008話
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源田実
山本五十六
執務室の扉をノックする音が聞こえた。どうやら客人らしく、散らかってしまってはいるが通す様にと羽生は言う。
客人は2人で、黒島と同じ印象を受けるが、背の高い方は顔立ちがキリッとしており、背の低い方はご令嬢と見間違う様なはんなりとした印象を受けた。
その、服装で無ければな!
またである。何度も言うが、着ている服の面積よりも、露出している肌の面積の方が圧倒的に多い。上着はヘソ上までしか無く、下半身は、パンツの上半分以上を切り取った様な酷い有様。こんなもの、褌一丁で公衆の面前に出るよりも恥ずかしいのではないか?そう、羽生と源田は思った。
「よっ!黒島」
黒島を見止めた背の高い方は、軽く声をかけた。その黒島だが、部屋の主に挨拶はしないのか。と、言いたげに2人の方を見ている。そんな視線を送られた背の高い方は、隣にいるはんなりさんに任せる様に一歩身を引いた。
「これは大変失礼を致しました。初めまして、私達は黒島亀人の同僚をさせていただいております。彼女、源田実と私、山本五十六と申します」
随分と男の様な名前である。
「同名とは…、何かとご縁がありそうですな」
「そんな物は無いさ。しかし、面白そうな事をしているじゃないか。私達も混ぜてはくれないか?」
源田は同名である事に、何故にか違和感を覚えつつ源田嬢の方を見た。源田嬢は否定しつつ、テーブルの上にぶちまかれているモノを見て自分達も混ぜろと言ってきた。
「実、その様な我儘を言う物ではありませんわ」
「なに、どうせ行き詰っているのだろ?ちょっとぐらい、アドバイスしてやりゃーいーじゃねーか?山本はこーゆーの得意なんだろ!」
「そ、それは…」
山本嬢は目を伏せつつ、大丈夫なのかと羽生に問いかけてきた。その眼は潤んでおり、甘える様な猫なで声でもあった。
こんなのを断れる訳が無い。羽生は頷くしかなかった。別に問いかけられた訳でもない源田さえも、反論や異論をはさむ事をはばかるよりも他無かった。
「はぁ~。山本は本当に、魔性の女ですね」
「そ、そうでしょうか……」
黒島の主張にションボリする山本嬢。羽生も源田も、心の中で同意するしかなかった。表に感情を出したら、こじれそうで末恐ろしい。
「で、山本。この案をどう思うよ」
「そ、そうですわね…。……、……。なるほど、駄目ですわね」
山本嬢は少し資料を読んだ後、即決で否定した。
「駄目なんか…」
「ええ、日本共和国も改黄泉平坂級を空母に改造する計画を幾度となく打ち出しているのですが、その度に失敗の烙印が増えていっている様ですわね」
改黄泉平坂級は、水上戦闘艦として完成形の体を成している。そんな艦を空母として変更するためには、根本的な大改装が必要であり、改黄泉平坂級である必要性が無いのだと言う。だから、「おーるらんぐふりすと」の様な艦がポンと出で存在するのだとも。
「じゃぁ、山本だったらどれを使うんだ?」
「それでしたら、シンプルに「改信濃級」で宜しいのではありませんでしょうか」
「「「「は?」」」」
「既製の船体であり、装甲空母であり、搭載数も100機前後ですし、何も問題の無い様に思われますが、どうでしょうか」
黒島のタブレットに映し出された艦は、大鳳型を上回る全長と艦幅を持った艦であった。流石に、これは大き過ぎるのではないか。そんな空気が流れる。
「全長320m、全幅80mって、ニミッツ級か何かかよ…」
「ガスタービン艦なのでキティホーク級ですわね。この艦を基に改造を施せば、実戦に耐えることも十分に可能と考察させていただきますわ」
源田嬢も呆れているが、山本嬢はこれ以上に良い提案はないと胸を張っている。空母の様にフラットなので、凹凸の有無は分からないが。
「ど、どなたか失礼な事を考えましたわね!?」
「被害妄想、乙。さて、参考になったかは分からないが、ここいらでおいとまさせてもらうよ。黒島、貴様の荷物は部屋に運んで置いた、適当にばらしてくれや」
涙目になり、自らを抱きしめる山本嬢を引きずり、源田嬢は部屋を後にした。
いや、十分参考になりましたとも。3人はそう思ったが、山本嬢の怨みがましい顔に肝を冷やしたのであった。
ものっそく、マナイターです