炎の想い 其の三
〝彼〟は私の、初めての〝主君〟になった………
出逢ってより数年、〝彼〟は日々成長していた。
齢10を超えたばかりで、〝次期当主〟の頭角を現していた。
そんな〝彼〟を誇りに思いながら、私はその後を歩いていた。
〝彼〟に仇なす者の討滅は、数を少なくしていた。
討滅を成した私に〝彼〟が苦笑すると、かすかな痛みを胸に感じたからだ。
……やがて、〝彼〟の後を歩く者が増えた。
右目に片眼鏡をつけた、緑の髪の女だった。
その女と私は、ことごとく反りが合わなかった。
その女は下女でありながら、〝彼〟への無礼が絶えなかった。
〝彼〟に無意味に密着し、夜には寝所に忍び込もうとさえした。
その女に、私は日課のごとく刀を抜いていた。
……討滅が減ったのは、それも理由だったかも知れない………
しかし、そんな女の素行に、いつしか私は〝ある感情〟を抱くようになった。
胸の奥を搔き乱し、締めつけるように苦しい感情だった。
歳を経るごとにその正体に気づきつつも、私は目をそらし続けた………
それを認めてしまうと、もっと苦しくなると察していたから。
それを認めてしまうと、私の〝忠義〟は偽りになってしまうから………
〝彼〟に全てを捧げる、と……
〝彼〟のためなら死ねる、と……
〝彼〟に一命を捧げ奉る、と………
そんな私の存在意義である〝忠義〟は、決して偽りにはできないから………
だから、〝彼〟は私の初めての〝主君〟になった。
〝主君〟であると、思い込もうとした…………
それが私の、11歳から15歳までの生涯だった………