おそらくは、彼の平穏な世界征服……の、第一歩
「ぬおっ!? この重圧は……東の本家の跡取りのものか!!」
白金色のトンネル内で、強力な重圧を感じたハクハトウが顔をしかめた。
「……はっ、来たか大魔王……!」
フラッターでも感じられる……否、押し潰されるような重圧に、六音も顔をしかめて脂汗を流すと、
「……だったら、こんなトコに長居は無用だ!! やれ! あおい!!」
直後、トンネル内のあちこちで爆発が起きウィステリアが目を見張る。
〔な…なんだ、これは!?〕
「ははっ♪ ミズシロ財団軍需部門の小型爆弾、気に入ってもらえたか?」
爆発で少女たちを縛るケーブルも切れ、自由になった六音が自慢げに笑んだ。
〔爆弾だと!? いつの間にそんな物を!?〕
「ウィス先輩の体を使ってても、気づかなかったか? ま、あたしだって瞬間記憶で頭に収めた光景と、今の目の前の光景を重ねて、ようやく分かったぐらいだからな。爆弾と……コイツの存在を♪」
六音が自分の横の《《何も無いはず》》の空間へ目をやり、ウィステリアも同じ箇所を注視する――と、紫色の髪をヒザに届くツインテールにした、メイド服の少女の姿がボンヤリと見えてきた。
〔馬鹿な……どうやって侵入したのだ!?〕
「ナニ言ってる。あたしたちと一緒に、お前がここに転送したんだろーが♪ ……だよな、あおい?」
胸を張って言ってから、不安そうに確認する六音。
「はぅぅ……そ…そうですぅ……六音さんたちが、転送術に吸い込まれそうになってたんで……あ…あわてて、飛び込んだんですぅ………」
マジか全然気づかなかったぞ……という言葉を六音はのみ込み、
「で、まんまとここに来て、気づかれないまま爆弾を仕掛けたワケだな♪ 恐るべし〝天然ステルス娘〟。新たな〝必殺使用人〟の誕生だな♪」
〔おのれえ……!〕
不遜な笑みも消え歯がみするウィステリア。――だったが、不利を悟ったか少女たちに背を向けトンネルの奥へ走り去る。それをハクハトウが追おうとするが、
「待て! ウィス先輩は煌路に任せときゃいい。あたしたちは、この式獣機から脱出するぞ」
「……良いのか?」
「〝下準備〟は、しといたからな。あとは若い2人に任せときゃいーのさ♪」
イタズラっぽく笑む六音が、お見合いの立会人のように言った。
壊れたメガネを拾い、徐々に《《縮み始めている》》白金色のトンネルを見ながら。
◆
「……中で、何かありやがったのですか……?」
片眼鏡の少女が、更地に倒れたまま夜空を見あげている。
片眼鏡の奥で細められる目に映るのは、苦悶するようにのたうつ白金色の龍。
150メートルを超えていた機体は各所からケムリをふき、心なしか縮んで見える。――と、その背を突き破り〝何か〟が飛び出した。
「あれは……白拍子の式獣でやがるのですか……?」
それは翼長10メートルはあろう鳥と、その背に乗る少女たち。
「脱出しやがったのですか……だったら、あとは………」
視線を水代邸の上空へやると、身長25メートルの白い鋼の巨人がいた。
スリムな機体は足の側面から航空機の主翼を伸ばし、黄金の大剣を持っている。
50メートルの大剣は刃の左右に複数の突起を生やし、『七支刀』と呼ばれる古代の宝剣を思わせる――が、不意に巨人と龍が、白い光に包まれ姿を消した。
「〝異元領域〟に行きやがったのですか……」
満足そうにうなずきつつ、少女は《《神秘的》》に笑み、
「さあ……女神サマを助けるために、あらゆるものを奪い、壊し、支配しやがるがイイのですよ……我らが〝指揮者〟サマ♪」
キラリ、と片眼鏡が小さく光った。
◆
ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ
静謐な白い荒野の白い空で、白金色の龍がのたうっていた。
その龍を同じ空に浮かぶ白い鋼の巨人が、距離を取って見つめている。
「そこにいるんだよね、姉さん……」
染み入るような優しい声。
「14年前と同じだね……僕は2歳だったけど、あのとき見たものは人生最初の記憶として、今も頭に焼き付いているよ」
のたうっていた竜が、ゆっくりと動きを止めた。
「キラキラと輝く、太陽みたいに綺麗な光……まあ、それが姉さんの髪だって知ったのは、もっと成長してからなんだけどね」
停止した龍の機体が急速に縮んで……否、ブロック玩具を組み直すように形を変えて小さくなっていき……
「姉さんも覚えているかな? 〝聖域〟と呼ばれている、あの場所で……光の柱を出していた姉さんと、あそこに迷い込んでしまった僕は、初めて逢ったんだよね……」
巨大な卵型の装置に戻った龍と、白い鋼の巨人が荒野に降りていく。
「あのとき出逢ってから、僕たちはいつも一緒にいたよね。一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に布団で眠って……〝太陽〟と〝闇〟が一緒に大きくなるみたいに、一緒に成長してきたよね……」
白い荒野で、白い巨人と白金色の巨大な卵が向かい合う。
「それで……毎年の誕生日に、僕は姉さんに櫛をプレゼントしてきたよね」
トクン……
「初めて贈ったのは、姉さんの5歳の誕生日だったよね。僕は4歳で大した物は贈れなかったから、オモチャの金色の櫛をあげたんだよね」
トクン……トクン……
「それ以来、毎年誕生日には櫛を贈っているんだよね。他の物を贈ろうと思った時もあったけど、姉さんが櫛がいいって言うから、毎年新しい櫛を贈っているんだよね」
胸が、熱い……ブレザーの……左胸が、熱い……
「今回も、ちゃんと用意しているよ。人間国宝の職人さんにお願いして、1年かけて作ってもらった素晴らしい櫛をね」
ブレザーの、左胸が……左胸の、内ポケットに入れた……櫛が、熱い……
「もうすぐ1月1日……僕と姉さんの誕生日が来るよ。今回の櫛も、受け取ってもらえたら嬉しいな」
……コロ……ちゃん………
「今回も一緒に……ううん、その次も、そのまた次も、その先もずっとずっと………一緒に誕生日を祝えたら、嬉しいな」
わたしの……おとうと……世界で、いちばん……まぶしい、弟………
「さっき教室で、姉さんは言ったよね。いつか姉弟は、それぞれの道に進むものだって……でも、道が分かれることはあっても、姉と弟の〝縁〟が分かれることは絶対に無いよ……〝太陽〟と〝闇〟が、分かれることは無いみたいに……」
いちばん……まぶしくて……
「だから……僕と姉さんは、ずっと一緒だよ………一緒じゃなきゃ、ダメなんだ!」
いつもわたしを……照らしてくれた………
「戻ってきてよ《《おねえちゃん》》!!」
ビキィッ
白金色の巨大な卵に亀裂が走った。そして殻が割れるように頂上が砕け……白金色の髪の少女の、緋色の学生服を着た上半身があらわれた。
〔……また……お前か………〕
が、うつむいて顔の見えない少女が発したのは、怨嗟に満ちた低い声。
〔……なぜだ!? この14年で、どれだけ俺が力を増したと思っている!? なのに14年前も今も、なぜたった1人のガキに俺の精神制御が破られるのだ!!〕
「此度は煌路の力だけではないのじゃ」
不意に苛立つ声が聞こえると、巨大な卵の頂上がさらに砕け《《ウィステリアの下半身をくわえた》》生身の竜の首が出てきた。
〔ぐうっ、貴様あっ!!〕
「我が故国の国宝、返してもらうのじゃ!!」
猛々《たけだけ》しい竜の頭の眉間に、水干に緋袴、黒い烏帽子という白拍子姿の少女が立っている。
〔ちぃっ! やっぱり脱出してなかったか!!〕
「無論じゃ!! 我が式獣にて逃がれたるは六音と下女のみよ! 過ぐる忌まわしき亡国の日、わらわは誓ったのじゃ! 二度と敵を前にして逃げぬとな!!」
〔あきらめが悪すぎだぜ姫様あっ!!〕
ウィステリアが人差し指から不可視の斬撃を放つが、少女の烏帽子を斬り裂くだけに終わり――
「隔世を経て覚醒せよ!!」
少女が《《烏帽子に潜めていた》》1本の角を輝かせると、雛が孵化するように巨大な卵が砕け散り……
「汝、シーカイが守護者の一角……〝黒竜翼〟!!」
3本の長大な首と尾に加え、4本のたくましい脚と4枚の雄大な翼を生やす、全高50メートルにおよぶ黒金色の豪壮な多頭竜が、白い荒野にあらわれた。
「さあ我が国宝を苛みおった咎、命をもって贖わせてくれるのじゃ!!」
竜の眉間で憤怒する少女が、左の瞳に雪の結晶のような紋様を黒く輝かせる。
〔図体だけの蜥蜴1匹で調子に乗るなあっ!!〕
一方ウィステリアはシャボン玉のような空間で身を包み、その空間を広げて竜の口を開け空に逃げる。
〔……とは言え、精神制御が不安定な以上は分が悪いか。ここは一旦、退却して――うぐっ!?〕
飛び去ろうとしたウィステリアが、金縛りにあったように硬直し墜落する。が、白い鋼の巨人が荒野から飛び立ち、左の手のひらに少女を受け止めて、
「大丈夫、姉さん!?」
「……『おねえちゃん』とは、呼んでくれないんですか……?」
白い巨人の手の上で、少女が弱々しく微笑む。――が、すぐに顔を引きしめ、
「……聞こえていますね、マスカレイドさん。この14年で、確かにあなたは力を増したのでしょう。ですが、力を増したのは私も同じです。それに加えて、たくさんの人たちが力を貸してくれました」
六音が卵型の容器を破壊し、あおいが式獣機の内部にダメージを与え、Zクラスの面々とハクハトウが式獣機を粉砕した。
「何より、世界で一番まぶしい弟が……私の〝心〟を照らして、暗闇から救い出してくれたのです。14年前の、あの日と同じに……あの日から、ずっと私を照らし続けてくれたのと同じに……」
巨人へ微笑む少女の左耳には、白金色の髪が1本さし込まれていた。
「ですから私は、2度とあなたの思い通りにはなりません。あなたの言われた通り、葬送曲を奏でる時です……あなたを送る葬送曲を……!」
決然とした宣言と同時、髪が耳から抜かれる――と、その先端に小さな〝何か〟が絡められていた。
「初めまして……でしょうか? マスカレイドさん」
それは2ミリほどの〝虫〟だった。が、不意に跡形もなく破裂してしまう。
「自爆……じゃないよね、姉さん」
「はい。〝端末〟を処分したのでしょう。〝本体〟の位置を隠すために──え?」
少女が空を見あげる。と、上空の空間が砕け、白い空に開いた割れ目から2つの〝物体〟が飛び出した。
「デュロータ! 〝充元端子〟を使った〝重連元使〟も成功したんだね!!」
飛び出した〝物体〟の1つは、身長70メートル超の青い鋼の巨人。
〝顕元〟したデュロータが変形した胴体に、4本の角柱が手足に変形して合体している。
「傭兵は逃がしたが……テロリストは捕らえたぞ!!」
もう1つの〝物体〟は、全長100メートルを超える〝蟲〟だった。
その姿を形容するなら……頭をカミキリムシにしたカマキリの上半身を先端に生やす、真っ黒なダンゴムシだろうか。
「あれが……マスカレイドの〝本体〟か……!」
白い巨人がにらむ先で、〝蟲〟は地響きを立てて荒野に落ちると、
〔おのれ……忌々しいガラクタもろとも片づけてやる!!〕
しゃがれ声と共にダンゴムシの背に無数の穴が開き、黒い霞が放たれた。――否、それは雲霞のごとき大量の、イナゴのような虫の大群。
〔覚悟しろ! 欠片も残さず喰われるがいい!!〕
大量の1メートルを超えるイナゴが、凶悪なアゴをガチガチ鳴らしつつ翅をはばたかせ獲物たちに迫る。――その時、空に真紅の穴が開き、
「黒嘴天蓋落としいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
黒いクナイが白い空いっぱいに生え出し、夜空が丸ごと落ちてくるように落下、イナゴの大群を欠片も残さず斬り裂いて消し去った。
「〝賊〟にゃ逃げられちまったか! だったらオレらの平和のために、せめてテメエはブッ潰してやるぜムシケラあ!!」
空の穴から、赤茶色の鋼の鳥と黒い戦闘機が飛び出す。と、それぞれが変形、片や背に鳥の翼を生やす赤茶色の、片や背に航空機の主翼を生やす黒色の、身長25メートルの鋼の巨人になる。
「オブシディアス……!」
大剣で自分と姉をクナイから守った白い鋼の巨人が、黒い鋼の巨人を見て、
「その機体……〝纏元装甲〟だよね?」
「驚くことはあるまい。元来、我らドミネイドの手による技術であるのだからな」
「ああ……そうらしいね………」
白い巨人が肩をすくめた時、
〔次から次へと鬱陶しい!!〕
クナイで全身に切り傷を負うも、いまだ健在な〝蟲〟が黒いケムリを吐いて白い空を濁らせていく。――否、空を覆っていくそれは、2ミリほどの小虫の大群だった。
「あれって姉さんに取り付いていた寄生虫!? 今度は僕たち全員を操る気か!?」
白い巨人は目をむくが、右手の大剣を握りしめ、
「……許さない! 僕の前で2度とそんなことは許さないよ!!」
空へ向け大剣を振るい、刃から膨大な白金色の光のツブを放出する。
それは先ほど大剣に吸収された光のツブだったが、吸収前より輝きと量を増して空に広がる夥しい小虫を包み……1匹残らず消滅させた。
「それが……貴様の能力か、水代煌路……!」
眼前の破壊的かつ幻想的な光景に、黒い巨人は畏怖と感嘆を織り交ぜつつ、
「他者の能力を吸収し、増幅して撃ち出す能力か……!!」
竜の頭に立つ白拍子も戦慄しつつ、
「あれが……〝ノ吸イトルダムスの大魔王〟なのじゃな……!!」
「ちょっと! それって六音が勝手に言っているだけ――ぐっ!?」
白い巨人が倒れるように片ヒザをつき、左手に乗る少女が顔を曇らせて、
「コロちゃん……いくら能力を強化すると言っても、やっぱりその剣は………」
「……うん、ごっそり生命力を持っていかれた感じだよ……でも、ひいおじいちゃんは、14歳でこれを使いこなしていたって――」
〔苦しいなら楽にしてやるぞ!!〕
白い巨人のすきを突き、〝蟲〟がカマキリのような腕から衝撃波を放つ。
「させるか!!」
しかし青い巨人が白い巨人の前に立ち、空間操作の障壁で衝撃波を弾いた。
「立てコウジ! まだ〝義務〟を果たしていないだろう!!」
「デュロータ……」
70メートル超の巨大な背を見あげる白い巨人。――その時、
〔しゃらくさい!!〕
〝蟲〟が長大な触角を震わせ、敵を粉々《こなごな》にしようと強烈な振動波を生み出す。
「あきらめが悪い奴じゃ!!」
だが白拍子の三つ首の竜が、雄大な翼をはばたかせ振動波を掻き消した。
「屹立せよ煌路! 世を統べる者がヒザを屈するなぞ愚の骨頂じゃぞ!!」
「ハクハトウ……」
青い巨人の横に降り立った竜と、その頭に立つ少女を見やる白い巨人。
〔おのれえっ!!〕
〝蟲〟が背に翅を出し、強力な超音波を発生させ敵を荒野ごと引き裂こうとする。
「銀嵐破!」
されど上空の黒い巨人が刀から白銀に輝く竜巻を放ち、超音波を打ち消したうえ〝蟲〟を縛りあげた。
「次にまみえる時は雌雄を決する時……我が領域で申し合わせたことを忘れたか? 立ち上がるが良い、水代煌路」
「オブシディアス……」
竜巻で〝蟲〟を封じる黒い巨人を、意外そうに見つめる白い巨人。
「……まったく、どうして僕のまわりは、厳しい人ばっかりなのかな………」
白い巨人が歯を食いしばるように笑み、渾身の力で立ち上がって左手の姉を見る。
「本当に……姉さんが、いつもそばにいてくれなかったら……姉さんの優しさがなかったら……とっくの昔に、非行に走っていた自信があるよ」
「はい……コロちゃんが望んでくれる限り、私はコロちゃんのそばにいます」
「あはは、それじゃ一生、僕のそばから離れられなくなっちゃうよ」
「コロちゃんが、それを望んでくれるのなら」
とても優しく深い笑みを交わす姉弟。
その後そろって〝蟲〟へ目を向ける2人には、
「姉さん」
「はい」
意思の疎通に、それ以上は要らなかった。
「起動、〝纏元装甲〟」
静かに言った少女が、静かに空に昇っていく。と、足元に魔法陣のような光の円が浮かんで水銀のような液体金属を噴き出し、少女を包んで直径30メートルの金属球になると――木端微塵に砕け散り、白金色のヘリコプターがあらわれた。
「さあ……14年の因縁に終止符を打ちましょう」
ヘリコプターが変形、たたんだローターが足元まで伸びる髪を思わせる、白金色の鋼の巨人になる。同時に周囲の風景が、白い荒野から白金色の草原に塗り替わった。
〔……いいだろう! もはや、お前の力など必要ないと思い知らせてやる!!〕
自分を縛っていた白銀の竜巻を破り、〝蟲〟が全身を赤熱させる。さらに腕と触角と翅の力も発生させ、衝撃波と振動波と超音波が混然となって〝蟲〟を包み込み……直径200メートルを超える、紅蓮の火球となった。
「さながら鮮血の太陽じゃな」
「……だとしたら、ますます許せないね……!」
ハクハトウの言葉に、白い巨人は静かな怒りをつのらせるように、
「この世で『太陽』と名乗っていいのは、たった1人……姉さんだけだよ……!!」
「いや、ウィステリアも名乗っているわけでは――なあっ!?」
あきれ気味のデュロータの声を、強烈な熱波がさえぎった。
太陽のごとき火球が真っ赤に輝き、異常な高熱を発し始めたのだ。
「あ奴め! この領域もろとも、わらわたちを焼き尽くす魂胆か!?」
ハクハトウの竜が飛び立ち、鋼の巨人たちも空に昇っていく。
「させるものか!!」
その途上、デュロータは右肩のローターを回転させ、頭上の空間を固めて特大の〝槍〟を作り出し太陽のごとき火球へ打ち出す……が、
「なんだと!?」
火球は一瞬で〝槍〟を蒸発させて一段と強烈な熱を放ち出し、デュロータは悔しそうに歯噛みしつつ、
「おのれ……だが、あれほどの熱を放ち続けては、奴自身も無事では済まぬだろう」
「僕たちを焼くのが先か、自分が焼けるのが先か、命がけのチキンレースに出た……と言うより、完全に暴走しているね。自分でも止められないほどに……」
「世界の次代を担う者に、弱音など許されぬと知れ」
目元を歪めた煌路を、同じ空にいるオブシディアスがたしなめた。そして刀を振り上げ……
「あれしきの慮外者など、我が師の名にかけ討ち倒してくれる!!」
「ちょっと待った! あれだけのエネルギーを刺激して暴発させたら、この〝異元領域〟どころか地球まで焼き尽くされるかもしれないよ!!」
煌路が力強い瞳と声で、
「いま地球の3分の1は太陽系ドミネイドが制圧しているんだよ! そこにいる仲間たちまで焼かれてもいいのかい!?」
「……ならば、貴様であれば対処が可能であると言うのか?」
冷厳な太陽系ドミネイドの皇子の声に煌路はうなずき、
「僕と姉さんなら出来るよ。ただ、少し時間がかかるから、準備が出来るまで君たちにあの《《ニセ》》太陽を抑えておいてほしいんだ」
言いながら煌路がデュロータとハクハトウにも視線を向けると、
「了解した」
「やむを得んのじゃ」
青い鋼の巨人と、三つ首の竜の頭に立つ少女がうなずいた。
「良かろう」
皇子もうなずき、
「臣の救済も、世界の次代を担う者の責務であるからな。加えて我が恥はすなわち、我が師の恥となる。さような醜態、断じて許されぬゆえ……つばめ!」
「ちっ! しくじったら、ししょおに折檻……じゃなくて《《ドギツイ》》修練だからな……ピエロ!!」
黒い鋼の巨人に号令された赤茶色の鋼の巨人が、いつの間にか背後に浮かんでいた真紅の衣装の道化師に号令する。と、道化師は鈴のついた長杖をひと回しさせ、しゃらんと音を鳴らして白金色の空に真紅の穴を開いた。
「来やがれ〝鳥〟ども!」
再度つばめが号令すると、空の穴から鋼の鳥の群れが現れた。
翼長15メートルはある、蒼穹のような深い青色の〝鳥〟たちだ。
「いくぜ! 忍足つばめ奥義〝蒼嘴天星乱舞〟ううううううううううううっ!!」
少女の叫びに〝鳥〟たちが変形、15メートルを超えるクナイとなり、刃先を前にそろえ紐のように1列に並ぶ。
「銀嵐破!」
直後、オブシディアスが刀から放った白銀の竜巻が、1列に並ぶクナイを筒に紐を通すように包み、その色を青銀色へ変えて威力を増す。
「吹き荒れよ! 〝銀帝蒼斬破〟!!」
竜巻は大気を斬り裂いて真空空間をまといつつ伸びていき、球形の鳥籠のごとく紅蓮の火球を取り囲み、その熱を封じ込めようとする。
「ふん! わらわとて後れは取らぬのじゃ!!」
主の気合いと角の輝きに呼応し、悠然と宙を舞う竜が3つの首から咆哮した。
「咆威を以って包囲と為せ! 〝竜啼大結界〟!!」
3つの咆哮が共鳴し、強力な〝音の結界〟となって鳥籠を覆う。
「仕上げは私だな! 〝空間封鎖〟!!」
デュロータが両肩のローターを猛烈な勢いで回転させ、直径300メートルはあろうシャボン玉のような空間を生み出し〝音の結界〟をさらに包み込む。
巨大な火球が〝鳥籠〟と〝結界〟と〝空間〟の三重の桎梏に封印された。
「……上手く、やってくれたみたいだね」
三重の封印から離れた空の一角で、煌路が口元を緩めつつ目元を引きしめ、
「さあ姉さん、僕たちの力も見せてあげようよ♪ 特に今朝やったみたいに、六音が食べた毒を髪1本だけで消せるほど洗練された姉さんの力を――」
「コロちゃん、《《また》》〝奥の手〟を使うつもりですか? 今のその状態で……」
「……やっぱり、姉さんには分かっちゃうんだね」
《《カラ元気》》の笑みを引っ込めた弟は、午前中のオブシディアスの異元領域と、先刻の砂漠の異元領域で、1度ずつ〝奥の手〟を使っている。
多大な体力と精神力をつぎこむ切り札を1日に3度も使えば、地球三大エヴォリュ-ターと言えど……否、絶大な力を持つ三大エヴォリュ-ター《《だからこそ》》、尋常ならざる負担を心身にかけることになる。
「確かにあの異星人の暴挙を許せば、世界に大きな被害をもたらすかもしれません。でも、だからと言ってコロちゃんに何かあったら……」
「……僕はただ、14年前に姉さんの心を傷つけた相手が許せないだけだよ」
憂う姉の声を、弟は笑顔でさえぎり、
「さっき教室で言ったよね? 姉さんが誰かに傷つけられたら、僕はどんなことをしてでも、世界中を敵に回すとしても姉さんを守るって」
瞳に宿る揺るぎない決意。
「だって……姉を助けるのは、弟の義務だからね」
息をのむ姉に、弟は笑みを深め、
「安心してよ。何があろうと、僕は姉さんのところに帰ってくるからさ。太陽みたいに綺麗な、キラキラの光を目印にして必ずね。だから……」
姉の憂いを吹き払うような爽やかな笑み。
「この事件が終わったら、〝ご褒美〟をもらえないかな。『たいへん、よくできました』って〝ご褒美〟をね♪」
「……コロちゃんは、いつまでたっても甘えん坊さんですね」
儚くも嬉しさを抑えきれない、母性あふれる笑み。
「そんなに甘えん坊さんだと、逆にお姉ちゃんは安心できなくて、可愛い弟から離れられなくなってしまいますよ」
「大好きなお姉ちゃんがずっとそばにいてくれるなら、僕は大歓迎だよ」
再び、とても優しく深い笑みを交わす姉弟。そして――
「姉さん」
「はい」
心を通わせるにも、それ以上は要らなかった。
「〝金忌の藤源郷〟」
姉の瞳が白金色に輝く。と、〝異元領域〟の天地が逆転、草原が頭上に、空が足元に移動する。次いで頭上の白金色の草原から、白金色の巨大な藤の花の花序が無数に垂れ下がってきて、白金色の巨大な藤棚が完成した。
「〝煌刃絶壁〟」
弟の瞳が白光を放つ。と、その背後に膨大な光の剣で構成される、世界を断絶するように広大な威容から、万物を焼き払うように壮大な輝きを放つ、この世の条理さえ圧倒するように雄大な、光の〝絶壁〟がそびえ立った。
「万象あまねく我が元に」
弟が構えた大剣は、藤棚の花からあふれる夥しい光のツブと、絶壁の膨大な光剣を刃に吸収し輝きを増していく。
「……ぐっ……うああ……!」
同時に弟が苦悶し、大剣をにぎる手を震わせる。
3度目の〝奥の手〟の行使に加え、強大《《過ぎる》》〝力〟の吸収と増幅の負担が、苦痛となってその身を襲っているのだ。――しかし、
「言いましたよね。コロちゃんが望んでくれる限り、私はそばにいると……うぅっ」
弟の手に自分の手を重ねた姉が、自身も苦悶する……
「そばにいて……喜びも、怒りも、悲しみも、そして苦しみも分かち合うのが姉の……私の務めです……!」
手と一緒に、苦しみも怒りも悲しみも、そして喜びも重なるよう……
「それに……コロちゃんは、いつも言ってくれますよね……私のことを、太陽みたいだって……でも、私にとってはコロちゃんこそが、まぶしい太陽でした……」
されど喜びやまぶしさが強いほど、それを失う〝不安〟も強くなる……
「14年前に、出逢った時から……コロちゃんが、いつも照らしてくれたから……私は今日まで、笑うことができたんです……でも……」
「……『今日まで』だけじゃ、ないよ………」
だが、〝不安〟とは相手への〝不信〟から生まれるもの……
「明日も、明後日も、いつまでも……僕はすぐそばで、姉さんを照らすよ……」
〝不信〟ゆえに、相手が自分と異なる選択をすることへの〝不安〟が生まれる……
「姉さんが……すぐそばで、僕を照らしてくれるのと同じにね……!」
ならば……相手を心から信じられれば、〝不安〟など生まれ得ない……!
「姉さん」
「はい」
互いを太陽のような笑みで照らし合う姉弟が、一緒に大剣の柄をにぎる。
同時に全ての光のツブと光剣を吸収した大剣が、太陽のようにまぶしく輝く。
〔このムシケラどもがああああああああああああああああああああああああっ!!〕
その時〝異元領域〟に怒りの絶叫が響き渡り、
〔お前ら全員、道づれだあああああああああああああああああああああああっ!!〕
三重の封印が破壊され、解放された火球の熱が爆発的にふくれ上がる――が、
「……それは困るな。まだまだ〝義務〟を果たしていないからね。そう……」
白い鋼の巨人と白金色の鋼の巨人が、一緒ににぎる大剣を振り上げ、
「「姉弟を助けるヒトの義務を!!」」
振り下ろされた大剣から、太陽の光を凝縮したような〝光の矢〟が打ち出された。
40億人を葬る異能を2つ合わせて増幅したそれは、100億人以上を葬る一撃。
だが、その輝きは見る者を魅了し心酔させる、神がかった美しさに満ちていた。
〔た…逮夜の……曙光……!〕
火球から呆然とした声がもれた。瞬間、太陽のごとき火球と太陽のような矢が激突、激しい閃光に〝異元領域〟が白く染められる。
〔……おのれええええええええええええええええええええええええええええっ!!〕
矢を弾き返そうと火球が一層熱を強める――が、
ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ
〝光の矢〟は火球の外殻を粉砕し、露出したカマキリのような上半身を貫いた。
〔ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………〕
〝蟲〟の上半身が白金色の光に包まれ消えていく。が、突如ダンゴムシのような下半身が上半身から分離し、長く伸びて巨大なムカデのようになり姉弟へ飛びかかった。今までの〝蟲〟は2匹の〝蟲〟の集合体だったのだ。
〔くたばれえええええええええええええええええええええええええええええっ!!〕
またたく間にムカデは距離を詰め、鋭いアゴで姉弟を斬り裂く。
〔ぐあっ!?〕
――寸前、姉弟の鼻先でムカデが止まった。頭上の藤棚から無数の白金色の蔓が伸び、ムカデに絡みついて空中に固定したのだ。
「葬送曲に終止符を打つ時だよ……〝煌神葬掃玉〟」
カマキリのような上半身を消滅させた〝光の矢〟が、太陽のような〝光の玉〟となってムカデを包み、まぶしい光の中で消滅させていく。
〔ば…馬鹿な……! この俺が……なぜ……!?〕
「なぜと問われるのなら、それは、あなたが《《最大》》の〝禁忌〟を犯したからです」
消えゆく〝蟲〟へ姉弟は声を一緒にして、
「僕の大切な姉を傷つけようとしたからだよ」
「私の大切な弟を傷つけようとしたからです」
優しいハーモニーが白金色の世界に響き、同じ色の光の中で〝蟲〟が消え去った。
14年にわたる因縁も、太陽のような光と一緒に消え去った。そして――
「……偽神、戦役……太陽の、消えた日………」
デュロータのつぶやきと共に、〝異元領域〟もまた消えていく………
◆
「……ふむ。まあ、ギリギリ及第点をくれてやるか」
騒ぎが収まりつつある評価実験場で、白い和服の女が言った。
焼けこげた建物の屋上に立ち、《《遠い異世界を見るような》》眼ざしをしながら。
「俺も、まだまだ甘いな♪」
弟子が猛抗議しそうな言葉と共に、高飛車の奥に慈愛のひそむ笑みが浮かんだ。
「〝白銀の斬晶〟の弟子が、『親バカ』ならぬ『師匠バカ』か?」
「うはははは! 我が師も孫の成長にお喜びであろうよ♪」
不意に聞こえた声に、和服の女――ワイクナッソは背後へ向き、
「貴様はどうなのだ? あの姉弟は貴様の弟子なのだろう……〝調律士〟よ」
「その呼び方は、やめろ……〝黒死の重圧〟」
地球軍の特務部隊の軍服を着て黒髪をポニーテールにした女――リオのムッとした言葉に、ワイクナッソもムッとして、
「それは俺の姿も知らぬ輩が、古の疫病になぞらえ勝手に付けた綽名であろう」
「ハハッ、実物は真っ白なのにな。腹の中はともかく♪」
リオの軽口に、ワイクナッソは胸を張って高飛車に笑み、
「純真なる乙女は、腹の中も清廉潔白に決まっているであろう♪」
「ハッ、20億年も生きてて何が『乙女』だ」
「トロニック人では、まだまだ小娘だぞ。《《若作り》》の貴様と違ってな♪」
「誰が若作りだ!?」
「うはははは! 若作りの〝御母堂〟よ、〝鍵っ子〟のそばにいなくて良いのか♪」
「……それ、本人の前じゃ〝黒鍵〟って言えよ。どうなっても知らないぞ」
リオが顔をしかめるも、ワイクナッソは高飛車な笑みを深め、
「『母』と言えば、プロテクスの護空局管領を母とする者も、この星系に来ていたのだな♪」
「……ん? お前、デュロータに会ったことあったか?」
「いや。だが母によく似た重圧を感じたからな」
なつかしそうに目を細め、
「かつては共に戦場を翔けたあ奴が、今や一児の母とはな。あまりの感慨深さに、俺も子を産んでみようかと思ってしまったぞ♪」
「ハッ、誰の子を産むつもりだ師匠バカめ」
「さあな♪ それよりも……」
おどけつつ隣の建物を見て、
「もうことは済んだのだから、あのチビどもを下げてくれるか?」
隣の建物の屋上で、片や白、片やピンクの子猫たちが和服の女をにらんでいる。
「あれで俺を牽制しているつもりらしいな。あまりの健気さに心を打たれ、余計な手出しを控えてしまったぞ♪」
「あいつらがいなきゃ手出しする気だったのか?」
「やはり過保護か俺は。まあ今日ぐらいはいいだろう。可愛い愛弟子どもが帰ってきたら、褒美に愛する師の背中を流させてやるか♪」
ひときわ誇らしげに笑いつつリオへ背を向け、
「では、さらばだ〝御母堂〟よ♪ しっかり司壊を開いとけよ!」
リオが渋面で口を開きかけるも、姿を消してしまうワイクナッソだった………
◆
「終わりやがったのですね……」
広大な更地で片眼鏡の少女がつぶやいた。――瞬間、
バリドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ
落雷のような轟音が響き、空に巨大な〝影〟が……雄大な翼をはばたかせる三つ首の竜が現れ、ボロボロの少年少女たちは新たな敵かと身構える――が、
「みんな、安心していいよ」
竜の背後に白い鋼の巨人が現れ、全員が肩の力を抜く。と、その中の少女が日本刀を鞘に納めると恭しく頭を下げ、
「見事仇敵を征伐された御様子、寿ぎ奉るでござりまする」
「ありがとう、火焚凪。君にも手間をかけさせちゃったみたいだね。他のみんなも、ありがとう」
白い巨人が横に浮かぶ白金色の巨人と一緒に、夜明け間近な空から更地を見渡して優しく笑む。――と、2人の鋼の巨人の機体が水銀のような液体金属になり、頭上に浮かんだ魔法陣のような光の円に吸い込まれていく。
「ふう……ぶっつけ本番だったけど、〝纏元装甲〟も上手くいったね」
液体金属が残らず光の円に吸い込まれると、白み始めた空には緋色の学生服の少年と少女が残った。
「おつかれ様、姉さん」
「おつかれ様でした、コロちゃん」
支え合うように身を寄せる姉弟は、深い充足感と慈愛で笑みを満たしている。そして熱い瞳で見つめ合い……
「それじゃ事件も終わったし、〝ご褒美〟をもらってもいいかな♪」
「やっぱりコロちゃんは、甘えん坊さんですね……」
姉は苦笑気味に笑みつつも包容力あふれる声で、
「〝たいへん、よくできました〟」
姉弟は一緒に目を閉じて、ゆっくりと………唇を重ねた。
折しも遥かな山の稜線から日が昇り、清新な光に照らされつつ抱きしめ合って唇を交わす2人の姿は、崇高な神話の一幕のよう……
……かと思いきや、
額や頬への軽いキスとは違い、強く押しつける、あるいは貪るような激しいキス。
クチュクチュと唾液と舌の絡まる音をさせつつ互いの頬が火照り、唇と唇のわずかな隙間からも興奮したような熱く湿った吐息がもれる。
「……それが〝たいへん、よくできましたのチュー〟か………」
いつの間にか姉弟のそばに、巨大な鳥に乗る六音とあおいがいた。
「人前でそーゆーコトすんなって言ったろ! エロリストのムッツリ姉弟め!!」
「はうう……しょ…食虫、植物………」
真っ赤な顔でがなる六音と、真っ赤な顔を両手で覆いつつ指の間から濡れ場(?)を凝視するあおい。
クチュ……チュ……チュパ………
――だが、姉弟はさらに抱擁を強くして、互いの唇を貪り続ける。
「待ちやがれコラ!! どんだけ2人の世界に浸ってんだ!? それとも《《わざと》》見せつけてんのか《《キス》》の暗黒卿め!! キスの復讐なのかエロスの覚醒なのかエロスと共にあらんことをなのか!?」
火を噴く勢いの六音に、ようやく姉弟は名残惜しそうに唇を離し、
「そんなに興奮して、どうしたんだい六音」
「ざけんなよ暴君エロ!! そんなに民衆を苦しめて楽しいか!?」
30人近い〝民衆〟が、眼下の更地から様々な視線を向けてきている。
あきれる者、冷やかす者、何かをこらえる者、決意を新たにする者………しかし、
「苦しめるって何のことだい?」
姉弟はキョトンと首をかしげ、
「はい。コロちゃんと私がしているのは──」
声を一緒に平然と、
「「普通の姉弟のスキンシップだよ」
です」
「ウソつけえええええええええええええええええええええええええええええっ!!」
〝民衆〟を代表する絶叫が空を震わせ、
「もう結婚しちゃえっぺよ」
大地でも同様のつぶやきが冷えきった声で放たれた。……が、
「おに~ちゃんと~♪」「おね~ちゃんが~♪」「なかよしで~♪」「「「めでたしめでたし~~~♪」」」
冷えきった〝民衆〟から、ほのかな祝福を感じたのは気のせいだろうか。
少年少女たちを照らす朝日に似た、清々しく温かな祝福を………
――ともあれ、後世に『ホモ・エクセルシオールの曙』と記される、波瀾の1日は幕を閉じた。
この日、地球と地球人類は、新たな進化の時代に突入したのである………