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春夏秋冬の月  作者: myu-myu-
23/49

2-11

4月25日


学食をゆるい喧騒が満たしている。

今日は3人とも二限までの曜日なのだが、種田が「昼飯食って帰ろうぜ」と提案したので講義後すぐに僕達は学食に足を伸ばした。

しかし着いた時には既にごった返すほどに混雑していて、カウンターには長蛇の列が出来上がっているうえに、座席の確保すら難しい状況だった。

中野いわく「あんな中で食べるくらいなら食べないほうがマシ」ということで、少し昼時をずらして昼食をとることにした。何とかして一応食べ終わったのだが、特にこれから急ぎの用事があるわけではない3人は、お茶のコップをすすりながら、だべっていた。


3限の講義中ということもあるのか、人はまばらで、同じように閑談している学生たちが数組いる。時々キャッキャと声が上がる。


「なんていうか、こんなもんかーって感じだよな」


僕は何気なく口にした。


「なにが」種田がスマートフォンを片手に言った。


「別に大学に期待してきたわけではないよ。だいたいこんなもんかなと思ってきたら、やっぱりこんなもんかってなっただけ。それが逆に予想外って感じ」


ふーんと種田が興味なさそうに言った。中野はお茶を覗きこんでいる。


「俺も思った通りだけど、まあ結構楽しいかな」


そして種田は続けた。


「例えば久保田はどんな驚きが欲しかったんだ」


「んー例えばって言われたらパッとは出てこないけど、なんか思ったより日常が淡々としているんだよな。新しいことも多いのに新鮮味がない感じ、かなあ」


僕は曖昧にそう言った。


「会う人が少なすぎるのが原因じゃないか」と今までだんまりしていた中野が声を出した。


「いや、彼女がいないからじゃないか」種田が笑って言った。


僕は頭のなかに氷水を入れられたような感覚がした。このままの話の流れでどこに飛び火していくのかを考えて、僕は話題を変えたい一心で言った。


「僕たちはサークルとか入らないからあんまそういうの起こらなさそうなんだ、なあ中野」


僕が同意を求めると、中野は、ん、と顔を少しだけ上げた。


「やっぱり結局お前ら二人共サークルには入らないことにしたのか」


と種田が言った。何とかサークルの方に話題がそらせそうだ。


「そういうのは好きな人とか得意な人達がやればいい。俺は好きでも得意でもないからパスだ」と中野が言った。中野らしい意見だ。


「まー新歓シーズンも終わったしいまさら入りづらいだろうけど」


種田が続けた。


「彼女が欲しかったり、まあ女の子との接点が欲しかったらやっぱりサークルが一番簡単だろうな。うちのサークルに入ったら? 人も多いし何かいい出会いがあるかもしれないぜ。可愛い子も多いし」


僕は「うん」とだけ言った。


中野が「それっていわゆるヤリサーってやつ?」と言った。案外そういうことも言うんだなと意外に思った。


「いやいやそんなんじゃないって。健全健全。ただ飲み会が多くてコールがすげえんだよ」


種田はコップに口をつけながら言った。


「なんだ飲みサーか」


と僕が言うと、


「その後にヤリサーになるのか」


と中野が乗ってきた。そして「おーこわいこわい」と中野と一緒になってさえずるように言った。


種田は苦笑いを浮かべている。


「あ、そういや種田、彼女できたんだろ。久保田が前、気にしていたぜ」


と中野が今思い出したように言った。トクン、と胸の中の水面が波立った。


種田がこっちをちらりと見て、「ああ、ちょっと前にな」と言った。


「どんな子なんだ?」とふざけたように中野が言った。


「言わねー」


「写真見せて」とまた中野が突っかかる。


「撮ってない」


種田は短くクールに返答している。


僕は

「すぐにそんなことして、相変わらず不純なやつだなあ」と軽く言ってみた。


すると種田がまっすぐこっちをみて、

「お前はどうなんだよ」と言った。


表情は変わらなかったが、種田から険を確かに感じた。


「余計な世間体ばかり気にして。変に意地はって、昔の話題になりそうになったら逸らしてばかり。逃げてばかりじゃん」


僕は視線をそらし、言葉を見失った。心臓が高鳴っているのを隠すだけで精一杯だった。


中野が不思議そうに僕達の様子を見ている。


「あれ、まだ中野に話してなかったのか」


頭の中が冷たくなっているのか沸騰しているのかよくわからない感覚がした。僕は漁るように右手で髪の毛を混ぜた。


「何の話だ?」


と中野が言った。


俺が話すことじゃないんだけど、と前置きして種田が話しだした。


「入試直前にちょっと色々あってな、それ以来、こいつ学校も塾も行かないわ、受験勉強もほっぽり出して、」


「いい」


僕は種田の言葉を遮った。足が喚くように、勝手に貧乏揺すりを始めた。


中野は何も聞いてこなかった。


「やめやめ。夜バイトだし帰って仮眠とるわ」と種田は携帯を見ながら立ち上がった。僕も中野も自然に分散して、僕は帰路についた。


次に会った時には、みんなして何事もなかったかのように、誰もこの時の話題を口にしなかった。


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