呪われ聖女
麗らかな春の陽が差し込む大聖堂。その大広間に私は呼び出されていました。
「うーむ、どうしたものか。」
穏やかな時間とは裏腹に、居並ぶ神官長さまたちの皴だらけのお顔にはいつにも増して深い溝が刻まれています。
「なんということだ」
「まさか、聖女たる者がこのような…」
平時には聖剣の管理。勇者が選出されれば同行し、ときに回復魔法で勇者を癒し、勇者が魔王を討てない場合これを封印する。それが聖女の役目です。
ある意味で勇者よりも重要人物ともいえるため、伝承や英雄譚からも存在を隠されてきました。
そして、何をどう間違えたのか、運命の女神さまはそんな大事なお役目を私に与えてしまったらしいのです。
「はぁー・・・。どうしてお前なんぞに・・・」
気持ちはわかるけれど。こうも人の顔を見るたび溜息をつかれるのは、あまりいい気がしないです。確かに成績や品行が飛びぬけて良いわけではないですが、殊更悪くもないはずです。……少しうっかりしているところはあるかもしれませんが。
剣に選ばれる勇者とは違い、聖女はとある能力の有無によって選ばれます。
【千の祝福】
それはあらゆる魔術を1000倍の威力にする特殊固有能力です。勇者の長い旅路をサポートし、常人の魔力では縛ることなど到底できないであろう魔の王を封印するための必須能力でもあります。
ところが。
私にはこれに加えてもうひとつ、厄介な特殊固有能力が備わっていました。
【死への誘い】
ありとあらゆる魔術に、即死効果が付与されるという一種の呪いです。文字通り、何にでも即死のおまけがついてしまうので、勇者様を回復しようとしてうっかりトドメをさすことも有り得ます。しかも【千の祝福】が上乗せされているので、耐死のお守りで防ぎきれる保証がありません。死者を蘇らせるなんてできないので、ちょっと試してみようというわけにもいきません。
「いっそ聖女不在で勇者を送り出すか」
「しかし、それでは封印が――」
「あっ、あの!」
居たたまれなくなって思わず声を上げてしまいました。
「何かな?」
「あ、あのですね、逆に考えてみませんか」
「私の力なら、魔王を倒せるんじゃないでしょうか」
その場にいた全員の顔が同じように固まっていました。
「なるほど、悪くないかもしれん」
「神官長どの!?」
「試す価値は充分にある」
こうしている間にも封印は解けようとしていますし、事は一刻を争います。今から「百年に一人」といわれる【千の祝福】所持者をもう一人探し出すのはとても現実的とは言えません。
そもそも。たとえ私には倒せなかったとしても、呪われているとはいえこれでも聖女です。再封印する力を持たないわけではないのですから。
神官長さまのご英断により、勇者選定の儀式は通常通りに行われることとなりました。