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8月6日
また僕たちは片付けされていないものが大半を占領している種田の部屋に集まって机を囲んでいる。
無論、議題は月兎祭についてである。
計画を実行するかどうか、僕はまだ決断できずにいた。やらないつもりなのだが、中野を説得できるほどの理由もない。そして、こんな強引な機会がないと自分自身、新しい一歩を踏み出すことができないことも知っている。
「計画を建てたから聞いて欲しい」
中野はそういい、ちゃぶ台の上にルーズリーフを手元に置いた。何やら色々書きなぐってあったが、字が汚くて読めなかった。
「概要を先に言う。劇が始まる前に舞台を取り囲むように待機しておく。劇終盤、かぐや姫が月に帰るシーンに場面転換するとき、舞台セットのために数秒暗転する。周りは最低限の光が切ってあるため、暗転は本当に真っ暗闇になる。その暗転のタイミングで計画を実行する。待機していた俺たちが一気に壇上にあがり、役者やスタッフを押さえつける。久保田と桐村愛菜を舞台に二人きりにするんだ。そして、久保田が桐村に対してやるべきことをやり、終わったら、全員舞台から飛び降り、即効退散する。上手く行けば、観客たちは何が起こっているのかわからずぽかんと見ているだけで終わる。どうだ、シンプルだろう」
とんでもない計画だが、確かにシンプルだ。スムーズにいけば10分とかからないだろう。だが大事な箇所が曖昧だ。
「具体的な計画は後で説明する。しかし、この計画には問題点が3つある」
中野は指を3本立ててこちらにみせる。
「まず1つ、協力者が欲しい。最低10人以上は欲しいな。劇スタッフの拘束と、お前が壇上に上がっている間にスタッフと観客の妨害を阻止する必要がある。とても俺たち二人だけでは無理だからな」
協力者か……こんなふざけた計画に乗ってくれそうな人なんているだろうか。一緒に劇を乗っ取ってくれるような人。劇に恨みとかがある人……。
「あ」
いるじゃないか。というか、あの人しかいない。
「室さんなら協力してくれるかもしれない」
僕がそう言うと、中野はにやりと口角を上げた。
「おれもそれが妥当だと思う。そのサークルの人も手伝ってくれたなら、人数も集まる。上手く説明して協力のお願いをしてくれ」
中野はまっすぐ僕を見て言った。
僕はとりあえず「わかった」と言った。
「2つ目の問題は、衣装だ」
「衣装」種田と僕は声を合わせた。
「身元をわからなくするために協力者全員分の衣装が必要だ」
そうか、他校の僕たちはまだしも、室さんのサークルに手伝ってもらうことになれば、絶対にばれないようにする必要がある。
「身元がばれないような衣装はこちらが用意すると伝えたほうが交渉もしやすいだろう。仮に20人分の衣装が必要だとしよう。全身覆い隠すマントとマスクを身につけるとして一人4000円として計算すると、8万円。俺たちで割り勘すると一人だいたい……」
「僕が全部出すよ」
僕は迷いなく言った。
「今まで使う当てもなくて貯めてたんだ。ここぞという時のために。それがきっと今だと思う。お金くらいは出させてくれ。僕の超個人的なことで色々迷惑かけるから」
中野と種田はそれ以上強くは言わなかった。
「3つ目の問題は、お前が壇上で行う"あること"について、だ」
「もったいぶらないで言ってくれよ。"あること"ってなんだ」
「それは……久保田が自分で考えろ」
「え」
「こればっかりはお前が自分自身で考えなければならない。一年ぶりに桐村愛菜を目前にして、色々、言いたいことがあるだろう」
そりゃそうか、僕自身が当事者になるための計画なのだ。
「何かを言うにしても、その場で思いついたことを言うとかはなしだ。映画や小説みたいに気の利いたセリフなんてその場でそう出ないもんだ。しっかり文章を用意しておいた方がいいだろう。ここぞという時には、ここぞというセリフをな」
時間はまだあるし、ゆっくりでいい。実行するのかどうかと合わせて考えてくれ、と中野が言っていた。
種田は計画に口は出してこないが、相変わらず計画に納得していないようだった。
週末に、室さんとシフトが重なった。
中野のアドバイス通り、「秋月大学生に対して学歴コンプレックスを持つマル大の僕たちが、アッと驚かせることがしたい」と愛菜ちゃんへの個人的な事情を隠しながら参画のお願いすると、意外にもあっさり承諾してくれた。
「おもしろそうじゃないか、サークルをあげて手伝ってやるよ」とギラギラした悪人の眼に期待をこめて言ってくれた。
期末テストが終わって、夏休みに入り、週に一度は3人で集まって計画を進めていった。
想定以上に順調に計画が進んでいく。より具体的になっていく計画に比例して、本当にこれでいいのか、と懐疑的な気持ちが膨らんでいった。




