3-1
「で、フラれた理由はわからないまま、今に至る、というわけだな」
僕が話している間、ずっと相づちだけしながら聞いていた中野が、ようやく声を出した。
「まあ、そういうことになるな」
「知ろうとはしないのか」
「うん。気になるけど、知ったところで虚しくなるだけな気もするし」
「種田には聞いたのか? あいつは桐村と幼馴染だし、何か知ってるんじゃないのか」
「聞いたけど、種田も振った理由はわからないって。幼馴染っていってもほとんど連絡とってなかったらしいし」
「ふーん、なるほどねえ……」と何か意味を含ませたように言った。
「おれも中学の頃、桐村とは全然仲良くなかったしなあ」
腕時計を見てみると、1時間以上経っていることに気付いた。思っていたより時間が経っていた。
僕はできるだけ淡々と話そうとしていたが、当時の感情がまた掘り出されるような感覚がして、それを押さえつけることに必死になっていた。それもあってか、なんだかどっと疲れてしまった感じがする。ついに中野に話してしまった、と少しの後悔もあったが、実際はスッキリしていることにも気がついた。
悩み辛みを話すことで、本当にある程度は楽になるものだな、と思った。
「良かったじゃん」と中野は言った。
「……何が?」
「おれは中学で桐村と話したこともなかったしどんなやつかはよく知らないが、話を聞いている限りでは愛に飢えるタイプのやっかいな女に聞こえるね。そういう女って地雷臭いよな。どうせお前と会えない間に人恋しくなって、別に男を作っていたんだろう」
あまり予想していなかった一言に僕は正直むっとした。
「桐村さんはそんな女の子じゃない」
「さあ、どうだろうか。実際とんでもなくひどいふられ方されているのは事実じゃないか」
氷が溶けて上のほうが透明になっているコーヒーを中野がすすった。
「ろくに話したこともない相手からの告白を受けるやつだろお?」
少し挑発的な言い方で続けた。
でも僕にはそうじゃないと言い切れる自信があった。数ヶ月ではあったが、彼女がどんな人間かを知るには十分な時間だった。側で見てきたから僕にはわかる。彼女は中野が言うような、女の子ではない。
「それは、自分で言うのも変だけど、以前から気になっていたとか、色々理由は考えられるだろ」と僕は言い返した。
「どっちでもいいけどさ、よかったと考えようぜ。ポジティブに捉えたらいいじゃないか。そんなひどい女と別れられて」
そして、
「大事なことほど、自分と関係のない場所で起きてるもんだ」
と中野はつぶやいた。確信めいた言い方だった。
なんでこんなことを言われてなければいけないんだ。せっかく話したのに、僕の吐露に対する反応にしてはひどくないか。
しかし何を言い返しても中野に全て言いくるめられそうな気がして、僕は顔を曇らせながら、少し黙っていた。
「で、どうすんの?」
「なにがだ」僕は不機嫌なのができるだけ伝わるように言った。
「こんなひどいことを女にされて、悔しくないの?」
「悔しいというか……」
悔しい? 中野は何を求めているのだ。
「納得できるの? おれだったら許さないね。そんな女に人生狂わせられてさ」
「もうこれ以上、どうするもこうするもないだろう。フラれてズタボロになった僕が一体なにをどうしろというんだ」まだ未練がましく彼女にひっつくのか? ありえない……。
「うーん。桐村、桐村かあ」
中野は背もたれに体重を預けて手を枕にした。何か昔を思い出しているように天井を眺めている。僕はそんな中野を見て、浮かんだ疑問を素直にぶつけた。
「中野は彼女だとか、失恋だとか、そういう話はなかったの?」
中野はどんな女の子と付き合っていたんだろう、と興味がわいたのだ。
「ん、おれか。おれはもうそういうのはやめたんだ」
「やめた?」
そしてたっぷり数秒もったいぶってから言った。
「おれはもう、リア充は卒業したんだ」
僕は首を捻りながら、したり顔でコーヒーを啜る中野を眺めていた。




