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春夏秋冬の月  作者: myu-myu-
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4-1

7月20日


中野は何かを思いついたようだが、思惑を教えてくれなかった。「今度話すから、とにかくそのヤンキーに文化祭について詳しく聞いてこい。おれも調べておく」と中野は言っていた。一体文化祭について知ったところで、何をするつもりなのだろうか。


今日は室さんと深夜シフトが一緒なので、文化祭について尋ねることにしたのだ。


先に、インターネットで文化祭について概要を調べてみた。


秋月大学の文化祭は、別名「月兎祭」とよばれている。一説によると、月兎とGETをかけており、月のうさぎを捕まえるほど有頂天に楽しもうという祭りらしい。毎年9月末に行われる。1年で一番月が綺麗なお月見の時期をねらっているそうだ。


文化祭の規模もかなり大きく、毎年100以上の出店で賑わい、大混雑するらしい。


その月兎祭設立当初から続く伝統的な催し物のひとつに、劇がある。宴も酣、太陽が西の地平へ落ち、月が上がってきた頃に、Rabbitという名のサークルによる劇が行われる。


始まる頃には学内の最低限の照明は切られ、終わるまでの時間帯はほかのサークル活動は禁止されているほどの徹底ぶりだ。遠方からも観劇に訪れるほどのファンもいるらしい。


そんな劇の主役に、愛菜ちゃんは大抜擢されたのだ。まさか彼女がそれほどの大役を担っているとは。


劇の内容は毎年かぐや姫をするそうだが、若干、毎年アレンジを加えているらしい。


特に、かぐや姫が口説きにくる5人の男にだす無理難題がアレンジポイントであり、盛り上がるポイントらしい。


客足が途絶え、品出しにとりかかる深夜、僕は室さんに話しかけた。


「室さん」


室さんは、あん?という表情でこちらに顔を向けた。悪意や敵意がないのはわかっているが、いつも威嚇的に感じる。


「室さんは秋月大学の文化祭に行ったりするんですか?」


「ああ、毎年行ってるよ」


そういう文化祭とか興味がなさそうなのに、意外だと思った。


「室さん、あの、秋月の文化祭について教えて欲しいんですけど……」


「あ? なんだ? はっきり喋れよ」


う、やはり室さんと話すのは苦手だ。


「秋月大学の文化祭で毎年劇やってますよね? あれってどんな感じなんですか?」


恐る恐る、声をもう少し大きくして言い直した。


「あーアレね。アレ毎年やってんだ。伝統あるとか何とかしらねえけど、スゲー人気があるな」


「観にいかないのですか?」


「わざわざあんなの観に行かねえよ。他のサークルは活動禁止になっちまうから、劇やっている間はサークルハウスに戻ったり、一旦学外にでて時間を潰している事が多いかな」


下調べ通り、劇中は他のサークルは活動禁止になるらしい。室さんの口ぶりからすると、その間サークル活動が禁止になるため、鬱憤がたまっている人が多いことがわかる。


「室さんて、なんのサークルに入っているんですか?」


室さんは眠たそうに大あくびした。手で口をおさえないので、喉の奥まで見えそうだ。


「バンドやってんだ。軽音サークル」


軽音サークルというとモテたくてチャラチャラしている人がしているイメージがあるが、室さんのサークルの場合はデスボイスとかでメタルやパンク系の騒ぎまくるバンドだろうな、と思った。


「てかおれ、サークル長だし」


この人がサークル長…? こんな怖い人がぞろぞろ集まっているのだろうか。考えただけで恐ろしい。


「あの劇のせいでいっつも迷惑くらってんだよな。いっつもこれからって時に止められて冷めるんだわ」


直訴してもまったく状況はかわらねえし、とひとりごとみたいに呟く。


室さんは劇について良く思っていないようだ。


「あんな劇やめちまえばいい。もう惰性になってるし。Rabbitにも人が入らなくて存続の危機らしいしな。時代の流れだ」


室さんはそう言ってからサンドイッチ片手に近づいてきて、僕の目の前にヌゥっとたった。


「ど、どうしましたか?」


「ていうか、どうしてお前がそんなことを気にしているんだ?」


前に立たれるだけですごい圧迫感だ。


「いえ、なんていうか、そういう祭りがあるって噂で聞いて、気になって……」


室さんは鋭い眼光、口元に悪人的な笑みを浮かべてこちらをみている。僕は明らかに動揺してしまった。


その反応をみてか、何かに勘付いたように、


「そういえば、お前、前に川端さんが妹の話をしていた時、やけに食いついていたよな。何か関係あるんだろ」と言ってきた。


鋭いところを突かれてしまい、僕は黙ってしまった。


「桐村愛菜だっけ。狙ってんのか」室さんは尋問のようにいう。


「いえ、桐村はただの高校の同級生ですよ。あの時はそれで、ちょっとびっくりしちゃって……気になったっていうのも、ありますけど……」


しどろもどろになりながら何とか答えた。


ふーん、と何か思わしげな反応を見せ、室さんは離れていった。


「桐村愛菜なんてのは、"逆に"どんなやつかおれは知らなかったが、一回生が主演を務めるのは珍しい。サークルの連れに聞いてみたら、桐村愛菜のこと知っている奴は多かったよ」


にかっと室さんは歯を見せた。


「桐村愛菜、かわいいらしいな」


その後、室さんは品出しの仕事をやりきらぬまま、たばこを吸いに店の奥に消えていった。


それ以降は室さんから愛菜ちゃんについて追究されなかった。



夜、ベッドの上で、愛菜ちゃんのことを思い出していた。


一緒にミュージカル映画を見に行った日のことだ。見終わってから、主演女優の演技について熱心に語っていたっけ。珍しい姿だったから、強く印象に残っている。今考えてみると、愛菜ちゃんは舞台の上に立つことに憧れていたのだろう。


でも僕は、舞台で主演を演じて注目を浴びている彼女をあまり想像ができなかった。


どちらかというと、おとなしい子だったのに。


でも、僕が見ていた彼女は、一体どこまで本当の彼女だったのかは、今はもう分からないんだ。


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