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9月1日
秋月の文化祭まで一ヶ月を切った。
中野がやりたいことと、僕の気持ちとの間に、ギャップがあった。
でも中野が楽しそうに計画を考えている時にどうも言い出せなくて、日ばかりが過ぎていった。
悔しいだろう、と中野は言った。
僕は自分自身が悔しかった。振り返ってみると、こんな些細なことで、と思うことでも気にしている自分に気づく。そんなことばかりで、何も出来ない自分に気づくんだ。愛菜ちゃんのことに限ったことではない。
でも中野が言う通り、自分の中で愛菜ちゃんが大きくなっているのはわかるし、何とかして自分の中で区切りをつけなければいけないことはわかっている。
その何とかして、の部分が自分でもわからなくて、中野に言えずにいた。
僕は彼女を傷つけたいわけではないのだ。復讐がしたいのではないのだ。
こんな中途半端な気持ちのまま中野に話しても「じゃあどうするのか」と言いくるめようとしてくるに違いない。
まだ、舞台の上で何をするかは決まっていない。
中野は時間をかけてゆっくり考えたらいい、と待ってくれている。
なにかを実行するにしても、このままの気持ちではできない。
夜、携帯が鳴った。
画面には種田の名前が表示されていた。
種田が用もなく電話をしてくることはない。一体何の用だろうと思った。
「おう、いま電話大丈夫?」
「いいよ、どうした?」
「別に大した用じゃないんだけど、バイト終わって、帰り道が暇だったからな」
種田がそんなことで電話することは今までなかった。
「なんだよ気持ち悪いな、彼女といちゃいちゃ電話してろよ」僕は茶化すみたいに言った。
「あいつは今忙しいんだよ」
それから種田と、違う大学に行った同級生がいまどうしているだとか、中野がいる時にはあまり話さない話をした。
「もうすぐ家着くし切る」
と種田が言うので、
「うん、じゃ」と僕が切ろうとすると、
「あー、そうだ」と種田は思い出したみたいに言う。
「秋月の計画のことだがな、久保田、迷っているんじゃないのか」
僕はんー、とどちらでもない返答をした。種田にはバレていたか。
「中野は頭がいいが、決めてしまうと周りが見えなくなってしまうのが欠点だな」
そして、種田は、
「辞めるのはいまからでも遅くないぞ。違う方法だって、話したら中野はわかってくれるだろ」と言った。
種田には全てお見通しみたいだ。言い繕って否定したりしないほうが良さそうだ。
「そうだね。考えるよ。やるにしても、やめるにしても、"自分が"決めなきゃいけないことだから」
中野の口調を真似して、僕がいうと、種田も同じように
「そうだな、"自分が"な」と言って笑っていた。
「それじゃ、また」と声が聞こえたあと、電話が切れた。




