家族だろうとブッ●す!?
「なぜ……このようなことに………」
薄暗い通路を、舞妓のような着物を着た30代なかばの女が駆けている。
「身共は……用済みなのでござりまするか……!?」
艶めいた声を焦燥に掠れさせる、草薙弥麻杜の側室、都牟刈湖乃羽である。
「ともあれ……うっ!?」
通路の先に1つの人影が見え、足を止める湖乃羽。
「まさか……そのようなこと……」
行く手をさえぎるように佇むのは、白い水干を着た黒髪の少女。
「火焚凪……なぜ、ここに……迷って出たか〝鬼子〟め!!」
湖乃羽が少女へ強烈な水流を放つ──と、少女が炎に変じ水流と激突、炎も水流も消滅し通路が大量の水蒸気に満たされる。
「くっ……!」
咄嗟に着物の裾で顔を覆う湖乃羽。
やがて水蒸気が晴れ裾の陰から目を出すと……薄暗い《《無人》》の通路だけが見えた。
「い…今のは、一体………」
元から無人だったように静かな通路を前に、湖乃羽は茫然とつぶやく……直後、
「なっ!?」
通路の壁を破り〝異形〟の怪物が現れた。
真っ黒な体の上半身は丸々と太った人間、下半身は壁から長く伸びるヘビのようになった〝異形〟が。
「ま…また、まやかしにござりまするか──ひぃっ!?」
〝異形〟が吐いた炎に焼かれそうになり、その熱に今度の怪物は実体だと悟る。
「……おのれ!」
《《上半身が息子の姿の》》怪物へ戸惑いつつも再び強烈な水流を放ち、女は〝異形〟をしりぞけた……が、
「一体……何が……!?」
次々と通路の壁を破って続々と〝異形〟が現れ、炎を吐いて襲ってくる。
女は艶めいた美貌を苦渋に歪めつつ〝異形〟たちを水流で跳ねのけ進んでいき、やっとのことで通路を抜ける……と、
「うっ……!?」
大きな培養ポッドが無数に並ぶ、岩肌が剝き出しの広い地下空洞に出た。
そして1つ1つに〝異形〟が収められた培養ポッドの群れの奥に、ひときわ大型のポッドがあり……
「は…母上………」
「太華瑠さん!?」
ポッドの中の《《右腕が無い》》丸々と太った少年に、湖乃羽は血相を変えて駆け寄ろうとする。
「久方ぶりでございますね、湖乃羽さん」
その時、大型ポッドの影から1人の女が現れた。
夜闇のような黒髪と月のように儚げな美貌を持つ、20代前半の女だ。
その純白の和服をまとう手弱女──弥麻杜の正室である沙久夜に湖乃羽は目を見開き……
「姉上……!」
《《30代なかば》》の妹が《《20代前半》》の姉の登場に息をのむ……が、
「……やはり、〝石化の病〟は御屋形様の仕業ではなく、姉上の狂言だったのでござりまするね……!」
驚きが収まると、妹は目元を険しくして姉をにらむ。
姉は10年以上も全身が石になり、稀に頭だけが元に戻っていたはず。
だが、今の白い和服に包まれる身はどこも不自由なく動き、顔も袖から伸びる手も、白く瑞々《みずみず》しい肌を顕にしている。
「その通りなのでございますよ♪」
姉は儚げな美貌に満月のごとく風雅な笑みをほころばせ、
「〝瀬織津〟の……厳密には、その〝和魂〟にまつわる〝天岩戸〟の術式の応用だったのでございます♪」
「なぜ、そのようなことを……そのことが、どれほど御屋形様を苦しめたか……!」
正室となる女を些細な理由から石にして苦しめている……そんな陰口を〝里〟の者たちは弥麻杜に囁いていた………しかし、
「1つめの理由は、弥麻杜殿の毒牙から操を守るためでございますよ♪」
沙久夜は悪びれず笑顔で、
「都牟刈の家に〝巫女〟として生を受けただけで、好いてもいない殿方に嫁ぐと決められるなど、幼いころから嫌でたまらなかったのでございます」
「勝手なことを……!」
深々と溜め息する姉に妹は眉をつり上げ、
「その力が、どれほど貴いものか……その力があれば、身共とて……!」
「身共とて代われるならば代わって差し上げたかったのでございますよ。双子の姉妹として生を受けながら、ほんのわずか先に生まれただけで、望みもしない力を得てしまったのでございますから……」
苦悩するように頭を振る沙久夜………だったが、
「まあ、それも《《彼》》に出逢うまでの話だったのでございますけどね♪」
一転、喜悦に顔を輝かせ、
「かの〝暗黒節〟により〝里〟が暗く沈んでいた折、10代のなかばとなった身共も、間も無く嫁がなければならないのかと悲嘆に沈んでいたのでございますが……その暗闇に射した光明こそが、彼だったのでございます♪」
熱に浮かされるような口ぶりで、
「この世に生まれるや家族も一族も失い、唯一残った妹とも引き離され、不遇の時を強いられてきた幼い彼の姿に、身共は悲嘆する自分を重ねると共に……胸の奥を締め付けられるような愛おしさを覚えたのでございますよ♡」
それは、愛を説く〝巫女〟のごとき佇まいで、
「幸い彼も身共を慕ってくれたので確信したのでございます。身共と人生を共に歩むのは、彼を置いて他にいないと……!」
あるいは、愛に溺れる〝殉教者〟のごとき居ずまいで、
「今となっては〝瀬織津の巫女〟として生まれたことに感謝しているのでございますよ。この力があったればこそ、彼と添い遂げることが叶うのでございますからね」
はたまた、愛に取り憑かれた〝狂信者〟のごとき振る舞いで、
「まあ身共が総身を石としている間に勝手に祝言をあげてしまわれた弥麻杜殿には、相応の〝報い〟が必要と思っているのでございますけどね」
儚げな美貌に浮かぶ風雅な苦笑に、なぜか妹は背筋を冷やし、
「く…口さがない者たちの陰口を鎮めるために、御屋形様は形だけでも姉上を正室に迎えざるを得なかったのでござりまするよ……!」
「身共も心苦しかったのでございますよ……形だけとは言え、身共が他の殿方に嫁いだことで彼も胸を痛めたかと思うと………」
儚げな美貌が沈痛に曇る……
「なれど、苦難を乗り越えてこそ愛は深まるのでございます♪」
一転して晴れやかに笑む姉に、妹は怒りと……得体の知れぬ恐怖に声を震わせ、
「……それが、自らを石と化さしめた今一つの理由にござりまするか……?」
「はい♪ 身共と彼は歳が大きく離れていたことも、苦難の1つでございましたからね。それらの苦難を乗り越えるため、この身を石と化して操を守ると共に、若さをも保ったのでございますよ♪」
20代前半の美貌をきらめかせ、
「彼も娶るならば、若く清い体を喜んでくれるのでございますよね♡」
瑞々《みずみず》しい肢体をはずむように回転させ、
「欲を言えば彼の歳が身共に並ぶまで待ちたかったのございますが、5つほどの歳の差なら愛で乗り越えられるのでございますよ♡ 歳上の女房は金の草鞋を履いてでも探せとも、古くから申すのでございますしね♪」
純白の和服──〝白無垢〟と呼ばれる花嫁衣装をはためかせ、
「ああ、なれど八重垣の家は火焚凪さんに継いでいただき、彼には身共の婿となって都牟刈の家を継いでいただくのも良いのでございますね♡」
あふれんばかりの喜びを狂わんばかりに全身に咲かせた。
「……ふざ……けるな……!」
そのとき大型の培養ポッドから声がもれ、地下空洞にならぶポッドから複数の〝異形〟が飛び出し沙久夜に襲いかかる……が、その身に触れる直前、〝異形〟たちは石となって砕けてしまった。
「無理はなさらぬが良うございますよ、太華瑠さん」
沙久夜が側の大型ポッドに……ポッドの中の少年に優しく微笑み、
「〝里〟に大量の複製体を生み出すのに協力していただき、お疲れでございましょう。あなたには現世における最後のお役目が残っているのでございますから、その時までお休みになられるのが良うございます」
「我が子から離れるのでござりまする!!」
妹が姉へ強烈な水流を放つも、姉の放った強烈な光で一瞬にして蒸発した。
「お忘れでございますか、湖乃羽さん。あなたが〝荒魂〟の力のみを宿すのに対し、身共は〝和魂〟の力をも宿しているのでございますよ……《《正当なる》》〝瀬織津の巫女〟の証として」
「くっ……太華瑠さんの複製体を利用して、何をする気でござりまするか……!?」
あとずさるのを必死に堪えつつ妹が姉をにらむ………と、
「無論、〝儀式〟ニよリ〝瀬織津〟ヲ復活サせるノでスよ」
サッカーボール大の球体車輪を付けた一輪車のような車イスに座る少女が、地下空洞に現れた。
「あなたは──」
「〝カメレオン〟さん、お疲れ様でございます」
声を遮られた湖乃羽が目をむいて沙久夜を見て、
「な…なぜ、姉上がこの方を……ミズシロ財団の御使者を御存知なのでござりまするか……まさか!?」
「財団と御縁があったのは、あなただけではないのでございますよ」
「種明かしスるト、〝参謀閣下〟は2人ノ〝協力者〟を競ワせたノでスよ。古ノ〝蠱毒〟の呪法ニ倣い、勝チ残ったヨり優秀ナ人材を財団ニ迎えルためニ」
妹が絶句する中、少女の声に姉はうなずき、
「〝カメレオン〟さんがここにいらしたのならば、〝儀式〟の準備は整ったのでございますね。こちらも準備万端なのでございます」
「ソうナのでスが……あナたダけデすか? 〝博士〟もコこニ来てイたはズでスが……」
「先ほどまで、いらしたのでございます。なれど『気になる術式の波動を感じるのである』と申されて、いずこかへ行かれてしまったのでございますよ」
周りを見回す〝カメレオン〟に沙久夜が肩をすくめる。と、湖乃羽が不安を振り払おうとするように、
「答えるのでござりまする! 我が子の複製体で何をする気でござりまするか!?」
「何をすると申されても、そもそも異星の方に複製体の技術を求め、この施設を造って太華瑠さんの複製体を生み出そうとしたのは湖乃羽さんでございますよね」
「このような〝異形〟の複製体なぞ身共は作っていないのでござりまする!!」
首をかしげる姉に妹が……否、《《母》》が不安を怒りで押し込めて叫んだ。
「確かに、あなたが作った複製体は南米へ送ったものを始め〝原典〟に忠実なものでございましたね。とは申せ……」
沙久夜は大型ポッドの中の〝原典〟を見やりつつ、
「記憶を複写されたのは南米へ送った1体のみでございましたから、複製体の技術を伝えてくださった方が倒れたことで、残った複製体は暴走してしまったのでございますよね」
「……!?」
「故に同じ失態を繰り返さないため、身共たちは独自の要素を加えて複製体を作ったのでございますよ」
先ほど屋形に現れたクローンを思い出し渋面する湖乃羽だったが、淡々と話す沙久夜が〝原典〟の胸元へ向けた視線を追うと……
「その欠片は、まさか……!?」
太華瑠のはだけた長着の胸元から、胸に張りついた紫に輝く欠片がのぞいていた。
「はい。この欠片から注いだ〝瀬織津〟の力に加え、〝もう1つ〟の力を源に新たな複製体を大量に作ったのでございます。……なれど、それらの個体は皮膚が黒く濁った上に、形も変異してしまったのでございますよ……」
溜め息する沙久夜の声に湖乃羽は息をのみ、
「……やはり、あの下半身は〝瀬織津〟の……〝竜〟の影響で……!」
「見タ目だケだと、〝竜〟トいうヨり〝ヘビ〟でスけどネ」
「他にも新たな複製体は炎を操る力を持つのでございますが、これは〝もう1つ〟の力の影響と察するのでございます」
黒くなったクローンは、個々は口から炎を吐き、〝里〟で巨大化した物は全身からも炎を放っていた。
「予定では財団が用意してくださる力を使うところを、太華瑠さんに〝もう1つ〟の途轍もない力が宿っていたので、それを使った結果なのでございますよ」
「途轍もない力……?」
「左様にございます。数日前、太華瑠さんは火焚凪さんから刀を奪おうとして右腕を失われたのでございますが……」
眉をしかめる湖乃羽に沙久夜は重々しい声で、
「その際に右腕を燃やした炎から小さな火の粉が1つ、太華瑠さんに付着したのでございます……そして、その小さな火の粉1つが何千万もの複製体を生み出す源となったのでございます……!」
重々しい声を戦慄かせ、
「あの力こそは、まさしく……!」
「〝参謀閣下〟ノ言わレた通リなのデす……!」
沙久夜と〝カメレオン〟が緊張に強張る……と、湖乃羽が2人をにらみつけ、
「くだらぬ茶番を! ともかく太華瑠さんを解放するのでござりまする!!」
「太華瑠さんを解放させて……また彼や火焚凪さんに抗うのでございますか?」
姉も妹をにらみ返し、
「あなたも分かっているのでございましょう。太華瑠さんの……いえ、草薙や都牟刈の〝血〟では、八重垣の〝血〟には抗えないと」
「な…何の証があって、左様なことを……!」
「証ならば、ここにあるのでございますよ」
沙久夜は大型ポッドの中の少年を見て、
「〝瀬織津〟の力をわずかに注いだだけで、太華瑠さんは……草薙と都牟刈の直系の血を引く者は、これほどに濁ってしまったのでございます」
《《クローン同様に肌を黒くしている》》少年を、次いでその胸で輝く紫の欠片を見つめ、
「欠片と同じ物を彼にも幼いころから持たせて、少しずつ〝瀬織津〟の力を注いでいたのでございます」
「で…では……幼少の折はフラッター同然の力しかなかった八重垣の長子が、あれほどの力を持ったのは……!?」
目をむく妹に姉は満面の笑顔で、
「左様にございます。彼は〝瀬織津〟の……大いなる〝試祖〟の〝遺産〟の力を受け継ぐ者となったのでございますよ♪」
「……〝試祖〟? 〝遺産〟? 何のことにござりまするか?」
「………は?」
沙久夜がホームランを確信しながら空振りしたバッターのような顔になり、
「……参謀殿から、お聞きになっていないのでございますか?」
「私モ聞いテいなイのデすガ……」
「……………は?」
〝カメレオン〟からも疑問の声をかけられ沙久夜が固まる……が、
「なれば、〝時〟が来れば御教授いただけることにございましょう」
ひとつ息をつくと、悟りを開いた聖者のような穏やかな顔になり、
「今はまだ知らなくて良い、あるいは知らない方が良いとの御判断なのでございましょう。そう……触れない方が良いことに無理に触れても、厄を招くのみにでございます故」
穏やかながら、憐憫を籠めた瞳で大型ポッドの中の少年を見て、
「それは〝力〟についても同じなのでございます。過ぎた〝力〟は持ち主に厄をもたらすのみ……〝瀬織津〟の力を注がれた太華瑠さんが黒く濁り、その複製体が異形と化したように………」
「お…己で為出かしておきながら、何を余所事のように……!」
「痛い所を突かれてしまったのでございますね。なれど……」
憤慨する妹に、姉は母性あふれる笑みを浮かべ、
「同様の〝力〟を注いだ彼には、未だ一点の濁りも無いのでございますよ……体にも、心にも」
「……っ!?」
「母として息子の……大切な人の願いを叶えんとする思いは分かるのでございます。身共も彼のためならば、あらゆる労を惜しまないのでございますから。なれど……」
息をのむ妹に、姉は優しく諭すように、
「本当に大切な人を思うならば、引き際を心得ることも大事なのでございますよ」
「……戯言を! 全ては邪悪なる者たちを打倒し壬申の戦の時代の栄光を〝里〟に取り戻すためにござりまする!!」
「半分は本音のようでございますね……」
瞳を怒りに燃やす妹に、姉は小さく溜め息し、
「あなたは幼いころから、とても〝見栄っ張り〟でございましたからね。周りに対して、常に己を大きく立派に誇示しようとしていたのでございますよ……それこそ己の〝器〟以上に」
さらに瞳を燃やす妹に姉は淡々と、
「そんなあなたにとって、〝瀬織津の巫女〟や〝里〟の当主の正室の座は欲して止まないものだったのでございますよね。故に身共が石となったあと、それらを己のものにしようとした……」
ぐっと言葉に詰まる妹に、姉は慈愛あふれる笑みを浮かべ、
「それを諌めはしないのでございますよ。動機はどうあれ、闘技場を始めとしたあなたの〝里〟の振興策は、どれも見事なものでございましたから……手遅れの患者を無理に生かす、対処療法だったとしても……」
慈愛の笑みが憐憫あふれる笑みになり、
「なれど、あなたは気づいてしまったのでございますよね。どれほどに〝里〟を栄えさせ、どれほどの栄光を得ようと、それは井の中の蛙……〝草薙の里〟という、滅びゆく小さな世界での栄光に過ぎないと。故に……」
再び淡々とした口ぶりで、
「あなたはミズシロ財団を始めとして地球政府や純人教団、果ては太陽系ドミネイド帝国にまで接触したのでございますよね……〝瀬織津〟を売り渡し、未来ある大きな世界での栄光を得るために……」
瞳から感情を消し、
「大切な人を……弥麻杜殿や太華瑠さんを謀ってまで」
大型ポッドの中の少年がピクリと震えた……が、母は気づかず、
「ど…どの口で申すのでござりまするか!? 若作りで小童を謀らんと……否、誑かさんとする〝魔女〟が!!」
「どうせなら〝魔女〟ではなく〝美魔女〟と申してほしいのでございますよ♪」
妹の怒気を茶目っ気のにじむ笑みで受け流し、
「それに財団に仕官するにあたり、今年で22歳となる戸籍を作っていただくのでございますれば、公にも身共は22歳なのでございます。勿論、誕生日は彼とお揃いなのでございますよ♪」
「……!?」
絶句して目をむく湖乃羽……だったが、
「……左様にして姉上は、身共の欲するものを奪うのでござりまするね」
地獄の底から響くような声を吐き、
「幼少の折より常に左様だったのでござりまする! 身共の欲するものは身共の手をすり抜け、姉上の手に収まっていたのでござりまする!!」
長年の鬱屈を爆発させるように、
「然るに姉上は奪ったものを容易く捨て去ったのでござりまする!! 〝瀬織津の巫女〟や〝里〟の当主の正室の座すらも、いとも容易く……!」
積年の無念を噛みしめるように、
「身共の欲して止まなかったものが無価値であるかのよう捨てられるたび、身共は己自身を無価値とされ、己自身を否定されたように絶望していたのでござりまする……!!」
往年の屈辱に身を焼くようにして……
「《《奪う》》のみの姉上には分からぬのでござりましょう! 《《奪われる》》者の鬱屈が! 無念が! 屈辱が! そして……絶望が!!」
魂を削るような悲痛な叫び。
「周りに己を誇示したこととて、否定された身共の価値を知らしめんとする精一杯の主張だったのでござりまする!!」
「ならば、あなたの努力は実を結んだのでございますよ。主張の甲斐あって〝瀬織津の巫女〟や〝里〟の当主の正室の座を手にしたのでございますから」
鬼気せまる剣幕の妹に姉は称賛の笑みを贈る……が、
「所詮は狭い世界の、それも仮初めの座にござりまする! 姉上の手垢のついた、姉上の〝身代わり〟に過ぎぬ座など屈辱が増すだけだったのでござりまする!!」
底なし沼で踠くように顔を歪め、
「故に! 此度こそ姉上を出し抜き広い世界での栄光を……ミズシロ財団での地位を手に出来るかと思いきや、またも姉上に奪われるのでござりまするか!!」
「……ならば、財団以外に活路を求めてはと申したいのでございますが……」
顔を歪める妹に姉は顔を曇らせつつ、
「〝純人教団〟は力ずくで〝瀬織津〟を奪いにきたのを見るに、最早あなたの助けは不要なのでございましょうね……太陽系ドミネイドも、ここに至っては同様でございましょう………」
「くっ……!」
妹が悔しそうに歯噛みして、
「何故でござりまする……身共は只、誤りを正すのみであるのに!!」
髪を振り乱し駄々《だだ》っ子のように、
「世界の最大の誤りにして悲劇……それがこの〝里〟に、狭い世界に身共が生まれたことにござりまする! その誤りを正し身共が広い世界へ羽ばたかねば、かつて〝里〟が〝暗黒節〟に沈んでいたがごとく世界は破滅に沈むのでござりまする!!」
沙久夜と〝カメレオン〟が『ん?』と首をかしげた。
「身共が栄達してこそ三千世界は至上の繁栄を得るのでござりまする!! 然るに何故、誰も彼も身共を邪魔立てするのでござりまするか!? それは世界を破滅させる悪逆無道の大罪にござりまする!! 何故それが分からぬのでござりまするか!? 誰も彼も馬鹿ばかりなのでござりまする!!」
広い地下空洞が空虚な静寂に包まれる………が、
「〝見栄っ張り〟デも〝身代わり〟でモなク、〝身のほど知らず〟だっタのデす」
やがて、車イスの少女があきれ果て、
「栄達を望むのは……野心を抱くのは結構なのでございますよ、湖乃羽さん」
姉も苦笑気味に笑みつつ、
「野心もまた、人を進歩させる源と成り得るのでございますから。ただ……」
「〝器〟以上ノ野心は、身ヲ滅ぼスのデすヨ〝身のほど知らず〟」
〝カメレオン〟が深々と溜め息して、
「〝参謀閣下〟モそレが分カったカら早々に妹ニ見切りヲつケ、姉を引キ立てたンでスよ」
「み…身共が姉上に劣ると申すのでござりまするか!? 才覚も覚悟も勝りこそすれ劣るなど有り得ぬのでござりまする!!」
「優劣の問題ではなく、身共はあなたより知っていただけなのでございますよ……」
怒りと焦りに取り乱す妹に、姉は再び優しく諭すように、
「人を最も進歩させるのは野心でも覚悟でもなく……〝欲〟であると」
慈愛あふれる笑みをほころばせ、
「他の全てを犠牲にしてでも、たった1つのものを手に入れようとする〝欲〟……それが、あなたには欠けていたのでございます」
ささくれだった心を癒すように、
「動機はどうあれ〝里〟や〝里〟の人たちに尽くしたあなたには、出来なかったのでございますよね……〝里〟や〝里〟の人たちを犠牲……いえ、生贄にしてまで、望みを叶えようとすることが」
「逆に、ソれが出来ル〝欲〟がアったカら〝参謀閣下〟ハ姉を選ンだんデすヨ」
「あの方と身共の〝欲〟が……利害が一致したのでございますよね」
沙久夜と〝カメレオン〟が淡々と声をつむぐ。一方、その会話を遠い世界のもののように感じ湖乃羽は茫然としていたが……
「そ…それは〝欲〟に非ず〝狂気〟にござりまする!! ここに来る途上、母である身共を息子の複製体に葬らせんとした所業とて……!」
「……それは血を分けた妹への、せめてもの情けだったのでございますよ」
妹が怒りのあまり蒼白になると姉は顔をうつむけ、
「これから起こることに、あなたを触れさせたくなかったのでございます……」
「故郷を〝狂気〟で蹂躙せんとしながら世迷言を!!」
「……〝蹂躙〟などと、生やさしいものではないのでございますよ……」
うつむくまま白無垢に包まれる身を震わせ……
「これから起こるのは……〝地獄〟なのでございます………」
喉の奥から震える声をしぼり出す……
「確かに今日、〝草薙の里〟は長い歴史に幕を下ろすのでございます……なれど、それはかつての〝暗黒節〟すら遠く及ばない、〝地獄〟の先触れに過ぎないのでございます……」
湖乃羽が背筋を冷たくする。
「〝里〟の滅亡に打ちひしがれ、その後さらに降りかかる〝地獄〟に苛まれることを思えば、複製体の手にかかる方がどれほど幸せか……」
湖乃羽は目をむき、胸を押さえつけられたように息が出来なくなる。
「あらゆる物が無慈悲で狂暴な〝地獄〟の業火に焼き尽くされ、撒き散らされる悲鳴と悲哀の中、生き残るのは一握りの者のみ……そのような苦難が、これから起こるのでございます………」
沙久夜が震える声と共に、うつむけていた儚げな美貌をゆっくり上げ……
「その苦難の中で、彼と身共の愛は永遠となるのでございますよ♪」
あふれる《《喜悦》》で満面を輝かせ、
「恐るべき〝地獄〟から……この上ない〝苦難〟から身共を守るべく、彼は身命を賭して戦ってくれることでございましょう♪」
朗々《ろうろう》と《《歓喜》》に震える声をつむぎ、
「それとも2人で手を取り合って、共に苦難を乗り越えるべきでございましょうか♪ 初めての共同作業のように♡」
白無垢に包まれる身も《《愉悦》》に震わせ、
「かくして、彼と身共の愛は永遠となるのでございますよ♡」
無垢な喜びに震える姉が、広い地下空洞をピンクの空気でいっぱいにする。
「……そ…そのために〝里〟の同胞を生贄にすると………魔女め!!」
片や妹は怒りと嫌悪に震える声を地下空洞いっぱいに響かせる……が、
「あなたとて息子を生贄にしようとしたのでございますよね?」
地下空洞が氷点下に冷えた気がした。
「そ…そのようなことは……」
「違うと申されるならば、なぜ太華瑠さんの複製体のことを弥麻杜殿に黙っていたのでございますか?」
口ごもる妹に姉は淡々と、
「それに南米に送った複製体の扱いも如何なものでございましょう。作成した複製体が目覚める前に、《《五体満足だった》》体から《《右腕を切断して》》異星の機械兵器を植え付けたのでございますよね?」
絶句する妹に、姉は判決を言い渡す裁判官のごとく、
「すなわち、複製体の技術を手にしたあなたにとって太華瑠さんは、いくらでも替えの利く〝消耗品〟となってしまったのではございませんか?」
妹が血の気を失い震え出す………が、
「気持ちは分かるのでございますよ」
「………は?」
呆気に取られる妹に、姉は春の木漏れ日のように優しく微笑み、
「〝消耗品〟とまでは行かなくとも、〝お人形〟のように大切な人をそばに置き、誰も近くに寄らせず自分だけで愛でる……」
春風のように暖かい声で、
「そうして大切な人を己だけのものにしたい、一挙手一投足を思うままにしたい、全てを征服したい……そう思うのは、当然なのでございます」
「な…何を申しているので、ござりまするか………」
困惑する妹に、姉は満月のように風雅な笑みを《《目もくらむほど》》輝かせ、
「なぜなら……究極の愛とは〝支配〟なのでございますから♡」
優しく、暖かく、風雅な笑みと声で、広い地下空洞を絶対零度に沈めた………
「あ…悪魔………」
その中で、妹は恐怖に震え……
「サすガ〝参謀閣下〟の見込ンだ人ナのでスよ……」
車イスの少女は感嘆し……
「……ふざ……けるな……!」
大型ポッドの中から、怒りに滾る声がもれた………直後、
ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
地下空洞の全ての培養ポッドが砕け、夥しい〝異形〟のクローンが飛び出し、
「ふざけるな!! どいつもこいつもブッ殺してやるううううううううううっ!!」
太華瑠の絶叫と共に、女たちに襲いかかった………
◆
「我が娘よ………」
洞窟の中で、ハニーブロンドの女がハニーブロンドの少女をにらみ、
「久々《ひさびさ》に会ったかと思えば、母を討つとは物騒ですね」
高級ブランドのレディーススーツを着た身を苛立ちに強張らせた。
「久々に会ったかと思えば、何とも見窄らしい出立ちですわね♪」
対してハニーブロンドの少女はハニーブロンドの女を冷笑し、
「そのような粗末な出立ちで、よくも人前に出られるものでしてよ♪」
「……っ!!」
女が怒りに震える。
その身を包むスーツは最高級のシルクで仕立てられた物。
しかし少女がまとう緋色の学生服は、シルクやカシミヤはおろかビキューナも凌ぐ気品に満ちた生地で仕立てられている。
「象徴的なデザイナーと高級生地を失い、オーナーを務める自慢の服飾ブランドも凋落甚だしいと見えますわね」
「そのデザイナーと生地を奪った財団に与する者が何を……!」
「逆恨みも甚だしくてよ。我らが〝王〟は貴様のブランドから逃亡した《《あの女》》を、《《当人の希望にままに》》保護したに過ぎないのですわ」
少女は優雅に微笑む一方、自らが口にした『あの女』という言葉に不快指数を上げつつ侮蔑で瞳を凍てつかせ、
「支柱たる人間さえ袂を分かつ……それこそは何にも勝る、ブランドともども貴様の命運が尽きた証なのでしてよ」
「……姉妹そろって母に盾つきますか……!!」
女が憤怒で瞳を燃やすも、少女は尊大な笑みを咲き誇らせ、
「笑止千万ですわね。貴様も、あの女も、家族であるなどと思ったことは1度たりとて無いのでしてよ」
月から地球を見おろすような《《超》》上から目線で言い放つ……が、
「我が家族たるは、わたくしが遠からず嫁ぐ我らが〝王〟と、〝王〟との間に儲ける我が子のみなのですわ♡」
一転、恋する乙女の顔で甘い声をもらした……対して、
「……堕ちたものですね」
女はさらに瞳を燃やし、
「世界中の戦場で〝処刑台の薔薇〟と恐れられ、ついには〝封印災害指定〟を受けるまでに至った傭兵が恋などに現を抜かすとは……分からないのですか?」
怒る瞳に嘲弄を混ぜ、
「恋心を弄ばれ、利用されているだけだと」
「つくづく笑止千万ですわね」
少女は自慢げに胸を張り、
「利用されるとは即ち、利用に足る力があると認められている証でしてよ」
「利用されることを誇るとはプライドが無いのですか。東の本家の次期当主が本当にあなたを想っているのなら、あなたをもっと大切に扱うでしょう」
「愚にもつかぬとは、このことですわね」
冷たい怒りを籠めて女を見下し、
「よもや側に置かれるだけを、真の愛であるなどと考えているのでして? そのような愛玩動物がごとき扱いなど耐えがたい屈辱であり、愛しい方に小鳥ほどの重さの負担もかけぬことこそ我が鉄則であると共に……我が愛の種なのですわ」
一転、熱い想いを全身から放ちつつ、
「そして種は愛に育まれ芽を出し、愛しい方を支えたいと茎を伸ばし、愛しい方の力になりたいと葉をつけ……愛しい方に全てを捧げて尽くしたいと、大輪の花を咲かせるのでしてよ」
薔薇色の瞳を熱情に燃やし、
「その対価を求めぬ〝献身《けんしん〟こそが真の愛なのですわ。それを〝利用〟であるなどと考えるのは、貴様が他人を〝利用〟することしか考えぬ愚物であるが故なのでしてよ」
「〝飼い犬〟には何を言っても無駄ですか」
女が声を冷たくして、
「〝触れ得ざる白金〟」
死刑判決を宣告するように、
「政財界では知らぬ者の無いことです。すでに次期当主の伴侶は決まっているのに、『恋心』という鎖に繋がれ〝飼い犬〟に成り下がりましたか」
「うまいことを言いますわね」
だが、少女はさらに胸を張り、
「我らが〝王〟との初の邂逅を経て、その絶対的な力と〝器〟に打ちのめされた時よりわたくしは……〝王〟により血の海に沈められた女たちは……〝運命の赤い糸〟など及びもつかぬ、〝運命の血の鎖〟に永遠に魂を繋がれたのでしてよ」
誇りで笑みをほころばせ、
「その〝鎖〟に繋がれた魂こそ、我らがプライド、我らが喜び、そして……我らが〝愛〟なのですわ。なぜなら……」
必死に興奮を抑えつつ、
「我らが〝王〟……否、この世で最も『残酷』で『欲ばり』で『人でなし』な我らが〝大魔王〟にとっては、〝支配〟こそが至高の愛なのでしてよ♪」
誇りと興奮と喜悦に満面を輝かせる少女。そして……
「ならば我らが〝王〟と我が未来のため、貴様を我が薔薇の養分としてくれますわ」
鳳仙花に代わり一輪の薔薇を携え、
「貴様のごとき不浄の者をも美しき薔薇の一部とする、我が至高の〝慈悲〟を心より崇め奉り……枯れ果てるが良いのでしてよ」
少女が咲き誇らせる唯我独尊きわまる笑みに、女は不快きわまる顔になり、
「なんという傲慢でしょう……一体、誰に似たのですか」
「貴様でないのは確かですわね♪」
少女が笑んだまま薔薇を女へ向ける……直後、
ヒュンッ!
細剣の刃が鋭く少女に斬りかかってきた。が、少女は薔薇で刃を受け止め、細剣を握るブラックスーツを着たくすんだ金髪の少女を一瞥、そして呆れたように母を見て、
「これが、わたくしの新たな〝代替品〟でして?」
「やりなさい、ゾーカ! 〝嵐の騎士団〟に並ぶ力で不孝娘を成敗するのです!!」
「御命令とあれば」
短い返事と共に、鋭い風切り音を伴う無数の斬撃がハニーブロンドの少女を襲う。
「〝代替品〟にしては悪くない腕ですわね……なれど!」
斬撃を防いでいた薔薇が茎を伸ばし、長い茨となってゾーカを縛りあげた。さらに地面から巨大な食虫植物が生え出し、補虫袋にゾーカを飲み込んでしまう。
「ゾーカ!!」
「今でしてよオーロラ!」
母娘の声が重なった直後、母の背後に1人の少女が現れる。
「全ては……〝王〟のため、なの………」
灰色の髪に目元が隠され、表情のよく見えない少女だ。
うつらうつらと今にも寝落ちしそうで、よろよろと足元もおぼつかない。
鼓動するように明滅するリンゴ大の水晶玉を、両手で包むようにして緋色の学生服の胸の前で持っている……と、
「世界は、あまねく……千変万化、なの………」
ぼんやりした寝言のような声がして水晶玉がまばゆく輝く──刹那、ハニーブロンドの女の周りに多数の魔方陣が浮かび、一斉に女へ光を浴びせた。
「ぐああああああああああああああああああっ!!」
全身に文字らしき文様を浮かべた女が、がっくりと洞窟の地面にくずおれる。
文様はすぐに消えるが、体に異質な力を植え付けられた感覚に女は動揺しつつ、
「馬鹿な……これほど大量の術を、これほど複数に絡めては……!」
「術者にも……解除は不可能、なの………」
「おのれえ……!」
女は悪鬼のごとき形相で水晶玉を持つ少女をにらみ、
「貴様も……〝魔女〟か……!!」
怨嗟に満ちた声を吐いた──直後、
ドンッ!
ウツボカズラの補虫袋が破裂し、強力な衝撃波がZクラスの少女たちを襲う。
「小癪な!」
「悪あがき、なの………」
茨の一振りと水晶玉を光らせて張った魔法障壁で衝撃波をはじく少女たち。
同時に補虫袋の中にいた、くすんだ金髪の少女が地面に降り立った。
その身のブラックスーツは消化液で溶けかけ、ささやかな胸元と肉づきの薄い腰を包む簡素なブラとショーツが半分見えている。
「御無事ですか、ジュジュマン様」
そんな姿で主を守るべく主の前へ跳ぶ少女。
その戦意と手に握る細剣は、消化液を浴びても折れていなかった。
「ゾーカ……」
対してくずおれていた女は、形相をゆるめ平静を装いつつ立ち上がり、
「あなたこそ無事で何よりです。ならば不孝娘とその仲間を──ぬあっ!?」
急に地震のように洞窟が揺れ始め、岩肌のあちこちに亀裂が走り崩れ出す。
その状況にハニーブロンドの女と護衛の少女は身構えるが、ハニーブロンドの少女は高貴な美貌に不遜な笑みを浮かべ、
「始めましたわね、〝クズ参謀〟」
次いで尊大な貴族のごとく母を見て、
「これで貴様の末路も決まったのでしてよ……オーッホッホッホッホッホッ♪」
崩落する洞窟の中で、勝利を確信する高笑いを上げた………
◆
「なぜだ……なぜ、こんなことになった……!?」
薄暗い通路を、50代の男が息を切らせて駆けていた。
「ワシが……何を間違えたというのだ……!?」
男が走り去った後には、肌を黒くして下半身をヘビのように伸ばす〝異形〟のクローンが多数ころがっている。
「地球政府め……純人教団め……太陽系ドミネイドめ……ミズシロ財団め……!」
カエルのようにでっぷり太った体をけばけばしい羽織袴で包んだ男――草薙弥麻杜である。
「こうなった以上……〝瀬織津〟を手にしなければ、この〝里〟は……!」
悔しさと焦りに顔を歪めつつ弥麻杜は通路を抜ける──と、無数の鍾乳管や石筍、加えてそれらが繋がった石柱が無数にならぶ純白の鍾乳洞に出た。
冷え冷えする広大な空間は神秘的な空気に満たされ、中央にある澄んだ水を湛える巨大な地底湖からも神秘的かつ厳粛な畏怖を感じてしまう。
「……よし、七里塚の小娘はまだ来てない──む!?」
胸をなで下ろす弥麻杜だったが、湖の畔に人影を見つけ息をのみ、
「おのれ……あくまで邪魔するか……忌々《いまいま》しい〝鬼子〟め!!」
咆哮しつつ石筍の1本を巨大な石のヘビに変化させ、湖の畔に立つ白い水干を着た黒髪の少女を襲わせる。
「なにぃっ!?」
弥麻杜が大きく目をむいた。少女が炎に変じヘビに襲いかかり、石造りの巨体を灰も残さず焼き尽くしてしまったからだ。
「日本書紀に出とった〝大虬〟も、〝本流〟の力の前やと形無しどすな~♪」
次いで炎となって消えた少女に替わり、緋色の学生服を着た少女が地底湖の畔に現れた。
「おいでませ、〝儀式〟の場へなんどすえ~♪」
はんなりと邪気の無い笑みを浮かべ……
「まずは駆けつけ一杯、お薦めはぶぶ漬けどすな~♪」
〝封印災害指定〟もドン引く智謀を誇る……
「〝草薙の里〟の《《最期》》と《最後》》の当主を弔う──」
若様の腹心……
「〝《《さいご》》の晩餐〟なんどすえ~♪」
〝クズ参謀〟のお出ましである………