえ〟の一部に南米の四つの州と〝里〟の民の命を使ったんだろう!!」

「今回は1900年ぶりの顕現けんげんやから、〝にえ〟にごっつい命の〝力〟が必要やったんどすえ。〝壬申じんしんいくさ〟やそれ以前に顕現けんげんさせる時はそこまでの〝力〟はいらんかったから、〝里〟の中から〝力〟の強いもんを〝にえ〟にしとったんどすけどな~♪」


 迷いなき笑みの少女に弥麻杜は再び執念しゅうねんを燃やし、


「そうだ! だから我らは今回、星の核の力と……〝鬼子〟の命を〝にえ〟に使おうとしたのだ!!」

「核の力の分は、太華瑠たけるはんについとった〝嬉しい誤算〟でまかなったんどすえ~♪」


 曇りなき少女の笑みに弥麻杜は目をき……


「……それについてもただしたいが、今は〝鬼子〟のことだ……!」


 発狂しそうないかりを押し込めつつ……


「……お前たちは四つの州と〝里〟の民の命を、〝鬼子〟の命の代わりに使ったのだろう……それはつまり、〝鬼子〟一人の命が、何千万もの命にひとしい〝力〟を持っていたということだろう……!!」


 いかりを超える〝恐怖〟におののくように……


「一体……あいつは、何なのだ……!?」


 冷たい体を萎縮いしゅくさせつつ、かすれる声をらした……一方、


「ま、火焚凪いもうと殿どのも委員長とは別の由来ゆらいでおっかないどすからな~♪」


〝恐怖〟をたたえるように、はんなり笑む葛葉……しかし、


「……まったく、同じ〝無道三家むどうさんけ〟の縁者えんじゃやのに、他の家のもん凄過すごすぎて肩身かたみせまいんどすえ~」


 かすかに顔を曇らせ、


「せやから、なけなしの悪知恵わるぢえしぼって若様に尽くしとるんに……〝クズ参謀〟なんぞとわれるなんて、ほんま理不尽りふじんなんどすえ~」


 どこか〝恐怖〟にうんざりするように溜め息する……と、


「委員長……〝九十九つくも〟の娘のことか……」


 弥麻杜がさらに声をかすれさせ、


「あいつも何者なのだ……儀式の場で会った際に『久方ひさかたぶり』などと言っていたが、前回あいつがワシの前に現れたのは……今から、《《20年以上も昔》》なのだぞ……」


 ごくりとのどを鳴らし、


「……ワシが草薙家の当主となったおり祝賀しゅくがの場に九十九の名代みょうだいとして奴が現れたのだ……《《今日と変わらぬ》》、《《若い娘の姿でな》》……!」


〝恐怖〟に魂をつぶされるように、


「どういうことだ……お前たちは、自分たちを〝十試属じゅっしぞく〟などと言っていたが……何か、かかわりがあるのか……?」

「ま、あるとえばあるんどすが……〝九十九あれ〟は〝十試属うちら〟どころか〝原種〟、あるいは〝五色人ごしきびと〟としても、とびっきりおっかないんどすえ~♪」

「〝五色人ごしきびと〟だと……?」


 新たに出た言葉に弥麻杜は眉をひそめ、


「確か……我が国最古とされていたやしろの伝承や、一部の史書ししょにそんな名が……」

「史書の方は古史こし古伝こでん……偽書ぎしょゆうことにさせとるんどすけどな。ま、その記述きじゅつかて史実しじつとあちこち食い違っとるんどすえ~♪」


 再び笑みを輝かせ、


「それらの原典げんてんになった書は〝乙巳いっしへん〟のおり、ドサクサにまぎれて〝十試属うちら〟の御先祖ごせんぞが残らず焼いてもうたどすからな~♪」


 胸を張って誇らしげに、


「せやから今やほんまの歴史ことは、〝十試属〟や〝原種〟につらなるもんしか知らんのどすえ~♪」


 弥麻杜が絶句するも、少女ははるか遠くを見つめるようにして、


「それで良かったんどすえ。ほんまの歴史が……うちらの〝起源〟にまつわる歴史が現代いままで伝わっとったら、いろいろ厄介やっかいどすからな~♪」


 鼈甲べっこうかみめをペロリとめつつ、一片の邪気も無い笑みをほころばせた。


「……一体……何が、目的なのだ………」


 やがて、話の内容に圧倒されていた弥麻杜が消え入りそうな声をらす……と、


「もちろん、若様のために新たな世をつくるんどすえ~♪ せやから──」


〝恋する乙女〟は細い筆を取り出し、毛先から洞窟の奥へ炎をして水牢の格子こうしを焼き払い、


「うちも今日の〝作戦〟の、〝ほんまの目的〟を果たすんどす♪」


 あらわになった水溜まりにあゆると、筆に替わり3種の古代文字が刻まれた短剣を取り出し、


「偉大な〝試祖しそ〟の大いなる〝遺産いさん〟を拝領はいりょうするんどすえ~♪」


 短剣を水溜まりへ向け、荘厳そうごんな金色に輝かせた………


                   ◆


退きならない事情ですか……」


 真っ黒な空間で、ウィステリアはかすかに声を低くして、


「コロちゃんと私を引き離す事情とは、どんな事情なのですか?」


 視線もわずかに鋭くする……対して、


「ですから、火焚凪のためでやがるのですよ♪」


 ブレイクは楽しそうに目を細め、


「モチロン、ボッチャマのためでもありやがるのですし──」


 ヘッドドレスの白いレースを揺らし、


「ついでに、アタシサマの〝はじめてのおつかい〟のためでもありやがるのです♪」


 右目の片眼鏡モノクルをキラリとさせつつナマイキな笑みをほころばせ、ウィステリアの眉をひそめさせた……刹那、


 ビキィッ!!


 真っ黒な空間の一角いっかく亀裂きれつが走り、


「ウルトラメガネーザーあああああああああああああああああっ!!」


 強烈なレーザービームが亀裂をくだき真っ黒な空間にきざむ。と、裂け目から1人の少女が空間に飛び込み、


「見つけたぞ! 〝秘密の御奉仕ザ・シークレットサービス〟の淫乱いんらんメイドめ!!」

「六音……でやがるのですか?」


 ブレイクが眉根まゆねを寄せる。その視線の先には露出の高いタンクトップとホットパンツ……ではなく、黒い全身タイツで顔をふくむ頭から爪先つまさきまでを覆う少女が、メガネを目の位置に付けて空間に浮かんでいた。


「いつのにクララの戦闘員パシリになりやがったのですか?」

「んなワケあるか! これは──」

「私の糸でんだ即席そくせき防護ぼうごふくですよ」


 六音が出てきた裂け目から毅然きぜんとした声が響き、黒く細い巨大な虫のあしが8本、ざわざわとうごめきつつ裂け目からて……


 バキバキバキ……!!


 巨大な肢は裂け目を砕いて広げ、大きくなった裂け目から全長20メートル近い漆黒しっこく蜘蛛くもが真っ黒な空間に入ってくる……と、


御曹司おんぞうし直属の侍女じじょとは言え、勝手が過ぎるのではありませんか、ブレイク」


 蜘蛛の頭から、1人の少女の上半身がてきた。メガネのレンズを鏡のように光らせ、長い烏羽色からすばいろの髪を腰の高さで蜘蛛の頭に溶け込ませる少女の上半身が。

 

砂織さおりさん!」

「委員長!?」


 ウィステリアとブレイクが目を見開く……が、


「……なるほど。委員長のハンドメイドなら、六音フラッターがこの重力でツブれないのもナットクでやがるのです」


 感心してうなずくブレイクだったが、再び眉根を寄せ、


「でも、どうやってこの空間の位置を……ん?」


 何かに気づいて自分の左足を見るブレイク。そのかかとに1本の黒い糸がつながれ、蜘蛛の肢の1本まで伸びていた。


「まさか、この糸をたどって位置を知りやがったのですか?」

「その通りです」


 砂織がブレイクをにらみつつ、


「〝草薙の里〟にて地下空洞の天井近くで、ずっと様子をうかがっていましたよね。何をする気なのか注視して、万一の場合にそなえ糸を繋いでおいたのですよ」

「な……隠形かくれんぼはカンペキだったハズなのに、アタシサマを見つけやがったのですか……その上ココまで追いかけてくるなんて……ぬわっ!?」


 蜘蛛が口から多数の黒い糸を吐きブレイクをからった。


「ホントのクモはしりから糸を出しやがるのですよ妖怪クモサソリ!!」

「私の名前はツクモサオリです」


 メガネの奥で目元を険しくしてから、砂織は畏敬いけいの視線でウィステリアを見て、


御師範ごしはん、この場は私が引き受けますので、お早く脱出を」

「……ありがとうございます、砂織さん」


 一瞬の逡巡しゅんじゅんのあと、ウィステリアは信頼を込めて微笑み、


「行きましょう、六音さん」


 黒い全身タイツの少女をかかえ、蜘蛛が入ってきた裂け目から真っ黒な空間を出て行った……すると、


「六音の全身タイツといい、さっすが〝手芸部〟……いや、〝原種〟の一等賞でやがるのですよ♪」


 黒い糸にしばられたブレイクがナマイキそうな笑みを深め、


「それとも、〝五色人ごしきびと〟と言った方がイイのでやがるのですか♪」

「……七里塚しちりづかに聞いたのですか?」


 砂織は再び目元を険しくしつつ、


「あの〝クズ参謀〟とむすんで、何をたくらんでいるのですか?」


 巨大な蜘蛛から強大な重圧をがらせ、


「そもそも、あなたは何者なのですか?」


 常人じょうじんなら気絶しそうな威圧感いあつかん詰問きつもんする……が、


「アタシサマはZクラスの生徒にしてボッチャマの専属メイドでやがるのです♪」

「その侍女メイドになる《《前》》の経歴けいれきが不明なのです」


 おどけて答える少女に威圧感を強めつつ、


「我らが〝担任〟の紹介で東の本家にやとわれたそうですね。『ブレイク・ザ・ハスラー』という名も、その際にミズシロ財団が作った戸籍こせき便宜的べんぎてきに書かれたものでしかないのでしょう」


 威圧感の奥に、どこか子供じみた劣等感れっとうかんにじませつつ、


「ならば、少なくとも担任や財団の最高さいこう顧問こもんはあなたの素性すじょうを知っているのでしょう。素性も分からぬ者が、次期当主のそばに置かれるわけがありませんからね」


 加えて、どこかねたような苛立いらだちをかもしつつ、


「しかし、多くの者にはあなたの素性すじょうせられたままです……主人である、御曹司にさえ……!!」


 巨大な蜘蛛から、常人じょうじんならショック死しそうな重圧をあふれさせ、


「改めて問います……何をたくらんでいるのですか?」


 重圧により真っ黒な空間が激しく鳴動めいどうし、蜘蛛が入ってきた裂け目から空間全域(ぜんいき)へ亀裂が走っていく……が、


しい情報ものは自分の力で勝ち取るのがZクラス流でやがるのです♪」


 重圧を間近まぢかで浴びつつ、糸に縛られた少女は余裕のままで、


「つってもアタシサマとヤりあったら、委員長でもキズモノ決定でやがるのです♪」


 言葉を証明するように、自分を縛る糸をまばたき1つでき自由になり、


「それでもイイなら……〝親睦会しんぼくかい〟にご招待でやがるのです♪」


 ビリヤードのキューを取り出し構えると、ナマイキな笑みを満開にした………


                  ◆


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


 白い荒野で巨大な〝鬼〟が、炎の剣を縦横じゅうおう無尽むじんに振り回す。


「ずっと、迷っていたのかな?」


 その剣を、少年はちゅうってかろやかにけつつ、


「ずっと、なやんでいたのかな?」


 端正たんせいな顔に柔和にゅうわな微笑を浮かべ、


「自分が、何をするべきなのか」


 心のきずいやすような声で、


「自分が、何を《《したいのか》》」


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


〝鬼〟が一層激しくえ、一際ひときわ強く炎の剣を少年へ振り下ろす。


「津流城は見つけたよ」


 だが少年は白木しらきさやから刀を抜き、


「自分のしたいことを……自分の目的を」


 刀身から放った水で〝鬼〟の剣の炎を消し、


「命をけるにあたいする、一生の目的をね」


 優しく語りつつ〝鬼〟から距離を取って着地する……と、〝鬼〟が少年をにらみ、ズシン、ズシンと一足ひとあしごとに地響じひびきを立てて迫ってくる。


「君はどうかな?」


 だが少年は柔和な笑みのまま、


「君の目的は……〝欲〟は何なのかな?」


 肌を焼くような灼熱しゃくねつが迫ってくるも、


「君ももっと、自分の気持ちに素直になっていいんだよ」


 汗もあせりも無く、


「もっと、我儘わがままになっていいんだよ」


 揺るがず泰然たいぜんとして、


「僕も、その方が嬉しいよ」


 優しくめるように語りかける……が、


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


〝鬼〟はし一気に距離をめ、再び炎に包まれた剣を少年へ振り下ろす!!


「僕だけじゃないよ」


 対して少年は刀をさやおさめ光の剣を出し、


「クラスのみんなも喜んでくれるよ」


 刀身から衝撃波や電撃や烈風を放った。


「君が思いに素直になるをのをね」


 それは〝草薙の里〟で〝吸収〟した級友たちの〝ながだま〟。


「だから、もっと素直に……我儘わがままになっていいんだよ」


 級友の《《女子たちの》》力で〝鬼〟の剣をはじき後退させた少年は、


「もっと〝欲〟を出していいんだよ……自分の望むものは、自分の力で勝ち取るものだからね」


 全てを受け入れるような寛容かんような笑みをほころばせる……が、


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


〝鬼〟は双眼そうがんを金色に輝かせつつ全身で叫ぶがごとく激しくえた。

 ある意味〝欲〟に素直になるように……《《嫉妬に狂うように》》。


「……あれ?」


 予想と違う反応に拍子ひょうしはずれになる煌路……だったが、


「これは……!?」


 突如とつじょ周囲の風景に異変が起こり顔をめる。

 静謐せいひつな白い荒野がされ……見渡す限りの溶岩の海に、天高く溶岩をげる火山が無数にそびえる焦熱しょうねつ地獄じごくが現れた。


「〝異元いげん領域りょういき〟……津流城に続いて君も……!」


 な空に浮いてな溶岩の海を見回す煌路……一方、


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


 燃え盛る嫉妬しっとのごとき灼熱しゃくねつの空間の中心で、紅蓮ぐれんの〝鬼〟は溶岩の上に仁王におうちしつつ世界を焼き尽くすような炎と咆哮ほうこうらす……対して、


「これが、例の〝鬼界きかいカルデラ〟だね……」


〝少年〟は成長した〝幼馴染〟に感嘆かんたんするように、


「かつて、〝工房こうぼう〟を地上から消したおく……」


〝暴君〟は自分に牙をく〝同胞なかま〟を称賛しょうさんするように、


「だったら、僕も全力でこたえないとね……」


〝王〟は可愛かわいい〝鬼子しょうじょ〟を見守るような瞳を金色に輝かせ……


「起動、〝纏元装甲てんげんそうこう〟」


 しずやかながらも威厳に満ちた声を、無辺むへん焦熱しょうねつ地獄じごくに響かせた………





 捕捉説明:乙巳いっしへん

 西暦645年、中大兄なかのおおえの皇子おうじ中臣鎌足なかとみのかまたりを中心とした勢力が、朝廷で権勢を誇っていた蘇我氏そがしを滅ぼした事件。

 当時、蘇我氏の屋形には現代には伝わっていない歴史書が多数保管されていたが、この事件により屋形もろとも全て焼失したとの説がある。

 これにより日本の歴史の伝承は断絶し、〝空白の4世紀〟と呼ばれる歴史の空白期間が生まれたとされる。

 ちなみに現在では〝大化の改新〟の一部として扱われることの多い〝乙巳の変〟だが、正確には〝大化の改新〟とは〝乙巳の変〟のあとに始まった政治改革のことである。



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