表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おそらくは、彼の平穏な世界征服   作者: あおいろ
第二話 剣士にラブソングを…
40/43

生まれ出る鬼子

〔くたばるがいい財団のいぬめ!!〕


 500匹近い羽蟻はありが、大地に倒れる手足に戦闘ユニットをつけた少女へ溶解液を吐いた。


「せっカくノ〝同類おなかま〟を死ナせまセん」


 だが多数のうろこが少女を囲み溶解液をはじき、自分を守った30センチはあろう金色の鱗にエスティリトゥが息をのむ……直後、そのそばに奇妙な車イスに座った少女が現れ、


「失礼、上司かラ連絡ガあっタのデ席を外シてイましタ」

「カ…〝カメレオン〟……」


 車イスの少女が赤いネクタイを外し、うめくようにもらすエスティリトゥへ伸ばす。と、負傷した顔の左半分に長くなったネクタイが包帯のように巻きつき、


「サあ不義理ロクデナシニ天誅を下スのデす」


 周囲の羽蟻の群れを見渡す〝カメレオン〟がバイザー型のサングラスの奥で目を光らせ、二又ふたまたの舌を出して蛇のように笑む──途端、500近い羽蟻の1匹1匹のそばに1枚ずつ金色の鱗が浮かび、


滅国めっこくともがらどもが、こんな虚仮こけおどしなど──ぐおっ!?〕


 鱗から木の枝が生え、それぞれのそばにいる羽蟻に絡みつき動きを封じた。次いで〝カメレオン〟は倒れたまま動けないエスティリトゥへ目をやり、


「戦闘ユにっトは使エなクてモ、〝奥の手〟は使エるデしょウ」

「……!?」


 ぞっとする〝カメレオン〟の笑みに無事な右目をくエスティリトゥ……だが、


「……我、技の精度に不安を覚えるなり………」

「心配ハいりマせン。なゼなラ……」


 無機質な顔をかすかに雲らせるエスティリトゥに〝カメレオン〟が酷薄こくはくな笑みを深める……と、羽蟻を捕える多数の鱗が輝き出し、エスティリトゥの顔に巻きついたネクタイも同じく金色に輝き始め……


「私ノ〝シシック〟とアなタの技ヲ同調さセれば、狙イを外スこトはあリまセん。何ヨり……」


 酷薄こくはくな笑みを獰猛どうもうな笑みに変え、


「アなたモ、っくキ〝かたき〟をツまデ死ねナいノではアりマせンか……親愛ナる〝同類おなかま〟ヨ♪」

「……!」


 エスティリトゥが再び右目を剥く……直後、その目に生を渇望かつぼうするような強い光がともり、サークレットのピンクの水晶も強く輝き始め……


 プァァァァァァン………


 甲高かんだか木管もっかん楽器がっきのような音がして、《《同調するように》》多数の鱗が震え始め、枝を通じて多数の羽蟻にも振動が伝わっていく……対して、


〔おのれ……ここまで来て負けられるか!!〕


 500近い羽蟻たちが自分を縛る木の枝に溶解液を吐きかける……が、《《金色》》の枝は溶ける素振そぶりも無く、


〔ぐうう……〝悲願〟のために〝里〟も死に絶えたのに、むくいることも出来ず倒れるなど……!〕


 身動き出来ない羽蟻たちが悔しそうにうなると、その頭の外皮に亀裂が走り……


〔こ…小童こわっぱども! 自分が何をしているか分かっているのか!?〕


 外皮が砕け、中から太ったカエルのような人の顔……人間だった時の弥麻杜やまとの顔が現れ、


〔ここでワシらが倒れれば……ワシらの〝悲願〟がついえれば……〕


 500近い弥麻杜の顔が苦渋くじゅうゆがみ、


〔この世は……あの〝鬼子おにご〟に滅ぼされるのだぞ!!〕


 世界をうれ誠意せいいあふれる声を吐き、羽蟻を捕える500近い鱗と枝を全て石化させた……しかし、


「……我、死を拒絶するなり……」


 大地に倒れる少女が低い声と共に、ヒザに届くほどの髪を大きく宙に広げ、


「我が宿願を果たすまで……」


 ガラス繊維せんいのような半透明の白髪はくはつが焼けるような熱を発し、


「背信者をつまで……」


 ピンクの水晶と包帯のようなネクタイがまばゆい光を放ち……


「ジョクタウ・トゥルガイをしょするまで!!」


 プアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!


 地下空洞に甲高い音が響くと石化していた鱗と枝の表面が砕け、元に戻った鱗と枝が目もくらむ金色に輝き、


「〝怒りんぼ姫(プリプリプリンセス)〟の〝響滅パイパー〟でやがるのですか♪」


 地下空洞の天井近くで片眼鏡モノクルの少女がナマイキそうに笑むや、輝く鱗から枝を通じて強烈な振動が羽蟻に浴びせられ、


〔ぐああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!〕


 弥麻杜の顔をした500匹近い羽蟻が絶叫し、振動により原子レベルに分解されていく。


〔ぐぅぅ……や…やはり、貴様らも……〝鬼子おにご〟の、同胞はらからだ……!〕


 体と共に意識も分解されていく中、羽蟻は無念と恐怖に震える声で、


〔この世を、滅ぼす……〝人間の姿をした悪魔(ヒューマンデビル)〟の、いぬだ……!!〕

「御心配なク」


 半分近く体が消えた羽蟻へ〝カメレオン〟は冷淡に、


「我ガ上司……参謀閣下の〝計画〟ハ、《《本当の意味》》デこノ世を救ウもノなのデす」


 どこか《《他の誰か》》に向けるように酷薄こくはくに笑み、


「デすカら、ドうカ安心しテ地獄に落チてクださイ……不義理ロクデナシ


 《《ここにはいない誰か》》をなじるように絶対零度の声をつむいだ……直後、


〔くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!〕


 体の半分以上が消えた500近い羽蟻が破裂、体内の溶解液を雨のようにき散らす!!


「……自爆でスか」


 だが羽蟻を捕えていた多数の鱗が瞬時に少女たちを囲み、溶解液の雨はむなしく鱗にはじかれてしまう………


「トは言エ、ちがえてモ〝かたき〟を討トうトする覚悟ハ見事でス……」


 無念の涙のごとき雨の中で、車イスの少女はサングラスの奥から敬意の視線をにじませ、


「あナたノ犠牲にむくイるたメにモ、我らハ必ず〝悲願〟ヲかなえテ見せマしょウ……」


 雨がむと自分たちを守った鱗の囲いを開き、羽蟻たちがいた虚空こくう丁寧ていねいに頭を下げる……それから、視線を横へ向け、


「あナたにモ、そレだケの覚悟ガあるノでスか……〝身のホど知ラず〟ヨ」


 巨大な〝炎の鬼〟へ鱗を飛ばす。が、〝鬼〟は鱗を避けて車イスの少女をにらみ、


「……あくまでも、我らが〝悲願〟をさまたげるのでござりまするか……!」

「『我ラが〝悲願〟』デはなク、『《《我が》》〝悲願〟』ナのデはあリまセんカ?」


〝カメレオン〟は〝炎の鬼〟の怒気を受け流し、〝鬼〟の背後へ目をやる。そこには〝鬼〟が避けた鱗が刺さった巨大な石の玉が……多数のヘビが絡まり合って石化した玉が燃え盛る大地に転がっており、


休憩きゅうけいハ終わリに願イまス、ペンてシれいア様」


 直後、巨大な玉に鱗が刺さる箇所かしょから亀裂が走り、


「風は不快に吹きすさぶ。がましき石竜子とかげわざに」


 石の玉が破裂するように砕け、白い一角獣ユニコーンに乗る少女が現れた。対して車イスに座る少女は大げさに頭を下げ、


「ソれハ失礼いタしまシた。デすガ参謀閣下が指定ノ場所でオ待ちデすのデ、移動をオ願いイたシまス」


〝カメレオン〟のわざとらしいものいにペンテシレイアは眉間みけんのシワを深め、


「風はげんたず吹き急ぐ……怨敵おんてきめっしたのちに!!」


 いきり立つ少女が戦斧せんぷを〝怨敵〟へ向けるや一角獣は流星のごとく空を駆け、醜怪しゅうかいな顔の周りに数十匹のヘビを生やす巨大な〝首〟へ突進していく!!


「風は怒りに吹き進む! 雪辱せつじょくす戦士のごとく!!」


 キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


 片や〝首〟は奇声を上げつつ、多数のヘビを迫りくる一角獣へ伸ばす。が、襲いくるヘビを一角獣は機敏きびんに避けつつ突き進み……


「風は〝斧〟となって吹きつ……駆け抜けよアスタルト!!」


 馬体が金色に輝き〝首〟を《《通り抜ける》》──刹那、〝首〟が左右()ぷたつに割れた。


 ギャシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


 だが絶叫する2つの〝首〟の断片は《《それぞれ再生し》》、燃え盛る大地に《《2つの》》〝《《首》》〟《《が誕生》》、それぞれ顔の周りの巨大なヘビを伸ばし一角獣に襲いかかる……が、


「風は魂を注ぎ吹き攻める! 〝さかずき〟をかたきの血で満たすため!!」


 数と激しさを増すヘビの襲撃を避けていく一角獣の背で、たける少女が高々と戦斧をかかげる──と、戦斧も金色に輝き……


「風は神威しんいもって吹き滅ぼす! 偉大な〝女王〟の名の元に!!」


 輝く斧からおびただしい金色の光のツブがあふれ出し……


「風は永遠とわに吹き流れ、全てのものは風へとてんずる……〝風化流転ふうかるてん〟!!」


 ツブは金色の竜巻となって2つの〝首〟を包み込み……猛烈な回転の中で、風化するように〝首〟が微細びさいに崩れていく。


 ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


〝首〟は風化した箇所かしょを再生能力で治そうとするが、《《再生能力までが風化するように》》再生が出来ず、竜巻の中で崩れていき……


「風は世界を吹きひらく。偉大な〝王〟の〝すき〟として」


〝首〟はちりも残さず崩れ去り、金色の竜巻も消え去った……直後、


「風はまたたくごとく吹きける。〝起源〟の務めを果たすため」


 一角獣がまばゆく輝き、少女を乗せたまま金色の流星のように飛び去る……と、


「私モ失礼いタしマす」


 奇妙な車イスに座る少女も、透明化するように姿を消してしまった………


「……おのれ小童こわっぱども!!」


 また1つ〝手駒てごま〟を失った〝炎の鬼〟が怒り狂う。

 その目がにらむ先には異形の四足獣、巨大な眼鏡蛇コブラの骨格、ヒザを抱えて宙に浮く少女、そしてそれらの後方に立つ30メートルを超える牛頭人ミノタウロスがおり……


 ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


 金属の牛頭人が斧を振りあげ少女たちに襲いかかる──寸前、


 バキィンッ!!


 牛頭人の胸を突き破って黒い氷の衝角ラムが飛び出し、


「ガハハハハッ! 〝ニンゲン〟よりヤワなんだぜい!!」


 グモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?


 豪快な笑いと野太い悲鳴が響く中、衝角ラムを起点に巨大な牛頭人が黒い氷に覆われていき……


「〝南極ゴジラ〟に比べりゃ雑魚ザコなんだぜい!!」


 牛頭人の全身が凍りついた──途端、氷になった巨体が粉々に砕け散り、燃え盛る大地に落ちた氷片ひょうへんが蒸発し周囲に水蒸気が立ち込める……直後、


 ズドドドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 重い砲撃音がして黒く丸い氷の砲弾が多数、水蒸気を突き破って飛び出し〝炎の鬼〟を襲う──同時に、


たわむれにもならぬのじゃ」


 己に飛んできた〝ながだま〟を、ハクハトウは異形の四足獣の咆哮ほうこう粉砕ふんさいし、


「海賊のおちゃめなイタズラなのれすよ~♪」


 パトラは巨大なコブラの骨格に噛み砕かせ、


「氷ノ・大砲……イコール……まめ鉄砲でっぽう………」


 シューニャは宙に浮くまま電撃で焼き尽くす……と、


「ガハハハハッ! せっかくのたすぶね豆鉄砲まめでっぽうたぁ言ってくれるんだぜい♪」


 水蒸気が晴れ、波打つ紺碧こんぺきの髪を胸まで伸ばし、たくましい体躯たいくとアイスホッケーのスティックを持つ少年が、燃え盛る大地の牛頭人がいた位置に現れた……一方、


「……まさしく児戯じぎに等しき技にござりまする……小童こわっぱめ……!」


 燃え盛る巨体で氷の砲弾を蒸発させた〝炎の鬼〟がZクラスの少年少女たちをにらみつける……が、


「助け船がいらねえってんなら、俺様たちは引き上げるんだぜい」


 少年は背後に海賊団員を集めると、大地に倒れる手足に戦闘ユニットをつけた少女を回収させ、まとめて巨大な黒い氷塊ひょうかいの中に封じ込める……そして、


「あとはテメエらだけでやるがいいんだぜい♪」


 氷塊の上の立つと不敵に笑み、氷塊もろとも大地に沈み姿を消した……対して、


「無論じゃ。あのような鬼一匹、わらわたちのみでことりるのじゃ」


 少女3人は当然のようにそれを受け入れ、巨大な〝鬼〟へ目を向ける。


「きょ…虚勢きょせい大概たいがいにするのでござりまする!!」


 今や燃え盛る大地に残るのは、〝炎の鬼〟とZクラスの少女3人のみ。


「〝封印災害指定〟ごとき我が〝悲願〟の……〝世界征服〟のにえにしてくれるのでござりまする!!」

「このに及んで、〝悲願〟にすがりおるか……」


 燃え盛る大地に乱立する炎の竜巻が荒ぶる竜のごとくうねるも、ハクハトウはひるむどころか一抹いちまつ憐憫れんびんを瞳に宿し、


「知るが良いのじゃ。汝の〝悲願〟は、姉への雪辱せつじょくなる〝過去〟への執着しゅうちゃくよりしょうぜし、己をしばる〝しがらみ〟であると」


 柵に縛られていた〝少女〟が粛々《しゅくしゅく》と、


「左様な〝柵〟は想いを、信義を、生涯を、そして〝悲願〟さえも歪ませるのじゃ。ゆえに──」


 柵を乗り越えた〝お姫様〟が沁々《しみじみ》と、


「〝悲願〟を……〝未来〟をつかまんとする者は、〝柵〟を越え、〝過去〟をみ込み、〝過去〟の〝己自身〟を克服こくふくせねばならぬのじゃ……!!」


 厳然げんぜんとした〝王族〟の威厳に、たけっていた炎の鬼は気圧けおされる……が、


「あ…あなた方こそ知るが良いのでござりまする! 己が克服すべきは〝過去〟にあらず〝欲〟であると!!」


 声を震わせつつも必死にり、


「我が姉同様ふしだらな〝欲〟のとりことなり、愚かな主のために世をにじ不届者ふとどきものには……〝煩悩ぼんのう〟なる首輪くびわつながれたいやしき犬には決して……決して〝未来〟など掴めぬのでござりまする!!」

矮小わいしょうなる野良犬のらいぬには、偉大なる〝王器〟ははかれぬか」


 片や厳然げんぜんたる〝王族〟は悠然ゆうぜんと笑み、


「冥土の土産みやげ卑小ひしょうなる魂に刻むが良い。牙を抜かれ飼い慣らされし〝犬〟なぞ、我らが〝王〟は求めておらぬのじゃ」


 悠然とした笑みに凄惨せいさんな迫力がにじみ、


「〝暴君〟が求めしは、ほこりのためならば主にも牙をく〝狼〟であるのじゃ」


〝暴君〟の影と風格をにおわせつつ、


「そして〝悲願〟のためならば、〝女王〟と過ごす真秀呂場まほろばのためならば、世を滅ぼすもいとわぬが〝暴君〟の真髄しんずい……誇り高き〝狼〟をべる、偉大なる〝王器〟であるのじゃ」

「よ…世迷言よまいごとを! 左様な暴虐ぼうぎゃくが〝王器〟であるなど……忘れたのでござりまするか!? おのがためにのみ動く者は身を落とすのみとのげんを!!」

「無論、失念しつねんしてなぞおらぬのじゃ」


 悠然とした笑みを尊大な笑みに変え、


今一いまひとつ魂に刻むが良い。我らが〝王〟が〝悲願〟を成す道程みちのりにより……偉大なる〝覇道〟により数多あまたのエヴォリューターは〝狼〟へしょうじ、〝犬〟にせし数多のフラッターを喰い散らすであろう」


 どこか、今は無い故国をかえりみるように、


怠惰たいだ背信はいしんおぼれし〝犬〟は、国をくさらせるのみであるのじゃ……なれば、失墜しっついせし〝犬〟は気高けだかき〝狼〟がはいさねばならぬのじゃ……新たなる、気高き国のいしずえを築くために……!」


 亡国の〝お姫様〟が改めて大志たいしいだくように、


「左様……今こそ誇り高き〝国〟をおこす時なれば、我らは身にあふるる〝忠節ちゅうせつ〟をささげ、身をがす〝希望〟をたくすのじゃ。ふるい立つ〝狼〟をえある〝未来〟へ導く〝覇道〟にして、天に愛されし〝王器〟を超えし〝王器〟……」


 全身から〝王族〟の威厳をほとばしらせ、


「我らが〝王〟の、無限大なる〝天器アメノウツワ〟へ……!!」


 そびえる〝王族〟におびえる〝野良犬〟はあとずさる……が、必死に己を奮起ふんきさせ、


「ざ…戯言ざれごとを! ふしだらな〝狂犬〟が〝暴君〟に手駒てごまとして飼い慣らされたのでござりまするか!!」

「汝がいや子を手駒としたがごとくか?」


〝炎の鬼〟が硬直する……と、尊大な〝王族〟は優雅な〝お姫様〟の笑みを輝かせ、


こまであろうと、我らは一片いっぺんいも残さぬのじゃ。忠節を、情愛を、全身全霊を〝王〟にささぐことこそ、我らが本懐ほんかいであるがゆえ

「……所詮しょせん阿諛追従あゆついしょうの手駒……いな! 使い捨てられるが運命さだめの〝消耗品しょうもうひん〟にござりまする!!」


 まぶしく笑む《《恋する》》〝お姫様〟に、〝鬼〟はどこか自身をあわれむように全身の炎を激しく燃やし、


「分からぬのでござりまするか!? 〝王〟のためなる思いに……よこしまなる煩悩ぼんのうに付け入られ利用されていると!!」

「〝身のほど知らず〟が不相応ふそうおうな野心に付け入られ、姉に利用されたがごとくか?」


 再び〝鬼〟が硬直する……一方、〝お姫様〟は優雅な笑みに喜悦きえつを混ぜ、


「〝王〟が我らを利用せんとするならば、我らも〝王〟を利用すれば良いのじゃ」


 絶句する〝鬼〟へ、陶酔とうすいしつつも清々しく、


「他ならぬ〝王〟より言質げんちは……存分に己を利用せよとの言質は取っておるなれば、何もはばかることは無いのじゃ。そして──」


『利用しているんじゃなくて信じているんだよ』との〝王〟の言葉を反芻はんすうしつつ、


「それこそは〝王〟と我らをつなぐるきずな……〝信頼〟であるのじゃ!!」


 深い絆と……〝愛〟を誇るような〝お姫様〟の笑顔に〝鬼〟の時間が静止する……が、


「……〝狂犬〟めがあ!!」


 己の理解を超える存在に苛立いらだつように、


「ふしだらな〝悲願〟のために主を利用するなど不忠の極み! 主をたばかるあなた方こそ背信に溺れし〝狂犬〟にござりまする!!」

「それにて互いの〝悲願〟が叶うならば、いささかの遺恨いこんも残るまいて」


〝王〟と己らの〝信頼〟に胸を張りつつ、


「とは申せ、我らが〝王〟に我らが〝悲願〟はいませておるのじゃが、それとて背信には当たらぬのじゃ」


 優雅な笑みを喜悦と覚悟に輝かせ、


「我らは〝クズ参謀〟がごとき君側くんそくかんあらず。我らが〝悲願〟をかなうるはあまねく〝王〟のための働きであるがゆえにのう。そして──」

「労働者ノ・権利……イコール……適正ナ・報酬………」

「いっぱい~ごほうびをもらうのれすよ~♪」


 他の少女も笑みを輝かせると、〝お姫様〟は優雅な笑みに愉悦ゆえつを混ぜ、


「左様、〝王〟より相応そうおうなる対価を頂戴ちょうだいするのじゃ。こまであろうと女子おなごであろうと、〝手入ていれ〟をするが〝王〟の務めであるがゆえにのう」


 少女《《たち》》の笑みに歳にそぐわぬ色気がにじみ、


こま女子おなごも、〝手入れ〟を重ねるほどに〝つや〟を増すものなのじゃ」

「女ノ・〝手入レ〟……イコール……はーれむ王ノ・義務………」

「いっぱい~かわいがってもらうのれすよ~♪」


〝女〟たちのかしましいハーレム宣言に〝炎の鬼〟は呆然となる……が、


「……この、魔女どもが……!」


 おのが悲願を矮小わいしょうにする〝器〟に戸惑とまどうように、


「やはり……姉上と同じにござりまする……!」


 おの生涯しょうがい卑小ひしょうにする〝大器〟に畏怖いふするように、


「姉上と同じ……〝奪う者〟にござりまする……!」


〝炎の鬼〟が炎の目で少女たちをにらみつけ、


「弱き者には……〝《《奪われる》》者〟には……分かっていながら、〝毒〟を喰らわねばならぬ時があるのでござりまする……!」


 苦悶くもんするような声と炎をらしつつ、


「世の無法に押し潰されし時……強き者の非道にせられし時……そして……世と強き者にあらがうべく、命をけて〝力〟を求める時……!!」


 刀のような一本角いっぽんづのから断末魔だんまつまのごとき炎をき出した……


「ふむ……我らが〝王〟も申しておったのう」


 だが〝王族〟は泰然たいぜんとして、


「世の秩序は強き者に更新されるが常であり、人は秩序を〝更新する者〟と〝更新される者〟に分かたれると」

「……そして、〝奪われる者〟や〝更新される者〟を没落させるのでござりまするか」


 苦悩くのうしつつも必死にあらがうような声で、


「〝里〟が政府の無法にて凋落ちょうらくさせられたように、身共や息子が姉やあなた方の非道にて零落れいらくさせられたように……!」


 葛藤かっとうしつつも必死に足掻あがくような声で、


「なれば、あなた方が……力の亡者もうじゃどもが〝世界征服〟を成したなれば、世は〝弱肉強食〟に狂う奈落ならくに沈むのでござりまする……!!」

「なれば、今の世は〝弱肉強食〟にあらずと申すか? いなであるのじゃ」


 泰然とした声で粛々《しゅくしゅく》と、


「〝弱肉強食〟は暴力のみにて成されるに非ず。太平の世であろうと権力や財力が身分をしょうじさせ、おのずと世は〝弱肉強食〟と成るのじゃ。汝とて己の〝悲願〟のために、己におとる〝里〟の民を切り捨てんとしたのじゃろうて」


 ビクッと震える〝鬼〟へ冷厳れいげんな重圧をかもしつつ、 


「そして申したであろう。〝弱肉強食〟こそは世を栄えさせる鉄則であると。身分の上下があるがゆえ、下におる者はい上がらんと精進を重ね、それが国がさかえさせる〝力〟となるのじゃ」


 燃え盛る大地をもこごえさせるように、


「それこそは生まれながらに人が持つ、他者にちょうじ己を至高しこうへ押し上げんとする〝さが〟と〝欲〟……〝弱肉強食〟の成せるわざに他ならぬ」


 専制国家の冷徹な〝王族〟に〝奪われる者〟は圧倒される……が、


「そ…それは、強き者の理屈にござりまする……全ての者が、強くは生きられぬのでござりまするよ……!」

 

 迷いつつもあきらめきれぬような声で必死に、


「身共が、姉上の身代わりに甘んじるをいられたように……我が子が、津流城の後塵こうじんはいするを余儀よぎなくされたように……強き者の風下かざしもに立つを、只々《ただただ》しのばざるを得ぬ者もいるのでござりまする……!!」

「左様なやからは、これまでも周囲に流され、周囲に申し渡されるままに過ごしておったのじゃろう。ならば『滅びよ』と申し渡されしおりも、そのままに滅ぶる他あるまいて」

「……それは、長らく姉に操られ、今まさに滅びんとしている身共のことにござりまするか……?」


 燃え盛る大地の中心で100メートルの巨体が震えつつ、


「姉が〝狂言きょうげん〟にきょうじていた最中さなか……薄々《うすうす》それに気づきながらも、身共はまたと無い好機であると浮き足立っていたのでござりまする……」


 巨体と声を《《無念》》に震わせ、


かえりみれば、左様な思いも姉の思惑おもわくの内だったのでござりまするな……」


 無念は底なしの絶望に転じ……


「そして……姉の思うままに身共は狂奔きょうほんし……〝里〟を奈落へ追いやったのでござりまする……」


 大地の炎と炎の竜巻がはかなげに燃え尽きる……と、今や湖以外、人も植物も建物も無い寂寥せきりょうとした荒野が現れ……


「これが、身共の……〝身のほど知らず〟の〝悲願〟の果てにござりまするか……」


 その身の炎もはかなげな〝鬼〟が、むなしく煙がくすぶるのみの荒野を見回す………


「なれば!」


 だが一転、〝鬼〟は爆発するように全身の炎を燃え上がらせ、


ついえし〝里〟へのせめてもの供養くよう! よこしまな魔女を黄泉国よもつくにへの道連みちづれにしてくれるのでござりまする!!」


 荒野にもかつて無く激しい炎が再び燃え盛り、


「〝身のほど知らず〟の最後の意地を見せてやるのでござりまする!! この身に燃える全ての命をけて! この身に残る全ての力をぶつけて!」


 蝋燭ろうそくの最後のまたたきのごとき大地を覆う炎は無数の炎の竜巻となり──


「ならば……我が力でめっせよ力の亡者もうじゃどもおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 無数の炎の竜巻が荒ぶる竜のごとく少女たちを襲う!!


無謀むぼうと知りつつ、あえて醜態しゅうたいさらすか……」


 だが〝王族〟は異形の四足獣の背で微動びどうだにせず、


「その意気いきし!!」


 尊大に笑んで威厳あふれる咆哮ほうこうを大地にとどろかせた──刹那、


「亡者になって冥界ドゥアトにいっても~バーは永遠なのれすよ~♪」


 無数の炎の竜巻はおびただしい砂に変わり〝炎の鬼〟の巨体を包み、


「それれ~〝ファラオ〟に永遠にかわいがってもらうのれすよ~♪」


〝鬼〟を包んだ砂が大爆発、広大な地下空洞を激しく揺らす。


「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 絶叫混じりの爆炎は強烈な爆風で大地を覆う炎を消し飛ばし、


冥界ドゥアト名物~火の湖なのれすよ~♪」


 再び露呈ろていした寂寥せきりょうとした荒野で、大量の人骨で『砂』を表す古代文字ヒエログリフを作っていた少女が優しく笑む。


「トロニック人の砂のチカラを~ジョクタウのチカラれコピーしたのれすよ~♪」


 その手に砂色のカードを持つ少女は、南米で〝砂漠の業火〟の使者が使っていた爆発性の砂をくすねていたのだ。


「れも~まだまだ弱っちいのれすよ~」


 溜め息する少女パトラ古代文字ヒエログリフ眼鏡蛇コブラの骨格に戻し、荒野の中心へ目をやる……と、すすけた真鍮色しんちゅういろをした人間の〝骨格標本〟のごとき、たけ100メートルを超える機械の巨人がヒザをついていた……そして、


如何いかにも……我らもいまだ弱き身であるなれば、〝悲願〟のため……命をけて強き者にあらがうため、分かっていながら〝毒〟を喰らわねばならぬのじゃ」


 刀のような一本角いっぽんづのを生やす〝骨格標本〟へ、同じく一本角を生やす少女も目を向けつつわずかに眉をひそめ、


口惜くちおしくはあるが、我らのさちに〝王〟は欠かせねども、〝王〟の幸に我らが欠かせぬとは断じられぬがゆえにのう」

有象無象うぞうむぞうノ・想イ……イコール……届カヌ・想イ………」

「せつない片思いなのれすよ~」


 少女たちはほのかな陰を顔に落とし、


至高しこうの〝王〟に並び立ち、至福しふくを〝王〟にもたらす者……それは至上しじょうの〝女王〟のみであるのじゃ」

「有象無象ノ・女子……イコール……一生・かなワナイ………」

「最高れ最強れ最愛のおねえちゃんなのれすよ~」


 少女たちの脳裏に、想い人の隣に立つ白金色の髪の少女が浮かぶ。


「なれば我らも〝悲願〟のため、〝毒〟を喰らい醜態を晒すのじゃ。〝女王〟にあらがうべく大奥おおおく後宮こうきゅう、はたまたハーレム……すなわち、我らが想いを〝王〟にささぐ女のそのを命を懸けて創るのじゃ!!」

「悲願ヤ・幸福……ノット・イコール……他人カラ・与エラレルモノ………」

「自分のチカラれ~勝ちとるのれすよ~♪」


 少女たちのいじらしい愛情表現に、打ちのめされたように大地にヒザをついている〝骨格標本〟は天地が逆転したように息をのみ……


「あなた方も……弱き者……奪われる者であったと………」


 だが、すぐに我に返り、


「きょ…狂犬がごとを!!」


 折れそうな信念を必死に支えるように気炎を吐き、


「〝王〟のためと唱えながら〝王〟にせて大奥や後宮を作ろうなど……そのために弱き者を滅ぼすなど……狂気の自己満足にござりまする!!」

凡俗ぼんぞく俗世ぞくせ常識しがらみに囚われておるのう」


 常識を乗り越えるように〝少女〟は決然と、


「元より『他者のため』なる思いなぞ、己の自己満足に過ぎぬ。どれほどに『他者のため』と唱えようと、それは『他者のため』なる〝己の思い〟に他ならぬ」


淑女しゅくじょ〟が荘重そうちょう面持おももちで、


「なれば『他者のため』に事を成し歓喜を得ようと、それは『他者のため』なる〝己の思い〟をげし自己満足に過ぎぬ。〝王〟にささぐ我らが忠節ちゅうせつや情愛とて、我らの自己満足に他ならぬ。それを狂気と申すならば、好きにするが良いのじゃ」


〝魔女〟が静かに狂乱するように、


「元より〝王〟に想いをささぐならば、そのため〝女王〟にあらがうならば、正気のままで済むとは考えておらぬのじゃ。なれば我らは想いのため喜んで狂い、〝悲願〟のため迷わず命を懸けてくれるのじゃ。何より――」


〝王女〟がおごそかに裁定さいていするように、


「命も懸けられぬものに、大した価値なぞ無いのじゃ」


〝王女〟の覚悟きょうきに、〝骨格標本〟が巨体を震わせておののく……が、


「み…身共も〝悲願〟を叶えるため命を懸けていたのでござりまする!」

「命を懸け〝他者によりかれし道〟を進みし果てが、今の汝であろうて」


 己に言い聞かせるような金切声かなきりごえに〝王女〟は淡々と、


「さりとて、その道にいが無いのであらば命を懸けて進み続けるが良いのじゃ。〝弱肉強食〟こそは世の鉄則なれば、我らをしのぐ〝力〟があるならば〝未来〟を、〝繁栄〟をつかむるは汝となるじゃろうて」


 強張こわばる〝骨格標本〟へ滔々《とうとう》と、


「無論、我らが道を……〝覇道〟をはばむ者はち滅ぼすのみじゃが」

「お…愚かな痴情ちじょうで世を滅ぼす狂犬が!!」


 尊大な〝王女〟の静かながらも揺るがぬ声に、どこか迷子が泣きじゃくるように〝骨格標本〟は叫び、


「己も弱いなどと申しながら……結局は弱き者の屈辱や奪われる者の無念など分からぬのでござりまするか!!」

「……否であるのじゃ」


〝王女〟が不意に声を重くして、


せられし屈辱、押し潰されし無念、骨のずいまでみておるのじゃ……故国を滅ぼされしおりにのう」


 絶句する〝骨格標本〟へいかめしい視線を向け、


「なれど……かえりみれば、あれこそは罪業ざいごうまみれし弱き者へのばつ……すなわち、長き〝平穏〟にて国をおとしめし〝犬〟へのむくいであり、〝弱肉強食〟の因果たる災厄さいやくであったのじゃ」


 深い悔恨かいこんに満ちた声で、


「世の常として〝平穏〟は〝怠惰たいだ〟へと堕落だらくし、やがて〝慢心まんしん〟へと腐り果て国を滅ぼすのじゃ」


 世の無情を噛みしめるように、


「カルージャンとやらもしかり。〝慢心〟の末にドミネイドなる災厄を引き寄せ、無様ぶざまに滅ぶるにいたりおったのじゃ」


 胸のよどみを吐き出すがごとく、


「この星も今のままに進むなれば、同じ末路まつろ辿たどるじゃろうて……もっとも、滅ぶるは〝怠惰〟と〝慢心〟にほうけし盆暗ぼんくらのみであるが」


 達観たっかんしたような静謐せいひつな声で、


「それこそは我がシーカイ王朝の幕切れと同じく、〝弱肉強食〟なる世のさだめを忘れし者の……弱き者の必定ひつじょうであるのじゃ」


 《《亡国の》》〝王女〟の超然としたたたずまいに、〝骨格標本〟が心臓を鷲掴わしづかまれたように立ちすくむ……が、それでも未練みれんちきれぬように、


「……な…なれば……故郷を滅ぼされたうらみを……屈辱を……無念を……忘れるので、ござりまするか……?」


 寂寥せきりょうとした荒野の中心で、今にも消えそうな蝋燭ろうそくのように弱々しく、迷いと疑惑ぎわくに震える声をしぼり出す……対して、


「……〝弱肉強食〟と共に、〝栄枯えいこ盛衰せいすい〟もまた世の定めであるのじゃ」


〝王女〟は顔から感情を消し、異形の四足獣の背から〝蝋燭〟をぐ見つめ、


現世うつしよいて一つの繁栄は一つの滅亡の始まりであり、一つの滅亡は一つの繁栄の始まりであるのじゃ。決して永遠とこしえと成り得ぬ繁栄と滅亡が、永遠とこしえわり続けるが〝栄枯盛衰〟なれば──」


 燕尾服テールコートに包まれる身をかすかに震わせ、


一時いっときの繁栄を永遠とこしえのものとあやまり、おごり果てし末に我が故国がついえしは〝弱肉強食〟にいても〝栄枯盛衰〟にいても、現世うつしよの定めのはしくれに過ぎなかったのじゃ。ならばうらごとを吐くは、天を愚弄ぐろうするがごとき愚挙ぐきょじゃろうて。増してや──」


 ヒザに届く黒髪をわずかに揺らし、


「先刻も申した通り、〝王族〟こそは国にて最も命を奪いし一族……すなわち、わらわもまた〝弱肉強食〟の権化ごんげであるのじゃ。何より──」


 頭頂の一本角いっぽんづのをほのかに光らせ、


如何いかに屈辱や無念にまみれし災厄さいやくであろうと、全ては崩れ去った〝過去〟であるなれば──」


 無表情な瓜実顔うりざねがおをこころなしかほころばせ、


「これより〝未来〟を築くべく〝覇道〟を……艱難かんなん辛苦しんくに満ちた道程みちのりを踏み越えてゆく我らには、〝過去〟を振り返るいとまなぞ無いのじゃ」


 覚悟を決めたたっとい微笑で語った……一方、


「は…繁栄と滅亡が繰り返されるならば……これより築く、あなた方の〝未来〟も滅びるが必定ひつじょうにござりまする……」


 己の〝未来〟に迷うように、


「左様な末路まつろが分かっていて……それでも、醜態を晒してまで……数多あまたの、弱き者をほふってまで……〝未来〟を、求めるのでござりまするか……?」

「申すに及ばず」


 一転、〝王族〟は古風な美貌を冷徹に引き締め、


「我らが苦難の果てに築きし〝未来〟も、いずれは必ずや滅ぶるであろう。無にするであろう……弱き者の……わらわの罪業ざいごうにより、我が故国がついえしと同じくのう」


 深い自戒じかいめつつ、


「かつて過去のほまれに囚われ……〝慢心〟におぼれ腐り果てしは、故国のみにあらず……わらわもまた、〝怠惰〟にひたすたれ果てておったのじゃ……なれど、国が……己がさびれゆくを薄々《うすうす》気づきながらも……わらわは、目をらしておったのじゃ」


 声が自責じせきに震えるのをこらえつつ、


「全ては過去の繁栄におごり、精進をおこたりし結果であったのじゃ……その末に、叛臣はんしんの背信にて国が滅びしこと……そのに、魂を焼かれしこと……それこそは腐りし故国と、すたりしわらわを……〝弱き者〟をちゅうする、因果いんが応報おうほうであったのじゃ」


 過ちは繰り返さぬと誓いつつ、


「すなわち全てを滅ぼす火種ひだねこそは、己を矮小わいしょうなる〝過去〟に押し込めし〝弱き者〟……遠大なる〝未来〟に踏み出すを恐れし、〝臆病者おくびょうもの〟であるのじゃ」


 忌々《いまいま》しきは脅威をねのけられず滅び去ったおのが非力と知れ……南米でのオブシディアスの言葉を反芻はんすうしつつ、


「左様な無智むちこそはおのが無力を知りながら精進を忌避きひし、〝慢心〟なる毒をもって世をむしばみ、〝怠惰〟なるやいばもって世の〝力〟をいでゆくのじゃ……それが国を滅ぼし、おのが〝未来〟を閉ざす愚行ぐこうであるとも気づかずにのう」

「己ノ無力ヲ・放置……イコール……己ノ未来ヲ・放棄………」

「未来も~自分のチカラれ勝ちとるのれすよ~♪」


 〝未来〟に邁進まいしんする少女たちの勢いに〝骨格標本〟はみ込まれ、


「ゆ…ゆえに……世をむしばむ、〝臆病者〟を……〝未来〟を閉ざす、〝野良犬〟を……〝狼〟となって、滅ぼすと………」

「さりとて我らが築きし〝未来〟とて、いずれ滅ぶるのじゃ……なれど」


 弱々しい〝野良犬〟のような声に、凛々《りり》しい〝狼〟のごとき声で、


「わらわには、囚われし〝過去〟のみならず――」


 それは〝想い人〟の優しい言葉。


「輝かしき〝未来〟があるのじゃ」


 それは己《《以外》》の女子への言葉。


「なれば滅ぶるがゆえにこそ──」


 しかし胸の奥を熱くがし、


「我らは悔いを残さぬため、決して振り返らず、断じてを止めず、命を懸けて〝未来〟を掴み、〝悲願〟をかなえるのじゃ」

「一丸トスル・我ラノ命……イコール……想イヲ届ケル・最後ノ武器………」

「命をかけた〝愛〟の告白なのれすよ~♪」


 熱い〝想い〟にたぎる、〝狼〟たちのいさましい決意表明。


「……あなた方も……必死に、〝未来〟を掴もうと………」


 対して自失じしつする〝野良犬〟……だったが、それでもまどいをぬぐいきれぬように、


かえりみて……身共は〝過去〟に……姉への雪辱せつじょくに囚われし、〝臆病者〟であったと……ゆえに……姉や、あなた方と違い……〝未来〟を、掴めなかったと………」

「〝過去〟に引きこもりし妹と、〝未来〟に踏み出せし姉の違いじゃのう」


 有り得たかも知れない己を語るような〝王女〟に、〝骨格標本〟はうつろな目を向け、


「全ては……〝欲〟が、足りなかったために………」

「〝欲〟のみにあらず」


 絶望に沈む亡者もうじゃすくい上げるような、どこか慈愛のにじむ声で、


今一いまひとつ、汝に欠けておったものこそは……〝愛〟であるのじゃ」


 それは、〝巫女みこ〟が託宣たくせんを降ろすがごとくおごそかに、


「わらわも汝の姉も、〝未来〟へ進まんとしたよすがこそは〝愛〟であったのじゃ」


〝聖女〟のごときたっとい微笑で、


「〝愛〟に導かれてこそ、人は輝かしき〝未来〟へと、うるわしき〝絶頂〟へといたれるのじゃ。しからば何を隠すこともあらんや、〝愛〟こそは現世うつしよの真理たる〝弱肉強食〟と〝栄枯盛衰〟を超えし──」


〝女神〟のごとき静謐せいひつ無我むがの境地で、


「三千世界をべる、〝神理カミノコトワリ〟であるのじゃ」


神威しんい〟のごとき重圧が広大な荒野を震わせる。


「……全ては……〝愛〟のためだと………」


 震える荒野の中心で、刀のような一本角いっぽんづのを生やす〝骨格標本〟は忘我ぼうがとなり……

 

「〝愛〟のために生き……〝愛〟のために醜態しゅうたいさらし……〝愛〟のために、殺すと………」


〝神威〟に打たれたように、あるいは闇の中に光を見つけたようにつぶやく……対して、


如何いかにも。そして〝愛〟をつらぬくために欠かせぬものこそは、あらゆる困難をはいし、揺るがぬこころざしを支える〝力〟であるなれば――」


〝女神〟が世の〝ことわり〟をくがごとく、


「我らはあらん限りの〝力〟をもって、〝愛〟のあふるる世を現世うつしよに築くのじゃ」

「我ラガ統ベル・世界ノ秩序……イコール……強イ〝力〟ト・〝愛〟ノ秩序………」

「それが~わたしたちの〝世界征服〟なのれすよ~♪」

「……〝真理〟と〝神理〟をもって……新たな世を、築くと………」


 意外な言葉に……かしましくも誇らしい宣言に声をかすれさせる〝骨格標本〟に周りの少女たちはうなずき、


「それこそが我らの〝悲願〟であるのじゃ。なれば──」


 異形の四足獣、眼鏡蛇コブラの骨格、電撃をまとう少女が〝骨格標本〟を囲む輪を縮めていく中、


「〝悲願〟のため我らは、今こそ此度こたびの件における最後の務めを果たすのじゃ。そして──」


 少女たちが精悍せいかんに顔を引きしめ、


「汝にも、現世うつしよにおける最後の務めを果たしてもらうのじゃ」


 3つの華奢きゃしゃな身から重厚じゅうこうな重圧が立ち昇る……一方、


「……身共も、あなた方の〝悲願〟のにえにするのでござりまするか……此度の件で落命した、多くの者たちと同様に……なれど」


 荒野にヒザをつく〝骨格標本〟が、どこか覚悟を決めたような声で、


「左様な暴虐ぼうぎゃくの末に叶えた〝悲願〟は、まことたっといものなのでござりまするか? 何にもがたい〝悲願〟を……何よりもたっとく、守るべき〝想い〟をけがすやも知れぬのに……それでも、無慈悲な暴挙に手を染めるのでござりまするか?」


 どこか覚悟をただすように少女たちへ言い放つ……対して、


「〝無慈悲〟にあらず。全ては〝優しさ〟の成せるわざであるのじゃ」


 ハクハトウは冷厳れいげんな笑みを浮かべ、


「〝優しさ〟こそは、何かを〝守る〟ことをちかいし思いなのじゃ。とりわけ優しさをそそぐが代え難きものであるならば、それを守らんと一際ひときわ強く人は思い……対価として、他の全てを切り捨てる〝覚悟〟をいだくのじゃ」


 冷厳な笑みが冷徹な笑みとなり、


「すなわち、人は優しくなるほどに残酷となり、それをきわめし者こそが誇り高き〝王族〟へと、偉大なる〝王〟へとつのじゃ。しかして、そのために欠かせぬものこそが〝覚悟〟であるなれば―─」


 冷徹な〝王女〟が威厳あふれる重圧をほとばしらせ、


「対価を払う〝覚悟〟無き〝弱き者〟には! 血を浴びる〝覚悟〟無き〝臆病者〟には! 命を懸ける〝覚悟〟無き〝敗北者〟には〝王族〟の! 〝王〟の! 〝支配者〟の栄冠えいかんつかめぬのじゃ!!」


〝覚悟〟のみなぎ咆哮ほうこう寂寥せきりょうとした荒野に響き渡らせた……


「……やはり、狂気の自己満足にござりまする」


 一方、巨大な〝骨格標本〟はうつむいて声をもらし、


「我が姉同様、狂気の〝力〟と〝愛〟におぼれた〝人間の姿をした悪魔(ヒューマンデビル)〟なのでござりまする……なれど」


 どこか最後の確認をするように、


「あなた方は、代え難いものを……己が心よりほっするものを独占する女が、憎くはないのでござりまするか? 心より欲するものが、決して手に入らぬものと知り……絶望したことは、無いのでござりまするか……?」

「独占するも独占されるも、個々の自由であるのじゃ」


〝少女〟はさっぱりした顔で、


「〝王〟と〝女王〟が互いを独占し合い、独占され合うも、自由なる心のままに……心のおもむくままに振る舞いし末の形であるのじゃ」

「……心の、赴くまま……自由に………」


〝骨格標本〟が深く考え込むようにつぶやくと、〝少女〟はかすかな苦笑を顔に混ぜ、


「さりとて、我らに毛ほどの妬心としんも無いと申さば嘘となるのう……なれど、それらが憎しみや絶望へするは決して無いのじゃ。何故なぜならば――」


 崇高すうこう崇拝すうはいで笑みを満たし、


「我らの妬心は〝王〟への〝想い〟のみならず、〝王〟への〝憧憬しょうけい〟の一面……すなわち、我らの魂を至高しこうへ導きし〝道標みちしるべ〟であり──」


 笑みを誇らしげに輝かせ、


「それこそは〝王〟と我らをつなぐる、崇高なる〝きずな〟の一翼いちよくであるのじゃ!!」


〝骨格標本〟が再び天地が逆転したように息をのむ………そして、


「ならば……身共も………」


 われ知らずつぶやきつつ脳裏に浮かぶのは、幼き日の姉の背中。

 たおやかさとかしこさで周りの称賛しょうさんを集める、自慢すべき〝もう一人の自分〟。

 同じ日に生まれ、共に過ごす中でずっと追いかけていた〝憧憬あこがれ〟の象徴しょうちょう


「なれど……身共は………」


憧憬あこがれ〟に近づきたくて〝見栄みえり〟になったのは、いつからだったか。

見栄みえり〟が〝憧憬あこがれ〟をにごらせたのは、いつだったか。


「なれば……身共は………」


憧憬あこがれ〟が〝嫉妬しっと〟や〝憎しみ〟や〝絶望〟の象徴になったのは、いつだったか。

〝もう一人の自分〟をまわしき〝奪う者〟にしたのは、いつだったか……否、


「……忌まわしきは、身共も同じにござりまするか………」


 濁った〝憧憬あこがれ〟の残骸ざんがいのごとき、見渡す限りの寂寥せきりょうとした荒野をながめつつ、


「今、わかったのでござりまする……身共がまことに欲していたものは……代え難い〝悲願〟は……輝かしい〝未来〟を……ささやかな〝幸せ〟を……〝里〟でつむぐことだったのでござりまする……姉上と、共に………」


 濁った〝憧憬あこがれ〟の成れの果てを……〝嫉妬〟や〝憎しみ〟や〝絶望〟をむように、


「なれど、身共は……〝幸せ〟への〝道標みちしるべ〟を、みずから捨て……〝里〟の〝未来〟を〝奪う者〟に……〝人間の姿をした悪魔(ヒューマンデビル)〟に成り果てたのでござりまする……姉上と、同じに……」


 愚かな己をむように、


「姉上と……もう一人の己と……未来を……幸せを……奪い合うために………」

「まさに〝蠱毒こどく〟、つぼの中で喰らい合うむしのごときじゃのう」

「……魔女どもが……!」


 粛々《しゅくしゅく》と語る少女をにらみつつ、〝骨格標本〟は再び覚悟をただすように、


「あなた方は、どうなのでござりまするか? 如何いかに〝女王〟にあらがうべく結束けっそくしようと、所詮しょせん烏合うごうの衆なのは明白。ならば必ずや足並あしなみを乱し、互いに喰らい合うのでござりまする……〝蠱毒こどく〟のごとく……!」

すでに〝親睦会しんぼくかい〟にて日々殺し合っておるのじゃ……なれど」


 気迫きはくこもった声を泰然たいぜんと受け止め、


「真剣勝負の中でこそ、人は互いの技や力、そして魂をし合えるのじゃ」


 全てを受け入れるように悠然ゆうぜんと、


「なれば、あれらの修羅場しゅらばまぎれも無く〝親睦〟の場であると共に──」


 躊躇ためらうこと無く毅然きぜんとして、


「〝王〟に忠節ちゅうせつを尽くすため技や力をきたえ、結束けっそくを高めるべく魂をませてゆく〝儀式〟であるのじゃ。左様……」


 厳然げんぜんとした威厳を総身そうみあふれさせ、


「家臣として〝覇道〟を成し、女子おなごとして〝悲願〟を叶え、新たな世の〝王族〟として新たな世の〝責務〟を……否、〝天命〟を果たさんがため、己をみがげる〝儀式〟であるのじゃ」


 超然ちょうぜんとした信念に満ちた宣言を放った。


「新たな世の……天命………」


 暗闇をはらうような威厳と信念に〝骨格標本〟が身震みぶるいすると、〝王族〟はたっとい笑みをたたえ深くうなずき、


「しかして……〝王族〟の〝天命〟こそは、跡取あととりをもうけることであるのじゃ♪」

「天命……イコール……天カラ・さずカルいのち……イコール……愛ノ・結晶………」

「〝ファラオ〟のかわいい赤ちゃんを~いっぱい産んじゃうのれすよ~♪」

「……痴女ちじょどもが……!!」


 あふれんばかりのよろこびと、子作こづくりの本能に目覚めたような〝女〟たちの宣言にすすけた真鍮色しんちゅういろの〝骨格標本〟は肩を震わせる……が、


「……それが、あなた方の〝自由〟……〝覚悟〟なのでござりまするか………」


 大地にヒザをついたまま、急に肩を落とし、


「あなた方にすれば、身共など傀儡くぐつのごときこまの一つ……〝しがらみ〟に縛られた、些末さまつな〝消耗品しょうもうひん〟に過ぎなかったのでござりまするな……」


 悔恨かいこんただようかぼそい声で、


「事実、身共は故郷の因習いんしゅうや他人の思惑おもわくに……姉上やあなた方の絵図えずに縛られ、みじめに翻弄ほんろうされていたのでござりまする……」


 大きな湖のほとりでわずかに顔を上げ、


おのが〝悲願〟のためと、〝里〟をにえにせんとしたことすら……姉上やあなた方を、手助けするに過ぎなかったのでござりまする……」


 湖を中心にえる広大な荒野を見渡しつつ、


「その果てが……故郷も……家族も……悲願すらも残っていない、この惨状さんじょうなのでござりまする……」


 げた大地が広がるのみの故郷を見渡しつつ、


「否……傀儡くぐつであったと申せど……身共の悲願も、惨状さんじょうを招いた一因いちいんだったのでござりまするか………」


 か細い声が、寂寥せきりょうとした荒野が広がる空虚くうきょな地下空洞の空気に薄れるように消えていき……


「そして、今……身共の命も、ついえるのでござりまするか……あなた方の、悲願のために………」


 うつろな声が、現世うつしよを離れ幽世かくりよに吸い込まれるように消えていく………


「なれど!」


 だが一転、〝骨格標本〟は大きく肩をいからせ、


見見みすみすあなた方の〝自由〟にはさせぬのでござりまする!!」


 ヒザをついていた機体が敢然かんぜんと立ち上がり、


「姉上やあなた方に……〝他者にかれた道〟であろうと身共も〝悲願〟に懸命だったのでござりますれば──」


 100メートルを超える巨体が気魄きはくほとばしらせ、


「せめて最期さいごは姉上やあなた方と同じく……〝自由〟に振る舞ってやるのでござりまする!!」


 少女たちの〝覚悟じゆう〟を見届け満足したような咆哮ほうこうを、どこか露悪ろあくてきな響きを混ぜつつとどろかせる……と、肋骨ろっこつのような胸の前に紫に輝く欠片かけらが浮かび、


「姉上に感謝するのは、いつ以来にござりまするか……」


 欠片が木端微塵こっぱみじんに砕け、こなのような大量の破片がキラキラと輝きつつ荒野に広がっていき、


「不幸にして道をたがえた我ら姉妹なれど、今ならば姉上の〝愛〟を感じるのでござりまする……なれば!」


 破片を浴びた広大な荒野に紫の炎が燃え上がり、


「姉上よりの最後のはなむけ! ありがたく使ってやるのでござりまする!!」


 露悪的な大音声だいおんじょう喜悦きえつにじませつつ、


「申していたのでござりまするね! あなた方も〝弱き者〟であり〝奪われる者〟であると!!」


 脳裏に浮かぶは幼き日の〝憧憬あこがれ〟。


ゆえに〝悲願〟のため毒を喰らい醜態しゅうたいさらすと!!」


 たおやかさとかしこさとかくたる信念に輝く〝もう一人の自分〟。


「ならば身共もさらしてやるのでござりまする!! 〝弱き者〟の、〝臆病者〟の、〝敗北者〟の醜態を……否!」


 そして〝憧憬あね〟を追いかけていた無邪気な〝記憶おもいで〟。


「〝見栄みえり〟の最後の〝見栄みえ〟を見せてやるのでござりまする!!」


 いつしかもるはまわしき〝記憶おもいで〟のみとなったが、


「この身に残る全ての命をけて! この身にたぎる全ての〝愛〟を燃やして!!」


 まわしかった〝記憶おもいで〟も今はいとしく感じつつ、


「しからば〝愛〟のためにさらし! 〝愛〟のために死に! 〝愛〟のために殺してやるのでござりますれば──」


〝愛〟の宣誓せんせいと共に刀のような一本角いっぽんづのから紫の炎をげ、


「我が〝愛〟で……めっせよ〝愛〟の亡者もうじゃどもおおおおおおおおおおおおおおお!!」


〝骨格標本〟が炎に覆われ〝紫の炎の鬼〟となり、大地を覆う紫の炎からもへびに似た無数の〝炎の竜の首〟がした……!!


今際いまわきわに、ようやく〝しがらみ〟よりかれおったか」


 だが異形の四足獣の背に立つ少女は泰然たいぜんと、


「ならば申した通り、最後の〝火遊び〟にうてやるなれば──」


 燃え盛る大地で汗ひとつ無く、


「我らも〝愛〟にはげみ、〝愛〟に尽くし、〝愛〟に生きるべく──」


 総身そうみに〝愛〟をみなぎらせ、


「〝優しさ〟をもって汝を現世うつしよより解き放ってくれるのじゃ!! 〝希望〟をたくす〝天器アメノウツワ〟に懸けて! 〝愛〟をささぐ〝神理カミノコトワリ〟にちかいて!!」


〝愛〟と〝情熱〟の宣誓せんせいと共に、〝炎の鬼〟を囲む3人の少女が荘重そうちょうな重圧を立ちのぼらせる。


「〝愛〟ならばおくれは取らぬのでござりまする!!」


 しかし〝炎の鬼〟はひるまずつのを《《赤く》》輝かせると、


「身共とて同じ日に生を受け、同じ血肉ちにくさずかり、同じ魂をかち合った〝巫女〟の片割かたわれなれば──」


 大地に蔓延はびこる〝炎の竜の首〟が〝炎の鬼〟を包み、巨大な紫の火球となり、


「〝幽体離脱〟はあたわずとも我が魂をにえとして──」


 巨大な火球はたくましい6本のあしを生やし、長い首と尾を伸ばし、


「姉上よりの〝愛〟たるはなむけを……〝瀬織津せおりつ〟の力をあらわすのでござりまする!!」


 鋭いつのと牙を生やす恐竜のような頭から咆哮ほうこうを上げる……全長200メートルを超える、紫の炎で出来た〝炎の竜〟となった。


「これも絵図の内……あるいは〝敗北者〟へのなさけ……〝失敗した者〟の有終の美に過ぎぬのか〝クズ参謀〟──ぬうっ!?」


 眉をひそめたハクハトウが目元を険しくし、〝炎の竜〟の吐いた炎を避けるべく己が乗る異形の四足獣を退かせた。


如何いかがしたのでござりまするか〝封印災害指定〟ども!! 『無謀と知りつつの醜態』にあらがえぬのでござりまするか!?」


 片や〝炎の竜〟は全身から大量の火炎弾を放ち、大地を覆う紫の炎を一層激しく燃え盛らせる。


「ええい、厄介やっかい真似まねを……!」


 焦熱しょうねつ地獄じごくと化した地下空洞で少女たちは火炎弾の雨を避けつつ〝炎の竜〟へ攻撃するが、表面の炎にはばまれ中の〝骨格標本〟まで届かない。


所詮しょせん小童こわっぱ! この程度にござりまするか!!」


 一方〝炎の竜〟は挑発的に叫びつつ上空へ無数の火炎弾を放ち、


「あなた方の〝愛〟も底が知れるのでござりまする!!」


 無数の火炎弾は地下空洞の天井近くで1つとなり、凝縮ぎょうしゅくされるように輝きを増していき……太陽のごとくまぶしい、直径400メートルを超える巨大な火球となる。


「ならば……身共と共に黄泉国よもつくにへ落ちるが良いのでござりまする!!」


〝炎の竜〟が露悪的に叫びつつ、《《己もろとも》》全てを消滅させるように火球を大地へ落下させる!!


ひとツノ・太陽ノ火……イコール……過去カラ・たくサレル希望………」


 だがヒザを抱えて空に浮くシユーニャが赤銅色しゃくどういろの髪からおびただしい火花を放ち、


「一万ノ・太陽ノ火……イコール……未来ヘ・ささゲル愛………」 


 一つの大きな太陽のような火球を、一万の小さな太陽のような火花が包む……と、火花はみるみる白熱化していき、ついにはプラズマ化して巨大な火球を大地に落ちる前に消滅させてしまった。


「……!」


〝炎の竜〟が息をのみつつ、どこか満足するような気配をかもす……直後、


「わたしたちは~ちゃ~んと未来をつくるのれすよ~♪」


 眼鏡蛇コブラの骨格の頭に立つパトラが、12本の三つ編みの先のリビアングラスを光らせる──と、多数の人骨で出来た骨格の頭部が人間の女の頭に組み変わり、この世のものとも思えぬ叫びを上げ、


「らから~安心して眠ってほしいのれすよ~♪」


 湖の周りの大地が盛り上がり、湖のほとりにいた〝炎の竜〟を捕えるとふたをするように湖を覆い、湖の上にそびえ立つ山を形成した……途端とたん


「なにいっ!?」


 下半身を山の頂上に捕われる〝炎の竜〟が、その身の炎を山に吸い取られるように失い〝骨格標本〟に戻ってしまう。


「……ならば、過去よりの〝しがらみ〟に囚われていた者よ」


 そして山のふもとに、異形の四足獣の背に立つ少女が現れ、


「汝の〝希望〟は、我らの〝愛〟と共に未来へささぐなれば──」


 おごそかな声と共に、左の瞳に雪の結晶のような紋章を浮かべ、


「身のほどを超え、我らが〝悲願〟のいしずえとなるが良い……〝身のほど知らず〟よ」


 頭頂の一本角いっぽんづのを光らせつつ、異形の四足獣に強大な力を注ぎ込み、


「今こそ〝門〟を開く時であるのじゃ」


 新たに召喚しょうかんした翼長よくちょう15メートルを超える鳥の背に立ち四足獣を離れる……と、


竜煽りゅうせん大崩壊だいほうかい!!」


 少女が号令するや異形の四足獣が咆哮し、全身の針金はりがねのような体毛を激しく振動させた――刹那、


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


 強烈な衝撃波が巨大な滝のごとくそそぎ〝骨格標本〟と山を震わせる!!


「がああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 絶叫する〝骨格標本〟と山を襲うのは、四足獣が体毛から発生させる〝振動〟を極限まで増幅ぞうふくさせ収束しゅうそくさせた〝衝撃波の大瀑布だいばくふ〟。


「せめて、今のわらわにあたうる至上しじょうの技にて送ってくれるなれば──」


 衝撃波の中で、〝骨格標本〟は全身に亀裂を走らせ山も崩壊寸前となり──


安寧あんねいの内にねぶるが良いのじゃ」


 少女が深い共感のにじむ声をつむいだ……直後、


 バリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!


〝骨格標本〟の肋骨ろっこつのような胸部装甲が砕け、山も丸ごと消し飛び、満身まんしん創痍そういの機体が山が消えて露出した湖の上空に放り出される。


冥界ドゥアトにいってもバーは永遠なのれすよ~♪」


 同時にパトラが再び三つ編みのリビアングラスを光らせると、眼鏡蛇コブラの骨格がT字の上に楕円だえんをつけた『アンク』、または『エジプト十字』とも呼ばれる古代エジプトの紋章に組み変わり、


バー安息あんそくを~おいのりするのれすよ~♪」


 紋章から荘厳そうごん光条こうじょうが放たれ〝骨格標本〟に命中、機体が光に包まれると全身の苦痛が薄れていく……と共に、魂が現世うつしよを離れていくように意識も薄れていく。


(これが……〝死〟にござりまするか………)


 しかし、そこに恐怖は無く、傷ついた魂をいやすようなやすらぎにいだかれつつ、


(希望を託したからには……未来は任せるのでござりまする………)


 安らぎの中で意識が消え去る──寸前、視界のすみに、湖のほとり一角いっかくに立つ白い着物を着た黒髪の少女が映った。


火焚凪かたな……?)


 それは、己と同じく〝もう一人の自分〟と魂を分かち合った片割れ。


(あなたも〝愛〟の……〝悲願〟のために、命を懸けるのでござりまするか……)


 まぼろしのようにたたずむ少女に、わずかな同情を覚えつつ、


(ならば……あなたにも、託すのでござりまする……)


 苦悩と葛藤かっとうを瞳にたたえる少女に、せついのるように、


まばゆい、希望を……幸多さちおおき……未来を…………)


 そして……湖乃羽このはの意識が消え去った──瞬間、少女も炎となって消え去り、大地を覆う紫の炎が紅蓮ぐれんの炎に変わると、


「……確かに、絵図の内であるようじゃな〝クズ参謀〟……あるいは──」


 湖からも紅蓮の炎の奔流ほんりゅうし、


「汝の絵図であるのか……〝王〟のメイドとやらよ………」


 奔流が湖の上空にある湖乃羽の亡骸なきがらを──100メートルを超える機械の〝骨格標本〟を炎で包む……と、


「さっすがボッチャマ、タイミングぴったりでやがるのです♪」


 地下空洞のはしの天井近くで、右目に片眼鏡モノクルの少女がナマイキそうに笑み、


「アタシサマの用意した〝かぎ〟を祭壇さいだんの湖に打ち込んでくれやがったのですね♪」


 視線の先では、炎に包まれた〝骨格標本〟の砕けた胸の奥にある赤いビリヤードの球が輝き……激しくなった炎に、巨大な機体が一本角いっぽんづのだけを残し焼き尽くされ、


「こっちと一緒に〝はこ〟にも〝鍵〟が行きやがったのですから──」


 空に残った炎は、《《赤く》》輝く刀のような一本角いっぽんづのを上部に生やす100メートルを超える火球となり、


「〝門〟を開けて、この世に再び生まれやがるがイイのです♪」


 鋭い刀のようなつのが、刀のように火球の表面を上から下まで斬り裂き、巨大な火球に一直線に伸びる切れ目を刻む……と、


「運命に定められた〝呼び火〟であり──」


 空に浮かぶ火球の切れ目が、さながら異界へ通じる〝門〟のごとく開いていき……その奥の闇に、爛々《らんらん》と輝く双眼そうがんともり、


忠勇ちゅうゆうなる〝炎の使徒しと〟のカケラ──」


〝門〟を奥からこじ開けるようにして生まれるのは、火球を斬り裂いた刀のようなつのひたいの右から生やし、獰猛どうもうな肉食獣のごときかおと細身ながらも引き締まった肉体、そして燃え盛る炎の剣を持つ……


「ハカイのやいばたる〝鬼子おにご〟よ♪」


 身長150メートルを超える、紅蓮の炎のごとき〝鬼〟だった……直後、大地を覆う紅蓮の炎が爆発的に燃え盛り、


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


〝鬼〟の産声うぶごえに震える地下空洞が、紅蓮の業火ごうかに焼き尽くされた………




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ