プロローグ
「テロリストさん、悪いコトは言わないから、あたしを解放した方がいーよ♪」
ガタゴト揺れる大型コンテナの中で、手足を縛られた少女が笑顔で言った。
「あたしの美しさに天にも昇る気持ちなのは分かるけど、このままだと天に召されちゃうからね♪」
歳は10代後半の、レンズの大きなメガネをかけた少女だ。
緋色のブレザーとミニのプリーツスカートの学生服を着て、腰に届く黒髪を1本の三つ編みにしている。
「グズグズしてると、怒り狂ったエロリストが〝痴情最大の作戦〟で、横どりされた獲物を取り返しにきちゃうぞ♪」
「うるせえ! 死にたくなけりゃ黙ってろ!!」
コンテナ内の少女の前には、目出し帽をかぶる屈強な男が10人以上。
その全員が軍の特殊部隊のような黒装束と銃で武装している光景は、なかなかに絶体絶命な誘拐現場である――が、
「なにぃっ!?」
男たちが目をむいた。一筋の閃光がコンテナと、コンテナを載せて走るトレーラーを左右まっぷたつに斬り裂いたのだ。両断されたコンテナの左半分では男たちが立ちすくみ、右半分では少女が茶化すような声で、
「〝指斬〟げ~んま~ん、ウ~ソついたら、まっぷたひゃわっ!?」
縛られた少女を誰かが抱え、両断されたコンテナから飛び出した。直後、まっぷたつのまま走っていたトレーラーが道の両わきでコンテナごと爆発。雪山に伸びる除雪された路上に、夕日より鮮やかな2つの爆炎の花が咲く。
「無事かい? 六音」
かすかに揺れるボーイソプラノが、優しく沁み渡るように少女の耳に流れ込む。
雪化粧をした山岳地帯の舗装路で、夕日と燃え盛る爆炎に照らされる少年が少女をお姫様だっこして立っていた。
「まさか、軍の基地にいる時を狙って君を誘拐するなんてね」
少女と同じ10代後半の少年が、優しげな顔からそっとつぶやく。
「こんな計画を立てられるのは、やっぱり……」
艶のある黒髪と穏やかな目元に加え、優美な鼻梁と凛々しく引きしめられた口元が、生来の〝華〟や育ちの良さを感じさせる少年だ。
端整な顔は柔らかな夕日に照らされ、今も柔和な魅力を深めているのだが……
「……とにかく、大丈夫なんだよね六音? ケガはないんだよね?」
端整な顔も、今は腕のなかの少女を心配して曇っている……が、
「遅いぞ煌路♪ 待ってる時間でカップラーメンでも作れってか?」
「……次は、コーンフレークの用意ができるまでに助けに来るよ」
イタズラっぽく笑む少女に、少年は溜め息しつつ脱力し、
「でも、僕だって軍の新兵器のテストを中止させて来たんだよ? おばあちゃんのお仕置きを覚悟してね」
グレーのパイロットスーツを着た少年は眉をひそめ、
「いつも言っているよね? 軽々しく僕たちのそばを離れないでって。今週だけで、未遂も含めて3回目の誘拐なんだから」
「だったら一生くっついててやるぞ、エロリスト♪ つーわけでメチャクチャ寒いからさっさと帰って、契約にもとづき布団の中であたしを温めるがいい♪」
「そんな契約これっぽっちも覚えがないよ!!」
ガタガタ震える少女に、〝華〟をかなぐり捨てて少年は息巻き、
「あっためてほしいのなら、そこのトレーラーを燃やしている火に放り込んであげようか!? きっと天にも昇るあったかさだよ!!」
「布団じゃなくてこの世から昇天させる気か!? 男だったらセント・エロモス・ファイアーで女をあっため――ん?」
何かに気づいた少女が、舗装路で燃えさかる業火に目をやる。と、火の中から男が1人、焼け焦げた体を引きずって出てきた。
「ぐうう……おのれ、ミュータントめ……よくも、同志たちを……!」
目出し帽から怒気を吐く男に、少年は再び〝華〟をまとい、
「ミュータントなんて失礼だね。僕たちは従来の人類を超える新人類、その名も〝エヴォリューター〟だよ。間違えないでほしいな」
「何が新人類だ! 刑務所で罪人として処分されるか、研究所で実験体として処分されるか、軍隊で兵器として使い潰されて処分されるのが当然の、汚らしいミュータントめ!!」
少年は小さく溜め息して、
「ひどい言われようだね。国民はみんな平等の民主主義は、どこに行ったのかな」
「テメエが平等を言いやがるか! 俺たち〝純粋人類〟を排除してミュータントしか採用しない差別財団のボンボンが!!」
「誤解があるみたいだね。我がミズシロ財団は、全ての人へ採用の門戸を開いているよ。ただ、採用審査を〝平等〟に実施して優秀な人を選んだら、結果としてエヴォリューターばっかりになっちゃうだけだよ」
少女をお姫様だっこしたまま軽々と肩をすくめ、
「それにさ、本当に『差別』をしているのは、うちの財団系列《《以外》》の企業じゃないのかな。なにしろエヴォリューターってだけで、どんなに優秀でも………むしろ、優秀《《だからこそ》》不採用になっちゃうんだからね」
「うるせえ! それは『差別』じゃなく当然の『選別』だ! エヴォリューターこそ人類の敵なんだからな!!」
少年が眉をピクリとさせて、
「〝ドミネイド〟が地球に現れてから数十年……なのに人類の《《本当》》の敵を、いまだに理解していない人が多いよね」
静かにたたずむ少年から異様な迫力を感じて、誘拐犯の男が息をのむ。
「今日だって、その敵と戦うための新兵器のテストがあったのに、こんな誘拐のせいで中止になっちゃったよ。君たちも、そろそろ事実を認めるべきじゃないのかな」
淡々と話しつつ、少年が少女を抱えたまま一歩踏み出す。
「内にはエヴォリューターと普通の人たちの対立、外には宇宙からの敵の脅威。まさに内憂外患の今は、地球にとって大きな時代の変わり目なんだよ」
少年に気おされるように誘拐犯があとずさる。
「そして『時代が変わる』ってことは、『常識が変わる』ってことだからね。そんな時に〝古い常識〟でしか物事の判断をできない人が、企業や社会の発展に貢献できると思うのかい?」
悠然と歩いてくる少年に、ジリジリあとずさる誘拐犯はしぼり出すような声で、
「だ…黙りやがれ裏切り者が! その宇宙からの敵とお前の財団は、つるんでやがるんだろうが!!」
「悪質な言いがかりだね。うちの財団と協力関係にあるのは――」
「うるせえ! ミュータントなんざ全部ブッ殺してやらあ! 喰らいやがれ!!」
誘拐犯が右手に握った何かのスイッチを押した。途端、道路のアスファルトに雪の結晶のような大きな光の紋様が浮かぶ。
「あれって……さっき六音が誘拐された時の転送術……?」
煌路の険しい視線の先で、紋様から生え出すように巨大な物体が現れた。
それは真紅に彩られた、高さ30メートルの金属製の直方体。
「さあ、起動しやがれ〝式獣機〟!!」
男が再びスイッチを押す。と、直方体がヴゥゥゥンと音をあげて表面装甲を細かく分解させ、内部の微細な機械部品ともども複雑な伸縮とスライドを繰り返す。そうしてブロック玩具を組み直すように、金属製の直方体は形を変えていき――
「うげ、あのティラノザウルスみたいなデカブツって……」
少女の目に映るのは、溶岩石のごとき歪な装甲に覆われ、長大な尾や手足の鋭い爪、口を埋める凶悪な牙で荒々しく周囲を威圧する巨体。
関節の隙間からは無数の細かな部品がミミズの大群が蠢くように細動し、ギシュルギシュルと耳ざわりな音をもらしている。
それは全高30メートルを越える、肉食恐竜を模した真紅のロボットだった。
ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
金属をこすり合わせるような咆哮が、夕暮れの雪山の空気を震わせる。が、少年と少年にお姫様だっこされる少女は平然と、
「おい、あのガラクタって、まさか……」
「君の考えている通りの代物だと思うよ。あんなに大きいのは珍し――おっと」
襲いかかってきた機械の恐竜を、少年は少女を抱えたまま跳んで避ける。が、恐竜は牙を、爪を、長い尾を振りまわし、路面のアスファルトや道路わきの木々を、吹き荒れる嵐のように破壊しながら少年を追ってくる。
「ぐはははは! 逃げるだけか、クソガキめ! さすがの〝地球三大エヴォリューター〟も外宇宙の超兵器にゃ歯が立たねえか!!」
「やっぱり〝異星機動器〟か。最近、各地のテロ事件で使われているけど、どこから手に入れて……」
「決まってんだろう! 我らが有能な〝支援者〟からだあ!!」
少年は眉をひそめるも、恐竜の攻撃を軽やかに避け続ける。――お姫様だっこする少女を、軽やかかつ豪快なアクロバットで縦横無尽に振り回しながら。
「ふひゃぁぁっ!? こ…こら煌路! もっと丁寧にあつか――きゃひん!?」
「しゃべっていると舌を噛むよ。それにしてもいくら山奥でも、このままじゃ被害が広がるばっかりだね………よし!」
機械の爪や尾をよけつつ、少年が瞳を金色に輝かせた。――瞬間、雪と夕日に覆われる山岳地帯の風景が、壁に映した映像を切り替えるように静謐な真っ白い荒野へ変化する。
「はっ、いきなり〝異元領域〟をやっちゃうか」
「うん、僕が作ったこの亜空間なら、いくら壊しても元の世界に被害はないからね」
悠々《ゆうゆう》とする少女と少年のまわりで、見渡す限りが白い荒野に塗り替わった。
少年は恐竜から距離をとって着地すると少女を荒野に下ろし、その手足を縛るロープを右手に出現させた光の剣で斬る。
「それじゃ、ちょっと離れていてくれるかな六音。僕は、あれの相手をするから」
少年が温厚な雰囲気を一変させ、鋭い視線を機械の恐竜へ向ける。
片や誘拐犯は風景の変化に戸惑いつつも、ムリヤリ声を荒らげ、
「ちょ…調子に乗るなよ、クソガキが! 僕は空間操作まで出来る地球最強のエヴォリューターだから無敵だってか!?」
「そんなこと思っていないよ。地球最強《《程度》》で調子に乗れるほど、なまやさしい家庭環境で育たなかったからね」
気負いも傲りもない、自然体な少年の声。
「ふ…ふざけんな虫ケラが! 行け式獣機! すべては純粋なる人類のために!!」
「純粋なる人類のために……『純人教団』こと『純粋人類教団』の標語だね。過激な〝純粋人類主義者〟のカルト教団にして、エヴォリューターへの破壊活動をくり返す世界的なテロ組織の」
機械の恐竜へ泰然と光剣を構えつつ、少年は感情を押し殺した声で、
「そんなにエヴォリューターが憎いのかい? 様々な異能を持っていても、僕たちだって君たちと同じ人類なんだけどな」
「ほざくな悪魔の遣いめ! 知らねえとは言わせねえぞ! 14年前の惨劇を!!」
少年が目元をピクリとさせ、
「14年前……あの〝逮夜の曙光〟と呼ばれる事件のことかい?」
「そうだ! たった1人のミュータントが一晩で世界の人口の半分を、40億の人間を殺した史上最悪の惨劇だ!! 人類という種を葬る寸前に、〝逮夜〟に追いこんだ史上最凶の暴挙だ!!」
少年は瞳の感情を消し、
「確かに不幸な事件だったけど、事件を起こしたエヴォリュ-ターも、自分の異能に巻き込まれて死んじゃったからね。政府からも、そう発表されていたよね」
「だとしてもミュータントがいる限り世界は平和にならねえ!!」
男は瞳に狂気を灯し、
「だからバケモノどもは1匹残らず滅ぼして世界をあるべき姿に正すんだ! それが我らが巫女たる詠姫様が〝お告げ〟で示す救済……〝御一新〟なんだ!!」
「詠姫様に、御一新か……」
少年がほのかに苦笑する一方、男は狂気を加速させ、
「14年前だけじゃねえぞ! 今じゃバケモノどもは戦争ふっかけてきてんじゃねえか! 悪魔より邪悪な宇宙人の手先になって!!」
「それも誤解だね。全てのエヴォリューターが〝降順兵〟に……ドミネイドの尖兵になって、地球侵攻に加担しているわけじゃないんだからさ」
淡々と諭すような声。
「大切なものを守るため、地球側でドミネイドと戦っているエヴォリューターだって大勢いるんだよ。僕や、僕の姉さんみたいにね」
「悪魔の遣いなんざ信用できるか! すぐに人類を裏切るに決まってる!!」
「……そういう社会の偏見が、多くのエヴォリューターをドミネイド側に走らせているとは思わないのかい……?」
淡々とした声が、冷淡な声に変わる。
「ひとつの事実として、14年前の事件の結果や、降順兵のことを否定する気はないよ。でも、それを『口実』に全てのエヴォリューターを非難するのは、あの事件で傷ついた人や、地球側で戦っているエヴォリューターへの冒涜でしかないよ」
冷ややかな声に、一帯の空気までが冷やされていくよう。
「それに、もうひとつ言わせてもらうとさ……」
少年が静かに息を吐き、無表情に一歩踏み出す。
「《《怒っているのが》》、《《自分だけだなんて思わない方がいいよ》》」
少年から大地を震わせるような重圧が迸った。
「なにしろ君は、軍のテストよりも、おばあちゃんの言いつけよりも大切な、僕の〝友達〟を傷つけようとしたんだからね……!」
強烈な重圧が、心臓が凍ったように誘拐犯を震わせ、
「ひゃうっ!?」
淡く頬を染める少女のメガネを吹きとばし、三つ編みをほどけさせる。と、愛嬌のあるドングリ目と、腰まで伸びる艶やかな黒髪が印象的な、日本人形のように可憐な美少女が現れた。
「こ…こう…じ……」
その美少女の見る先で、牙をむく恐竜はひと足ごとに、ズシン、ズシン、と荒野を震わせ、少年は光剣1本を手に、ザッ、ザッ、と迷いなく荒野を踏みしめていく。
片や、全高30メートルを超える機械の肉食恐竜。
片や、身長170センチをようやく超える生身の少年。
絶望的な差のある両者が距離を詰めていくにつれ、真っ白な荒野に重苦しい緊迫感がみなぎっていく。
「煌路……!」
少女が呼吸も忘れて少年の背を見つめる。
武装した誘拐犯の前でも余裕のあった瞳が、かすかに揺らいだ気がした。
可憐な素顔にも冷や汗がつたい、のどが固唾をのんで音を鳴らす。
ごくり……!
途端、恐竜と少年が弾けるように飛び出した。
獰猛に吼えつつ大口を開ける恐竜へ、少年は光剣を振りかぶり高々と跳躍。
鋭い牙と光の刃がぶつかり閃光が走る。――と、機械の恐竜の頭が胴を離れ、ズズンッと轟音をあげて荒野に落下、大地を揺らし大量の砂けむりを巻きあげる。
「煌路……♪」
少女が思い出したように安堵の息を吐く。同時に――
「ば…馬鹿な……異星機動器が……このマスカレイド様の、式獣機が………」
恐竜の胴とともに誘拐犯も荒野にくずおれ、手からスイッチがこぼれ落ちた。
そんな光景を横目に煌路は荒野に着地すると、
「今、『マスカレイド』って言ったのかい?」
射殺すような目つきで、十数本の光剣を誘拐犯の頭上に出現させ、その身を囲むように荒野に突き立てた。さながら、罪人を閉じ込める牢獄のごとく。
「あいかわらず、デタラメな強さだな♪」
そこにメガネを手にした六音が、頬をゆるめて歩いてきて、
「ちょっとでも心配したこっちがバカみたいだぞ……って〝煌刃牢獄〟なんかやって、どうしたんだ次期当主サマ?」
「あの誘拐犯……自分を『マスカレイド』って言ったんだよ」
少女も眉をひそめて、
「マスカレイドって……あのテロリストのか? この20年近く、世界のあちこちで大きなテロ事件を起こして、司法省から〝重要災害指定〟を受けてる……」
「うん。今、日本に来ているらしいって葛葉が言っていたけど……え!?」
不意に倒れた首なし恐竜の背が開き、金属製の円柱が出てきた。
長さ2メートル、直径30センチほどの円柱はバチバチと紫の火花を放ち、表面のモニターにカウントダウンを表示する。
「あの火花ってプロジリウム爆弾!? あの大きさだと半径5キロは吹き飛ぶよ!」
煌路が誘拐犯の男をにらむが、牢獄で悲鳴をあげる姿に、男も爆弾のことを知らなかったと察して頭を切り替える。
(異元領域に爆弾を残して脱出……いや、そこまでの空間操作は、まだ無理だ。いま異元領域を解いたら、爆弾まで元の世界に行ってしまう。そうなったら……)
元の世界で、直径10キロの範囲が消し飛ぶ……そう考えて少年が唇を噛んだ時、首なし恐竜が立ちあがり再び暴れ出した。その背の爆弾のカウントダウンは、1分を切っている。
「くっ!」
少年が跳躍し光剣で爆弾に斬りかかる。が、爆弾は周囲に色違いの光の膜を何重も展開し、光剣と少年を弾き返した。
「複合電磁シールドか……!」
空中で一回転し体勢を立て直した少年は、音もなく荒野に着地して、
「この状況で、あれを1分以内に無力化するのは難しそわわわわわっ!?」
冷静な煌路に六音が喰ってかかり、えりを掴んでガックンガックン前後にゆらす。
「こんな時まで気どってんな次期当主! あたしはお前の愛人になって三食昼寝つきで一生グータラすんだから、こんなトコで死ぬなんてゴメンだぞ!!」
「君もいつも通りで安心したよ。ついでに、いっそここで《《昇天》》しちゃえって思うんだけどダメかな御条六音秘書見習い? まあ心配はいらないと思うけどね……ほら」
ムチウチになりそうに頭をゆすられる少年が、余裕の顔で空の一点を指さす。
パリィィィィィィィンッ
途端、さされた空の一点がガラスが割れるように砕け、白い空に黒い割れ目が口を開けた。同時に静謐な真っ白い荒野が、荘厳な白金色の草原へ塗り替わっていく。
「大丈夫ですか、コロちゃん!?」
空の割れ目からグレーの戦闘機が飛び出し、包容力あふれる少女の声が響いた。
「さすが姉さん、ピッタリのタイミングで来てくれたね♪」
姉弟のように育った従姉の声に、少年が相好を崩す。
「ああ、ウィス先輩が……〝本妻〟が来てくれたのか………」
六音も肩から力を抜き、深い安堵の息をもらす。と、〝本妻〟の操る戦闘機が変形し、20メートルを超える人型ロボットになった。
「ち…地球軍の、機甲衛士だと……!?」
うずくまる誘拐犯が顔をあげ、震える声をしぼり出した。同時に地球統一政府の軍で使用される可変式大型機動兵器が、長大な槍を手に首なし恐竜におどりかかる。
「コロちゃん、六音さん、ここは私が引き受けますから避難して下さい!」
「姉さん、そいつの背中を見て! そのプロジリウム爆弾をどうにかしないと!!」
機甲衛士が動揺したように一瞬かたまる。
「ならば、私の出番だな」
そのとき清爽な声が響き、空の割れ目から新たな航空機が飛び出す。
純白の機体の随所に鮮烈な青いラインを流し、左右の主翼に1つずつエンジンとプロペラを備えた双発機だ。爆弾の爆発まで、あと10秒。
「ウィステリア! 少しでいい、その出来そこないの玩具を足止めしろ!!」
双発機に呼びかけられ、機甲衛士が両腕から白金色の光の糸を射出、首が無いまま暴れる機体を縛りあげた。同時に双発機も変形し鋼の巨人となり、両肩のプロペラを回転させ周囲の空間を陽炎のように歪める。爆発まで、あと2秒。
「空間封鎖」
巨人の声と共に、爆弾が機械の恐竜ごと巨大なシャボン玉のような空間に封じこめられた。刹那、凄まじい爆音と禍々《まがまが》しい紫の爆炎が狂暴に産声をあげる。だが爆炎は球形の空間内に封殺され、草原の草1本をこがすこともなかった。
「ま…まさか……空間を隔離して、爆発を抑えこんだのか……ひぃっ!?」
光剣に囲まれる誘拐犯が、鋼の巨人がそばに着地した地響きで跳ね上がった。
へたり込みつつ恐る恐る見あげると、機甲衛士よりひと回り大きな、身長25メートルの機体が見える。
「こ…こいつは……」
スタイリッシュな純白の装甲に包まれた、スリムな機体だった。
随所の青いラインと両肩の優美なプロペラが、凛とした清涼感を振りまいている。
紋様のような各部の吸気孔も、端整に顔に彫刻された目鼻口とあわせ、颯爽とした気品を漂わせていた。
「まさか……いや、間違いねえ……!」
それは、伸びやかな肢体をスリムなスーツで包む粋人のような、
あるいは、純白の雲と青空のもとに風車がならぶ絶景のような、
はたまた、悠久の時を超える大理石の彫像のような、清爽なる鋼の巨人。
「おのれえ……悪魔よりも邪悪な、侵略者め……!」
誘拐犯が巨人の足元で、ガタガタ震えつつ悔しげに口走った。
「侵略者だと? ドミネイドと我らを混同しているのか? よく見るがいい」
白と青の巨人が《《生きているように》》鋼の目元を歪め、唇を動かして言った。
そして自らの胸に黄色く輝く、1本の角を生やす騎士の兜のような紋章を指し、
「我らプロテクスもドミネイド同様、司元生命体たるトロニック人であることは否定せぬ。だが、この紋に誓う我らの大義は、決してドミネイドとは相容れぬもの」
誘拐犯の頭上から、清爽な声が清々しい涼風のように流れてくる。
「この宇宙の無辜の生命をドミネイドから守るため、我らは宇宙の開闢以来、戦い続けているのだぞ」
「う…うるせえ……この、ブリキ野郎め……!」
「『野郎』とは、つくづく失礼な奴だな」
白と青の巨人が視線を冷たくする。と、25メートルの機体が光に包まれ縮んでいき、人間サイズになると光が弾け………妙齢の美女が現れた。
鮮烈な青い髪をヒザまでなびかせる、大理石の彫像のように端整で、凛とした清涼感を振りまく颯爽とした美女だった。
「………っ!?」
絶句する男の前に立つ美女は、身長180センチを超えるアスリートのような肢体を、純白のパンツスーツに包んでいる。
引きしまったウエストのくびれと長い脚を際立たせる、スリムなシルエットが凛々しいスリーピースのパンツスーツだ。
足元の銀色のウイングチップも、上品な光沢で颯爽とした艶姿を引き立てる。
「分かったか? 私は『野郎』ではないぞ」
美女が得意げにふんぞり返る。と、スカイブルーのベストと薄いブルーのシャツに強調される豊かな胸が、ブルルンッと盛大に跳ねた。ミッドナイトブルーのループタイとプロテクスの紋章を浮き彫りした銀のカメオも、大きく跳ね上げられる。
「な……な………」
腰を抜かしてへたり込む誘拐犯に、美女は涼やかな美貌に茶目っ気まじりの笑みを浮かべ、
「なんだ、知らなかったのか? 一定以上のレベルに達したトロニック人にとって、この星の生物に姿を変えるなど造作もないのだぞ」
小馬鹿にしたようでありつつも、不快感を感じさせぬ清爽とした声。
その美女のそばに、煌路と六音が駆け寄ってくる。
「助かったよ。ありがとう、デュロータ」
「うむ、お前たちも大事ないようで何よりだ。――む?」
再び地響きが起こり、突風が草原を吹き抜けた。
デュロータと煌路はわずかに身を揺らし、よろめいた六音は煌路にすがりつく。
3人のそばに20メートルを超える人型のロボット――機甲衛士が着地したのだ。
「それにしても緊急事態とはいえ、よく機体を貸してくれたね」
「なんにしても緊急事態だからな、よく説明すれば問題なかろう」
「………ん?」
デュロータとの会話に首をかしげた煌路が、機甲衛士を見あげ苦笑する。
「あとで、地球軍に謝らないといけないかな……」
少年の目に映るのは、背中の主翼をたたんで片ヒザをつく、直線的で武骨な機体。
だが多数のバーニアや鋭い槍、鋭角的な主翼が俊敏な動きをイメージさせ、〝疾風の騎士〟の異名にふさわしいシャープでスピーディーな印象を醸し出していた。
「お前の無事が最優先だったからな。ともあれ――」
デュロータも機甲衛士を見あげ、青い髪をかき上げつつ、
「煌路たちの位置の特定と、異元領域の上書き展開、ご苦労だったなウィステリア」
「デュロータさんこそ、おつかれ様でした。改めて、お礼を言わせていただきます」
機甲衛士の腹部ハッチが開き、奥の操縦席からロシア系の美少女が顔を出した。
その楚々としながらも神がかった美貌に、六音は今さらながら息をのみ、
「やっぱ〝本妻〟の貫禄だな……」
柔和なビスクドールを思わせる美少女は、歳は煌路や六音より少し上か。
慈愛に満ちたふんわりした笑みが、抗いがたい魅力で人の心を惹きつける。
「いや……〝本妻〟ってより〝女王様〟か……」
包容力あふれる大きな目と、白磁のように肌理の細かな白い肌は輝くばかり。
清淑な気品の薫るゴールドシルクに似たプラチナブロンドは、畏敬すら抱かせる。
そんな魅惑的な特徴の数々が、崇高な芸術品のように一体となり、しとやかなハーモニーを奏でて神がかった美貌を輝かせているのだ。
「コロちゃんと六音さんも、おつかれ様でした」
その美少女――ウィステリアは奥ゆかしく微笑むと、機甲衛士の操縦席から跳躍。
たおやかな天女のように9頭身のモデル体型が草原に舞い降り、壮麗な羽衣のごとき白金色の髪も足首にとどく毛先を草原に降ろす。
――しかし、たおやかな着地も豊満《《過ぎる》》胸が弾むのは防げなかった。
2つの爆乳がボリュームたっぷりに、ゆっさりとたわんで跳ねる。
その大きさと柔らかさと弾力は、はち切れそうな特大の水風船、あるいは甘ったるいバケツプリンが2つ、胸元に貼りつけられているよう。
「……あれが世界最《《胸》》の〝世界級〟………」
六音が煌路の腕にすがりついたまま半眼でつぶやいた。
ウィステリアを包むのは、ウェットスーツに似たグレーのパイロットスーツ。
その薄いゴムのような素材は、金髪少女の肢体に密着し、グラマラスな女体のなまめかしい曲線をあらわにしている。すなわち――
「どー見ても、17歳のカラダじゃないだろ……」
引きしまりつつも、ふくよかなヒップ。
内臓が入っているのを疑うほど、細く繊細なウエスト。
なにより頭の小さなモデル体型とはいえ、その頭より大きそうな特大のバストを、薄いゴムのようなスーツは必要以上に強調しているのだ。
「……あれで、あたしと1歳しか違わないとか……マジで反則だろ……!」
普段のウィステリアは、特製コルセットでバストの揺れを《《極力》》抑えていた。
しかし今はそれも無いため、ふたつの爆乳は自由奔放に揺れまくり、甘美で濃厚なフェロモンを盛大にまき散らす。
「……まさに、アタック・オブ・ザ・キラーウォーターメロン。トマトと違って台車がなくても暴れまくりだ……!!」
深い溜め息をもらす六音だが、彼女自身、決して貧乳なわけではない。
むしろ16歳の平均よりかなり大きいし、正直、形にはちょっと自信がある。
だが目の前にそびえるのは、特大ながらも清楚で気品に満ちた魅惑的なバスト。
「……どー考えても、あと1年であのレベルには行けないよな……まあ初めて会った時に、いろいろ勝てないって悟っちゃったけどな♪」
抵抗するのも馬鹿らしい、圧倒的な戦力差。
それを1年近く目の当たりにしてきた少女は、開き直って晴れ晴れとしていた。
「コロちゃん……ちょっと疲れていますか……?」
一方、いろいろ圧倒的な少女は、従弟を見てわずかに眉をひそめる。が、すぐにふんわりした笑みを戻すと、
「六音さんを守ろうと一生懸命がんばったんですね。偉いですよ、コロちゃん。立派な弟を持って、お姉ちゃんも鼻が高いです♡」
『お姉ちゃん』――それは『煌路』という字を『コロ』と読み違えて覚えた従姉を呼ぶのに、従弟が幼いころ使っていた言葉。
それが『姉さん』に変わったのは何時だったかと少年が考えていると……
「でしたら、がんばった弟にご褒美をあげないといけませんね♪」
姉は弟の頬を手のひらで優しく包むと、ゆっくりかがませる。そして自然な動作で、しかし、ありったけの愛しさを込めて、弟の額に薄桃色の唇を触れさせた。
「……ナニやってんですか、ウィス先輩?」
「ですから、がんばった弟にお姉ちゃんからのご褒美ですよ♡」
目元が引きつる六音と、ふんわりした笑みが満開のウィステリア。
「……おはようのチュー、いただきますのチュー、ごちそうさまのチュー、おやすみのチューときて、今度はご褒美のチューですかオネーサマ?」
目元につづき口元も引きつらせ、
「花が好きだからって『チューする唇』ばっか育てなくていいんですから、人前でそういうのやめませんか……いやまあ、人のいない所でやる方が、もっとヤバイ気もしますけど………」
「ご心配には及びませんよ、六音さん。いつも言っている通り、これは昔からの姉弟のスキンシップなのですから♡ よろしければ、六音さんもしてみますか?」
「……しませんよ、そんなこと!」
わずかに開いた間に、思春期の乙女の葛藤を感じたのは気のせいか。
「そうだよ、六音。これって僕と姉さんには、普通のあいさつだからね。それに、とっておきの『たいへんよくできましたのチュー』が残ってるし」
「幼稚園でノートに押すハンコか!? やっこい唇で毎日スタンプってか!? どこのアダルト幼稚園のサービスだ!!」
眉をつり上げる少女に、少年は不思議そうに首をかしげて、
「そんなに取り乱して、連日の誘拐で疲れているのかい? だったら早く帰って、昨日の軍人将棋の続きでもしながら休もうか」
「お前と指したら余計疲れるわ!! えげつないハメ技ばっか使いやがって!」
「『綿密な戦略』って言ってほしいな。あの軍人将棋は特別なものだからね、いつも僕も気合いが入るんだよ♪」
少年は誇らしげに胸を張り、
「〝太陽の消えた日〟って呼ばれる戦いで活躍した、僕のひいおじいちゃんは知っているよね? あの軍人将棋こそは、そのひいおじいちゃんが考案したスペシャル軍人将棋なんだよ♪」
「……それでか。19世紀のゲームに、なんで『衛星レーザー』とか『ナノマシン兵器』とか『エヴォリューター』なんて駒があんのかと思ったら……てかエヴォリューターを兵器扱いって、いーのか自分もエヴォリューターだったひいじいさんよ……」
得意満面な煌路と、渋面な六音。するとウィステリアがニコニコしながら、
「でしたら六音さん、『水代家スペシャル一生ゲーム・スーパーVRバージョン』もありますよ。ひいおじいさまの一生をつづるべく製作された、最新のゲームです♪」
「いやいやいや、アレってヤバ過ぎるでしょう!! 特に戦争イベントなんて爆撃の衝撃とか内臓ぶちまけた死体とか、リアル過ぎてショック死するレベルですよ!!」
悪夢にうなされるように血相を変える六音。
「……でも、やばいイベントの合い間に出てくる『〝大きくなったら結婚しようね〟の誓約書』とか『親に理解があり過ぎる』とか『幼馴染とデキちゃった婚』とかの、妙にかたよったイベントの数々……創設者サマの一生って、一体ナニが………」
六音がやつれた顔になる一方、デュロータが目を輝かせ、
「〝太陽の消えた日〟………我らトロニック人が言うところの〝偽神戦役〟か。かの大戦の英雄にちなんだ遊戯とあらば興味深いな。私も嗜んでみたいものだ」
「却下だ却下! ジャパニーズ〝HENTAI〟を宇宙にまで広める気か!!」
六音が疲れを振り払うように叫んだ。――その時、
「〝呪われた地〟に巣食う悪魔の遣いどもが、盛りやがって……!」
光剣の牢獄でへたり込んでいた男が、うなるように言った。
「コロちゃん、この人が今回の誘拐事件の犯人ですか? でも、どうしてこんな厳重な対応を……?」
「本人の言葉によると、彼は『マスカレイド』だそうだよ、姉さん。それで14年前の〝あの事件〟を起こしたエヴォリューターを憎んでいるんだってさ」
「え……」
眉をひそめて牢獄の男を見るウィステリア。――直後、男の焼けこげた目出し帽がバラバラになって荒野に落ち、誘拐犯《《以外》》の全員が目をみはる。
「……もう一度、教えてくれるかな」
やがて煌路が視線を鋭くして、低い声をしぼり出す。
「どうして、そこまでエヴォリューターを憎むんだい………《《地球人じゃない》》君が」
あらわになった誘拐犯の額には、地球人には無い第三の目があった。
六音も不審の目を向けて、
「地球に不法侵入したか……さもなきゃ、最近問題になってる『異星難民』ってヤツか? 故郷の星をドミネイドに滅ぼされて宇宙をさまよったあと、地球に流れついた異星人………」
「なんだと? ふざけるな、俺は地球人だぞ……そうだ、地球人……い、いや……俺は……地球……この星、の……い、いや……おれ、は……わたし、は………」
瞳をうつろにして震え出す誘拐犯に、煌路が眉をひそめつつ、
「どうしたんだい? とにかく元の世界に帰って――うっ!?」
不意に風景が塗り替わり、白金色の草原が、真っ黒な峡谷地帯に変わった。刹那、真っ黒な空から白銀に輝く竜巻が降りそそぎ――
「……そうだ、私はこの星で見つけぶぼぁっ!?」
瞳に光をもどした誘拐犯を、光剣の牢獄をふき飛ばし竜巻がのみ込んだ。
「六音!!」
鋭い烈風が吹きあれる中、煌路がかばうように六音を抱きしめ、デュロータとウィステリアも顔を覆うように身がまえる。――が、白銀の竜巻と黒い異元領域は《《誘拐犯もろとも》》すぐに消えてしまう。そして――
「……え? ここは………」
《《雪山の舗装路で》》六音を開放しつつ煌路がつぶやいた。が、自分たち4人が元の世界に帰ってきたことに気づくと、ほっと胸をなでおろし、
「よかった。みんな、無事みたいだね――うわっ!?」
星のまたたく夜空の下、煌路たちの頭上を1機の戦闘機が飛び去っていった。
烈風と衝撃に身を硬くする4人の中で六音以外の3人は、夜闇に溶けこむように遠ざかっていく戦闘機から、鋭利で強烈な重圧を感じて目元をも硬くする。
「ドミネイドの、戦闘機……!!」
黒曜石のように深い黒色の戦闘機をにらみつつ、煌路が言った。
戦闘機の翼には、左右にツノを生やす鬼の顔のような闇色の紋章があった。
「よっぽど鈍感か、よっぽどバカかのどっちかだな。こんな敵地の奥深く、それも地球軍の大型拠点があるトコに飛んでくるなんて♪」
六音が夜闇に消えた影を追うように、夜空を見あげつつ茶化して言う。……かすかに震える両腕を、すがりつくように煌路の左腕に絡めながら。
「まさに飛んで火にいる夏の虫、地雷原でシャル・ウィー・タップダンス……ん?」
舗装路の先でヘッドライトが光り、数台の自動車が猛然と走ってくる。
20メートル超の車体に8つの球体車輪を持つ自動車たちは、荒っぽくドリフトをかけ煌路たちを囲んで停車すると、
「強力なドミネイドの反応があったが4人とも無事か!?」
切羽つまった声をあげ、20メートルを超える鋼の巨人に変形した。
デュロータが《《自分と同じ》》紋章を輝かせる巨人たちを見やり、
「全員大事ないぞ、我が同胞たる元使たちよ。ドミネイドはすでに――む?」
不意に夜空の星が消え、夜闇が深まった気がした。直後、サーチライトの光が巨人に囲まれる小人たちに降りそそぎ、煌路は目を細めて頭上を見ると、
「お迎えが来たみたいだね」
全長100メートルを超える、巨大な輸送機が夜空を覆っていた。
ゴウン、ゴウン、と重い駆動音を轟かせ、サーチライトと翼端灯を光らせながら。
護衛の戦闘機たちも翼端灯を点滅させ、輸送機と同様ゆっくり降下してきている。
どの機体も翼端灯以上に、騎士の兜のような黄色い紋章を輝かせながら。
「……ん? あの機体は……」
よく見ると1機だけ、地球軍の所属をしめすマークをつけた戦闘機があった。
その機体から若い女の声がキンキン響く。
《このサボリ魔ども! わき目もふらず帰って来いって水仙がオカンムリだぞ!》
空からの声に祖母の名を聞き、煌路が青ざめる。
祖母の言いつけを――軍のテストを御破算にして、お仕置きされると思い出して。
《分かったら、さっさと貨物室に乗り込め! 無断使用の機甲衛士も忘れるなよ!》
じわりじわりと降下してきて、視界を埋めていくロービジカラーの巨大輸送機。
その巨体から降り注ぐのは、腹に響く轟音と、全身をすり潰すような圧迫感。
それらが、少年には祖母の気持ちの代弁に思えてしまい……
「……………………………………」
鋼の恐竜さえ斬り伏せた少年は、冷たい汗で全身をぬらしていた………