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春夏秋冬の月  作者: myu-myu-
36/49

3-10

7月10日


「種田も知っていたんじゃないのか」人のまばらな食堂で僕は問い詰めた。


種田は答えもせず、僕をじっと見ていた。


僕は、中野と種田の2人を呼び出して、説明をした。バイト先のパートさんが妹の男癖の悪さを相談してきたこと、秋月の文化祭で行われる劇の主演をすること。その妹とは愛菜ちゃんだったこと。


知った時、驚きはしたが、僕はあまりショックを受けなかった。またいじけるとか、塞ぎこむとかしたほうが自分らしい気もしたが、今回は落ち着いていた。どこか他人ごとのような気のほうが大きかったのだと思う。それに、今になってそんなことを知らされたところで、どうしようもないことだ。


それよりも種田の行動が気になった。幼なじみの種田はきっと、愛菜ちゃんが男関係でどんなことがあったのか等、知っていたのではないか、と思ったのだ。


「ほぼ強引に僕に告白させたのだって、訳があったんだろう。なんで僕に教えなかったんだ」僕は言った。


「男癖の話を知らなかったのなら、わざわざ言う必要はないだろ。桐村、お前が相談してきた時ちょうど彼氏いなかったし、本当に付き合えるチャンスだったんだよ」


ゆっくりと、語りかけるように種田は言った。この発言は愛菜ちゃんの男癖の悪さを知っていたことを意味する。


「中野も知っていたのか?」


「中学の時に少し噂で男関係の話は聞いたことはある。興味がなかったから詳しくは知らないが。おとなしそうな子もわからないものだね」


皮肉っぽく中野は言った。


「ああ」僕は何と言ったらいいのかわからず、髪を触ってため息をついた。結局何も知らなかったのは僕だけか。


「愛菜ちゃんが姉妹はいないって言ってたのも嘘だったのか……」


思い返してみれば、あの頃から僕は嘘をつかれていたのか。他にも嘘をつかれていることがあるだろうか。


「姉妹仲は良くないらしいから、多分お前には話したくなかったんだろう」


話したくなかった……だから嘘をついた。僕たちは付き合っていたのに。もしかして、お互いに信頼していて愛し合っている、と思っていたのは僕の方だけで、愛菜ちゃんはただ卒業までの男の"つなぎ"で付き合っていただけなのだったのだろうか。いや、愛菜ちゃんはそんな女の子には到底見えなかった。


僕の見ていた愛菜ちゃんと、周りの話から聞く愛菜ちゃんの人物像が違いすぎて、まだ別人の話をしているような気がしている。


僕がそう信じたくないだけなのだろうか。


「だから、そういう女だって、おれは言っただろう」


中野にしては優しい口調で言った。


何か少しでも言い返したかった僕は、「もっとちゃんと言えよ」とだけ言った。


「お前は聞く気がなかったじゃないか。まあおれも桐村のことはあまり知らないし、強くは言えなかったこともある」


中野にも、種田にも、愛菜ちゃんにも、騙されていたというより、本当のことを伝えられていなかった事のほうがショックだった。


僕だけが別の場所に取り残されていて、僕はそれに気づいていなかったのだ。


見苦しい。情けない。そんなネガティブな言葉と、あの人懐っこい笑顔が浮かんだ。


僕はただ納得したくて、つぎの一歩を進みたかったのに、過去にとらわれて、どうしようもない問題がまた起きたのか。


また僕はうじうじと沈んで、逃げまわることになるのか。


何度乗り越えようとしても、また次の問題がでてきて、一歩踏み出すたびに転び、つまづく。悔しさよりも情けなさばかりが溢れてくる。


また僕はまたため息をついて、


「もう何も信じられないよ」


他人ごとのようにつぶやいた。


納得だとか、当事者だとか、そんなことも、もう、どうでもいいとなげやりな気分になってくる。


「もうわかったよな。結局、自分が信じられるのは、自分だけだ」


「え?」


顔を上げたら中野の顔が見えた。


「これはチャンスだ」


「チャンス?」


僕は中野の説明を待つようにして、ただ聞き返した。種田は様子を伺っている。


「お前が当事者になることに真面目に向き合ったから、偶然が引き寄せられてチャンスになったんだ。行動するものにはそれが与えられるのだ」


「何が言いたい。また当事者だとか、そういうことを言って諭すきか」


「違う。それはもう次のステップに入っている。これは凄い、出来すぎだよ」


僕の肩に手を置いて中野は言う。目が輝いている。


「ふ、こんな機会を待っていた。平凡で退屈な日々にお別れをする時がきたんだ」


本当に久保田はラッキーだよ、と中野は楽しい遊びを思いついた子どものように、顔を緩ませていた。


中野の満面の笑みを見たのはこれが初めてだった。


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