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4月3日
大学生になったということで、お小遣いはなくなるらしい。要するに、バイトをしなさい、ということだ。納得出来ない思いは多少なりともあるが、確かに親に負い目を感じない自分だけの自由なお金を手に入れることは、とてもいいことだと思う。良く言えば社会勉強か。こういう風に、何でも自分が都合のいいように曲解するのは好きではないが。
お金を手に入れたところで何か使うあてもないところも考えどころだ。まあお金は持っておいて荷物になるものでもないし、それ以上のことはお金が溜まってから考えるとしよう。
バイトを始める件について種田に相談してみた。種田は下宿先近辺の飲み屋でバイトするつもりらしい。阿呆大学生の酔っぱらいを相手にするなんて、僕なら絶対にお断りだ。
種田もそこら辺をしっかり理解してくれているようで、飲み屋ではなく、コンビニのバイトをおすすめしてくれた。「夜勤は結構稼げるし、久保田だったら夜勤のせいで学校を疎かにすることもないだろう、多分」ということらしい。
正直バイトなんて何でもよかった僕は、すぐにコンビニのアルバイトをすることに決めた。コンビニといえども世に何種類とあることはもちろん知っている。それぞれに特色の違いがあるらしい。でもどこのコンビニがいいか、というこだわりはなかったので、家から一番近いローソンに決めた。
とはいえ、アルバイト募集すらしていなかったら話にもならないので、帰り道にふらりと寄ってみた。入口のドアにクルー募集のチラシが張ってあったのでひと安心した。家に帰って、ネットで店舗の電話番号を調べて、早速電話をかけた。
「はい。ローソン ○○店です」と40代くらいの女性の事務的な声が聞こえた。
「あの、アルバイトの募集をみて、お電話かけさせてもらったんですけど」
「あら、こんにちは。学生ですか?」
女性の声は突然親近的になった。
「はい、大学生です」
「失礼ですがお名前は?」
あ、そうかこういう時は自分から名乗らきゃいけないものか。
「久保田肇です」
「久保田くんね。じゃあ面接に来ていただきたいのですが……んーと、明後日5日はどうかな?」
5日か……手元の手帳に視線を落とした。5日はまだ履修登録期間だ。講義開始は8日からだから、特に予定はないはず。
「はい大丈夫です」
「じゃあ5日の2時にきてくれるかな」
「はい」
「えーと、持ち物はメモ帳と履歴書もってきてね」
普段聞き慣れない言葉にドキリとした。
「履歴書……」それが口から自然と出てしまっていた。
「書いたことない?」
受話器の向こうでクスクスと笑っているのが聞こえた。
「あ、はい。アルバイト経験が今まで無くて」
「学校とか、それこそコンビニにも売ってるから、頑張って書いてきてね」
「はい。ありがとうございます」
「はい、それではお待ちしてますね、あ、私店長のアラタニと申しますので、来店の際には面接で来たことを店員にお知らせください」
女性の店長だったのか。アラタニさん、か。覚えた。
「わかりました」
「はい失礼致しますねー」
「はい」「はーい」とお互いはいはい言い合いながら電話を切った。こんな感じでよかったかなと頭の中でさっきの会話を反芻させながら思った。まあ学生だし多めに見てくれているだろう。
優しそうな店長さんで良さそうだと思った。




