閑話 63話予定だった話
本編にしては中途半端?なので閑話です
巡洋艦オマハは、軍事演習を行っているファスサの監視及び、それに参加している日本帝国の偵察を命令され指揮下の駆逐艦6隻を伴ってレビヤヒヘド諸島近海にやって来ていた。
演習とは言え、その様相は実弾演習と言っても差し支えない代物で、戦艦の砲撃が容赦なく港湾施設に直撃して耕している。
この平時と言う時代に置いて、ここまで軍事費を用いて盛大な軍事演習が出来るファスサ・アメリカーナと言う底知れない国に、艦長以下全員が困惑と怯えを覚えていた。
その対地砲撃を行っている戦艦は、ファスサの海防戦艦ルナ:サエッタ級であった。
海防戦艦と言えば、外洋航行能力が極端に低く、駆逐艦の様な小型の船体を持ち、その船体に前弩級戦艦クラスの中口径砲を装備した軍艦。
それが一般的な軍事知識上の『海防戦艦』であった。
そんな一般常識とは違い、目の前の海防戦艦は太平洋の荒波を諸共せず、戦艦クラスを遥かに超えた豪華客船並の巨体を持ち、そこに据えられるはそれに相応しい巨砲だった。
そんな巨艦が、目の前だけで30隻はいるだろうか。
偵察に出した偵察機によると、ここよりも更に東方の海上でも航行する艦隊があり、その数は100隻を超えるのではないかと予想できた。
「偵察機、帰艦します」
複葉のずんぐりむっくりとした水上機が、艦の舷側付近に綺麗に着水し
た。
その水上機の周囲に人だかりが出来ている事に気付いたのは、たまたま目を向けた時であった。
「艦長」
「うむ、どうかしたのか」
「それが、日本帝国の兵員を救助したと報告が……」
「救助?」
困惑した表情の副長。本来ならば関わるべきでは無かったが、こうなっては仕方がないだろう。
「我々では、直接日本帝国には引き渡せない。ファスサ側に連絡をとってからの引き渡しになるだろうな」
客観的に考えられる事を口に出したが、それでも副長が聞きたかった答えではないらしい。
「それで、他に何かあるのかね」
「その…、相手は女性なのですが、どの様にすれば宜しいでしょうか……」
「は?」
一瞬の思考停止と、混乱が次の言葉を導き出す事を邪魔する。
女性?女?何故、こんな海域に?
しかも報告では、日本帝国兵と報告にあった。
乗船していた記者と言う訳でもなさそうであった。
「副長…。宜しいでしょうか」
副長の元に伝令が駆け込んできた。
何かを耳打ちした伝令に、嫌そうな顔を向ける。
「艦長。日本帝国兵が面会を希望しているそうです。面会内容は、感謝と礼との事です」
「む?ま、いいだろう。このままここへ、通しなさい」
副長と伝令は、その言葉に心配そうな視線を向けてきたが命令であるため復唱した。
艦橋に入ってきた日本兵は、小柄な女性であった。
救助したという言葉があったため、
洋上を漂流していたとばかり思っていたが、彼女に濡れた形跡は無かった。
通常ならば、この程度の考察で終わるだろうが、続きがある。
彼女の来ている服は、服と言っていいのであろうか、身体のラインがくっきり見える服装をしており、背中には何やら大がかりな装備が装着されている。
その頭には、ウサギの様な大きな耳と言うべきか、悪魔の様な巨大な角と言うべきか、そんな飾りを付けている。
「まず、感謝を。この度は、救助して頂き有り難う御座います。本官は、
日本帝国海軍少佐のクエリディン・ライン・バール・ヘリスティナと申します」
「いいえ、人として当たり前の事を彼らが行ったまでの事でしょう」
世事としての言葉がかろうじて出たが、想定外な事に彼女はどうやら純粋な日本人では無いようだ。
「既に所属艦には、連絡を入れていあります。駆逐艦をこちらに派遣するという返信があった事を報告させていただきます」
「そうでしたか。これから、ファスサに申し入れをするところでしたが……」
「御手間を取らせて申し訳ございません。ですので、少しばかりですが」
ヘリスティナ少佐は、これから彼女を迎えに来る駆逐艦の事を少しばかり話した。
夕雲級駆逐艦。その中で艦名に
『波』が付けられている事から、波型と呼ばれるグループだと言う。
型式:夕雲型
種別:一等駆逐艦(甲型駆逐艦)
耐久:165
防御:対12cm砲弾防御
武装:
12.7cm連装砲×3基
12.7cm単装速射砲×1基
10連装45cm魚雷発射管×1基
爆雷速射機×2基
新型57mm自動砲×2基
25mm機銃×6門
この夕雲級は、吹雪級を踏襲しつつ性能を改善させた型式だと言う。
特に、吹雪級の主砲は対空攻撃には向かなかったがために、本級では対空攻撃に特化した速射砲を搭載した対空攻撃強化型なのだとか。
「接近する艦影2。大きさから駆逐艦と思われます」
見張りの指さす方向に目を凝らすと、日本駆逐艦らしい艦が接近してきた。
「どうやら、迎えの様ですね」
彼女の言葉と同時に、その2隻のうちの1隻が、発光信号にて艦名と接近理由を伝えてきた。
『コチラハ日本帝国第10艦隊所属、駆逐艦はななみ及ビそらなみナリ。貴旗艦ニ収容サレタ本艦隊乗員ヲ回収シタイ。接舷ノ許可ヲ得ラレタシ』
許可をすぐに出して、一部の乗員にスケッチを描くなり、写真を撮るなりしてなるべく多くの情報を得る様に命令した。
日本の駆逐艦はかなり大きいと言われているが、それが本当である事を初めて認識したと言っていいだろう。
ヘリスティナ少佐を回収するべく、アメリカ派遣部隊旗艦の巡洋艦オマハに接舷すると、反対舷から挟み込む様にアメリカの駆逐艦が接近してきた。
艦影識別票から、ファラガット型だと特定された。
このファラガット型は2隻で、残りの
4隻は旧式のクレムソン型であった。
情報では、近年アメリカも駆逐艦の更新を始めているとされていたが、
それもまだ遅々として進まない様であった。
「艦長、少佐の移乗完了しました」
「ああ。では、戻るとしよう」
少しずつ、艦が動き始めると、米艦の乗員も元の仕事に戻って行く。
しかし、艦隊上層部の意図が分からない。今まで秘匿してきた情報を、
こうも簡単に見せたり話したりしてしまうのだろうか。
一介の中佐では、理由さえも分からないのが歯がゆい。
「ヘリスティナ少佐、入ります」
そう言って入ってきたのは、今回の事の発端となったクエリディン・ライン・バール・ヘリスティナ少佐で
あった。
彼は戦艦朝比奈所属の観測員で、
戦闘機人Kawa2011を扱うサイボーグでもある。
「無事で何より」
「御心配、ありがとうございます」
「……」
「?」
一瞬睨みつけてしまったが、気付かれずに済んだ様だ。
不思議そうな顔を向けてきたが、それを無視して前を見なおす。
「中佐、何か御不満でも?」
「何かとは?」
「いいえ、一瞬睨まれた様な気がしましたの……で!?」
彼に壁ドンをして、満面の笑顔を向けた。
その彼は、怯えた表情となり、まるで虐めている様に見えるが致し方ないだろう。
「不満と言うよりも、疑問があるの
だ。知っているなら、聞かせて欲しい。何故、上層部はここにきて、急に情報を見せびらかす様な真似をし出したのだ?」
「そ、それは本官には分かりません。本官も、命令でしたので。ただ、以前から諸外国の諜報員が、情報を持ちだせない状況にある事が問題視されていました。それに関係しているのではないかと、本官は思っているのです」
彼もまた命令だった。
そう言われ、更に困惑が深まってしまったが、少なくとも彼はこちらが持っていなかった情報を与えてくれた。
諸外国の諜報活動が、全くの失敗に終わっている事を上層部が問題にしているそうだ。
何故問題なのかは、この際置いておこう。
失敗している理由を挙げるならば、
この時代にある筈のないパーソナルコンピュータなどの電子機器を用いた、情報の管理とやり取りのせいである
と。
この電子機器の扱い方が、難しい。しかも、この電子機器は、日本共和国の企業が日本人向けに開発したため、日本語…正確には日本共和国語を理解している必要があるのである。
その前に、セキュリティーの問題もあるか。
各個人に発行されている、マイナンバーカードや、軍人ならば軍籍を示すカードが無ければ、情報を見る事が不可能となている。
基本的に、海外で同様の物を複製する事は不可能だ。
それが、情報の漏洩を防止している事に繋がっているが、全く漏れない事はそれでいて問題と言う事なのだろう。
「無理を言って済まないな」
「いいえ、仕方ありません。本官も、何も情報が無ければ同じ事をしていたかもしれませんので」
後で上層部に、余りにも佐官に情報が無いお陰で、現場が混乱し始めていると報告を入れよう。
そう、決意したのであった。




