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私服のまま出かけた。
大学の最寄り駅までは、乗り換えなしで20分くらいで到着する。車窓を眺めていると桜が所々に見えた。
駅から大学までは徒歩15分くらい。田舎というほどでもなく、都会というわけでもない、住宅街の中にある。周りには中学や高校も多い。
駅から大学に向かう道で、入学式の帰りとみられる学生達と沢山すれ違った。初々しいスーツを身にまとい、ひと目で着慣れていない印象を受ける。まだあどけなさの残る表情ですぐに「新入生か」と判断できるのである。誰もが顔に明るい笑顔を貼り付けて、まさに希望で胸がいっぱい、というところ。なにがそんなに楽しみなのだろう。
「一人暮らしに興味がある方どうぞ~」
「車の免許安いですよ~」
「安い物件揃ってますよ~」
とチラシを配っている人がやたらと多い。しかもかなりしつこくて馴れ馴れしくて、新入生が人見知り気味に受け取っているのを横目で見ていた。チラシ配りしている人をよく見ると年はそれほど離れていないように見える。大学生がバイトで配っているのだろう。僕は私服で来たためか、チラシ配りが寄ってこなかった。捨てられたのか地面に張り付いているチラシを踏まないように避けながら大学へ向かった。
大学に来るのは入試以来だが、まずとんでもない人の量に驚いた。
入学式なのでスーツの学生だらけかと思っていたら、むしろ私服やらお揃いのTシャツやらハッピやらの格好で騒ぎ立てている人の方が多い。なにがどうなっているのだ。お祭り騒ぎにバカ騒ぎ、乱痴気騒ぎにどんちゃん騒ぎ。これが学校といえるのか。僕は校門を前にして、愕然と立ち尽くした。
校門あたりから2回生以上の学生が二列になって人道を作っている。吸い込まれると二度とでられないような物々しさがある。ふと横を見てみると、同じ電車に乗りあわせて、一緒に大学へ来た新入生らしき親子も同じく校門に立ち尽くしていた。嬉しいやら面白いやら、やや複雑そうな表情をしている。すると、誘導員のだと思われる学生が寄ってきて、親子をその人道の中へ案内した。親子は人道の入り口へ吸い込まれていく。僕はその様子をじっと見ていた。親子の接近に気付くと人道の先頭が、
「新入生のおとおおりいいいいいい!!!」
喉が裂けそうな大声をあげた。ほぼ同時にワッと人道はガヤガヤし始め、通る新入生親子に
「軽音サークルですお願いしまーす!」
「ソフトテニスでーす!」
とサークルチラシをほぼ無理矢理に渡す。なんて迷惑なおもてなしなんだろうと思って眺めていると、
「体育会で熱いキャンパスライフをおくりやいりゃああ!!」と枯れた声の雄叫びが鳴った。語尾が全然聞き取れないことになっている叫び声を聞いて、人道からドッとから笑いが起こった。そして誘導員らしき人物が、新入生をまた人道の中へ案内する。以上繰り返し。
どうかしている。目の前に起こっている非日常的な信じられない光景をみながら、素直に思った。
この人道はどこにつながっているのだろう? もしかして入学式場まで繋がってるとか? ありうる。足場にはそこら中に受け取られなかったチラシが散りばめられて、意図的に作ったように地面を白く芸術的に彩っている。
これがサークル勧誘か。ドラマとかではみたことあるが、本当にこんなことになっていたとは。スーツで来なくてよかったと心底思った。巻き込まれたらたまったものじゃない。
一歩引いてお祭り騒ぎをみていて、はて、と疑問に思った。あくまでもサークルとは共通する物事が好きなもの同士が集まって楽しむものではないのか。サークル維持費の獲得のために彼らは誰かれ構わず必死になっているのだろうか。こんなにして無理矢理入れても仕方ないことのように思える。いや、むしろ騒ぐこと自体が目的なのか?
色々と考えていると校門まわりにいた学生たちが掃けて、あたりが見やすくなってきた。
すると勧誘の人道とは別になにやら行列があることに気付いた。新入生やその親が並んでいるようだが、遠くからではよくわからない。何かが書いてある大きな看板の前に立って、記念撮影をしているらしい。一体何があるのだろうと近づくと、すぐ隣にいた私服の男子学生が「あー懐かし!」と大きな声が聞こえた。
「去年撮ったなあこれ! なあ、今年も二人で撮らね?」
「やだよ。結構並んでるし。それに私服で並んでいたら目立つだろ」
「まーそれもそうかー」
「ほら、早くいかないと新入生を他のサークルにとられちまうぞ」
と言ってその男2人組は去って行った。
一体この先に何があるのだろうと俄然好奇心が湧いて、看板の近くに寄ってみた。有名な絵画とかだろうか。
近くに行くと、その看板がいったいなんなのかはすぐに分かった。
“20XX年度 丸敷大学 入学式”
なんだ、こんなもののために長蛇の列を作っていたのか、と少しがっかりした。
それから、やっぱりスーツで来なくてよかった、と考えて、口元だけ自嘲的に笑ってみた。




