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お前らいい加減にしろっ(A)  作者: 加賀函館
第5章 皇紀2600年記念大観艦式
64/72

061話

 途中寄港地である大湊を出航して、早5日。

既に日本近海を離れ、アリューシャン列島の南方を航行している。

 ただ海は荒れているために、航空機はおろか艦船の姿形も見当たらない。

この時期の北太平洋としては珍しい気象状態であった。

 そして、荒れた海であるが故に、巡洋鈴谷は波にもまれていた。

 大型艦である朝比奈も、艦首甲板に大波をかぶっており、艦首が浸かると艦尾が露出して、推進効率は下がるため中々前には進んでいなかった。

「現在、波高は25m前後…。風速は50m/sです…」

 そう、航海員が報告をあげた。

大時化どころか台風並みであった。

「フィンスタビライザーがあるからまだマシな方だが…。来る時期を間違えたか…?」

「ですが、第一機動艦隊はこれより荒れたこの海域を通ってハワイに向かったのですよね…?」

 そう、現在我々が通っている海域は多少のずれはあるが、日本共和国史にあった真珠湾攻撃艦隊が通った航路なのだ。

 正直な話をすれば、多少の興味はあったがかなりひどい。

 ここを本番で通った彼らは運がよかったと言っておこう。

「華波と穹波は大丈夫でしょうか…」

 黒島は2隻の事を心配するが、こちらの状況はあまり良くは無い。

 波高50mまで耐えられる強度だと言うが、それでも心配になる程である。

「艦隊通信を飛ばせるか?」

「この状況では使えません。また、雲が厚いため、GPSさえも阻害されている状況にあります」

 GPSは度々切れる程度であるため、航路の修正には問題がないそうだ。

ただ、速力がもっと出ていた場合は、大いに問題であっただろうが。

「ただし、被害が発生した艦は無いようです。華波も穹波も随伴してきております」

 航海員はそう言ったが、時折艦首に当る波は強く、第1、第2砲塔が海面に没するほどなのだ。

水没する事を考え、処理を施していなければ沈没しているところだっただろう。

「予報では本日中に低気圧も弱くなるとなっておりますが…」

 予報と実際は違うだろうと、心の中で愚痴を言う。

「14時の方向に船影確認。大きさから大型客船と思われます」

 すぐさま暗視機能の付いた大型双眼鏡をそちらに向ける。

 まだ15時過ぎではあるが、厚く垂れこめた雲によって光が遮られており、当りは暗闇に覆われていた。

「報告を訂正します。砲塔を確認、戦闘艦の模様」

 この様な荒れた海に戦闘艦が現れた。

それがどう言った意味を持っているのか、安直に言えばアメリカ軍に発見されたと見るべきだろう。

「司令、赤外線通信が入っております」

「赤外線通信?」

「はい。内容は『こちらはファスサ・アメリカーナ所属、海防戦艦トミオカ・ルナ:サエッタなり。貴艦隊の先導を申し使っている。我に続き航行するよう要請するものなり』以上です」

「この海域に低速艦のルナ:サエッタ…!?しかも、現在進行形で荒れているのにか!」

 近付くにつれ、特徴的な大型3連装砲塔が艦首側に1つ見えた。

すると、嵐が急激に止みまるで台風の目に入ったかのように風雨が止んだ。

 波も先程程ではなく、波高は5mにも満たない程度に収まっている。

 この状況を鑑みて、この嵐を引き起こしていたのは気象操作艦ではないのかと。

気象操作艦は、以前日本共和国が英国での記念観艦式の折に使用した事を俺は覚えていた。

 それはかなり強力であり、対岸のカレーで土砂降りの雨が降っていようとも、ポーツマスは快晴であったほどだ。

 日本共和国の気象操作艦は、神洲丸級であったがこちらは輸送艦を改造した艦なのだろう。

外観的特徴は全く見当たらなかった。

 ルナ:サエッタはするりと旋回すると、気象操作艦を伴って南下し始めた。

 こちらもそれに続き、今までの苦労が何だったのかと思いたくなるほどの天気に、どっと疲れが込み上げてきた。

 ダキオン艦長は、少し早いが乗員を交代させ、疲弊した将兵を休ませる事にしたのであった。

 かく言う俺も、源田参謀に後を任せて自室へ向かうのであった……。


 アメリカ西海岸を南下するのは、思いのほか簡単であった。

 気象操作艦によって、豪雨がもたらされ、濃霧が発生し、落雷を多発させ接近してくる船舶を追い払っていた。

 豪雨や濃霧のせいで航空機も寄ってこなかったため、全く発見されずにレビヤヒヘド諸島にたどり着いた。

 到着すると地下軍港へ入港し、整備と乗員の休息が行われた。

 荒れた海を航行したため、整備を行う必要性があった為だった。

 ただ、乗員に休息は与えられたが、俺達司令部はその限りでは無かった。

 現地司令と共に、演習の打ち合わせや調整があったため、陸上で寝起きできる以外は忙しいことには変わりがないのであった。

「それにしても多いな」

「ルナ:サエッタ級は量産艦ですので、当然と言えばそうなのでしょうが…ね」

 目の前には50隻をゆうに超える数のルナ:サエッタ級が並んでいた。

それはここが、重要拠点であると言う事も伺える。

「珍しいですかな」

 そう声をかけてきたのは、ILL海軍太平洋方面軍司令のエドマリウス・エンリケ・ハフレリナ2等海軍中将だった。

彼はそう畏まらずに、気楽でいる様に言うのだがその後ろに控えている参謀達の目線が怖い。

その視線に彼も気付いているために、非常に残念そうにしていると言うお決まりの流れになっている。

「ええ、これ程の大型艦が一同に会するところを見た事がありませんので」

「それは意外ですね。貴官は確か、英国の観艦式に参加したと伺っておりますが?」

「ええ、そうなのですが。しかし、それでもこの様な数ではありませんでした」

 確かに多数の艦船が参加して行われた観艦式であったが、大小様々な感が集まったため、華やかさはあってもここまで畏怖する事は無かった。

「ははは。そうですか、ならじっくりご覧ください。残りの艦が到着するのも時間の問題でしょうが」

 中将は上機嫌となって、立ち去って行った。

 中将が言った残りの艦と言うのは、2分艦隊の事だが、ここに来て初めて知った事があった。

それが日本共和国からも参加する艦隊があると言う事だった。

 日本共和国第0輸送艦隊と言う艦隊だそうだが、俺も黒島も聞いた事が無かったためどの様な艦隊なのかは分からなかった。

 せめて、まともな人が来る事を願う他無いのかもしれなかった……。


 時空転送艦によって、転送されてきた艦隊が目の前に現れた。

 礫竜型揚陸艦6隻、間宮型補給艦8隻、改黄泉平坂級防護巡洋艦24隻、そしてゆゆうさぎ型輸送艦2隻がこの艦隊の編成だった。

 日本共和国軍には3つの海軍組織があり、最も大きく戦力がある海上自衛軍。

海上自衛軍の補佐組織である海上自衛隊。

沿岸警備を担当する海上保安庁だ。

 この第0輸送艦隊は海上自衛隊に所属する艦隊で、後方支援任務を主な活動としているそうだ。

 そう彼女こと、新玉艦隊参謀長は解説をしてくれた。

 新玉……。よく聞く『新玉んズ』の新玉か?と聞くと、そうだが少し違うと言う返答が返って来た。

 どう言う事なのかと言えば、噂の新玉は艦隊司令の方の新玉なのだと言う。

彼女は義理の姉弟(きょうだい)なので、同じ姓を名乗っているにすぎないそうだ。

「ああ、あまり変なツッコミは入れないでくれ。本人は、至って常識人なのでな。周りがオカシナ奴らばかりだったが故に、健康にも影響が出ているんだ」

 新玉艦隊参謀長は事前にそう言った。

新玉んズ関係で何か言われると、体調をすぐ崩すためそっち関係の質問は禁止だと。

 小野田幕僚がこちらで暴れ回っていると聞いて、先月まで入院していた程だと言う。

 日本共和国人って、かなり強靭な肉体を持っていた筈ではなかったのか。

そんな疑問が浮かんでしまうのであった。

「司令、どう思いますか?」

「何をだ、黒島」

「噂の人ですよ?楽しみではありませんか?」

「いや、なんというか…。病弱な日本共和国人と言うモノが、理解出来ずに困惑しているのだが……」

「案外バリエーションに富んでいるではありませんか」

「そう言う問題か?」

「そう言う問題です」

 と新玉艦隊参謀長が、タラップを降りてきた初老に見える男に敬礼をする。

 男は軽く手を振り、こちらにゆっくりと近づいてきた。

足取りは軽やかとは言えないが、重い訳ではない。

ただ、体調が悪そうな顔色をしているのは分かった。

「初めまして。私は日本共和国海上自衛隊所属、新玉霖海上中将だよ」

 新玉海将は。無警戒そうな笑みを浮かべて自己紹介をした。

 実際全くと言っていいほど無警戒であり、小野田幕僚とは違った意味で危険と判断できる人物だった。

 こちらが身構えると不思議そうな顔をするが、新玉艦隊参謀長がツッコミを入れて補足を入れると納得した表情を浮かべた。

「それは失礼したね」

「霖、調子が悪いなら私が代わるから」

「いや、綾瀬だけに仕事をさせる訳にもいかないからね。それに、羽生少将とは少し話したい事もあるんだ」

 そう言い。先程とは打って変わって、鋭い眼光を放って来た。

やはり、油断大敵な人物だった様だ。

「後ほどで構わないから、時間を頂けないだろうか。話したい事があるのでね」

「ええ、構いません。ですが、せめて演習が終わってからにして頂けないでしょうか。こちらも数多の準備がありますので」

「ああ、それでは演習後を楽しみにしているよ」

 新玉海将は頬笑みを浮かべて了承すると、ゆっくりと司令部の方へと歩いていった。

その後は追わず、こちらに威圧の眼光を向けてきた新玉艦隊参謀長。

 早く終わらせて後を追いたいと目は語っており、本来ならば担当の者と折衝させるところを黒島に任せる事にした。

 黒島が言うには、彼女は機人なのだと言う。

確かに遠くから見た外観は、改黄泉平坂級なのだが、髪の色が黒であったり、背が高かったりと相違があった。

 そのために、機人だとは思わなかったのだった。

「何か」

「あっ。いや、その…」

 外観が気になって見詰めてしまったが故に、訝しげなものを見る様な目で見られてしまった。

「もしや、改黄泉平坂級をしているのか?」

「ええ、部下にもおりますので」

「そうか。なら疑問も氷解するだろう。日本共和国の機人の外観と言うものは、基本的にはモデルになった人物がいる。例えば加賀函館なら、第6近衛兵団兵団長の平岡真澄氏。カミ815なら、量産型怨霊エリスとなる。そして、私の外観を元にしているのが、改黄泉平坂級と言う事になる」

「なるほど!」

 サラリと大湊で遭った平岡兵団長の名も出てきた。

その事をうっかり漏らすと、新玉艦隊参謀長に瞳に困惑の表情が浮かんだ。

「君。絶対にロクな死に方しないよ」

「え?」

「平岡兵団長ならまだしも、天皇陛下にも目を付けられたって事だからね。ただでは死ねないって事だよ」

 より一層俺は困惑する事になった。

そして、頼むからこれ以上巻き込まないでくれと祈る他無かった。


新玉海将登場。


新玉海将は肉体的にと言うよりも、精神的な心労が多いためと言った方が正しいでしょう。

肉体的には強力な日本共和国人でも、精神的には強力とは言い難いモノなのです。

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