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こんなことは、まちがっているのだろう。
「久しぶりだね」
彼女は状況が理解できないようで、何も言えないでいた。
「あなたに、話したいことがあってきました!」
手は汗ばみ、足が震えてきた。観客たちがぽかんとしているのが視界の端に見えた。
落ち着こう。僕はすうっと息をすいこんで話しだした。
「いつの日か、一緒に秋月大学を目指そうって、愛菜ちゃんは提案してくれたね。それを夢にしようって。その時から、本当は気づいていたと思います。僕にはなにもないということを。あなたと一緒にいる時だけ、それを忘れられていた」
夢がないんなら、作っちゃえばいいんだよ、と愛菜ちゃんは言ったね。
「今日は、そんな自分とお別れするためにきたんだ」
僕は、夜空から舞台を照らす満月を指差した。同じように満月を指差したあの夜を思い出す。
「ちょうど一年前の川辺でした話を覚えていますか。あの夜、愛菜ちゃんは僕に聞きました。「私達の距離は?」と。今ならその答えを言うことができます」
ついにここまできたんだ。
愛菜ちゃんに出会ってからの僕は、振り回されっぱなし。それは別れた後でも。何をするにも彼女が僕の周りにいるみたいで、僕は足踏みばかり続けてきた。中野は、当事者として次のステップに進むために、彼女と同じ舞台にたち、彼女と同じ目線で、愛菜ちゃんと決別する。つまり、彼女に別れを告げろ、と中野は言った。
でも違うんだ。逆なんだよ。
「言ってやれー!」中野の声が聞こえた。
ごめん中野。君が望む話はできない。でも、これは僕が"自分で"決めたことなんだ。
「あなたは僕にとって、月のようでした。何をするにも手品みたいにあなたが脳裏に浮かんでしまい、ずっと、あなたがずっと側にいて、離れられなかったのです」
僕が彼女に別れを告げるんじゃない。その逆だ。
僕が立ち止まっていたのは、ちゃんと失恋ができていなかったからなんだ。
「だから、今でも『春夏秋冬の月』をみる度に、あなたを、思い出してしまうのです!」
当事者になるために、僕が、愛菜ちゃんにフラレなきゃいけないんだ。
「意味分かんない!なんなの、いったいどうなってるの? もう私達は終わったでしょ?どうして私にまだまとわりつくの!?」
僕はずっと伝えたかった。
「あなたのことが好きだから!」
バンッ
観客が沸いた。
左耳の聴覚が狂って、そのあと、顔の左側がブワッと熱くなった。
頬を叩かれたのだと知った。
彼女は目を充血させて、涙をためている。
バンッ
同じ所がさらに熱くなった。
「もう二度と私の前に現れないで!」
ありえないありえないありえないー!と愛菜ちゃんが叫んだ。
また手を振り上げた時、愛菜ちゃんの手は掴んで阻止された。
彼女の手を抑えたのは種田だった。
「え……どうして……」
「撤収――!撤収だあー!」
壇上の後ろから中野が飛び出してきた。
「お前らなにやってんだ!どこの学生だ!」
とその後ろから警備員がステージにあがろうとしている。
室さんたちがステージの後ろで散っていくのが見えた。
僕はメインステージを飛び降りようとした。その時、振り返ると、愛菜ちゃんがペタンと力なく座り込んで、顔を押さえるのがみえた。
「はやく!」
中野に急かされて、舞台から飛び降りる。
人混みをかき分けながらとにかく走った。
もう振り返らなかった。




