4-13
「だからあ、あそこでクソ女って言わねえと、意味がねえんだよお!」
中野が日本酒の入ったコップ片手にわめいた。
「わかった、わかったから、声おおきいよ、近所迷惑だって」
と種田と一緒になだめた。
計画成功の打ち上げとして、種田の下宿先で打ち上げをしている。
中野がつぶれてしまい、ずっとこの調子だ。
もう一時を回っている。とっくに終電はない。
あの後、とにかく逃げて、だれも追ってこないところまで逃げて逃げて、ここまでくれば大丈夫か、と思った頃、種田と室さんたちも逃げ切ったと連絡がきた。
中野は「あれじゃあだめだよ、あれじゃあ」とぶつぶつ言いながらコップの日本酒をくいっと飲み干してから勢い良く机に置いた。カッと高い音がなった。
「もうやめとけって、飲み過ぎだ」
僕が一升瓶を取り上げると、
「そんな飲んでねーよ!」と中野が喚く。
「だから声大きいって!」
すると中野は空中をぼおっとみて一瞬動かなくなってから、
「寝る」とだけ言って、床に倒れこんだ。
その単細胞的な脈絡のない行動をみて、普段の姿とのギャップに種田と見合わせるしかなかった。
「中野、酔っ払ったらこんなことになるんだな」
種田と言葉を交わしているうちに、中野の寝息が聞こえてきた。
「もう寝てやがる」
と2人で顔を合わせて軽く笑った。
「中野さ、昔大失恋してるんだ。中学卒業間際にな。全然おれにも話さないが、今でも引きづってるっぽい。お前のこの復讐劇?に力を入れていたのは、中野自身とお前を重ねていたのかもな」
「そうだったんだ」と味気ない返事をした。なんだ、中野も僕と同じじゃないか。
中野の寝息を聞いていると、こちらも眠気を感じてきた。
僕は缶ビールの残りを飲み干してから、仰向けに寝転んだ。
天井が回っている。このまま目を閉じれば、すぐに寝付けるだろう。
あーいろんなことがあったな。
僕は達成感を感じていた。
決めていたようには行かなかった部分も多かったし、中野は怒っているが、よくこんなことができたな、と思う。僕は、やってやったんだ。
でも、少し疲れたな。
まぶたを落とすと、じわっと染みこむように体が眠りに落ちていくのがわかる。眠りの境目あたりで、今日の舞台の上での景色を思い出していた。
壇上から見える人々の顔。叫ぶ中野。久しぶりにみた愛菜ちゃん。愛菜ちゃん、綺麗になっていたな。
種田の声が聞こえた。僕は話しかけられたと思い、少し目を開けて見渡すと、種田が窓の外を見ながら話していた。耳には携帯を当てている。電話をしているみたいだ。
僕は少し寝ていたのかもしれない。
会話はほとんど聞き取れないが、何やら種田が謝っているようだ。
おそらく彼女にだろう。約束を途中ですっぽかして来てくれたからだろうか。
会話を聞いてしまうのも悪いし、もう眠りにつくことにしよう。
みんな、僕のためにたくさんのことをしてくれた。
種田も、中野も、室さんたちも。本当に、いろいろ、面倒をかけたなあ。
僕は寝る前に一言だけやっぱり伝えておこうと思った。今なら素直に言える気がした。
「ありがとう」
すると種田は豆鉄砲でも食らったように驚いた。それは、今まで見たことのない顔だった。
僕がお礼を言うのがそんなに珍しいことかよ。
小さな反発は口に出さぬまま、まぶたを落とした。
じゅんじゅんと染み込んでいくように頭が眠気に支配されていく。
舞台の上でみた、観客の顔をまた思い出した。それは皆同じ顔で、喜びもなく、悲しみもなく、ただポカンと、何が起こっているのかわからない表情だった。
思い出してみて、疑問がひとつ湧いた。
でもそれを考える前に、僕の意識は酩酊と睡魔にとらわれ、ドロの中に沈んでいった。
最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。(いらっしゃるかわかりませんが…)
初めて書いた小説ですので、何か感想でも頂ければ、嬉しいです。
また気が向いたら何か書きます。
では。




