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春夏秋冬の月  作者: myu-myu-
48/49

4-12

こんなことは、まちがっているのだろう。


「久しぶりだね」


彼女は状況が理解できないようで、何も言えないでいた。


「あなたに、話したいことがあってきました!」


手は汗ばみ、足が震えてきた。観客たちがぽかんとしているのが視界の端に見えた。


落ち着こう。僕はすうっと息をすいこんで話しだした。


「いつの日か、一緒に秋月大学を目指そうって、愛菜ちゃんは提案してくれたね。それを夢にしようって。その時から、本当は気づいていたと思います。僕にはなにもないということを。あなたと一緒にいる時だけ、それを忘れられていた」


夢がないんなら、作っちゃえばいいんだよ、と愛菜ちゃんは言ったね。


「今日は、そんな自分とお別れするためにきたんだ」


僕は、夜空から舞台を照らす満月を指差した。同じように満月を指差したあの夜を思い出す。


「ちょうど一年前の川辺でした話を覚えていますか。あの夜、愛菜ちゃんは僕に聞きました。「私達の距離は?」と。今ならその答えを言うことができます」


ついにここまできたんだ。


愛菜ちゃんに出会ってからの僕は、振り回されっぱなし。それは別れた後でも。何をするにも彼女が僕の周りにいるみたいで、僕は足踏みばかり続けてきた。中野は、当事者として次のステップに進むために、彼女と同じ舞台にたち、彼女と同じ目線で、愛菜ちゃんと決別する。つまり、彼女に別れを告げろ、と中野は言った。


でも違うんだ。逆なんだよ。


「言ってやれー!」中野の声が聞こえた。


ごめん中野。君が望む話はできない。でも、これは僕が"自分で"決めたことなんだ。


「あなたは僕にとって、月のようでした。何をするにも手品みたいにあなたが脳裏に浮かんでしまい、ずっと、あなたがずっと側にいて、離れられなかったのです」


僕が彼女に別れを告げるんじゃない。その逆だ。


僕が立ち止まっていたのは、ちゃんと失恋ができていなかったからなんだ。


「だから、今でも『春夏秋冬の月』をみる度に、あなたを、思い出してしまうのです!」


当事者になるために、僕が、愛菜ちゃんにフラレなきゃいけないんだ。


「意味分かんない!なんなの、いったいどうなってるの? もう私達は終わったでしょ?どうして私にまだまとわりつくの!?」


僕はずっと伝えたかった。


「あなたのことが好きだから!」


バンッ


観客が沸いた。


左耳の聴覚が狂って、そのあと、顔の左側がブワッと熱くなった。


頬を叩かれたのだと知った。


彼女は目を充血させて、涙をためている。


バンッ


同じ所がさらに熱くなった。


「もう二度と私の前に現れないで!」


ありえないありえないありえないー!と愛菜ちゃんが叫んだ。


また手を振り上げた時、愛菜ちゃんの手は掴んで阻止された。


彼女の手を抑えたのは種田だった。


「え……どうして……」


「撤収――!撤収だあー!」


壇上の後ろから中野が飛び出してきた。


「お前らなにやってんだ!どこの学生だ!」


とその後ろから警備員がステージにあがろうとしている。


室さんたちがステージの後ろで散っていくのが見えた。


僕はメインステージを飛び降りようとした。その時、振り返ると、愛菜ちゃんがペタンと力なく座り込んで、顔を押さえるのがみえた。


「はやく!」


中野に急かされて、舞台から飛び降りる。


人混みをかき分けながらとにかく走った。


もう振り返らなかった。


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