060話
毎日カップ麺三昧の内閣総理大臣が登場するよー!
なお、麺類を啜らないと禁断症状が発症して完治に1週間はかかるよー(白目)!
合同演習を行うべく第10艦隊は、各分艦隊に分かれて行動を開始した。
したとは言え、競わせる2分艦隊の出航はまだ先だ。
何故かと言うと、俺が乗艦する鈴谷を含んだ司令戦隊が太平洋を迂回する航路を取るからであった。
また演習開始は2カ月は先の話しであるため、まだ赴くには早すぎると言うのもある。
「羽生司令、司令部より暗号入電です」
「暗号…?」
「はい。極秘通信用暗号が用いられております」
「ご苦労。では黒島参謀、源田参謀以外は退室して貰いたい」
通信士から電文の書かれたメモを、司令室にて受け取った。
極秘暗号が使われたのは今回が初めてであり、平時であるにもかかわらず打たれた通信に嫌な汗が噴き出たのは言うまでも無かった。
最悪、開戦になるかもしれないと緊張して内容を確認すると、鈴谷は直ちに大湊に寄港するように。
ただそう書かれていた。
「大湊への寄港…ですか」
「心当たりは私には無いぞ。黒島、貴官には?」
「いいえ、私も全く…。源田参謀は?」
「本官もありません。ですが、今回の演習に関してでは?」
「なら大湊ではなく、横須賀に直接寄る様に通信がある筈です」
「それもそうだな…」
今はまだ本土に向かっている途中であり、針路変更は容易であった。
本来ならば、小笠原諸島当りで北東に針路を変更する予定であったが、本土にあまり近付き過ぎない様にして青森湾最奥部の大湊へ入港する事となったのであった。
未だに風は冷たく、既に5月だと言うのに上着が無くては外に出た途端に凍えてしまうだろう。
そんな青森湾に、見かけない大型艦が停泊している。
大きさは去年完成したばかりの大和型戦艦より、ひと周りは大きいだろうか。
特徴的な暗い赤色を施されたその艦は、大将旗をはためかせていた。
「あれは…」
「黒島、知っているのか?」
「え?え、ええ、まぁ…ええ……。しかし、何故あの艦が…?」
「それであの艦は?」
「……。軍機により、お答は致しかねます」
それは想定外の回答であった。
軍機に属する様な艦!?
そう、凄まじく嫌な予感しかしない。
「所属は?艦種は?」
「ですから源田参謀。軍機です」
「それすらもなのか…」
「……。所属は、日本共和国。艦種は…、究極超兵器です」
「「!?」」
究極…超兵器!?
日本共和国に3隻しか存在しないと言う、例のアレと言う訳か…。
確かにそれなら口をつぐむのも、軍機だと返答するのもうなずける。
「赤いカラーリング…、もしやモトチトセか?」
「はい。菊花章が掲揚されておりますので、御召艦任務中であると推測されます。90%の確率で日本共和国今上天皇陛下が御乗艦成されておいででしょうね……」
「「なん…だと…!」」
つまり今回の呼び出しは、よりにもよって日本共和国の皇族が鈴谷を。
第10艦隊司令部を見学したいと言う事なのだろう。
しかも9割以上の確率で、日本共和国の今上天皇が乗り込んでくる可能性があると…。
「ダキオン艦長…」
「は、はひぃ!」
「隙手の乗員に艦内清掃を徹底させてくれ。私は大湊に連絡を試みる」
「了解!」
こうしては居られないと黒島と源田参謀も、艦内の清掃の指揮を執る事に。
大湊鎮守府に確認をとったが、寝耳に水と言った様子であった。
確かに鈴谷と隷下の戦隊の寄港は聞いていたが、青森湾に停泊する艦の事は詳しくは聞いていなかった様であった。
「それで、どなたからその話を?」
「ああ、小野田海上幕僚からだ。なるほど、電話であったがあれ程狼狽していたのはそのためか…」
「小野田幕僚も想定外だったと?」
「さて、私はそれ程関わり合いが無いので答えようもないがね。ただ、早口で一方的に通達すると電話を切った事を考えれば…なあ」
状況を察する事が出来たと礼を言い、受話器を置いた。そして、少し考える。
本土周辺であるためインターネットが使用できる。
そのため、最近起きた事件などを当るが、それらしき大きな事件などは報道されていない。
まだなのか、そうでないのかは分からないが、平穏そのものと言っていいだろう。
そこに報告をするために、司令室に戻ってきた黒島に目がとまった。
「黒島、少しいいか?」
「はい。何でしょう」
「何故、今の時期だと思う?」
「何故ですか…。正直な話、時期は関係ないのやもしれません。ただ、日本共和国が関係する事件があり、極秘裏に解決がなされたと言う事でしょう」
「なら、小野田幕僚が狼狽する状況とは?」
「それはどう言う…?」
「確認をとったところ、大湊からはこの情報が提供された」
「そうですか。しかし、それは驚きですね。小野田幕僚も相当の知略家ですので。その様な方が想定外と言う事を想定する方が難しいのではないでしょうか」
それほどまでに、大きなコトとなってしまった。そう言う事なのだろう。
しかし情報が少な過ぎて、これ以上の考察は無意味であったのでこれから起こりうる事であろう事の方を優先する事に。
大湊港は大湊湾の最奥部にある。この湾はせまいため、先程の元千歳が湾外停泊していた様に、大型艦は入れない。
そのために朝比奈は、大回りとなってしまったが青森港に向かう事になった。
その朝比奈と対照的に、鈴谷は入港できたため埠頭に接岸した。
随伴の艦も各々接岸して、補給を受けるだろう。
また、本来ならば化粧直しもするのであろうが、突然と言う事もあり用意がないそうだ。
「参ったな…」
司令部だけなら多少の問題は無いのだが、鈴谷の乗員はそうもいかないのであった。
そもそも司令部が乗ると言っても、メインが空母の艦隊なので空母乗員の方に、礼儀作法を重点的に教えてはいたのだが想定外であった。
小野田幕僚が何故鈴谷を指名したのかは不明だが、通常の訓練を行っているならば問題がないと言う事なのであろう。
「源田参謀」
「はい。どうかされましたかな」
「何故、空母の見学ではないのだろうな」
「その事ですか。あれから愚考しましたが、第一航空戦隊の艦内風紀は荒れに荒れている事を思い出しました。つまり上層部は、その様なところより比較的安定している巡洋艦の方が良いと判断したのかもしれません」
「そうなのか…一航戦が…」
あれ程の練度を誇っているので、余り考えはしなかったが、訓練が厳しいが故に風紀を締めるのにも苦労していると言う事なのだろう。
「話している内に、来た様ですね」
「んむ。見た事のない車だな」
「ああ、あれはカグツチですね。VIP用の重防弾仕様車ですね」
目の前に停車した車から女性が2人降りてきた。
1人はかなり短く切りそろえられており、もう1人は腰まである長い髪を後ろで縛っていた。
その2人を護衛するように、山本海上少将と同じ姿の機人……、加賀函館級戦闘機人が周囲を固める様に取り囲んだ。
その中から1人が歩み寄ってきた。
「本日はこちらの我儘もお聞きいただき、ありがとう。私は日本共和国第6近衛兵団兵団長を拝命している平岡真澄だ」
「日本帝国海軍少将、羽生邦説です」
「同じく日本帝国海軍大佐、源田実です」
「SIJ統合軍大佐、黒島亀人です」
「ああ、短い間だが宜しく頼むよ」
平岡兵団長との挨拶が終わった頃、女性2人もこちらに近付いてきたため最敬礼似て対応する。
短い髪の女性は特に感情を抱いていないようだが、相方の長い髪の女性は楽しそうに笑っている。
「陛下、落ち着いてください」
「落ち着いているよーぅ?」
「なら、スマホをしまって頂きたい」
「えー。ダメなの?」
「ダメです」
「ふぇぇ、分かったよ…」
平岡兵団長が長い髪の女性を、そうたしなめた。
その隣では、短い髪の女性が苦い顔をしている。
「あなたが羽生さんなのね!」
「陛下」
「えー、いーじゃんいーじゃん。非公式ならそれで」
「ただでさえ落ち着きがないと、皇太夫様からお叱りを受けているではありませんか…」
「そ、それは言わない約束で…。えー、コホン。仕方がないから改めまして、私は日本共和国第135代目天皇の『近江の晴空』よ。余り畏まった雰囲気は好きじゃないの。だから、あまり固まらないでほしいわ」
そう晴空陛下は申されが…、後ろで乗員が固まっているのが分かる。
かく言う俺も固まる。
「あー、もう…。それで、私の隣にいるのが霜月。ウチの国の内閣総理大臣の大島霜月よ」
「…………」
「何でそんなに睨んでいるのよ…」
「いいえ、小野田幕僚が気にかける人物とはどれ程かと思いまして」
「気にかけるって、殆ど身内贔屓の様な気が…」
「そうなのですか?」
「え、そうじゃないの?血縁者でしょ?」
「それは初耳ですね」
「ふーん。なら、これ以上は話さない方がいいわね」
今、凄く気になる言葉が!
嫌な予感はしていたが、やはり身内だったのか……。
「まぁ、時間もない事だし。見学させてもらいましょうか」
「では、こちらです」
俺はそう言うと、艦内の案内を始めたのであった。
ぐるりと一周回り、司令長官室にて昼食となった。
日本共和国が軍を管理するようになってからは、今まで行われていた士官と兵での食事の隔たりが殆ど無くなった。
兵は今までは和食を中心とした食事であったが、士官以上は洋食を中心とした食事だったのが、同じメニューでデザートが付くか付かないかに変わったのであった。
これには古くから艦に乗艦する士官から不満の声が上がったが、毎食自腹とするのであれば構わないという回答に誰もが絶句する事に。
代わりに兵側は食事の質が上がった事により、士気の向上に一役買っていた。
そんな食事なのだが、慣れているのか晴空陛下はおそらく普段と同じように食べ始めた。
その横で大島総理は、カップ麺に湯を注いでいる。
「霜月…」
「ヒェッ!?いや、その…麺を食べないと、調子がおかしくなってしまうので……」
「どこぞのネコ型ロボットマンガに、そう言う人居たわね…」
誰もが苦笑するしかない。
総理と言うのだから、高級料理三昧なのかとも思っていたが、彼女は違う様であった。
「あなた、毎日カップ麺じゃないの…。作る時間がないのなら、作ってあげるから皇居に来なさい」
「はへ!?いや、それは流石に…」
「なら、誰かに作って貰いなさい。流石に不健康過ぎるわ」
「だからと言って、何で手を伸ばして…」
「没収よ」
「食べたいのなら、そう言って頂ければ宜しいのでは…」
「……」
平岡兵団長はため息を吐くと、部下に命令してカップ麺をもう1つ用意した。
「用意がいいわね」
「陛下、慎みを」
「いや、それなら毎日ほぼ同じメニューなのをどうにかしてよ。私だって、ラーメンぐらい食べたいわよ」
「こっそり、皇居を抜け出して遊食なされているのを誰も知らないと?」
「はひぃ!?いや、その…」
「こちらが何をどうしても同じならば、どうにも出来かねます」
場の雰囲気が、かなり和やかになってきた。
晴空陛下は、親しみやすいと言えばいいのか。
目線が上に立つ者と言うよりも、庶民目線と言えば良いのか。
大いに悩ましい程に、そうであった。
和やかな雰囲気の中、食後の休憩となる頃には晴空陛下はダキオン艦長と談笑していた。
最初の頃とは打って変わって、普段の調子を取り戻してきていた。
話しの内容までは聞こえないが、話が合うのか盛り上がっている。
「羽生少将、少しいいか?」
そう背後から平岡兵団長に声をかけられ、司令長官室から艦外に場所を移した。
「まず、重ねて礼を言おう」
「いいえ、本艦としては大変光栄であります」
「…そうか。しかし、これからレキシントンとの演習なのであろう?」
「ええ、ですが時間的猶予もあるので、そこまで急ぐ旅でもありません」
「そうか」
平岡兵団長は、何故今回この様な事になったのか。
その経緯を話し始めた。
それは半年ほど前の事だった。
小野田幕僚の元に、とある企業体主催のパーティーへの招待状が届いた事から始まる。
現在の法律では、軍の関係者がこの様な催し物に参加するのは禁止されている。
何故かと言えば、軍と民間企業の癒着が度々あった為である。
その事を周知していない訳ではなく、この企業体にも文書で通知を行っていたのであった。
そうであるにもかかわらず、この様なものが届いたと言う事は何かあると言う事であったため、小野田幕僚はすぐさま本国に連絡を取り真相の究明を命じられたそうなのだとか。
諜報員を使って調べた結果、旧形態の癒着体制は続いており、個人的なつながりはまだ残っている事が判明したのであった。
民間企業としては、自社に多くの注文が入る様にしたいと考えている様だが、国防省側は多く企業に万遍無く技術の恩恵を行き渡らせたいために、1つの企業に発注をかけている訳ではないのであった。
だからこその癒着であり、便宜を図って貰おうと言うのである。
日本共和国側が占領時に、上層部を一掃したのはこの癒着体制を崩壊させるのも目的の1つであったが、事実上失敗したと言う他無かった。
「羽生司令の元には、そういったものは?」
「まぁ、何通かは来ましたが…。私はそう言った、華やかな事は好まないので…」
その報告が日本共和国で問題となり、総理から晴空陛下の耳にも入ってしまったのが、今回の事に繋がったと言う。
晴空陛下の事なので、面白そうで行動しそうなのが大変困る。
実際そうだと言われ、苦笑する他無かった。
霜月総理も極秘視察と言って今回参加した様で、2人でパーティーに忍び込み事細かく暴き切ったそうだ。
やはり、男は女性に弱い…。
この件が整理されて、摘発されるのはもう少し先だが、演習が終わった頃には大きな事件となっているだろうと言われた。
「もし、この件が明るみに出た場合。その企業体はどうなりますか?」
「……法律上、最低60年は公共工事の受注が禁止される。倒産して、新たに事業を起こしても、役員に摘発時にいた誰かが入っていたりすれば、受注はできない様になっている。他にも、色々と監査が入るので公共工事の受注リスクが増大するようになるだろう」
「自業自得ですか」
「ああ。監査院の話では、企業側への説明を毎度行っているにもかかわらず、受注件数を増やす要請や兵器開発の提案が行われているそうだ」
大手企業のこの状態に端を発したが故に、今年度の公共工事に関しては、すべての業種にわたって大幅に削減される事が決まったそうだ。
道路工事に関しては、継続されるそうだが、それでも日本共和国軍から何人か派遣して、監視する必要性がある程だとも。
余りにも厳し過ぎるのではないかと、正直思うのだが彼らにとっては当たり前なため、我々が慣れる他無いのだろう。
「流石の陛下も、この状況に青筋を立てていてな…。準皇太子に怒りの矛先が向けられるのは、時間の問題だろう。それこそ、元千歳で東京に乗り込みかねない」
日本共和国の準皇太子が、我が日本帝国の天皇陛下だ。
もしそうなれば、また要らぬ混乱をもたらすのは目に見えているだろう。
以前の鹿島事件もあったのだ。
今回もその可能性がある。
「そこで、考えを纏めさせるために鈴谷訪問を提案したのだ。ほぼ時間稼ぎにしかならなかったが、有意義ではあったよ」
「そうですか…。では、この後は東京に…?」
「ああ、そうなるだろう。貴官はこちらには戻らず、そのままトラックへ戻った方がいい。巻き込まれれば今以上に面倒になるぞ」
「分かりました、ご忠告感謝いたします」
それから1時間ほどで、晴空陛下達は下艦して行った。
我々も再出航の準備を行うべく、行動を開始するのであった……。




