4-11
物語はナレーションと共に進行していく。
5人の男たちがかぐや姫の無理難題を答えられず、かぐや姫から手を引いていった。観客からは笑いが何度も起きた。
かぐや姫は帝と文通を始めて関係を築いていく。そしてある夜、かぐや姫は月をみてしくしく泣き、翁に月へ帰らなければいけない、と告白する。
観客はしん、とその展開を見守っていて、どんどん物語に引きこまれていくことがわかった。
学生劇とは思えない完成度もさることながら、それは愛菜ちゃんの演技が素晴らしいからだと気づいた。
「安心しろ、これはお前の舞台だ」
中野は僕の不安を感じ取ったようなタイミングで耳打ちする。
「たとえその相手が、どんなやつでも、お前のやるべきことをすればいい」
そして
「つぎの暗転のタイミングだぞ」と付け足した。
僕は黙って頷いた。
『おじいさんは、それを聴くと、嘆き悲しんで、「どうか、もっと、私達と一緒にいてください」と頼みましたが、かぐや姫は「私の力ではどうしようもないのです。お嘆きにならないでください」と言いました』
愛菜ちゃんの演技は僕の目からみてもわかるくらい素晴らしいし、劇自体の完成度も想像を超えている。学生だけで行われているとは思えないほどだ。華やかな舞台だ。このまま何も起こらなければ、観客たちは見とれてエンディングまでただ見守るだけだ。
エンディングではきっと拍手喝采だろう。この舞台は大成功で終わる。
愛菜ちゃん、今の僕には君がとてもとても、遠くなってしまったね。一緒に歩いた日がすごく前のことみたいだ……いままで頑張ってきたんだね。
『それでも、おじいさんは諦められないで、帝にこのことを申し上げると、帝もなんとかしてかぐや姫を地上にとめておきたいとお思いになって、強い大将に二千人の兵士をつけて竹取の翁の家の周りを守らせるようにお言いつけになりました』
ふっと、明かりが落ちた。
決行の時間だ。
「うわっなんだ」と観客の端の方で声がした。
待機していた室さん達が一斉に動き出したのだ。
『いよいよ、八月十五日の夜になりました』
室さんたちがメインステージに上がっておじいさんとおばあさんと帝の役を拘束し、バックに引きずり下げることになっている。
ゴンゴンと違和感のある音が暗闇に聞こえた。
「ん、なんの音だ?」
と前の方の観客から不審の声が聞こえた。
ほとんど真っ暗なので前の観客ですら見えていないのだろう。
『夜中近い頃、家のあたりが昼のように明るくなりました。大空から、美しい天人が雲にのって降りてきて、屋根の近くに止まりました』
室さんとは別の部隊が、バックに控える天人役を抑えてくれているはずだ。
『兵士たちはみな力がなくなって、弓を射る者はありません』
「オッケーだ!!」室さんのドスの利いた声が聞こえた。
僕は観客たちの中から飛び出した。
中野に押され、メインステージに上がった。
『家の戸も自然に開いて、かぐや姫の姿が光の中に現れました』
舞台が明転した。
舞台には、僕と、愛菜ちゃんだけが立っていた。
「え…?あれ……?」
あれ、あれと愛菜ちゃんは混乱している様子でキョロキョロと見回した。
舞台にいる僕をみて、「だれ…?」と愛菜ちゃんは困惑した。
僕はマスクを外して、足元に落とした。
「……久保田くん…?」
向き合った愛菜ちゃんの唇は、ほのかにピンク色に色づいていた。目はくっきりと力がみなぎっているようで、眉毛が細く美しい稜線を描いていた。
「どういうこと? どうして久保田くんがここに……」
彼女は、僕を複雑にさせた。
僕は、愛菜ちゃんのことを、綺麗だ、と思ったのだ。




