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9月29日
月兎祭が明日に迫った。
計画の最終確認のために、また僕たちは種田の部屋に集まっている。
3人で計画の読み合わせをする。中野が計画表を見ながら、僕が舞台に上がるタイミングについて「やはりタイミングはここしかないな」などと一人でぶつぶつつぶやいている。
中野が作ってくれた計画表は、時間別に劇の進行状況と、僕たちそれぞれの行動まで細かく記載されていた。名前はイニシャルで記載されている。もし秋月大学内で紛失してしまっても足がつかないようにするためらしい。
計画表に一箇所だけ空白になっている部分がある。そこは僕と愛菜ちゃんが壇上で2人になって"あること"をする部分だ。
計画読み合わせが一通り終わった後、
「壇上でする"あること"を考えたんだけど、見てくれないか」と相談しようとするが、
「ダメだ」と中野は計画表に視線を落としたまま、こちらをみもせずに即答した。
「おまえを当事者たらしめるために、ここだけは絶対に自分で考えぬいてほしい。俺たちは意見を出せないし、誰も関与できない」
中野は言い切った。絶対に譲る気がない時の言い方だ。
そして中野は腕時計を確認した。すでに夜の10時を回っていた。
「よし計画の見直しは終わり。軽く一杯前夜祭といこうじゃないか」
中野がそう言うと、種田が冷蔵庫から前夜祭用に買っておいた缶ビールを3本取り出し、僕たちに渡した。
「ついに本番は明日になったな」種田が呟く。
「種田は一秒でも早く彼女を言いくるめて、こちらの計画に参加するように」
中野が言うと、
「わかった」種田が言う。
ぷしっぷしっとそれぞれの手に持たれた缶ビールのタブがあけられた。
「じゃあ、主役から、乾杯の一言」
中野に突然話をふられた。僕は何を言えばいいのかわからず、
「え、そうだな。じゃあ、成功を祈って、乾杯」と手短な挨拶で済ませようとすると、
「それはだめだ」と中野が乾杯を制止した。
「祈るっていう言葉はおれは嫌いだ。他力本願な感じがしてな。こういう時はな、"誓う"だ。成功を誓おう」
種田がくすっと笑う。
そして僕たちは缶ビールを当てた。軽い音が散らかった六畳間に響いた。
もう時間が遅かったので前夜祭は缶ビール一杯だけ飲んで帰宅した。
自室に入った頃にはすでに0時を回っていた。
日付としては、月兎祭はもう今日なんだな。
ベッドの上に寝っ転がり舞台でのセリフを見直した。そんなに長いものではないし、空で言えるくらい覚えてある。
一通り目を通してから、枕元にあったボタンで電気を消して、目を瞑った。
暗闇の中で僕は思った。愛菜ちゃんは今頃劇のセリフを見直しているのだろうか。
ついにここまで来たんだな、と思った。僕は愛菜ちゃんと出会ってから、今までの出来事を順に思い出していた。本当にいろんなことがあったな。
そういえば、と思って、僕は体を起こし、窓から差し込む月明かりを頼りに机の引き出しをあけた。
奥のほうに入れていた手紙を引っ張りだして、広げた。
クリスマスイブの夜、ぬいぐるみと一緒に愛菜ちゃんに渡す予定だった手紙だ。
文字を追っていくと、あの夜の寒さとか、待ちながら考えていたことが手紙から染みこんでくるみたいに思い出されてくる。
その恥ずかしい文面を他人の書いたラブレターのように思いながら読んでいると、ある1つのフレーズが目についた。そういえば、あの夜この言葉で彼女に伝えたかったんだった。
手紙をまた引き出しに戻し、僕は布団に潜り込んだ。
明日が本番だ。
月明かりだけが差し込む部屋の中で、僕らしくない期待をしている自分に気づいた。




