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おそらくは、彼の平穏な世界征服   作者: あおいろ
第一話 おそらくは、彼の平穏な世界征服
1/43

プロローグ

「テロリストさん、さっさとあたしを解放した方がいーぞ♪」


 薄暗い大型コンテナの中で、手足をしばられゆかに寝かされた少女が笑顔で言った。


「あたしの美しさに天にものぼる気持ちなのはイイけど、天にされちゃうのはイヤだろ♪」


 としは10代後半の、レンズの大きなメガネをかけた少女だ。

 腰に届く黒髪を1本のみにして、いろのブレザーとミニスカートの学生服を着ている。


「そう……グズグズしてると横取りされた獲物あたしを取り返しに、怒り狂った《《エロ》》リストが〝《《痴情》》最大の作戦〟でんできちゃうぞ♪」 

「うるせえ! 死にたくなけりゃ黙ってろ!!」


 雪山のそうを走るトレーラーに積まれたコンテナの中で、少女の前には目出めだぼうと軍の特殊部隊のような黒装束くろしょうぞくを着て、大型銃で武装した屈強くっきょうな男が10人以上。

 見るからに凶悪なテロリストたちが拘束こうそくされて横たわる少女をかくするさまは、絵に描いたような絶体絶命の誘拐ゆうかい現場げんばである……が、


 ザンッ!!


 不意にコンテナがトレーラーごと左右まっぷたつにかれ、両断されたコンテナの左半分では男たちがすくみ、右半分では少女がちゃすような声で、


「〝指斬ゆびきり〟げ~んま~ん、ウ~ソついたら、まっぷたひゃわっ!?」


 縛られた少女を誰かが抱えコンテナから飛び出した。直後、両断されたトレーラーが夕日に染まる路上でコンテナもろとも爆発。雪山に伸びるそうに夕日より鮮やかな2つの爆炎の花が咲き……


「無事かい? 六音りくね


 かすかに揺れるボーイソプラノが、優しくわたるように少女の耳に流れ込む。

 雪化粧ゆきげしょうをした山岳さんがくたいの舗装路に、夕日と燃え盛る爆炎に照らされる少年が少女をお姫様だっこして立っていた。


「まさか軍の基地にいる時をねらって君を誘拐するなんてね。こんな計画を立てられるのは、やっぱり……」


 としは少女と同じ10代後半の、端正たんせいかおちの少年だ。

 つやのある黒髪とおだやかな目元からは生来せいらいの〝はな〟が、優美な鼻梁びりょうと凛々《りり》しくめられた口元からは堂々とした〝かく〟が感じられる。

 そんな〝特別〟にいろどられる顔はやわらかなオレンジ色の夕日に照らされ、柔和にゅうわな中に深い〝ひん〟をも感じさせる魅力をはなっていた……が、


「……とにかく、大丈夫なんだよね六音? ケガは無いんだよね?」


 魅力に満ちた端正な顔も、今は腕の中の少女を心配して曇っている……しかし、


「遅いぞ煌路こうじ♪ 待ってる時間にカップラーメンでも作れってか?」

「……次は、コーンフレークの用意が出来るまでに助けに来るよ」


 イタズラっぽく笑む少女に、少年はいきしつつ脱力し、


「でも、僕だって軍の新兵器のテストを中止にさせて助けに来たんだよ? おばあちゃんにお仕置しおきされるのを覚悟してね」


 グレーのパイロットスーツを着た少年はまゆをひそめ、


「いつも言っているよね? 軽々しく僕たちのそばを離れないでって。今週だけで未遂みすいも含めて、3回目の誘拐なんだからさ」

「よ~し、だったら一生くっついててやるぞエロリスト♪ つーわけでメチャクチャ寒いから、さっさと帰って契約けいやくしたがい布団の中であたしをあたためるがいい♪」

「そんな契約これっぽっちも覚えがないよ!!」


 真冬の雪山で《《笑顔でガタガタ震える》》少女に、少年は〝はな〟も〝かく〟もかなぐり捨てていきき、


「そんなに寒いならそこのトレーラーを燃やしている火に放り込んであげようか!? きっと《《天にも昇る》》あったかさだよ!!」

「ざけんな布団じゃなくこの世から《《昇天》》しちゃうだろ!! 男ならセント・《《エロ》》モス・ファイアーで女をあっため――ん?」


 何かに気づいた少女がそうで燃え盛る爆炎に目をやる……と、炎の中から男が1人、げた体を引きずって出てきて……


「ぐうう……忌々《いまいま》しい、ヒューマンアニマルめ……!」


 目出めだぼうから怒りにギラつく目をのぞかせる男に、少年は再び〝かく〟をまとい、


「アニマルなんて失礼だね。僕たちはれっきとした人間、それも学名ホモ・エクセルシオール……通称〝エヴォリューター〟と呼ばれる、従来じゅうらいの人類を超える様々な能力を持った新人類だよ。間違えないでほしいな」

「ふざけるな! 刑務所で罪人として処分されるか、研究所で実験体として処分されるか、軍隊で兵器として使つかつぶされて処分されるのが当然の人間に似た動物(ヒューマンアニマル)が!!」


 少年は小さく溜め息して、


「ひどい言われようだね。国民はみんな平等の民主主義はどこに行ったのかな?」

「テメエが平等を言いやがるか! 〝純粋じゅんすい人類じんるい〟を排除してヒューマンアニマルしか採用しない差別財団のボンボンが!!」

「〝純粋人類〟……過激な反エヴォリューター主義者は、普通の人間をそう呼ぶんだったね」


 かすかに顔をしぶくして、


「でも、誤解があるみたいだね。我がミズシロ財団は、全ての人へ採用のもんを開いているよ。ただ、採用審査を〝平等〟に実施じっしして優秀な人を選んだら、結果としてエヴォリューターばっかりになっちゃうだけだよ」


 少女をお姫様だっこしたまま軽々と肩をすくめ、


「それにさ、本当に『差別』をしているのは、うちの財団系列《《以外》》の企業じゃないのかな。なにしろエヴォリューターってだけで、どんなに優秀でも……むしろ、優秀《《だからこそ》》不採用になっちゃうんだからね」

「うるせえ! それは『差別』じゃなく当然の『区別』だ! エヴォリューターこそ人類の敵なんだからな!!」


 少年は眉をピクリとさせて、


「〝ドミネイド〟が地球に現れてから数十年……なのに人類の本当の敵が何なのか、いまだに理解していない人が多いよね」


 静かにたたずむむ少年の威厳に満ちた〝かく〟に、誘拐犯の男が息をのんだ。


「今日だってその敵と戦うための新兵器のテストがあったのに、こんな誘拐事件のせいで中止になっちゃったよ。そろそろ君たちも、事実を認めるべきじゃないのかな」


 淡々と話しつつ、〝はな〟にあふれる少年が少女を抱えたまま一歩踏み出す。 


「内にはエヴォリューターと普通の人たちの対立、外には宇宙からの敵の脅威。まさに内憂外患ないゆうがいかんの今は、地球にとって大きな時代の変わり目なんだよ」


 厳粛げんしゅくな〝ひん〟に気圧けおされ誘拐犯があとずさる。


「そして『時代が変わる』ってことは『常識が変わる』ってことだからね。そんな時に〝古い常識〟でしか物事ものごとの判断をできない人が、企業や社会の発展に貢献こうけんできると思うのかい?」

「だ…黙りやがれ裏切り者が!」


 悠然ゆうぜんと歩いてくる〝特別〟な少年に、ジリジリあとずさる誘拐犯はしぼすような声で、


「その宇宙からの敵とお前の財団は、つるんでやがるんだろうが!!」

悪質あくしつな言いがかりだね。うちの財団と協力関係にあるのは――」

「うるせえ! ヒューマンアニマルなんざ1匹残らずブッ殺してやらあ! らいやがれ!!」


 誘拐犯が右手に握った何かのスイッチを押した。たん、道路のアスファルトに雪の結晶のような大きな光の紋様もんようが浮かび、


「あれって……さっき六音が誘拐された時の転送術……?」


 煌路のけわしい視線の先で、紋様からすようにして高さ30メートルを超える真紅にめられた金属製の直方体が現れ……


「さあ起動しやがれ〝式獣機しきじゅうき〟!!」


 男が再びスイッチを押すと、直方体がヴゥゥゥンと低い音を上げて表面装甲をこまかく分解させ、内部のさいな機械部品ともども複雑な伸縮とスライドを繰り返す。そうしてブロック玩具を組み直すように金属製の直方体は形を変えていき――


「うげ、あのティラノザウルスみたいなデカブツって……」


 お姫様だっこされる少女の目に映るのは、溶岩石ようがんせきのごときいびつな装甲におおわれ、長大なや手足の鋭いつめ、口をめる凶悪な牙で荒々《あらあら》しく周囲をあつする機械の巨体。

 関節のすきでは無数の細かな部品がミミズの大群がうごめくように細動さいどうし、ギシュルギシュルと耳障みみざわりな音をらしている。

 それは全長30メートルを越える、肉食恐竜をした真紅のロボットだった。

 

 ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ


 巨大な恐竜の金属をこすわせるような咆哮ほうこうが、ものがなしい夕暮れの雪山の空気を震わせる。が、少年と少年にお姫様だっこされる少女は平然として、


「おい、あのガラクタってまさか……」

「君の考えている通りの代物しろものだと思うよ。あんなに大きいのは珍し――おっと」


 突進してきた機械の恐竜を少年は少女を抱えたままジャンプして避ける。が、恐竜は牙を、爪を、長い尾を振り回し、路面のアスファルトやどうわきの木々を吹き荒れる嵐のように破壊しながら少年を追ってくる。


「ぐはははは! 逃げるだけかクソガキめ! さすがの〝地球三大エヴォリューター〟も外宇宙がいうちゅうの超兵器にゃかなわねえか!!」

「やっぱり〝せいどう〟か……密造していた会社はつぶしたのに、未だに各地のテロ事件で使われているんだよね……」

「当然よお! 俺らの活動を支える〝支援者〟は宇宙にまで広がってんだ!!」

「〝支援者〟だって? それじゃ、やっぱり……」


 眉をひそめつつも少年は恐竜の攻撃をかろやかにつづける……お姫様だっこする少女を、華麗かつ豪快なアクロバットで縦横じゅうおう無尽むじんに振り回しながら。


「ふひゃぁぁっ!? こ…こら煌路! もっと丁寧ていねいあつか――きゃひん!?」

「しゃべっていると舌を噛むよ。それにしてもいくら山奥でも、このままじゃ被害が広がるばっかりだね……よし!」


 機械の爪や尾を避けつつ少年が瞳を金色に輝かせた――瞬間、雪と夕日におおわれる山岳地帯の風景が、壁に映した映像を切り替えるように静謐せいひつしろい荒野へ変化する。


「……ハッ、いきなり〝異元いげん領域りょういき〟をやっちゃうか♪」

「うん、僕が作ったこの亜空間なら、いくら壊しても元の世界に被害は無いからね」


 見渡す限りの風景が白い荒野に塗り替わると、少年は恐竜から離れて着地し少女を荒野に下ろす。そして少女の手足を縛るロープを右手に出現させた光の剣でり、


「それじゃあ、ちょっと離れていてくれるかな六音。僕は、あれの相手をするから」


 少年が温厚おんこうな雰囲気を一変させ、鋭い視線を機械の恐竜へ向ける。

 片や誘拐犯は風景の変化にまどいつつもムリヤリ声をあららげ、


「ちょ…調子に乗るなよ、クソガキが! 僕は空間操作まで出来る地球最強のエヴォリューターだから無敵だってか!?」

「そんなこと思っていないよ。地球最強《《程度》》で調子に乗れるほど、生易なまやさしい家庭環境で育たなかったからね」


 気負きおいもおごりもない、自然体な少年の声。


「ふ…ふざけるなヒューマンアニマルが! 行け〝式獣機〟! 全ては純粋なる人類のために!!」

「純粋なる人類のために……『純人教団』こと『純粋人類教団』の標語ひょうごだね。過激な〝純粋人類主義者〟のカルト教団にして、エヴォリューターへの破壊活動をかえす世界的なテロ組織の」


 機械の恐竜へ泰然たいぜんと光剣を構えつつ、少年は感情を押し殺した声で、


「そんなにエヴォリューターが憎いのかい? 様々なのうを持っていても、僕たちだって君たちと同じ人類なんだけどな」

「ほざくな悪魔のつかいめ! 知らねえとは言わせねえぞ! 14年前の惨劇さんげきを!!」


 少年が目元をピクリとさせ、


「14年前……あの〝たい曙光しょこう〟と呼ばれる事件のことかい?」

「そうだ! たった1人のヒューマンアニマルが一晩ひとばんで世界の人口じんこうの半分を……40億の人間を殺した史上最悪の惨劇だ!! 人類という種を葬る寸前に……〝たい〟に追い込んだ史上最凶の暴挙ぼうきょだ!!」

「確かに不幸な事件だったけど……」


 少年は瞳の感情を消し、


「事件を起こしたエヴォリューターも、自分の異能に巻き込まれて死んじゃったからね。政府からも、そう発表されていたよね」

「だとしてもヒューマンアニマルがいる限り世界は平和にならねえ!!」


 男は瞳に狂気をともし、


「だからケダモノどもは皆殺みなごろしにして世界をあるべき姿にただすんだ! それが我らが巫女みこたる詠姫様うたひめさまが〝おげ〟でしめす救済……〝御一新ごいっしん〟なんだ!!」

詠姫様うたひめさまに、御一新ごいっしんか……」 


 少年がほのかに苦笑する一方、男は狂気を加速させ、


「14年前だけじゃねえぞ! 今じゃケダモノどもは人類に戦争ふっかけてんじゃねえか! 悪魔より邪悪な宇宙人のさきになって!!」

「それも誤解だね。全てのエヴォリューターが〝降順こうじゅんへい〟に……ドミネイドの尖兵せんぺいになって地球侵攻にたんしているわけじゃないんだからさ」


 淡々とさとすような声。


「大切なものを守るため、地球側ちきゅうがわでドミネイドと戦っているエヴォリューターだって大勢いるんだよ。僕や、僕の姉さんみたいにね」

「悪魔のつかいなんざ信用できるか! すぐに人類を裏切るに決まってる!!」

「……そんな社会の偏見へんけんが、多くのエヴォリューターをドミネイドがわに走らせているとは思わないのかい……?」


 淡々とした声が冷淡な声になり、


「ひとつの事実として、14年前の事件の結果や、降順兵のことを否定する気は無いよ。でも、それを『口実こうじつ』に全てのエヴォリューターを非難するのは、あの事件で傷ついた人や、今も地球側で戦っているエヴォリューターへの冒涜ぼうとくでしかないよ」


 冷ややかな声に、一帯いったいの空気までが冷やされるよう。


「それに、もうひとつ言わせてもらうとさ……」


 少年は静かに息を吐くと、無表情に一歩踏み出し……



「《《怒っているのが》》、《《自分だけだなんて思わない方がいいよ》》」



 巨大な津波のような重圧で白い荒野を震撼しんかんさせた。


「なにしろ君は、軍のテストよりも、おばあちゃんの言いつけよりも大切な、僕の〝友達〟を傷つけようとしたんだからね……!」


 とうの重圧は、誘拐犯をも心臓が凍ったように震わせ、


「こ…煌路……ひゃうっ!?」


 ほおを染める少女のメガネを吹き飛ばし三つ編みをほどけさせる。と、愛嬌あいきょうのあるドングリまなこと腰まで伸びるつややかな黒髪が魅力的な、日本人形のようにれんな美少女が現れた。


「こ…こう…じ……」


 その美少女の見る先で、恐竜は牙をきつつズシン、ズシンと一足ひとあしごとに荒野を震わせて進み、少年は光剣1本を手にザッ、ザッと整然と荒野を踏みしめていく。


 かたや、全長30メートルを超える機械の肉食恐竜。

 かたや、身長170センチをようやく超えるなまの少年。


 絶望的な差のある両者が距離をめていくにれ、真っ白な荒野に重苦おもくるしい緊迫感きんぱくかんみなぎっていき……


「煌路……!」


 少女が呼吸も忘れ少年の背を見つめる。

 武装した誘拐犯の前でも余裕のあった瞳が、かすかにらいだ気がした。

 れんな素顔にも冷や汗がつたい、のど固唾かたずをのんで音を鳴らす……


 ごくり……!


 途端、恐竜と少年がはじけるように飛び出した。獰猛どうもうえつつ大口おおぐちを開ける恐竜へ少年は光剣を振りかぶり高々《たかだか》と跳躍ちょうやくし、鋭い牙と光のやいばがぶつかり閃光せんこうが走る――と、機械の恐竜の頭が胴を離れ、ズズンッと轟音ごうおんを立てて荒野に落下、大地を揺らし大量の砂煙すなけむりを巻き上げる。


「煌路……♪」


 少女が思い出したように安堵あんどの息を吐く。同時に――


「ば…馬鹿な……〝異星機動器〟が……このマスカレイド様の、〝式獣機〟が……」


 恐竜の胴と共に誘拐犯も荒野にくずおれ、手からスイッチがこぼれ落ちた。そんな光景をよこに煌路は荒野に着地する……と、


「今、〝マスカレイド〟って言ったのかい?」


 ころすような目つきで十数本の光剣を空中に出現させ、誘拐犯をかこむように荒野に突き立てた。さながら、罪人を閉じ込める牢獄ろうごくのごとく。


「あいかわらずデタラメな強さだな♪」


 そこにメガネを手にした六音がほおゆるめて歩いてきて、


「ちょっとでも心配したこっちがバカみたいだぞ……って〝煌刃牢獄こうじんろうごく〟なんかやって、どーしたんだ次期当主サマ?」

「あの誘拐犯……自分を〝マスカレイド〟って言ったんだよ」


 少女も眉をひそめて、


「〝マスカレイド〟って……あのテロリストのか? この20年近く、世界のあちこちで大きなテロ事件を起こして、司法省から〝重要災害指定〟を受けてる……」

「うん。今、日本に来ているらしいって葛葉くずはが言っていたけど……え!?」


 突如とつじょ、荒野に倒れている首なし恐竜の背に金属製の円柱えんちゅうた。長さ2メートル、直径30センチほどの円柱はバチバチとむらさきの火花を放ち、表面のモニターにカウントダウンを表示する。


「あの火花……プロジリウム爆弾!? あの大きさだと半径5キロは吹き飛ぶよ!」


 誘拐犯の男をにらむ煌路だが、牢獄ろうごくで悲鳴を上げる姿に男も爆弾のことを知らなかったとさっすると頭を切り替え、


(〝異元領域〟に爆弾を残して脱出……いや、そこまでの空間操作はまだ無理だ。今〝異元領域〟をいたら爆弾まで元の世界に行ってしまう。そうなったら……)


 元の世界で直径10キロのはんが消し飛ぶ……そう考えて少年が唇を噛んだ時、首なし恐竜が立ち上がり再び暴れ出した。その背の爆弾のカウントダウンは1分を切っている。


「くっ!」


 少年がジャンプして光剣で爆弾に斬りかかる。が、爆弾は周囲に色違いろちがいの光のまくいくにも展開し光剣と少年をはじかえした。


複合ふくごうでんシールドか……!」


 空中で一回転いっかいてんし体勢を立て直した少年は、音もなく荒野に着地して、


「この状況で、あれを1分以内に無力むりょくするのは難しそわわわわわっ!?」


 冷静な煌路に六音が喰ってかかり、えりつかんでガックンガックン前後にらす。


「ナニ気取きどってんだナンとかしろ次期じき当主とうしゅ! あたしはお前の愛人になって三食さんしょくひるつきで一生グータラすんだから、こんなトコで死ぬなんてゴメンだぞ!!」

「君もいつも通りで安心したよ。ついでに、いっそここで《《昇天》》しちゃえって思うんだけどダメかな御条ごじょう六音りくね《《秘書見習い》》? まあ心配はいらないと思うけどね……ほら」


 ムチウチになりそうに頭をすられる少年が、余裕の顔で空の一点をす。


 パリィィィィィィィィィンッ


 直後、された空の一点がガラスが割れるようにくだけ、白い空に黒いが口をけた。同時に静謐せいひつしろい荒野が、荘厳そうごん白金色はくきんいろの草原へわっていき……


「大丈夫ですか、コロちゃん!?」


 空の割れ目からグレーの戦闘機が飛び出し、包容力ほうようりょくあふれる少女の声が響いた。


「さすが姉さん、ぴったりのタイミングで来てくれたね♪」


 姉弟のように育った従姉いとこの声に少年が相好そうごうを崩し、


「ああ、ウィス先輩が……〝本妻ほんさい〟が来てくれたのか………」


 六音も肩から力を抜き、深い安堵あんどの息をらす。と、〝本妻〟の操る戦闘機が変形し20メートルを超える人型ロボットになり、


「ち…地球軍の、こうえいだと……!?」


 うずくまる誘拐犯が顔を上げ、震える声をしぼした。同時に地球統一政府の軍で使用される可変式大型機動兵器が、長大なやりを手に首なし恐竜におどりかかり、


「コロちゃん、六音さん、ここは私が引き受けますからなんして下さい!」

「姉さん、そいつの背中を見て! そのプロジリウム爆弾をどうにかしないと!!」


 機甲衛士が動揺どうようしたように一瞬(かた)まる。


「ならば、私の出番だな」


 そのとき清爽せいそうな声が響き、空の割れ目から新たな航空機が飛び出す。純白の機体の随所ずいしょ鮮烈せんれつな青いラインを流し、左右の主翼に1つずつエンジンとプロペラをそなえた双発そうはつだ。爆弾の爆発まで、あと10秒。


「ウィステリア! 少しでいい、その出来できそこないのがんあしめしろ!!」


 双発機に呼びかけられ、機甲衛士は両腕から白金色の光の糸を射出しゃしゅつし首が無いまま暴れる機体をしばげた。同時に双発機も変形しはがねの巨人となり、両肩のプロペラを回転させ周囲の空間を陽炎かげろうのようにゆがめる。爆発まで、あと2秒。


空間くうかんふう


 巨人の声と共に、爆弾が機械の恐竜ごと巨大なシャボン玉のような空間にふうめられた。せつすさまじい爆音と禍々《まがまが》しいむらさきの爆炎が狂暴に産声うぶごえを上げる。だが爆炎は球形の空間内に封殺ふうさつされ、草原の草一本くさいっぽんがすこともかった。


「ま…まさか……空間をかくして、爆発をおさんだのか……ひぃっ!?」


 光剣に囲まれる誘拐犯が、鋼の巨人がそばに着地したひびきでがった。へたり込みつつ恐る恐る見上みあげると、機甲衛士より一回ひとまわり大きな身長25メートルの機体が見える。


「こ…こいつは……」


 スタイリッシュな純白の装甲に包まれ、随所ずいしょの青いラインと両肩のゆうなプロペラがりんとした清涼せいりょうかんくスリムな機体だった。

 紋様もんようのような各部の吸気孔きゅうきこうと顔に彫刻された端整たんせい鼻口はなくちも、颯爽さっそうとした気品をただよわせている。


「ちくしょう……現れやがったか……!」


 それは、びやかなたいをスリムなスーツで包む粋人すいじんのような、

 あるいは、純白の雲と青空のもとに風車がならぶ絶景ぜっけいのような、

 はたまた、悠久ゆうきゅうの時を超えるだいせき彫像ちょうぞうのような、清爽せいそうなる鋼の巨人。


「悪魔よりも邪悪な、侵略しんりゃくしゃめ……!」


 誘拐犯が巨人の足元でガタガタ震えつつくやしげに口走くちばしった……対して、


「侵略者だと? ドミネイドと我らを混同しているのか? よく見るがいい」


 白と青の巨人が《《生きているように》》鋼の目元を歪め、唇を動かして言った。そしてみずからの胸に黄色く輝く、ひたいに1本のつのやす騎士のかぶとのような紋章をし、


「我らプロテクスも、ドミネイド同様にげん生命体せいめいたいたるトロニック人であることはていせぬ。だが、このもんちかう我らの大義たいぎは、決してドミネイドとはあいれぬもの」


 誘拐犯の頭上から、清爽せいそうな声が清々《すがすが》しい涼風すずかぜのように流れてくる。


「この宇宙に無辜むこの生命をドミネイドから守るためにこそ、我らは宇宙の開闢かいびゃく以来、永劫えいごうとも言える時を戦い続けているのだぞ」

「う…うるせえ……この、ブリキ野郎め……!」

「『野郎』とは、つくづく失礼な奴だな」


 白と青の巨人が視線を冷たくする。と、25メートルもの機体が光に包まれちぢんでいき、人間サイズになると光がはじけ……足首までなびく鮮烈な青い髪と大理石の彫像のように端整なぼうから、凛とした清涼感を振りまく颯爽さっそうとした美女が現れた。


「……っ!?」


 絶句ぜっくする男の前に立つのは二十歳はたちほどの外見の、身長180センチを超えるびやかなたいを純白のスリーピースのパンツスーツで包む美女。

 スリムなシルエットが凛々《りり》しいスーツはまったウエストのくびれと長いあしきわたせ、足元では銀色のウイングチップが上品な光沢で颯爽さっそうとした艶姿あですがたを引き立てていた。


「分かったか? 私は『野郎』ではないぞ」


 美女が得意げにふんぞり返る。と、スカイブルーのベストと薄いブルーのシャツに強調される豊胸がブルルンッと盛大にね、ミッドナイトブルーのループタイとプロテクスの紋章をりした銀のカメオも大きくがる。


「な……な………」


 腰を抜かしてへたり込む誘拐犯に、美女はすずやかな美貌をちゃまじりにませ、


「なんだ、知らなかったのか? 一定以上のレベルに達したトロニック人にとって、この星の生物に姿を変えるなどぞうも無いのだぞ」


 小馬鹿こばかにしたようでありつつも、快感かいかんを感じさせぬ清爽せいそうとした声。その美女のそばに煌路と六音がってきて、


「助かったよ。ありがとう、デュロータ」

「うむ、お前もだいいようで何よりだ――む?」


 再び地響きが起こり、突風が草原を吹き抜けた。デュロータと煌路はわずかに身をらし、よろめいた六音は煌路にすがりつく。3人のそばに20メートルを超える人型ロボット――機甲衛士が着地したのだ。その機体を見上げつつ煌路はとなりのデュロータへ、


「それにしても非常事態とはいえ、よく機体を貸してくれたね」

「なんにしても非常事態だからな、よく説明すれば問題なかろう」

「………ん?」


 どこか噛み合わない会話に首をかしげる煌路だったが、やがて苦笑しつつ改めて機甲衛士を見上げ、


「あとで、地球軍にあやまらないといけないかな……」


 少年が見るのは、背中の主翼をたたんで荒野に片ヒザをつく直線的でこつな機体。だが多数のバーニアや鋭いやり鋭角的えいかくてきな主翼が俊敏しゅんびんな動きをイメージさせ、〝疾風しっぶうの騎士〟の異名いみょう相応ふさわしいシャープでスピーディーな印象をかもしている。


「何よりも、お前の無事が最優先さいゆうせんだったからな。ともあれ――」


 デュロータも機甲衛士を見上げ、青い髪をかき上げつつ、


「コウジの位置の特定と〝異元領域〟のうわき展開、ろうだったなウィステリア」

「デュロータさんこそ、おつかれ様でした。改めて、お礼を言わせていただきます」


 しゃがんでいる機甲衛士のふくハッチが開き……清淑せいしゅくな気品にあふれた、ロシア系のかみがかったぼうを輝かせる少女が操縦席から姿を見せる。その美しさに今さらながらに圧倒された六音は、煌路の腕にすがりついたまま息をのみ……


「やっぱ、〝本妻〟の貫禄かんろくだな……」


 神の手になる美のしんのごとき少女は、としは煌路や六音より少し上か。

 深いあいに満ちたおんな笑みが、うきばなれした魅力で人の心をきつける。


「いや……〝本妻〟ってより、〝女王様〟か……」 


 包容力あふれる大きな目と、はくのように肌理きめこまかな白いはだは神秘のほう

 ゆうこうなゴールドシルクに似たプラチナブロンドは、深いけいすらいだかせる。

 そんなわくてきな特徴の数々が崇高すうこうな芸術品のように一体となり、しとやかなハーモニーをかなでて神がかった美貌を輝かせているのだ。


「コロちゃんと六音さんも、おつかれ様でした」


 その少女――ウィステリアは奥ゆかしく微笑むと、機甲衛士の操縦席からかろやかに跳躍ちょうやく。9頭身のモデル体型がたおやかな天女のように草原にり、壮麗そうれい羽衣はごろものごとき白金色の髪も足首に届く毛先を草原に降ろす。


 ――しかし、たおやかな着地も豊満《《過ぎる》》胸がはずむのはふせげなかった。


 2つの爆乳がボリュームたっぷりに、ゆっさりとたわんでねる。その大きさとやわらかさと弾力は、はち切れそうな特大の水風船みずふうせん、あるいはあまったるいバケツプリンが2つ、胸元むなもとけられているよう。


「……さすが、〝世界級ワールドクラス〟の最高峰エベレスト………」


 煌路の左腕にすがりつく六音が、腕に力をめつつ半眼でつぶやいた。

〝女王様〟を包むウェットスーツのごときグレーのパイロットスーツは、薄いゴムのような素材をモデルかおけのたいに密着させ、グラマラスな女体にょたいなまめかしい曲線をあらわにさせている。すなわち――


「どー見ても、17歳のカラダじゃないだろ……」


 まりつつも、ふくよかなヒップ。

 内臓ないぞうの存在を疑うほど細く繊細せんさいなウエスト。

 何より頭の小さなモデル体型とはいえ、その頭より大きそうな特大のバストを薄いゴムのようなスーツは必要《《以上》》に強調しているのだ……!!


「……あれで、あたしと1歳しかちがわないとか……マジで反則はんそくだろ……」


 普段のウィステリアは、特製コルセットでバストのれを《《極力》》おさえていた。しかし今はそれが無いため、2つの爆乳はゆう奔放ほんぽうれまくり、かん濃厚のうこうなフェロモンを周囲にらしている。


「……これこそ、アタック・オブ・ザ・キラーウォーターメロン……トマトと違って台車だいしゃくても暴れまくりだ……!!」


 深い溜め息をらす六音だが、彼女自身、決して貧乳なわけではない。

 むしろ16歳の平均へいきんより《《かなり》》大きいし、正直、形にはちょっと自信がある。

 だが目の前にそびえるのは、特大のボリュームから盛大せいだいなフェロモンを放ちつつも、せいで上品な雰囲気ふんいきをもあわつ魅惑的なバスト……


「……どー考えても、あと1年であのレベルには行けないよな……ま、いろいろ一生いっしょう勝てないなって、初めて会った時にさとっちゃったけどな♪」


 抵抗ていこうするのも馬鹿らしい、圧倒的な戦力差。それを1年近くたりにしてきた少女は、開き直ってれとしていた……一方、


「コロちゃん……ちょっとつかれていますか……?」


 いろいろ圧倒的な少女は、従弟おとうとを見てわずかに眉をひそめる。が、すぐにおんな笑みを戻すと、


「六音さんを守ろうと一生懸命がんばったんですね。さすがです、コロちゃん。立派りっぱな弟を持って、お姉ちゃんも鼻が高いのですよ♡」


『お姉ちゃん』――それは『煌路』という字を『コロ』とちがえて覚えた従姉あねを呼ぶのに、従弟おとうとが幼いころ使っていた言葉。それが『姉さん』に変わったのは何時いつだったか……そんなことを少年が考えていると、


「でしたら、がんばった弟にごほうをあげないといけませんね♪」


 姉は弟のほおを左右の手のひらで優しく包み、ゆっくりかがませる。そして自然な動作で、しかし、ありったけのいとしさをめて弟のひたい薄桃色うすももいろの唇を触れさせた。


「……ナニやってんですか、ウィス先輩?」

「ですから、がんばった弟にお姉ちゃんからのごほうですよ♡」


 目元が引きつる六音と、おんな笑みが満開のウィステリア。


「……おはようのチュー、いただきますのチュー、ごちそうさまのチュー、おやすみのチューときて、今度はごほうのチューですかオネーサマ?」


 目元に続き口元も引きつらせ、


「花が好きだからって〝チューする唇(チューリップ)〟ばっか育てなくていーんですから、人前でそーゆーのやめませんか……いやまあ、人のいないトコでやる方が、もっとヤバイ気もしますけど………」

「ご心配にはおよびませんよ、六音さん。いつも言っている通り、これは昔からの姉弟のスキンシップなのですから♡ よろしければ、六音さんもしてみますか?」

「……しませんよ、そんなこと!!」


 わずかにいたに、思春期の乙女おとめ葛藤かっとうを感じたのは気のせいか……しかし、


「そうだよ、六音。これって僕と姉さんには、普通の挨拶あいさつだからね。それに、とっておきの『たいへんよくできましたのチュー』が残っているし」

「幼稚園でノートに押すハンコか!? やっこい唇で毎日スタンプってか!? どこのアダルト幼稚園のサービスだ!!」


 まゆをつり上げる少女に少年は不思議そうに首をかしげ、


「そんなに取り乱して、やっぱり連日れんじつ誘拐ゆうかいで疲れているのかい? だったら早く帰って、昨日の軍人将棋ぐんじんしょうぎの続きでもしながら休もうか」

「お前としたらけいつかれるわ!! えげつないハメ技ばっか使いやがって!」

「『綿密めんみつ戦略せんりゃく』って言ってほしいな。あの軍人将棋は特別なものだからね。僕も、いつも気合いが入るんだよ♪」 


 少年はほこらしげに胸を張り、


「〝太陽の消えた日〟って呼ばれる戦いで活躍した、僕のひいおじいちゃんは知っているよね? あの軍人将棋こそは、そのひいおじいちゃんが考案こうあんしたスペシャル軍人将棋なんだよ♪」

「……それでか。19世紀のゲームに、なんで『衛星レーザー』とか『ナノマシン兵器』とか『エヴォリューター』なんてこまがあんのかと思ったら……てかエヴォリューターを兵器(あつか)いって、いーのか自分もエヴォリューターだったひいじいさんよ……」


 得意満面な煌路と渋面じゅうめんな六音。するとウィステリアがニコニコしながら、


「でしたら六音さん、『水代みずしろスペシャル一生ゲーム・スーパーVRバージョン』もありますよ。ミズシロ財団の創設者そうせつしゃであるひいおじい様の一生をつづるべく製作された、最新のゲームです♪」

「いやいやいやアレってヤバ過ぎですって!! 特に戦争イベントの爆撃の衝撃とか内臓ないぞうブチけた死体とかリアル過ぎてショック死するレベルですよ!!」


 悪夢にうなされるように血相けっそうを変える六音。


「……でも、やばいイベントのに出てくる『〝大きくなったら結婚しようね〟の誓約書せいやくしょ』とか『親に理解があり過ぎる』とか『幼馴染とデキちゃったこん』とかの、妙にかたよったイベントの数々……創設者サマの一生って、一体ナニが………」


 六音がやつれた顔になる一方、デュロータは目を輝かせ、


「〝太陽の消えた日〟……我らトロニック人が言うところの〝しん戦役せんえき〟か。かの大戦たいせんの英雄にちなんだゆうとあらば興味深いな。私もたしなんでみたいものだ」

却下きゃっか却下きゃっか! ジャパニーズ〝HENTAI〟を宇宙にまで広める気か!!」


 六音が疲れを振り払うように叫んだ――その時、


いやしいヒューマンアニマルどもが、さかりやがって……!」


 光剣の牢獄内でへたり込んでいた男がうなるように言った。


「コロちゃん、この人が今回の誘拐事件の犯人ですか? でも、どうしてこんな厳重な対応を……?」

「本人の言葉によると、彼は〝マスカレイド〟だそうだよ、姉さん。それで、14年前の〝あの事件〟を起こしたエヴォリューターをにくんでいるんだってさ」

「え……」


 眉をひそめて牢獄内の男を見るウィステリア――直後、男のげた目出めだぼうがバラバラになって荒野に落ち、誘拐犯以外の全員が目をみはる。


「……もう一度、教えてくれるかな」


 やがて煌路が視線を鋭くして、低い声をしぼす。


「どうして、そこまでエヴォリューターを憎むんだい………《《地球人じゃない》》君が」


 あらわになった誘拐犯のひたいには、地球人には無い第三の目があった。

 六音もしんの目を向けて、


「地球じゃなく宇宙のテロリストだったってか……さもなきゃ、最近世界で問題になってる『せい難民なんみん』ってヤツか? 故郷の星をドミネイドに滅ぼされて宇宙をさまよったあと、地球に流れついた異星人……」

「なんだと? ふざけるな、俺は地球人だぞ……そうだ、地球人……い、いや……俺は……地球……この星、の……い、いや……おれ、は……わたし、は………」


 瞳をうつろにして震え出す誘拐犯に、煌路が眉をひそめつつ、


「どうしたんだい? とにかく元の世界に帰って――うっ!?」


 不意に風景がわり、白金色の草原がくろ峡谷きょうこくたいに変わった。刹那、くろな空から白銀に輝く竜巻が降ってきて――


「……そうだ、私はこの星で見つけぶぼぁっ!?」


 瞳に光を戻した誘拐犯を、竜巻が光剣の牢獄ろうごくを吹き飛ばしんだ。


「六音!!」


 鋭い烈風れっぷうれるなか煌路がかばうように六音をめ、デュロータとウィステリアも顔を覆うようにがまえる――が、白銀の竜巻と黒い〝異元領域〟は誘拐犯諸共(もろとも)すぐに消えてしまう。そして――


「……え? ここは………」


 星のまたたく夜空の下、警戒けいかいしつつ煌路がつぶやいた。が、自分たちがるのが雪山の舗装路ほそうろであり、4人(そろ)って元の世界に帰ってきたことに気づくとあんして腕の中の六音を開放し、


「よかった。みんな、無事みたいだね――うわっ!?」


 不意に煌路たちの頭上を1機の戦闘機が飛び去って行った。烈風と衝撃に身をかたくする4人の中で六音以外の3人は、やみに溶け込むように遠ざかっていく戦闘機からえいで強烈な重圧を感じ目元をもかたくし……


「ドミネイドの、戦闘機……!!」


 黒曜石こくようせきのような深い黒色の戦闘機をにらみつつのどを鳴らす煌路。戦闘機の翼には左右につのやす鬼の顔のような闇色やみいろの紋章があり、六音もやみに消えた影を追うように夜空を見上げ、


「飛んで火にいる夏の虫、らいげんでシャル・ウィー・タップダンスだな♪ こんな敵地の奥深おくふかく、それも地球軍の大型拠点おおがたきょてんがあるトコに飛んでくるなんて」


 イタズラっぽくんでちゃすように言う……かすかに震える両腕を、すがりつくように煌路の左腕にからめながら。


「ああ、もう……マジで寒くてヤバイから、さっさとかえ──ん?」


 何かに気づいた六音が舗装路ほそうろの先に目をやると、ヘッドライトをまぶしく光らせる数台の自動車が猛然と走ってくる。20メートル超の車体に8つの球体車輪を持つ自動車たちは、荒っぽくドリフトをかけ煌路たちをかこんで停車すると、


「強力なドミネイドの反応があったが全員無事か!?」


 切羽せっぱまった声を上げ、20メートルを超える鋼の巨人に変形した。それらの《《自分と同じ紋章を輝かせる》》巨人たちをデュロータが見やり、


「全員(だい)いぞ、同胞どうほうたるプロテクスのげん使たちよ。ドミネイドはすでに――む?」


 急に夜空の星が消え、やみが深まった気がした。直後、サーチライトの光が巨人に囲まれる小人たちにそそぎ、煌路が目を細めて頭上を見ると、


「おむかえが来たみたいだね」


 全長100メートルを超える、巨大な輸送機が夜空を覆っていた。

 ゴウン、ゴウンと重いどうおんとどろかせ、サーチライトと翼端灯よくたんとうを光らせながら。

 護衛の戦闘機たちも翼端灯よくたんとうを点滅させ、輸送機同様ゆっくり降下してきている。

 どの機体も翼端灯よくたんとう以上に、騎士のかぶとのような黄色い紋章を輝かせながら。


「……ん? あの機体は……」


 見上げる煌路がまゆせた。よく見ると一機だけ、地球軍の所属を示すマークを付けた戦闘機があり……その機体から若い女の声がキンキン響く。


《このサボリども! わきも振らず帰って来いって水仙すいせんがオカンムリだぞ!》


 空からの声に祖母の名を聞き、煌路が青ざめる。

 祖母の言いつけを――軍のテストをさんにして、お仕置しおきされると思い出して。


《分かったらさっさと貨物室カーゴに乗り込め! 無断使用の機甲衛士きこうえいしも忘れるなよ!》


 じわりじわりと降下してきて、視界を埋めていくロービジカラーの巨大輸送機。

 その巨体からそそぐのは、腹に響く轟音と全身をつぶすような圧迫感あっぱくかん

 少年には、それらが祖母の気持ちの代弁だいべんに思えてしまい……


「……………………………………」


 鋼の恐竜さえせた少年は、冷たい汗で全身をらしていた………




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