生まれ出る鬼子
〔くたばるがいい財団の狗め!!〕
500匹近い羽蟻が、大地に倒れる手足に戦闘ユニットをつけた少女へ溶解液を吐いた。
「せっカくノ〝同類〟を死ナせまセん」
だが多数の鱗が少女を囲み溶解液をはじき、自分を守った30センチはあろう金色の鱗にエスティリトゥが息をのむ……直後、そのそばに奇妙な車イスに座った少女が現れ、
「失礼、上司かラ連絡ガあっタのデ席を外シてイましタ」
「カ…〝カメレオン〟……」
車イスの少女が赤いネクタイを外し、呻くようにもらすエスティリトゥへ伸ばす。と、負傷した顔の左半分に長くなったネクタイが包帯のように巻きつき、
「サあ不義理ニ天誅を下スのデす」
周囲の羽蟻の群れを見渡す〝カメレオン〟がバイザー型のサングラスの奥で目を光らせ、二又の舌を出して蛇のように笑む──途端、500近い羽蟻の1匹1匹のそばに1枚ずつ金色の鱗が浮かび、
〔滅国の徒どもが、こんな虚仮脅しなど──ぐおっ!?〕
鱗から木の枝が生え、それぞれのそばにいる羽蟻に絡みつき動きを封じた。次いで〝カメレオン〟は倒れたまま動けないエスティリトゥへ目をやり、
「戦闘ユにっトは使エなクてモ、〝奥の手〟は使エるデしょウ」
「……!?」
ぞっとする〝カメレオン〟の笑みに無事な右目を剥くエスティリトゥ……だが、
「……我、技の精度に不安を覚えるなり………」
「心配ハいりマせン。なゼなラ……」
無機質な顔をかすかに雲らせるエスティリトゥに〝カメレオン〟が酷薄な笑みを深める……と、羽蟻を捕える多数の鱗が輝き出し、エスティリトゥの顔に巻きついたネクタイも同じく金色に輝き始め……
「私ノ〝鱗〟とアなタの技ヲ同調さセれば、狙イを外スこトはあリまセん。何ヨり……」
酷薄な笑みを獰猛な笑みに変え、
「アなたモ、憎っくキ〝仇〟を討ツまデ死ねナいノではアりマせンか……親愛ナる〝同類〟ヨ♪」
「……!」
エスティリトゥが再び右目を剥く……直後、その目に生を渇望するような強い光が灯り、サークレットのピンクの水晶も強く輝き始め……
プァァァァァァン………
甲高い木管楽器のような音がして、《《同調するように》》多数の鱗が震え始め、枝を通じて多数の羽蟻にも振動が伝わっていく……対して、
〔おのれ……ここまで来て負けられるか!!〕
500近い羽蟻たちが自分を縛る木の枝に溶解液を吐きかける……が、《《金色》》の枝は溶ける素振りも無く、
〔ぐうう……〝悲願〟のために〝里〟も死に絶えたのに、報いることも出来ず倒れるなど……!〕
身動き出来ない羽蟻たちが悔しそうに唸ると、その頭の外皮に亀裂が走り……
〔こ…小童ども! 自分が何をしているか分かっているのか!?〕
外皮が砕け、中から太ったカエルのような人の顔……人間だった時の弥麻杜の顔が現れ、
〔ここでワシらが倒れれば……ワシらの〝悲願〟が潰えれば……〕
500近い弥麻杜の顔が苦渋に歪み、
〔この世は……あの〝鬼子〟に滅ぼされるのだぞ!!〕
世界を憂う誠意あふれる声を吐き、羽蟻を捕える500近い鱗と枝を全て石化させた……しかし、
「……我、死を拒絶するなり……」
大地に倒れる少女が低い声と共に、ヒザに届くほどの髪を大きく宙に広げ、
「我が宿願を果たすまで……」
ガラス繊維のような半透明の白髪が焼けるような熱を発し、
「背信者を討つまで……」
ピンクの水晶と包帯のようなネクタイが眩い光を放ち……
「ジョクタウ・トゥルガイを処するまで!!」
プアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
地下空洞に甲高い音が響くと石化していた鱗と枝の表面が砕け、元に戻った鱗と枝が目も眩む金色に輝き、
「〝怒りんぼ姫〟の〝響滅〟でやがるのですか♪」
地下空洞の天井近くで片眼鏡の少女がナマイキそうに笑むや、輝く鱗から枝を通じて強烈な振動が羽蟻に浴びせられ、
〔ぐああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!〕
弥麻杜の顔をした500匹近い羽蟻が絶叫し、振動により原子レベルに分解されていく。
〔ぐぅぅ……や…やはり、貴様らも……〝鬼子〟の、同胞だ……!〕
体と共に意識も分解されていく中、羽蟻は無念と恐怖に震える声で、
〔この世を、滅ぼす……〝人間の姿をした悪魔〟の、狗だ……!!〕
「御心配なク」
半分近く体が消えた羽蟻へ〝カメレオン〟は冷淡に、
「我ガ上司……参謀閣下の〝計画〟ハ、《《本当の意味》》デこノ世を救ウもノなのデす」
どこか《《他の誰か》》に向けるように酷薄に笑み、
「デすカら、ドうカ安心しテ地獄に落チてクださイ……不義理」
《《ここにはいない誰か》》を詰るように絶対零度の声を紡いだ……直後、
〔くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!〕
体の半分以上が消えた500近い羽蟻が破裂、体内の溶解液を雨のように撒き散らす!!
「……自爆でスか」
だが羽蟻を捕えていた多数の鱗が瞬時に少女たちを囲み、溶解液の雨は虚しく鱗にはじかれてしまう………
「トは言エ、刺シ違えてモ〝仇〟を討トうトする覚悟ハ見事でス……」
無念の涙のごとき雨の中で、車イスの少女はサングラスの奥から敬意の視線をにじませ、
「あナたノ犠牲に報イるたメにモ、我らハ必ず〝悲願〟ヲ叶えテ見せマしょウ……」
雨が止むと自分たちを守った鱗の囲いを開き、羽蟻たちがいた虚空へ丁寧に頭を下げる……それから、視線を横へ向け、
「あナたにモ、そレだケの覚悟ガあるノでスか……〝身のホど知ラず〟ヨ」
巨大な〝炎の鬼〟へ鱗を飛ばす。が、〝鬼〟は鱗を避けて車イスの少女をにらみ、
「……あくまでも、我らが〝悲願〟を妨げるのでござりまするか……!」
「『我ラが〝悲願〟』デはなク、『《《我が》》〝悲願〟』ナのデはあリまセんカ?」
〝カメレオン〟は〝炎の鬼〟の怒気を受け流し、〝鬼〟の背後へ目をやる。そこには〝鬼〟が避けた鱗が刺さった巨大な石の玉が……多数のヘビが絡まり合って石化した玉が燃え盛る大地に転がっており、
「休憩ハ終わリに願イまス、ペンてシれいア様」
直後、巨大な玉に鱗が刺さる箇所から亀裂が走り、
「風は不快に吹き荒ぶ。差し出がましき石竜子の業に」
石の玉が破裂するように砕け、白い一角獣に乗る少女が現れた。対して車イスに座る少女は大げさに頭を下げ、
「ソれハ失礼いタしまシた。デすガ参謀閣下が指定ノ場所でオ待ちデすのデ、移動をオ願いイたシまス」
〝カメレオン〟のわざとらしい物言いにペンテシレイアは眉間のシワを深め、
「風は言を俟たず吹き急ぐ……怨敵を滅した後に!!」
いきり立つ少女が戦斧を〝怨敵〟へ向けるや一角獣は流星のごとく空を駆け、醜怪な顔の周りに数十匹のヘビを生やす巨大な〝首〟へ突進していく!!
「風は怒りに吹き進む! 雪辱を期す戦士のごとく!!」
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
片や〝首〟は奇声を上げつつ、多数のヘビを迫りくる一角獣へ伸ばす。が、襲いくるヘビを一角獣は機敏に避けつつ突き進み……
「風は〝斧〟となって吹き断つ……駆け抜けよアスタルト!!」
馬体が金色に輝き〝首〟を《《通り抜ける》》──刹那、〝首〟が左右真っ二つに割れた。
ギャシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
だが絶叫する2つの〝首〟の断片は《《それぞれ再生し》》、燃え盛る大地に《《2つの》》〝《《首》》〟《《が誕生》》、それぞれ顔の周りの巨大なヘビを伸ばし一角獣に襲いかかる……が、
「風は魂を注ぎ吹き攻める! 〝盃〟を敵の血で満たすため!!」
数と激しさを増すヘビの襲撃を避けていく一角獣の背で、猛る少女が高々と戦斧を掲げる──と、戦斧も金色に輝き……
「風は神威を以て吹き滅ぼす! 偉大な〝女王〟の名の元に!!」
輝く斧から夥しい金色の光のツブがあふれ出し……
「風は永遠に吹き流れ、全てのものは風へと転ずる……〝風化流転〟!!」
ツブは金色の竜巻となって2つの〝首〟を包み込み……猛烈な回転の中で、風化するように〝首〟が微細に崩れていく。
ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
〝首〟は風化した箇所を再生能力で治そうとするが、《《再生能力までが風化するように》》再生が出来ず、竜巻の中で崩れていき……
「風は世界を吹き墾く。偉大な〝王〟の〝犂〟として」
〝首〟は塵も残さず崩れ去り、金色の竜巻も消え去った……直後、
「風は瞬くごとく吹き翔ける。〝起源〟の務めを果たすため」
一角獣が眩く輝き、少女を乗せたまま金色の流星のように飛び去る……と、
「私モ失礼いタしマす」
奇妙な車イスに座る少女も、透明化するように姿を消してしまった………
「……おのれ小童ども!!」
また1つ〝手駒〟を失った〝炎の鬼〟が怒り狂う。
その目がにらむ先には異形の四足獣、巨大な眼鏡蛇の骨格、ヒザを抱えて宙に浮く少女、そしてそれらの後方に立つ30メートルを超える牛頭人がおり……
ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
金属の牛頭人が斧を振りあげ少女たちに襲いかかる──寸前、
バキィンッ!!
牛頭人の胸を突き破って黒い氷の衝角が飛び出し、
「ガハハハハッ! 〝ニンゲン〟よりヤワなんだぜい!!」
グモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?
豪快な笑いと野太い悲鳴が響く中、衝角を起点に巨大な牛頭人が黒い氷に覆われていき……
「〝南極ゴジラ〟に比べりゃ雑魚なんだぜい!!」
牛頭人の全身が凍りついた──途端、氷になった巨体が粉々に砕け散り、燃え盛る大地に落ちた氷片が蒸発し周囲に水蒸気が立ち込める……直後、
ズドドドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
重い砲撃音がして黒く丸い氷の砲弾が多数、水蒸気を突き破って飛び出し〝炎の鬼〟を襲う──同時に、
「戯れにもならぬのじゃ」
己に飛んできた〝流れ弾〟を、ハクハトウは異形の四足獣の咆哮で粉砕し、
「海賊のおちゃめなイタズラなのれすよ~♪」
パトラは巨大なコブラの骨格に噛み砕かせ、
「氷ノ・大砲……イコール……豆・鉄砲………」
シューニャは宙に浮くまま電撃で焼き尽くす……と、
「ガハハハハッ! せっかくの助け船を豆鉄砲たぁ言ってくれるんだぜい♪」
水蒸気が晴れ、波打つ紺碧の髪を胸まで伸ばし、逞しい体躯とアイスホッケーのスティックを持つ少年が、燃え盛る大地の牛頭人がいた位置に現れた……一方、
「……まさしく児戯に等しき技にござりまする……小童め……!」
燃え盛る巨体で氷の砲弾を蒸発させた〝炎の鬼〟がZクラスの少年少女たちをにらみつける……が、
「助け船がいらねえってんなら、俺様たちは引き上げるんだぜい」
少年は背後に海賊団員を集めると、大地に倒れる手足に戦闘ユニットをつけた少女を回収させ、まとめて巨大な黒い氷塊の中に封じ込める……そして、
「あとはテメエらだけでやるがいいんだぜい♪」
氷塊の上の立つと不敵に笑み、氷塊もろとも大地に沈み姿を消した……対して、
「無論じゃ。あのような鬼一匹、わらわたちのみで事足りるのじゃ」
少女3人は当然のようにそれを受け入れ、巨大な〝鬼〟へ目を向ける。
「きょ…虚勢も大概にするのでござりまする!!」
今や燃え盛る大地に残るのは、〝炎の鬼〟とZクラスの少女3人のみ。
「〝封印災害指定〟ごとき我が〝悲願〟の……〝世界征服〟の贄にしてくれるのでござりまする!!」
「この期に及んで、〝悲願〟に縋りおるか……」
燃え盛る大地に乱立する炎の竜巻が荒ぶる竜のごとくうねるも、ハクハトウは怯むどころか一抹の憐憫を瞳に宿し、
「知るが良いのじゃ。汝の〝悲願〟は、姉への雪辱なる〝過去〟への執着より生ぜし、己を縛る〝柵〟であると」
柵に縛られていた〝少女〟が粛々《しゅくしゅく》と、
「左様な〝柵〟は想いを、信義を、生涯を、そして〝悲願〟さえも歪ませるのじゃ。故に──」
柵を乗り越えた〝お姫様〟が沁々《しみじみ》と、
「〝悲願〟を……〝未来〟を掴まんとする者は、〝柵〟を越え、〝過去〟を呑み込み、〝過去〟の〝己自身〟を克服せねばならぬのじゃ……!!」
厳然とした〝王族〟の威厳に、猛っていた炎の鬼は気圧される……が、
「あ…あなた方こそ知るが良いのでござりまする! 己が克服すべきは〝過去〟に非ず〝欲〟であると!!」
声を震わせつつも必死に踏ん張り、
「我が姉同様ふしだらな〝欲〟の虜となり、愚かな主のために世を踏み躙る不届者には……〝煩悩〟なる首輪に繋がれた卑しき犬には決して……決して〝未来〟など掴めぬのでござりまする!!」
「矮小なる野良犬には、偉大なる〝王器〟は量れぬか」
片や厳然たる〝王族〟は悠然と笑み、
「冥土の土産に卑小なる魂に刻むが良い。牙を抜かれ飼い慣らされし〝犬〟なぞ、我らが〝王〟は求めておらぬのじゃ」
悠然とした笑みに凄惨な迫力が滲み、
「〝暴君〟が求めしは、誇りのためならば主にも牙を剥く〝狼〟であるのじゃ」
〝暴君〟の影と風格を匂わせつつ、
「そして〝悲願〟のためならば、〝女王〟と過ごす真秀呂場のためならば、世を滅ぼすも厭わぬが〝暴君〟の真髄……誇り高き〝狼〟を統べる、偉大なる〝王器〟であるのじゃ」
「よ…世迷言を! 左様な暴虐が〝王器〟であるなど……忘れたのでござりまするか!? 己がためにのみ動く者は身を落とすのみとの言を!!」
「無論、失念してなぞおらぬのじゃ」
悠然とした笑みを尊大な笑みに変え、
「今一つ魂に刻むが良い。我らが〝王〟が〝悲願〟を成す道程により……偉大なる〝覇道〟により数多のエヴォリューターは〝狼〟へ昇じ、〝犬〟に堕せし数多のフラッターを喰い散らすであろう」
どこか、今は無い故国を省みるように、
「怠惰と背信に溺れし〝犬〟は、国を腐らせるのみであるのじゃ……なれば、失墜せし〝犬〟は気高き〝狼〟が排さねばならぬのじゃ……新たなる、気高き国の礎を築くために……!」
亡国の〝お姫様〟が改めて大志を抱くように、
「左様……今こそ誇り高き〝国〟を興す時なれば、我らは身に溢るる〝忠節〟を捧げ、身を焦がす〝希望〟を託すのじゃ。奮い立つ〝狼〟を栄えある〝未来〟へ導く〝覇道〟にして、天に愛されし〝王器〟を超えし〝王器〟……」
全身から〝王族〟の威厳を迸らせ、
「我らが〝王〟の、無限大なる〝天器〟へ……!!」
聳える〝王族〟に怯える〝野良犬〟は後ずさる……が、必死に己を奮起させ、
「ざ…戯言を! ふしだらな〝狂犬〟が〝暴君〟に手駒として飼い慣らされたのでござりまするか!!」
「汝が連れ合いや子を手駒としたがごとくか?」
〝炎の鬼〟が硬直する……と、尊大な〝王族〟は優雅な〝お姫様〟の笑みを輝かせ、
「駒であろうと、我らは一片の悔いも残さぬのじゃ。忠節を、情愛を、全身全霊を〝王〟に捧ぐことこそ、我らが本懐であるが故」
「……所詮は阿諛追従の手駒……否! 使い捨てられるが運命の〝消耗品〟にござりまする!!」
眩しく笑む《《恋する》》〝お姫様〟に、〝鬼〟はどこか自身を憐れむように全身の炎を激しく燃やし、
「分からぬのでござりまするか!? 〝王〟のためなる思いに……邪なる煩悩に付け入られ利用されていると!!」
「〝身のほど知らず〟が不相応な野心に付け入られ、姉に利用されたがごとくか?」
再び〝鬼〟が硬直する……一方、〝お姫様〟は優雅な笑みに喜悦を混ぜ、
「〝王〟が我らを利用せんとするならば、我らも〝王〟を利用すれば良いのじゃ」
絶句する〝鬼〟へ、陶酔しつつも清々しく、
「他ならぬ〝王〟より言質は……存分に己を利用せよとの言質は取っておるなれば、何も憚ることは無いのじゃ。そして──」
『利用しているんじゃなくて信じているんだよ』との〝王〟の言葉を反芻しつつ、
「それこそは〝王〟と我らを繋ぐる絆……〝信頼〟であるのじゃ!!」
深い絆と……〝愛〟を誇るような〝お姫様〟の笑顔に〝鬼〟の時間が静止する……が、
「……〝狂犬〟めがあ!!」
己の理解を超える存在に苛立つように、
「ふしだらな〝悲願〟のために主を利用するなど不忠の極み! 主を謀るあなた方こそ背信に溺れし〝狂犬〟にござりまする!!」
「それにて互いの〝悲願〟が叶うならば、些かの遺恨も残るまいて」
〝王〟と己らの〝信頼〟に胸を張りつつ、
「とは申せ、我らが〝王〟に我らが〝悲願〟は未だ伏せておるのじゃが、それとて背信には当たらぬのじゃ」
優雅な笑みを喜悦と覚悟に輝かせ、
「我らは〝クズ参謀〟がごとき君側の奸に非ず。我らが〝悲願〟を叶うるは普く〝王〟のための働きであるが故にのう。そして──」
「労働者ノ・権利……イコール……適正ナ・報酬………」
「いっぱい~ごほうびをもらうのれすよ~♪」
他の少女も笑みを輝かせると、〝お姫様〟は優雅な笑みに愉悦を混ぜ、
「左様、〝王〟より相応なる対価を頂戴するのじゃ。駒であろうと女子であろうと、〝手入れ〟をするが〝王〟の務めであるが故にのう」
少女《《たち》》の笑みに歳にそぐわぬ色気が滲み、
「駒も女子も、〝手入れ〟を重ねるほどに〝艶〟を増すものなのじゃ」
「女ノ・〝手入レ〟……イコール……はーれむ王ノ・義務………」
「いっぱい~かわいがってもらうのれすよ~♪」
〝女〟たちの姦しいハーレム宣言に〝炎の鬼〟は呆然となる……が、
「……この、魔女どもが……!」
己が悲願を矮小にする〝器〟に戸惑うように、
「やはり……姉上と同じにござりまする……!」
己が生涯を卑小にする〝大器〟に畏怖するように、
「姉上と同じ……〝奪う者〟にござりまする……!」
〝炎の鬼〟が炎の目で少女たちを睨みつけ、
「弱き者には……〝《《奪われる》》者〟には……分かっていながら、〝毒〟を喰らわねばならぬ時があるのでござりまする……!」
苦悶するような声と炎を洩らしつつ、
「世の無法に押し潰されし時……強き者の非道に捩じ伏せられし時……そして……世と強き者に抗うべく、命を懸けて〝力〟を求める時……!!」
刀のような一本角から断末魔のごとき炎を噴き出した……
「ふむ……我らが〝王〟も申しておったのう」
だが〝王族〟は泰然として、
「世の秩序は強き者に更新されるが常であり、人は秩序を〝更新する者〟と〝更新される者〟に分かたれると」
「……そして、〝奪われる者〟や〝更新される者〟を没落させるのでござりまするか」
苦悩しつつも必死に抗うような声で、
「〝里〟が政府の無法にて凋落させられたように、身共や息子が姉やあなた方の非道にて零落させられたように……!」
葛藤しつつも必死に足掻くような声で、
「なれば、あなた方が……力の亡者どもが〝世界征服〟を成したなれば、世は〝弱肉強食〟に狂う奈落に沈むのでござりまする……!!」
「なれば、今の世は〝弱肉強食〟に非ずと申すか? 否であるのじゃ」
泰然とした声で粛々《しゅくしゅく》と、
「〝弱肉強食〟は暴力のみにて成されるに非ず。太平の世であろうと権力や財力が身分を生じさせ、自ずと世は〝弱肉強食〟と成るのじゃ。汝とて己の〝悲願〟のために、己に劣る〝里〟の民を切り捨てんとしたのじゃろうて」
ビクッと震える〝鬼〟へ冷厳な重圧を醸しつつ、
「そして申したであろう。〝弱肉強食〟こそは世を栄えさせる鉄則であると。身分の上下があるが故、下におる者は這い上がらんと精進を重ね、それが国が栄えさせる〝力〟となるのじゃ」
燃え盛る大地をも凍えさせるように、
「それこそは生まれながらに人が持つ、他者に長じ己を至高へ押し上げんとする〝性〟と〝欲〟……〝弱肉強食〟の成せる業に他ならぬ」
専制国家の冷徹な〝王族〟に〝奪われる者〟は圧倒される……が、
「そ…それは、強き者の理屈にござりまする……全ての者が、強くは生きられぬのでござりまするよ……!」
迷いつつも諦めきれぬような声で必死に、
「身共が、姉上の身代わりに甘んじるを強いられたように……我が子が、津流城の後塵を拝するを余儀なくされたように……強き者の風下に立つを、只々《ただただ》堪え忍ばざるを得ぬ者もいるのでござりまする……!!」
「左様な輩は、これまでも周囲に流され、周囲に申し渡されるままに過ごしておったのじゃろう。ならば『滅びよ』と申し渡されし折も、そのままに滅ぶる他あるまいて」
「……それは、長らく姉に操られ、今まさに滅びんとしている身共のことにござりまするか……?」
燃え盛る大地の中心で100メートルの巨体が震えつつ、
「姉が〝狂言〟に興じていた最中……薄々《うすうす》それに気づきながらも、身共はまたと無い好機であると浮き足立っていたのでござりまする……」
巨体と声を《《無念》》に震わせ、
「顧みれば、左様な思いも姉の思惑の内だったのでござりまするな……」
無念は底なしの絶望に転じ……
「そして……姉の思うままに身共は狂奔し……〝里〟を奈落へ追いやったのでござりまする……」
大地の炎と炎の竜巻が儚げに燃え尽きる……と、今や湖以外、人も植物も建物も無い寂寥とした荒野が現れ……
「これが、身共の……〝身のほど知らず〟の〝悲願〟の果てにござりまするか……」
その身の炎も儚げな〝鬼〟が、虚しく煙が燻るのみの荒野を見回す………
「なれば!」
だが一転、〝鬼〟は爆発するように全身の炎を燃え上がらせ、
「潰えし〝里〟へのせめてもの供養! 邪な魔女を黄泉国への道連れにしてくれるのでござりまする!!」
荒野にもかつて無く激しい炎が再び燃え盛り、
「〝身のほど知らず〟の最後の意地を見せてやるのでござりまする!! この身に燃える全ての命を懸けて! この身に残る全ての力をぶつけて!」
蝋燭の最後の瞬きのごとき大地を覆う炎は無数の炎の竜巻となり──
「ならば……我が力で滅せよ力の亡者どもおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
無数の炎の竜巻が荒ぶる竜のごとく少女たちを襲う!!
「無謀と知りつつ、あえて醜態を晒すか……」
だが〝王族〟は異形の四足獣の背で微動だにせず、
「その意気や良し!!」
尊大に笑んで威厳あふれる咆哮を大地に轟かせた──刹那、
「亡者になって冥界にいっても~魂は永遠なのれすよ~♪」
無数の炎の竜巻は夥しい砂に変わり〝炎の鬼〟の巨体を包み、
「それれ~〝王〟に永遠にかわいがってもらうのれすよ~♪」
〝鬼〟を包んだ砂が大爆発、広大な地下空洞を激しく揺らす。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
絶叫混じりの爆炎は強烈な爆風で大地を覆う炎を消し飛ばし、
「冥界名物~火の湖なのれすよ~♪」
再び露呈した寂寥とした荒野で、大量の人骨で『砂』を表す古代文字を作っていた少女が優しく笑む。
「トロニック人の砂のチカラを~ジョクタウのチカラれコピーしたのれすよ~♪」
その手に砂色のカードを持つ少女は、南米で〝砂漠の業火〟の使者が使っていた爆発性の砂をくすねていたのだ。
「れも~まだまだ弱っちいのれすよ~」
溜め息する少女が古代文字を眼鏡蛇の骨格に戻し、荒野の中心へ目をやる……と、煤けた真鍮色をした人間の〝骨格標本〟のごとき、身の丈100メートルを超える機械の巨人がヒザをついていた……そして、
「如何にも……我らも未だ弱き身であるなれば、〝悲願〟のため……命を懸けて強き者に抗うため、分かっていながら〝毒〟を喰らわねばならぬのじゃ」
刀のような一本角を生やす〝骨格標本〟へ、同じく一本角を生やす少女も目を向けつつわずかに眉をひそめ、
「口惜しくはあるが、我らの幸に〝王〟は欠かせねども、〝王〟の幸に我らが欠かせぬとは断じられぬが故にのう」
「有象無象ノ・想イ……イコール……届カヌ・想イ………」
「せつない片思いなのれすよ~」
少女たちは仄かな陰を顔に落とし、
「至高の〝王〟に並び立ち、至福を〝王〟にもたらす者……それは至上の〝女王〟のみであるのじゃ」
「有象無象ノ・女子……イコール……一生・敵ワナイ………」
「最高れ最強れ最愛のおねえちゃんなのれすよ~」
少女たちの脳裏に、想い人の隣に立つ白金色の髪の少女が浮かぶ。
「なれば我らも〝悲願〟のため、〝毒〟を喰らい醜態を晒すのじゃ。〝女王〟に抗うべく大奥、後宮、はたまたハーレム……すなわち、我らが想いを〝王〟に捧ぐ女の園を命を懸けて創るのじゃ!!」
「悲願ヤ・幸福……ノット・イコール……他人カラ・与エラレルモノ………」
「自分のチカラれ~勝ちとるのれすよ~♪」
少女たちのいじらしい愛情表現に、打ちのめされたように大地にヒザをついている〝骨格標本〟は天地が逆転したように息をのみ……
「あなた方も……弱き者……奪われる者であったと………」
だが、すぐに我に返り、
「きょ…狂犬が痴れ言を!!」
折れそうな信念を必死に支えるように気炎を吐き、
「〝王〟のためと唱えながら〝王〟に伏せて大奥や後宮を作ろうなど……そのために弱き者を滅ぼすなど……狂気の自己満足にござりまする!!」
「凡俗が俗世の常識に囚われておるのう」
常識を乗り越えるように〝少女〟は決然と、
「元より『他者のため』なる思いなぞ、己の自己満足に過ぎぬ。どれほどに『他者のため』と唱えようと、それは『他者のため』なる〝己の思い〟に他ならぬ」
〝淑女〟が荘重な面持ちで、
「なれば『他者のため』に事を成し歓喜を得ようと、それは『他者のため』なる〝己の思い〟を成し遂げし自己満足に過ぎぬ。〝王〟に捧ぐ我らが忠節や情愛とて、我らの自己満足に他ならぬ。それを狂気と申すならば、好きにするが良いのじゃ」
〝魔女〟が静かに狂乱するように、
「元より〝王〟に想いを捧ぐならば、そのため〝女王〟に抗うならば、正気のままで済むとは考えておらぬのじゃ。なれば我らは想いのため喜んで狂い、〝悲願〟のため迷わず命を懸けてくれるのじゃ。何より――」
〝王女〟が厳かに裁定するように、
「命も懸けられぬものに、大した価値なぞ無いのじゃ」
〝王女〟の覚悟に、〝骨格標本〟が巨体を震わせて慄く……が、
「み…身共も〝悲願〟を叶えるため命を懸けていたのでござりまする!」
「命を懸け〝他者により敷かれし道〟を進みし果てが、今の汝であろうて」
己に言い聞かせるような金切声に〝王女〟は淡々と、
「さりとて、その道に悔いが無いのであらば命を懸けて進み続けるが良いのじゃ。〝弱肉強食〟こそは世の鉄則なれば、我らを凌ぐ〝力〟があるならば〝未来〟を、〝繁栄〟を掴むるは汝となるじゃろうて」
強張る〝骨格標本〟へ滔々《とうとう》と、
「無論、我らが道を……〝覇道〟を阻む者は討ち滅ぼすのみじゃが」
「お…愚かな痴情で世を滅ぼす狂犬が!!」
尊大な〝王女〟の静かながらも揺るがぬ声に、どこか迷子が泣きじゃくるように〝骨格標本〟は叫び、
「己も弱いなどと申しながら……結局は弱き者の屈辱や奪われる者の無念など分からぬのでござりまするか!!」
「……否であるのじゃ」
〝王女〟が不意に声を重くして、
「捻じ伏せられし屈辱、押し潰されし無念、骨の髄まで沁みておるのじゃ……故国を滅ぼされし折にのう」
絶句する〝骨格標本〟へ厳めしい視線を向け、
「なれど……省みれば、あれこそは罪業に塗れし弱き者への罰……すなわち、長き〝平穏〟にて国を貶めし〝犬〟への報いであり、〝弱肉強食〟の因果たる災厄であったのじゃ」
深い悔恨に満ちた声で、
「世の常として〝平穏〟は〝怠惰〟へと堕落し、やがて〝慢心〟へと腐り果て国を滅ぼすのじゃ」
世の無情を噛みしめるように、
「カルージャンとやらも然り。〝慢心〟の末にドミネイドなる災厄を引き寄せ、無様に滅ぶるに至りおったのじゃ」
胸の澱みを吐き出すがごとく、
「この星も今のままに進むなれば、同じ末路を辿るじゃろうて……尤も、滅ぶるは〝怠惰〟と〝慢心〟に呆けし盆暗のみであるが」
達観したような静謐な声で、
「それこそは我がシーカイ王朝の幕切れと同じく、〝弱肉強食〟なる世の定めを忘れし者の……弱き者の必定であるのじゃ」
《《亡国の》》〝王女〟の超然とした佇まいに、〝骨格標本〟が心臓を鷲掴まれたように立ち竦む……が、それでも未練を断ちきれぬように、
「……な…なれば……故郷を滅ぼされた怨みを……屈辱を……無念を……忘れるので、ござりまするか……?」
寂寥とした荒野の中心で、今にも消えそうな蝋燭のように弱々しく、迷いと疑惑に震える声をしぼり出す……対して、
「……〝弱肉強食〟と共に、〝栄枯盛衰〟もまた世の定めであるのじゃ」
〝王女〟は顔から感情を消し、異形の四足獣の背から〝蝋燭〟を真っ直ぐ見つめ、
「現世に於いて一つの繁栄は一つの滅亡の始まりであり、一つの滅亡は一つの繁栄の始まりであるのじゃ。決して永遠と成り得ぬ繁栄と滅亡が、永遠に入れ替わり続けるが〝栄枯盛衰〟なれば──」
燕尾服に包まれる身をかすかに震わせ、
「一時の繁栄を永遠のものと誤り、傲り果てし末に我が故国が潰えしは〝弱肉強食〟に於いても〝栄枯盛衰〟に於いても、現世の定めの端くれに過ぎなかったのじゃ。ならば怨み言を吐くは、天を愚弄するがごとき愚挙じゃろうて。増してや──」
ヒザに届く黒髪をわずかに揺らし、
「先刻も申した通り、〝王族〟こそは国にて最も命を奪いし一族……すなわち、わらわもまた〝弱肉強食〟の権化であるのじゃ。何より──」
頭頂の一本角をほのかに光らせ、
「如何に屈辱や無念に塗れし災厄であろうと、全ては崩れ去った〝過去〟であるなれば──」
無表情な瓜実顔をこころなしか綻ばせ、
「これより〝未来〟を築くべく〝覇道〟を……艱難辛苦に満ちた道程を踏み越えてゆく我らには、〝過去〟を振り返る暇なぞ無いのじゃ」
覚悟を決めた貴い微笑で語った……一方、
「は…繁栄と滅亡が繰り返されるならば……これより築く、あなた方の〝未来〟も滅びるが必定にござりまする……」
己の〝未来〟に迷うように、
「左様な末路が分かっていて……それでも、醜態を晒してまで……数多の、弱き者を屠ってまで……〝未来〟を、求めるのでござりまするか……?」
「申すに及ばず」
一転、〝王族〟は古風な美貌を冷徹に引き締め、
「我らが苦難の果てに築きし〝未来〟も、いずれは必ずや滅ぶるであろう。無に帰するであろう……弱き者の……わらわの罪業により、我が故国が潰えしと同じくのう」
深い自戒を籠めつつ、
「かつて過去の誉れに囚われ……〝慢心〟に溺れ腐り果てしは、故国のみに非ず……わらわもまた、〝怠惰〟に浸り廃れ果てておったのじゃ……なれど、国が……己が寂れゆくを薄々《うすうす》気づきながらも……わらわは、目を逸らしておったのじゃ」
声が自責に震えるのを堪えつつ、
「全ては過去の繁栄に傲り、精進を怠りし結果であったのじゃ……その末に、叛臣の背信にて国が滅びしこと……その憂き目に、魂を焼かれしこと……それこそは腐りし故国と、廃りしわらわを……〝弱き者〟を誅する、因果応報であったのじゃ」
過ちは繰り返さぬと誓いつつ、
「すなわち全てを滅ぼす火種こそは、己を矮小なる〝過去〟に押し込めし〝弱き者〟……遠大なる〝未来〟に踏み出すを恐れし、〝臆病者〟であるのじゃ」
忌々《いまいま》しきは脅威を跳ねのけられず滅び去った己が非力と知れ……南米でのオブシディアスの言葉を反芻しつつ、
「左様な無智こそは己が無力を知りながら精進を忌避し、〝慢心〟なる毒を以て世を蝕み、〝怠惰〟なる刃を以て世の〝力〟を削いでゆくのじゃ……それが国を滅ぼし、己が〝未来〟を閉ざす愚行であるとも気づかずにのう」
「己ノ無力ヲ・放置……イコール……己ノ未来ヲ・放棄………」
「未来も~自分のチカラれ勝ちとるのれすよ~♪」
〝未来〟に邁進する少女たちの勢いに〝骨格標本〟は呑み込まれ、
「ゆ…故に……世を蝕む、〝臆病者〟を……〝未来〟を閉ざす、〝野良犬〟を……〝狼〟となって、滅ぼすと………」
「さりとて我らが築きし〝未来〟とて、いずれ滅ぶるのじゃ……なれど」
弱々しい〝野良犬〟のような声に、凛々《りり》しい〝狼〟のごとき声で、
「わらわには、囚われし〝過去〟のみならず――」
それは〝想い人〟の優しい言葉。
「輝かしき〝未来〟があるのじゃ」
それは己《《以外》》の女子への言葉。
「なれば滅ぶるが故にこそ──」
しかし胸の奥を熱く焦がし、
「我らは悔いを残さぬため、決して振り返らず、断じて歩を止めず、命を懸けて〝未来〟を掴み、〝悲願〟を叶えるのじゃ」
「一丸トスル・我ラノ命……イコール……想イヲ届ケル・最後ノ武器………」
「命をかけた〝愛〟の告白なのれすよ~♪」
熱い〝想い〟に滾る、〝狼〟たちの勇ましい決意表明。
「……あなた方も……必死に、〝未来〟を掴もうと………」
対して自失する〝野良犬〟……だったが、それでも惑いを拭いきれぬように、
「省みて……身共は〝過去〟に……姉への雪辱に囚われし、〝臆病者〟であったと……故に……姉や、あなた方と違い……〝未来〟を、掴めなかったと………」
「〝過去〟に引き籠りし妹と、〝未来〟に踏み出せし姉の違いじゃのう」
有り得たかも知れない己を語るような〝王女〟に、〝骨格標本〟は虚な目を向け、
「全ては……〝欲〟が、足りなかったために………」
「〝欲〟のみに非ず」
絶望に沈む亡者を掬い上げるような、どこか慈愛の滲む声で、
「今一つ、汝に欠けておったものこそは……〝愛〟であるのじゃ」
それは、〝巫女〟が託宣を降ろすがごとく厳かに、
「わらわも汝の姉も、〝未来〟へ進まんとした因こそは〝愛〟であったのじゃ」
〝聖女〟のごとき尊い微笑で、
「〝愛〟に導かれてこそ、人は輝かしき〝未来〟へと、麗しき〝絶頂〟へと至れるのじゃ。然らば何を隠すこともあらんや、〝愛〟こそは現世の真理たる〝弱肉強食〟と〝栄枯盛衰〟を超えし──」
〝女神〟のごとき静謐な無我の境地で、
「三千世界を統べる、〝神理〟であるのじゃ」
〝神威〟のごとき重圧が広大な荒野を震わせる。
「……全ては……〝愛〟のためだと………」
震える荒野の中心で、刀のような一本角を生やす〝骨格標本〟は忘我となり……
「〝愛〟のために生き……〝愛〟のために醜態を晒し……〝愛〟のために、殺すと………」
〝神威〟に打たれたように、あるいは闇の中に光を見つけたように呟く……対して、
「如何にも。そして〝愛〟を貫くために欠かせぬものこそは、あらゆる困難を排し、揺るがぬ志を支える〝力〟であるなれば――」
〝女神〟が世の〝理〟を説くがごとく、
「我らはあらん限りの〝力〟を以て、〝愛〟の溢るる世を現世に築くのじゃ」
「我ラガ統ベル・世界ノ秩序……イコール……強イ〝力〟ト・〝愛〟ノ秩序………」
「それが~わたしたちの〝世界征服〟なのれすよ~♪」
「……〝真理〟と〝神理〟を以て……新たな世を、築くと………」
意外な言葉に……姦しくも誇らしい宣言に声を掠れさせる〝骨格標本〟に周りの少女たちは頷き、
「それこそが我らの〝悲願〟であるのじゃ。なれば──」
異形の四足獣、眼鏡蛇の骨格、電撃をまとう少女が〝骨格標本〟を囲む輪を縮めていく中、
「〝悲願〟のため我らは、今こそ此度の件における最後の務めを果たすのじゃ。そして──」
少女たちが精悍に顔を引きしめ、
「汝にも、現世における最後の務めを果たしてもらうのじゃ」
3つの華奢な身から重厚な重圧が立ち昇る……一方、
「……身共も、あなた方の〝悲願〟の贄にするのでござりまするか……此度の件で落命した、多くの者たちと同様に……なれど」
荒野にヒザをつく〝骨格標本〟が、どこか覚悟を決めたような声で、
「左様な暴虐の末に叶えた〝悲願〟は、真に尊いものなのでござりまするか? 何にも代え難い〝悲願〟を……何よりも尊く、守るべき〝想い〟を穢すやも知れぬのに……それでも、無慈悲な暴挙に手を染めるのでござりまするか?」
どこか覚悟を問い質すように少女たちへ言い放つ……対して、
「〝無慈悲〟に非ず。全ては〝優しさ〟の成せる業であるのじゃ」
ハクハトウは冷厳な笑みを浮かべ、
「〝優しさ〟こそは、何かを〝守る〟ことを盟いし思いなのじゃ。とりわけ優しさを注ぐが代え難きものであるならば、それを守らんと一際強く人は思い……対価として、他の全てを切り捨てる〝覚悟〟を抱くのじゃ」
冷厳な笑みが冷徹な笑みとなり、
「すなわち、人は優しくなるほどに残酷となり、それを極めし者こそが誇り高き〝王族〟へと、偉大なる〝王〟へと生い立つのじゃ。しかして、そのために欠かせぬものこそが〝覚悟〟であるなれば―─」
冷徹な〝王女〟が威厳あふれる重圧を迸らせ、
「対価を払う〝覚悟〟無き〝弱き者〟には! 血を浴びる〝覚悟〟無き〝臆病者〟には! 命を懸ける〝覚悟〟無き〝敗北者〟には〝王族〟の! 〝王〟の! 〝支配者〟の栄冠は掴めぬのじゃ!!」
〝覚悟〟の漲る咆哮を寂寥とした荒野に響き渡らせた……
「……やはり、狂気の自己満足にござりまする」
一方、巨大な〝骨格標本〟は俯いて声をもらし、
「我が姉同様、狂気の〝力〟と〝愛〟に溺れた〝人間の姿をした悪魔〟なのでござりまする……なれど」
どこか最後の確認をするように、
「あなた方は、代え難いものを……己が心より欲するものを独占する女が、憎くはないのでござりまするか? 心より欲するものが、決して手に入らぬものと知り……絶望したことは、無いのでござりまするか……?」
「独占するも独占されるも、個々の自由であるのじゃ」
〝少女〟はさっぱりした顔で、
「〝王〟と〝女王〟が互いを独占し合い、独占され合うも、自由なる心のままに……心の赴くままに振る舞いし末の形であるのじゃ」
「……心の、赴くまま……自由に………」
〝骨格標本〟が深く考え込むように呟くと、〝少女〟はかすかな苦笑を顔に混ぜ、
「さりとて、我らに毛ほどの妬心も無いと申さば嘘となるのう……なれど、それらが憎しみや絶望へ堕するは決して無いのじゃ。何故ならば――」
崇高な崇拝で笑みを満たし、
「我らの妬心は〝王〟への〝想い〟のみならず、〝王〟への〝憧憬〟の一面……すなわち、我らの魂を至高へ導きし〝道標〟であり──」
笑みを誇らしげに輝かせ、
「それこそは〝王〟と我らを繋ぐる、崇高なる〝絆〟の一翼であるのじゃ!!」
〝骨格標本〟が再び天地が逆転したように息をのむ………そして、
「ならば……身共も………」
我知らず呟きつつ脳裏に浮かぶのは、幼き日の姉の背中。
たおやかさと賢さで周りの称賛を集める、自慢すべき〝もう一人の自分〟。
同じ日に生まれ、共に過ごす中でずっと追いかけていた〝憧憬〟の象徴。
「なれど……身共は………」
〝憧憬〟に近づきたくて〝見栄っ張り〟になったのは、いつからだったか。
〝見栄っ張り〟が〝憧憬〟を濁らせたのは、いつだったか。
「なれば……身共は………」
〝憧憬〟が〝嫉妬〟や〝憎しみ〟や〝絶望〟の象徴になったのは、いつだったか。
〝もう一人の自分〟を忌まわしき〝奪う者〟にしたのは、いつだったか……否、
「……忌まわしきは、身共も同じにござりまするか………」
濁った〝憧憬〟の残骸のごとき、見渡す限りの寂寥とした荒野を眺めつつ、
「今、わかったのでござりまする……身共が真に欲していたものは……代え難い〝悲願〟は……輝かしい〝未来〟を……ささやかな〝幸せ〟を……〝里〟で紡ぐことだったのでござりまする……姉上と、共に………」
濁った〝憧憬〟の成れの果てを……〝嫉妬〟や〝憎しみ〟や〝絶望〟を忌むように、
「なれど、身共は……〝幸せ〟への〝道標〟を、自ら捨て……〝里〟の〝未来〟を〝奪う者〟に……〝人間の姿をした悪魔〟に成り果てたのでござりまする……姉上と、同じに……」
愚かな己を忌むように、
「姉上と……もう一人の己と……未来を……幸せを……奪い合うために………」
「まさに〝蠱毒〟、壺の中で喰らい合う蟲のごときじゃのう」
「……魔女どもが……!」
粛々《しゅくしゅく》と語る少女を睨みつつ、〝骨格標本〟は再び覚悟を問い質すように、
「あなた方は、どうなのでござりまするか? 如何に〝女王〟に抗うべく結束しようと、所詮烏合の衆なのは明白。ならば必ずや足並みを乱し、互いに喰らい合うのでござりまする……〝蠱毒〟のごとく……!」
「既に〝親睦会〟にて日々殺し合っておるのじゃ……なれど」
気迫の籠った声を泰然と受け止め、
「真剣勝負の中でこそ、人は互いの技や力、そして魂を解し合えるのじゃ」
全てを受け入れるように悠然と、
「なれば、あれらの修羅場は紛れも無く〝親睦〟の場であると共に──」
躊躇うこと無く毅然として、
「〝王〟に忠節を尽くすため技や力を鍛え、結束を高めるべく魂を研ぎ澄ませてゆく〝儀式〟であるのじゃ。左様……」
厳然とした威厳を総身に溢れさせ、
「家臣として〝覇道〟を成し、女子として〝悲願〟を叶え、新たな世の〝王族〟として新たな世の〝責務〟を……否、〝天命〟を果たさんがため、己を磨き上げる〝儀式〟であるのじゃ」
超然とした信念に満ちた宣言を放った。
「新たな世の……天命………」
暗闇を祓うような威厳と信念に〝骨格標本〟が身震いすると、〝王族〟は貴い笑みを湛え深く頷き、
「しかして……〝王族〟の〝天命〟こそは、跡取りを儲けることであるのじゃ♪」
「天命……イコール……天カラ・授カル命……イコール……愛ノ・結晶………」
「〝王〟のかわいい赤ちゃんを~いっぱい産んじゃうのれすよ~♪」
「……痴女どもが……!!」
溢れんばかりの悦びと、子作りの本能に目覚めたような〝女〟たちの宣言に煤けた真鍮色の〝骨格標本〟は肩を震わせる……が、
「……それが、あなた方の〝自由〟……〝覚悟〟なのでござりまするか………」
大地にヒザをついたまま、急に肩を落とし、
「あなた方にすれば、身共など傀儡のごとき駒の一つ……〝柵〟に縛られた、些末な〝消耗品〟に過ぎなかったのでござりまするな……」
悔恨の漂うか細い声で、
「事実、身共は故郷の因習や他人の思惑に……姉上やあなた方の絵図に縛られ、惨めに翻弄されていたのでござりまする……」
大きな湖の畔でわずかに顔を上げ、
「己が〝悲願〟のためと、〝里〟を贄にせんとしたことすら……姉上やあなた方を、手助けするに過ぎなかったのでござりまする……」
湖を中心に据える広大な荒野を見渡しつつ、
「その果てが……故郷も……家族も……悲願すらも残っていない、この惨状なのでござりまする……」
焼け焦げた大地が広がるのみの故郷を見渡しつつ、
「否……傀儡であったと申せど……身共の悲願も、惨状を招いた一因だったのでござりまするか………」
か細い声が、寂寥とした荒野が広がる空虚な地下空洞の空気に薄れるように消えていき……
「そして、今……身共の命も、潰えるのでござりまするか……あなた方の、悲願のために………」
虚な声が、現世を離れ幽世に吸い込まれるように消えていく………
「なれど!」
だが一転、〝骨格標本〟は大きく肩を怒らせ、
「見見あなた方の〝自由〟にはさせぬのでござりまする!!」
ヒザをついていた機体が敢然と立ち上がり、
「姉上やあなた方に……〝他者に敷かれた道〟であろうと身共も〝悲願〟に懸命だったのでござりますれば──」
100メートルを超える巨体が気魄を迸らせ、
「せめて最期は姉上やあなた方と同じく……〝自由〟に振る舞ってやるのでござりまする!!」
少女たちの〝覚悟〟を見届け満足したような咆哮を、どこか露悪的な響きを混ぜつつ轟かせる……と、肋骨のような胸の前に紫に輝く欠片が浮かび、
「姉上に感謝するのは、いつ以来にござりまするか……」
欠片が木端微塵に砕け、粉のような大量の破片がキラキラと輝きつつ荒野に広がっていき、
「不幸にして道を違えた我ら姉妹なれど、今ならば姉上の〝愛〟を感じるのでござりまする……なれば!」
破片を浴びた広大な荒野に紫の炎が燃え上がり、
「姉上よりの最後の餞! ありがたく使ってやるのでござりまする!!」
露悪的な大音声に喜悦を滲ませつつ、
「申していたのでござりまするね! あなた方も〝弱き者〟であり〝奪われる者〟であると!!」
脳裏に浮かぶは幼き日の〝憧憬〟。
「故に〝悲願〟のため毒を喰らい醜態を晒すと!!」
たおやかさと賢さと確たる信念に輝く〝もう一人の自分〟。
「ならば身共も晒してやるのでござりまする!! 〝弱き者〟の、〝臆病者〟の、〝敗北者〟の醜態を……否!」
そして〝憧憬〟を追いかけていた無邪気な〝記憶〟。
「〝見栄っ張り〟の最後の〝見栄〟を見せてやるのでござりまする!!」
いつしか積もるは忌まわしき〝記憶〟のみとなったが、
「この身に残る全ての命を懸けて! この身に滾る全ての〝愛〟を燃やして!!」
忌まわしかった〝記憶〟も今は愛しく感じつつ、
「しからば〝愛〟のために晒し! 〝愛〟のために死に! 〝愛〟のために殺してやるのでござりますれば──」
〝愛〟の宣誓と共に刀のような一本角から紫の炎を噴き上げ、
「我が〝愛〟で……滅せよ〝愛〟の亡者どもおおおおおおおおおおおおおおお!!」
〝骨格標本〟が炎に覆われ〝紫の炎の鬼〟となり、大地を覆う紫の炎からも蛇に似た無数の〝炎の竜の首〟が生え出した……!!
「今際の際に、漸く〝柵〟より解かれおったか」
だが異形の四足獣の背に立つ少女は泰然と、
「ならば申した通り、最後の〝火遊び〟に付き合うてやるなれば──」
燃え盛る大地で汗ひとつ無く、
「我らも〝愛〟に励み、〝愛〟に尽くし、〝愛〟に生きるべく──」
総身に〝愛〟を漲らせ、
「〝優しさ〟を以て汝を現世より解き放ってくれるのじゃ!! 〝希望〟を託す〝天器〟に懸けて! 〝愛〟を捧ぐ〝神理〟に誓いて!!」
〝愛〟と〝情熱〟の宣誓と共に、〝炎の鬼〟を囲む3人の少女が荘重な重圧を立ち昇らせる。
「〝愛〟ならば後れは取らぬのでござりまする!!」
しかし〝炎の鬼〟は怯まず角を《《赤く》》輝かせると、
「身共とて同じ日に生を受け、同じ血肉を授かり、同じ魂を分かち合った〝巫女〟の片割れなれば──」
大地に蔓延る〝炎の竜の首〟が〝炎の鬼〟を包み、巨大な紫の火球となり、
「〝幽体離脱〟は能わずとも我が魂を贄として──」
巨大な火球は逞しい6本の脚を生やし、長い首と尾を伸ばし、
「姉上よりの〝愛〟たる餞を……〝瀬織津〟の力を顕すのでござりまする!!」
鋭い角と牙を生やす恐竜のような頭から咆哮を上げる……全長200メートルを超える、紫の炎で出来た〝炎の竜〟となった。
「これも絵図の内……あるいは〝敗北者〟への情け……〝失敗した者〟の有終の美に過ぎぬのか〝クズ参謀〟──ぬうっ!?」
眉をひそめたハクハトウが目元を険しくし、〝炎の竜〟の吐いた炎を避けるべく己が乗る異形の四足獣を跳び退かせた。
「如何したのでござりまするか〝封印災害指定〟ども!! 『無謀と知りつつの醜態』に抗えぬのでござりまするか!?」
片や〝炎の竜〟は全身から大量の火炎弾を放ち、大地を覆う紫の炎を一層激しく燃え盛らせる。
「ええい、厄介な真似を……!」
焦熱地獄と化した地下空洞で少女たちは火炎弾の雨を避けつつ〝炎の竜〟へ攻撃するが、表面の炎に阻まれ中の〝骨格標本〟まで届かない。
「所詮は小童! この程度にござりまするか!!」
一方〝炎の竜〟は挑発的に叫びつつ上空へ無数の火炎弾を放ち、
「あなた方の〝愛〟も底が知れるのでござりまする!!」
無数の火炎弾は地下空洞の天井近くで1つとなり、凝縮されるように輝きを増していき……太陽のごとく眩しい、直径400メートルを超える巨大な火球となる。
「ならば……身共と共に黄泉国へ落ちるが良いのでござりまする!!」
〝炎の竜〟が露悪的に叫びつつ、《《己もろとも》》全てを消滅させるように火球を大地へ落下させる!!
「一ツノ・太陽ノ火……イコール……過去カラ・託サレル希望………」
だがヒザを抱えて空に浮くシユーニャが赤銅色の髪から夥しい火花を放ち、
「一万ノ・太陽ノ火……イコール……未来ヘ・捧ゲル愛………」
一つの大きな太陽のような火球を、一万の小さな太陽のような火花が包む……と、火花はみるみる白熱化していき、ついにはプラズマ化して巨大な火球を大地に落ちる前に消滅させてしまった。
「……!」
〝炎の竜〟が息をのみつつ、どこか満足するような気配を醸す……直後、
「わたしたちは~ちゃ~んと未来をつくるのれすよ~♪」
眼鏡蛇の骨格の頭に立つパトラが、12本の三つ編みの先のリビアングラスを光らせる──と、多数の人骨で出来た骨格の頭部が人間の女の頭に組み変わり、この世のものとも思えぬ叫びを上げ、
「らから~安心して眠ってほしいのれすよ~♪」
湖の周りの大地が盛り上がり、湖の畔にいた〝炎の竜〟を捕えると蓋をするように湖を覆い、湖の上に聳え立つ山を形成した……途端、
「なにいっ!?」
下半身を山の頂上に捕われる〝炎の竜〟が、その身の炎を山に吸い取られるように失い〝骨格標本〟に戻ってしまう。
「……ならば、過去よりの〝柵〟に囚われていた者よ」
そして山の麓に、異形の四足獣の背に立つ少女が現れ、
「汝の〝希望〟は、我らの〝愛〟と共に未来へ捧ぐなれば──」
厳かな声と共に、左の瞳に雪の結晶のような紋章を浮かべ、
「身のほどを超え、我らが〝悲願〟の礎となるが良い……〝身のほど知らず〟よ」
頭頂の一本角を光らせつつ、異形の四足獣に強大な力を注ぎ込み、
「今こそ〝門〟を開く時であるのじゃ」
新たに召喚した翼長15メートルを超える鳥の背に立ち四足獣を離れる……と、
「竜煽大崩壊!!」
少女が号令するや異形の四足獣が咆哮し、全身の針金のような体毛を激しく振動させた――刹那、
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
強烈な衝撃波が巨大な滝のごとく降り注ぎ〝骨格標本〟と山を震わせる!!
「がああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
絶叫する〝骨格標本〟と山を襲うのは、四足獣が体毛から発生させる〝振動〟を極限まで増幅させ収束させた〝衝撃波の大瀑布〟。
「せめて、今のわらわに能うる至上の技にて送ってくれるなれば──」
衝撃波の中で、〝骨格標本〟は全身に亀裂を走らせ山も崩壊寸前となり──
「安寧の内に睡るが良いのじゃ」
少女が深い共感の滲む声を紡いだ……直後、
バリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!
〝骨格標本〟の肋骨のような胸部装甲が砕け、山も丸ごと消し飛び、満身創痍の機体が山が消えて露出した湖の上空に放り出される。
「冥界にいっても魂は永遠なのれすよ~♪」
同時にパトラが再び三つ編みのリビアングラスを光らせると、眼鏡蛇の骨格がT字の上に楕円をつけた『アンク』、または『エジプト十字』とも呼ばれる古代エジプトの紋章に組み変わり、
「魂の安息を~おいのりするのれすよ~♪」
紋章から荘厳な光条が放たれ〝骨格標本〟に命中、機体が光に包まれると全身の苦痛が薄れていく……と共に、魂が現世を離れていくように意識も薄れていく。
(これが……〝死〟にござりまするか………)
しかし、そこに恐怖は無く、傷ついた魂を癒すような安らぎに抱かれつつ、
(希望を託したからには……未来は任せるのでござりまする………)
安らぎの中で意識が消え去る──寸前、視界の隅に、湖の畔の一角に立つ白い着物を着た黒髪の少女が映った。
(火焚凪……?)
それは、己と同じく〝もう一人の自分〟と魂を分かち合った片割れ。
(あなたも〝愛〟の……〝悲願〟のために、命を懸けるのでござりまするか……)
幻のように佇む少女に、わずかな同情を覚えつつ、
(ならば……あなたにも、託すのでござりまする……)
苦悩と葛藤を瞳に湛える少女に、切に祈るように、
(眩い、希望を……幸多き……未来を…………)
そして……湖乃羽の意識が消え去った──瞬間、少女も炎となって消え去り、大地を覆う紫の炎が紅蓮の炎に変わると、
「……確かに、絵図の内であるようじゃな〝クズ参謀〟……あるいは──」
湖からも紅蓮の炎の奔流が噴き出し、
「汝の絵図であるのか……〝王〟のメイドとやらよ………」
奔流が湖の上空にある湖乃羽の亡骸を──100メートルを超える機械の〝骨格標本〟を炎で包む……と、
「さっすがボッチャマ、タイミングぴったりでやがるのです♪」
地下空洞の端の天井近くで、右目に片眼鏡の少女がナマイキそうに笑み、
「アタシサマの用意した〝鍵〟を祭壇の湖に打ち込んでくれやがったのですね♪」
視線の先では、炎に包まれた〝骨格標本〟の砕けた胸の奥にある赤いビリヤードの球が輝き……激しくなった炎に、巨大な機体が一本角だけを残し焼き尽くされ、
「こっちと一緒に〝匣〟にも〝鍵〟が行きやがったのですから──」
空に残った炎は、《《赤く》》輝く刀のような一本角を上部に生やす100メートルを超える火球となり、
「〝門〟を開けて、この世に再び生まれやがるがイイのです♪」
鋭い刀のような角が、刀のように火球の表面を上から下まで斬り裂き、巨大な火球に一直線に伸びる切れ目を刻む……と、
「運命に定められた〝呼び火〟であり──」
空に浮かぶ火球の切れ目が、さながら異界へ通じる〝門〟のごとく開いていき……その奥の闇に、爛々《らんらん》と輝く双眼が灯り、
「忠勇なる〝炎の使徒〟のカケラ──」
〝門〟を奥からこじ開けるようにして生まれるのは、火球を斬り裂いた刀のような角を額の右から生やし、獰猛な肉食獣のごとき貌と細身ながらも引き締まった肉体、そして燃え盛る炎の剣を持つ……
「ハカイの刃たる〝鬼子〟よ♪」
身長150メートルを超える、紅蓮の炎のごとき〝鬼〟だった……直後、大地を覆う紅蓮の炎が爆発的に燃え盛り、
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
〝鬼〟の産声に震える地下空洞が、紅蓮の業火に焼き尽くされた………




