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春夏秋冬の月  作者: myu-myu-
19/49

2-7

4月8日


今日は初めての講義の日だ。どの講義をとればいいかは種田に教えてもらい、ほとんど同じ科目をとった。あいつと同じ抗議をとっておけば、おそらく問題はないだろう。しっかり情報収集して大事な講義を押さえているはずだ。言語とか一部の必修は勝手にクラス分けされているので違う授業もあるが、まあそんなに男同士で一緒に受けてばかりいるのも気持ちが悪いので丁度いい。


昼からの講義だったが、「席がなくなると面倒くさいことになるから早めに来い」と種田からメールがあったため早めに出かけた。駅から学校への道は大混雑。もちろん制服ではないからどれが丸敷大学生かなんてわからない。ぞろぞろと一体感がなく、それぞれが勝手にどこか別の場所に向かっているような印象を受ける。お互いに無関心で、ipodの白いイヤホンがなんとなく目を引いた。


教室の場所を確認し、向かっている途中で「おーい久保田」という声が聞こえた。振り返ると種田と、知らない男が横に立っていた。二人は並んでこちらへ向かってくる。その知らない男は表情も特に変えず、あまり僕に興味がなさそうだった。これも最近出来た知り合いだろうか。


「いまついたとこか?」

と種田が言った。


「こいつは中野。まえ新歓コンパで偶然会ったんだ」


「そうなんだ。どうも」


と言うと、中野は黙ったまま軽く会釈した。どちらかというと細身の体型だが、ひょろっとしているのではなく、芯が詰まっている感じで、スポーツの部活をやっていそうな印象を受けた。服装は派手ではないが、おのぼり新入生とは一線を画す落ち着きがある。2回生かと思うほどだ。無口で落ち着いた人だな、と思った。


「中学が同じでさ。こいつも中学の時サッカー部だったんた」


中学が種田と同じ……。胸の下の辺りがちくりと疼いた。


そして種田は「偶然こいつも経済学部だったんだ」と種田とニヤニヤ笑っている。なんとなくどういうことかわかった。


「中野も今日の講義一緒だから」


やっぱり。


種田はすっと中野のほうに向き直って、

「こいつは久保田。こいつとは高校から一緒なんだ」


と紹介されたので、僕はまた「どうも」と言って少し頭を下げた。


「じゃあ教室に行こう」と種田は言い、僕たちは目的の教室の方向に足を向けた。


何か話すべきなのだろうかと思っている間に種田は口を開いた。


「中野、○○高校出身なんだぜ」


「え、すご」と僕は目を開いた。


○○高校とは県有数の進学校だ。東大合格者なども多数でている超進学校で、春花秋灯に入ることさえも落ちこぼれ呼ばわりされるという噂を聞いたことがある。丸敷大学とは全く無縁の高校だ。


「なんで丸敷大学に?」と僕は考える前に聞いてしまい、僕はすぐにあっと思って嫌悪感に包まれた。何か深い理由があるかもしれないじゃないか。家庭の事情とか、受験に失敗したとか。


そうやってぐるぐると頭で走り回っている僕を中野がちらっとみて、

「とりあえず有名大学にいくやつなんてつまらないさ」


と言った。どういう意味? と僕が意味を理解している間の沈黙を埋めるように、種田は中野に尋ねた。


「前の新歓行ったサークル入ることにしたのか?」


すると中野は即答した。


「だから入るつもりで行ったんじゃないと言っているだろう。俺は大学生のうかれにうかれている会合の実態とそこに集まって馴れ合う頭空っぽの学生たちを観察しに行っただけだ」



それをきいて種田はくすくす笑っている。


「本当にサッカーをするのなら体育会に入る。片手間程度に中途半端なことをするくらいならしないほうがマシだ。あいつらは別の部分に目的があるのだろう。はしゃぎたいとか、教科書通りの大学生になりたいのだろう。つまんない集団だ」


僕は何を何て言えばいいのかわからなくて口をもぐもぐさせていると

「ほら、こいつも変な奴だし、仲良くしろよ」と種田が僕の肩を叩いた。


初めての講義は高校の授業よりもあまりに長く、退屈だった。学生達はスマートフォンを触っているか、寝ているか、喋っているかで、教授はそれを気にせずに講義を進めている。講義を聞かない学生達をどうこうしようという気もないと思う。これだけ広い教室で教授は一人。もとから学生をまとめる気などないだろう。教授は講義を時間通りにこなすだけだ。


大学生より高校生の方がよっぽど真面目に授業を受けている。少なくともここにいる学生達からは学ぶという意思を感じるのは不可能だった。「最初の講義だけは様子見にきている人が多いらしい。これからはどんどんこういう人達は減っていくだろう」と種田は言った。


周りの話し声と雑音が教授のマイク音声を打ち消して、講義をほとんど聞き取ることができない。これじゃあ出席しても意味がなさそうだ。「大学に行かなくなる? そんなバカな」と思っていたが、確かに講義に出席したくなくなる気持ちもわかる。「いてもいなくても意味ない」なんて思ってしまう自分に少しがっかりだ。


種田はスマホを触っていると思っていたら、知らぬ間に寝ていた。中野はずっと文庫本を読んでいる。小説か何かだと思うが、集中して読んでいるようだし、話しかけないでおこう。何を読んでいるのか聞いたところで、僕は本を読まないから盛り上がりもしないだろうし。そんなことを考えながら顎に手をついて教室の空間を見つめていた。


これが大学か。そう考えていると次第に僕もまぶたが重たくなって……ブラックアウトした。



人が動く気配を感じて目が覚めた。講義が終わったようだ。再び種田に新歓コンパに誘われるが、僕は行く気がないので断った。中野は用事があるらしいので僕達は教室で解散した。こんな日がずっと続くのかと考えて、例えづらい気持ちになった。退屈とか、不安とか、期待とか。そんなんじゃなくて……。


夕暮れの帰り道でいろんなことを考えている時、コンビニから面接合格の電話がかかってきた。


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