「魔鋼騎戦記」<外伝>魔鋼鬼(ダークマギカ)ユイ
戦闘は少年の心を蝕んだ・・・
たった一人・・・生き残った少年の魂をも闇に貶める
僕は”死んだ”・・・
鋼の弾が吹き荒れる”戦場”で。
友が叫んだ。
<< 生きてくれ >> と。
だから、僕は ”逃げた” んだ。
”戦場”から。
僕の戦いの場から・・・
あちこちで燻り続ける火の手。
建物は崩れ落ち、生ける者はこの場には居ない。
そう・・・
ここは”戦場”だった・・・つい、数時間前までは。
ここで僕は一度”死んだ”んだ。
友を置き去りにして・・・
「ちくしょうっ畜生っ!」
悔しさが滲む。
「どうして僕だけが”生き残ってしまった”んだ?」
周りには味方はおろか、敵の姿も見えない。
<悔しい・・・情け無い・・・恨めしい>
僕は呪った。
こんな世界を。
どうして僕だけが、こんな辛い想いを背負わなければいけないのかと。
喩え生き残れたにせよ、死よりも重く伸し掛かるこれからの人生を想って。
<こんな事なら、死んでしまえばよかったのに・・・>
僕は怨んだ。
生き残った事を。
周りには生ある者は居ない・・・只、廃墟があるだけだった。
<憎い・・・憎い。
僕をこんな地獄に突き落とした者達が。
敵も味方も・・・逃げる事を許さず、闘わせた者達が・・・>
怒りに震える声で呟き続ける。
「怨んでやる、呪ってやる。
僕を一人ぼっちにした者達を。この命が尽きるまで・・・・」
僕の心は闇の中に堕ちた。
夕闇が迫る中、僕は宛ても無く彷徨った。
武器も持たない素手の”戦場”で・・・
「ああ・・・たった一両の戦車に仲間は殺された。
僕の戦車は”奴”に撃破された・・・」
瞳に映るのは、悪魔の様な敵戦車。
命中弾を与えても、弾き返され続けた悪夢の様な戦闘。
「せめて一発でも”奴”に報いたい。
”奴”を僕と同じ目に遭わせてやりたい」
”奴”を呪う。
「ああ・・・”奴”に一太刀でもあびせれば、死んでもいい・・・
友の仇を討てれば死んでもいい。
喩え地獄に貶められたとしても・・・この恨みを、友の仇を討ってやりたい」
僕は天を仰いで求めてしまった。
「それがあなたの望みなのね・・・」
誰も居ない筈の瓦礫の中から、少女の声が”僕”に呼び掛けて来た。
「誰だ?僕に何の用があって呼んだ?」
少女は僕を観ていた。
夕日に映えるその姿。
長い栗毛が風も無いのに靡いている。
見た事も無い黒色の戦闘服を纏った、その娘の瞳が僕を見据えている。
血の様に紅い瞳で。
「君は?僕に何を言いたいんだ?」
紅い瞳に吸い寄せられる様に、僕が訊く。
「あなたは”憎い敵”を倒してどうしようとしているの?
あなたの心は闇に染まっているわ・・・」
その声は冷たい。
その瞳は哀れんでいる。
「”奴”を撃破出来るのなら、僕はどうなっても構わない。
死んでしまっても悔いは無い・・・」
相打ちになっても・・・そうだ。
<”奴”を友の前に引き摺って行ける物なら、死んでも構わない>
僕の心は既に死を臨んでいる。
折角友が犠牲となって僕を生き残らせてくれたというのに・・・
僕は友の心を裏切っていた。
「そう・・・あなたは既に死んでしまっているのね・・・心の中で」
そう呟いた娘が手招いた。
「ならば・・・いらっしゃい。
この戦車の中に。
あなたの望みが叶う筈だから」
血の様に紅い瞳が招いた。
僕は気付いた。
この時になって・・・
娘の姿は消え、そこにあったのは。
「戦車?こんな処に戦車が?」
赤茶けた戦車が、そこにあった。
「なんだ?随分前に撃破された戦車じゃないか?」
でも、知った。
砲塔側面に紋章が描かれてある事に。
「これは?まさか?魔鋼騎じゃないか!」
僕は気付けば車内へ入っていた。
まるで今にも動き出せそうな車内状況に驚く。
「こいつ・・・動くぞ!」
専門の砲手席に着くと、ハンドルを廻してみた。
電動機の唸りが心地よい。
「じゃあ、砲は?砲弾はあるのか?」
装填手側へ入り、ラックから弾を取り出して驚いた。
「なんてこった!
魔鋼弾があるじゃないか!やはりこいつは魔鋼騎だったのか!」
僕は噂に聞いた魔法の砲弾を見詰めて叫んでしまった。
<これなら・・・この弾なら”奴”を倒せるかも知れない>
邪な想いが沸き返る。
だが。
<どうすれば”奴”に遭えるんだ?>
戦闘は終了した筈だから、もう戻ってこないかも知れない。
砲弾を見詰めて考える。
ラック内には、まだ弾が数発残っていた。
<そうだ・・・此処に戦車が残っている事を知らせればいいんだ。
もしかしたら”奴”が戻ってくるかもしれないぞ>
僕は砲尾に装填しながら思った。
<どうせ僕には運転できないのだから。
”奴”が現れてくれない事には話にもならない>
戦車というより、対戦車砲。
もしくは駆逐戦車的用法を考えなくてはいけなかった。
「さあ・・・気付いてくれよ」
僕は当てずっぽうに、ぶっ放した。
((グワン))
魔鋼弾が最大仰角で放物線を描いて飛び去った。
「ああ・・・魔鋼弾が撃てるなんて。
この戦車は一体どうして魔法力を維持しているのだろう?」
僕はふとした疑問を口にした。
僕達の世界で、魔鋼騎と呼ばれる魔法の戦闘機械を持つ特別な車体に。
どうして魔法使いも乗っていない状態で魔鋼弾と呼ばれる魔法の弾を放てたのかと。
でも、僕の疑問に答えが返って来ることはなかった。
そして、僕にその答えを探す時間も無かった。
砂煙と共に”奴”が現れたから。
「”奴”だ!」
気付けばもう、既に射程内に入って来ていた。
「こんな近くに居たとは!
だとしたらもう、こちらの場所も知られているぞ!」
砲手の感がそう教えている。
砲弾を装填し、再び砲手席へと戻り、照準鏡に眼を当てた。
「 !! 」
それはもう、狙いを着ける必要も無いまで近寄って来ていた。
砲身を僕に向けて。
「うわあぁっ!」
十字線の先に”奴”の正面装甲があった。
トリガーに掛けた手が、無意識に動いた。
射撃音が轟く。
照準鏡の中で”奴”の砲が火を噴く。
全てが同時だった。
音の無い世界に僕は入り込んだ。
暗い闇が支配する世界。
友も仲間も居ない、たった一人の世界に僕は入ってしまった。
2両の戦車が相打ちとなって炎を噴き上げている。
「こんな戦車が居たとは。驚きですね車長」
脱出に成功した砲手の少女が車長の男に呟いた。
「ちくしょうっ、ドライバーを殺られてしまった。
俺の判断ミスだ・・・すまん・・・許してくれ」
車長の男が悔しさのあまり、叫んだ。
「車長・・・」
脱出に成功した3人が、声を詰まらせて車長を観る。
「この恨み・・・必ず晴らしてみせる。
敵を一人残らず殺してやるっ!」
車長が天を仰いで、呪の言葉を吐いた。
憎しみは連鎖する。
人は過ちを繰り返す・・・
僕は死んで、始めて気付かされた。
炎を噴き出す2両の戦車を見詰めて、一人の少女が悲しげに微笑んだ。
その手に、小さな光を持って。
「あなたは死して気付いた・・・でも、それは遅すぎたのよ・・・」
紅き瞳を薄く開けた少女が呟いた。
「死んで良い命なんて何処にも無い。
喪われし者は、この世界に居てはいけないの」
少女は手にした光を天に放つ。
「さあ・・・あなたはどうするの?
この”魔鋼鬼ユイ”の手から放たれた”君”は何を望むのかしら・・・」
手を離れ、天に向かって昇って行く魂に向って。
魔法使いの娘が訊いた・・・・
「魔鋼騎戦記」<外伝>
第1話<魔鋼鬼 ユイ>
どうでしたか?
戦闘で蝕まれた心を持つ少年は、友の元へ行けたのでしょうか?
お読み下さりありがとうございました。
また、機会があれば・・・<外伝>を書いてみたいですね