4-6
9月17日
「そろそろ計画について詳しく教えろよ」
と室さんは突然に恐喝するように問い詰めてきた。
お客さんが店内にいるのに……と思いながらも、到底逃げられるとは思えず、当日の計画をざっくりと話した。
しかし室さんは
「なんでそんな計画をすることになったんだ?」と執拗に問い詰めてきた。
前話した学歴コンプレックスの話では納得していなかったらしい。
できれば僕と愛菜ちゃんとの関係を話したくなかったが、あんな計画に協力してもらうから、やはり話した方がいいだろうと僕は観念して話すことにした。
高校時代に愛菜ちゃんと付き合っていたこと、秋月大学を目指して一緒に勉強に励んでいたこと、クリスマスイブに理由もわからず一方的にフラれたこと、僕は秋月大学を目指せなくなり丸敷大学に入学したこと、川端さんの話でずっと愛菜ちゃんに振り回されたことを知ったこと、自分の中で区切りをつけるために愛菜ちゃんが主演を務める劇を乗っ取ることになったこと。
室さんはゲラゲラ笑いながら僕の話を聞いていた。
「おもしろそーな計画じゃねえか。男、一世一代の見せ場だな。どんな話かわかった。バックアップするぜ」
こんな馬鹿なことを考えるやつがいるとは、と室さんはニヤついている。
「で、その舞台の上でお前がする、"あること"ってのはなんだ?」
「実は、まだ決まっていなくて。考えているところなんです」
一瞬、悩んでいることを室さんに相談しようかとよぎったけど、どうせ過激でろくでもないアドバイスをされるだろうと思って、やめた。
「なんだ、まだ一番大事なところが決まってねーのか。ま、そこは自分で考えるしかないがな」
自分で考えなければいけない、と中野も、室さんも同じようなことを言うんだな、と思った。
室さんはたばこを吸いに外に出たので、僕は仕事に戻った。
計画の詳細を聞いても室さんは了承してくれた。客観的に見たら僕の個人的な復讐計画にしか見えないだろうに。
いままで劇に邪魔されて文化祭でのサークル活動を制限されてきたことの鬱憤が溜まっているから受けてくれたのもあるだろう。でもそれよりも、何かおもしろいことをしたいという考えの方が強いのかなと思った。
だから、この計画は全て僕が舞台でする"あること"にかかっている。
月兎祭まで、あと2週間くらいだ。
僕は舞台の上で愛菜ちゃんの前に立ち、何をするのかを早く決めなければいけない。
こんなに沢山の人に助けてもらっているんだ。僕もそれに答えなければ、と思う。
でも、何度もペンをとってみても、何も、浮かんでこなかった。考えるたびに僕はこんなことがしたいのだろうかという考えに苛まれてしまう。
たとえ過去に酷いことをされていたとしても、あんなに好きだった彼女に対して傷つけるような言葉を考えられないんだ。
室さんがタバコを吸い終わり、気だるそうな顔で戻ってくるのをみて、ふと疑問がわいた。
「室さんは彼女とか、いるんですか?」
「あ? いるけどなんだ」
いるんだ。室さんでも、誰かを好きになって、愛おしい気持ちになったり、悲しんだりするのかな。
「なに変な顔してんだ」
「なんか、室さんが恋愛してるっての想像できないな、って」
「てめえ失礼だろうが」
室さんは僕の胸辺りに肘鉄した。
痛がる僕をみて楽しそうに、悪者笑顔で獲物が弱るのを観察するような眼光でみていた。
ゲホゲホとむせてから、僕は言った。
「すいません、イメージと合わないなと思ってしまって」
「ああ、逆にね」
あ、また言った、と僕は思った。
室さんはよく"逆に"を使う。
「室さんってよく逆に、っていいますよね。口癖なんですか」
「ああ、口癖になっているかもな。行き詰まった時、逆の考え方をしたらうまくいくことがあるから、そういう時は逆の考え方をするようにしてんだよ」
やっぱり、ココが大事だからココね、と馬鹿にするみたいに自分の頭を人差し指で指しながら言った。
逆、逆の考え方か。
僕は室さんの話に納得したようなフリをして、考えてみた。
僕の場合でも、逆に考えてみたらどうなるだろう。
前に中野と話した内容にそって、経緯をおさらいしてみた。
愛菜ちゃんに出会ってからの僕は、彼女に振り回されっぱなし。別れた後でも、何をするにも彼女が僕の周りにいるみたいで、僕は前に進めず足踏みばかり続けている。当事者として次のステップに進むために、彼女と同じ舞台に立ち、同じ目線で、愛菜ちゃんと決別する。つまり、彼女に別れを告げる。
だから、僕は別れの言葉を考えなければいけないのだ。
でも僕は中野が言うように罵声を浴びせたりして彼女を傷つけることは言いたくないし、そもそもフラれた方の僕が別れを告げるのもおかしい感じがする。それが僕のしたいことではないと思って納得できていなくて、行き詰まっている。
これを逆に考えてみれば……。
「そうか」
ある発想が閃光みたいに頭を走って、僕は声を上げた。
「あん? 聞いてんのか」
また胸に鋭い肘鉄を食らわされる。
冗談では済まない力でもう一度同じ所を突かれた。
「ゲホ、すいません、でも室さんのアドバイスで"あること"が、思いつきました。ありがとうございます!」
「は? アドバイス?」
怪訝な顔で室さんは僕をみていう。
これなら愛菜ちゃんを罵声を浴びせるようなことなんてせず、自分が当事者になれると思う。
すっと胸の引っ掛かりが落ちたような感覚だ。
これならできる、と僕は思った。
バイトの帰り道で、中野より先に種田に電話した。
「舞台でする"あること"、決めたよ。月兎祭の計画、決行する」
僕がそういうと、種田は間を空け、抑揚のない口調で、「わかった」と言っていた。




