炎の想い 其の二
〝彼〟は私の、初めての〝幼馴染〟になった。
水牢を、〝里〟を出て以来、〝彼〟は私にたくさんのものを与えてくれた。
……いや、それは普通の人なら普通に得ていたものだったのだろう。
しかし水牢以外の世界を知らなかった私には、どれもが目新しいものだった。
空の器に水を注ぐように、私は様々なものを吸収していった。
特に日本の『時代劇』と呼ばれる映画やドラマは、私の琴線に触れた。
水牢から出た時に見た〝里〟に、雰囲気が似ていたからかもしれない。
同時に水牢で私と共にあった棒が、白木の鞘に納められた日本刀だと知った。
そして習い始めた剣術は、私が手に入れた生涯で2つ目の〝目的〟となった。
1つ目の〝目的〟は、大恩ある〝彼〟に全てをささげて尽くすこと………
すなわち、〝彼〟への〝忠義〟だった。
いつしか私は〝守り刀〟を名乗り、常に〝彼〟の後をついていくようになった。
屋敷を出れば〝彼〟は頻繁に襲われ、刺客のことごとくを私は退けた。
〝彼〟に仇なす者を知れば、足を運んで討滅した。
村ごと、町ごと、時には州ごと不埒者を滅ぼした。
躊躇いは無かった。
機械的に全てを斬り伏せ、焼き払った。
それが〝彼〟のためだと、一片も疑わなかった。
だから〝遠征〟から帰った私に、〝彼〟が苦笑する理由が分からなかった。
……そのころ、私の〝器〟に注がれたのは『知識』や『経験』《《だけ》》だった。
『感情』が私の〝器〟には注がれていなかった………たった1つを除いて。
私にも1つだけ、胸の奥を焦がすような熱く切ない感情があった。
だが、それは〝忠義〟という衣に包まれ、私自身も正体を知らない感情だった。
だから、〝彼〟は私の初めての〝幼馴染〟になった。
それが私の、6歳から10歳までの生涯だった………