057話
本埼幕僚総長は1人の男の前にて報告書を読み挙げていた。
右片肘を付き頬杖を付きながら報告を聞くこの男は、日本共和国国防大臣名古屋の尊だ。
名古屋の尊は特に変わりは無い報告ご苦労さんと言い、次の報告者に報告を促す。
本埼幕僚総長は陸海自衛軍と陸海空自衛隊を担当しており、仕事量はかなり多い。
最近になり、陸海空自衛隊の仕事を本埼友茂陸上総監部長に任せるようになり減りはしたが、ここへの報告だけは彼が行っている。
次の報告者が報告を始めた。
形式美に則った報告会と言う事もあり、この場の雰囲気は和やかなものであった。
「……報告は以上になります」
「ふむ…(ずずず…」
返事と共に茶をすする音がする。
今回の報告者は、名古屋の尊の返事を聞くと先程まで座っていたソファー。
本埼幕僚総長の隣に座り、自らも茶をすすったのであった。
「そう言えば、黒家憲兵大佐」
「む?にゃにきゃ?(ばりばりもしゃもしゃ」
「……」
もう何も聞かれる事は無いだろうと高をくくったため、黄泉国憲兵隊先任大佐である黒家憲兵大佐は出された茶菓子である煎餅を口いっぱいに頬張っていた。
「これは失礼…。して、何か?」
「アチラはなんと?」
「何も」
「何も?」
「既に報告済みですが、何も言っては来ません。ただ…、カレラがいる以上、彼女は関わりたくは無いのでしょうな」
「カレラ…、竜鬼憲兵隊の事か?」
「ええ、それを持つ国の方もですがね」
「なら、安心だな」
ようやく安心できたと胸を撫で下ろした名古屋の尊。
しかし、本当に良かったのかと本埼幕僚総長に指摘される。
「今まではお2柱の神通力によって、向こう側との諍いを最低限に済ませていました。今回も、向こう側に最大限協力を求めるベキだったのではないでしょうか?」
「その懸念は分かる。だが、いつまでも頼っている訳にもイカンだろう。それに、今回は練習の様なものだと思えばいい」
「…………。了解しました」
彼は本当に仕方ないと言いたげに、了承した。
「しかし…、やはりいたかレキシントン…」
名古屋の尊が呻く通り、日本共和国が侵攻する世界には必ずと言っていいほど歴親沌保存帝国植民地領中央アメリカ大陸諸連合州が存在した。
通称、中米連合。
基本的にメキシコとそれ以南を領土として持ち、他に南シナ海のアナンバス諸島、東地中海のキプロスを有している事もある。
変則的にグリーンランドやアイスランドを有している事もある。
かの国がいつどうやって現れるのかは不明であり、大いなる謎でもあった。
いや、新たにできる世界を片っ端から侵略しているとのであろうと予想は出来た。
何故かと言えば軍備縮計画を行う事からも分かる様に、軍備が多すぎて困っているからだ。
あれでも、新型艦以外の建造を全く行っていないのである。
その軍備を他国に譲渡するなどして減らしてはいるが、譲渡できる国も限られるためにかなり苦労している。
昔中国に大量の艦船を譲渡して第3次世界大戦を引き起こした事があったが、未曾有の死者が出たためカラドルドが出現。
その方面ともう2個方面軍を使う事は出来たが、同盟国であるラミリーズ帝国も同方面に展開していたため、本国は甚大な賠償を請求された事があった。
またその世界の生命は死滅し、次元がねじ曲がったため生物が居住できる環境に無くなった事も、更にラミリーズ帝国側の怒りを買ったのであった。
もし次に同じ事を起こした場合、賠償で国家が傾きかねないと言われている。
当時歴親沌保存帝国がラミリーズ帝国に賠償として譲渡した物として、宇宙艦船用の大出力核融合炉、旧式化した超兵器などが含まれていた。
「ラミリーズ帝国は陸軍国家ですからね…」
「そうであるからこそ、海上戦力の増強は周辺国に与えた影響は大きい。隣国であるレアリース王国やビスカ機械化王国も、軍備増強の流れになってきている。あちら側が戦争状態になるのは、我が国もレキシントンも非常に困る筈……なのだがな…」
レキシントンもここにきて、大きくなりすぎた弊害が出ていると言う事だろう。
今まで碌な管理さえも行わなかったツケが、今になって現れたと言う事になるのだろう。
今回のファスサ・アメリカーナでの格納庫管理のずさんさも、これが原因とみていいのかもしれない。
と言うよりもこれから先、同じような事を我が軍が展開している世界で起こされては非常に困る。
さて、どうしたものか。
「本埼さん、貴官はどうお思いですかな?」
「私ですか、黒家殿?そうですね、現在1938年の中頃ですが、このままいけば史実通り39年9月には2次大戦が勃発。41年には日米開戦となるでしょう。ですが、やはり歴国の出方次第でしょうね…」
「もういっその事、こちらから宣戦布告しては?」
「無理でしょう。確かに、海自を使えば数日で潰滅させる事は可能ですが、海自は対カラドルド戦に備えるために弾薬の量産中です。なるべくならこちらは使用したくない。ですので相手に宣戦布告させ、その上日本帝国海軍に戦ってもらわなければなりません」
「それは面倒くさい…。しかし、まだ時間がかかりそうだと?」
「いくら米国が対日戦を想定していようとも、国民がその気にならなければならない。米国政府も国民無しでは何もできないのですから」
「米国国民の目は内向きであり、他国と関わる事に忌諱感がある。そう、それこそ友好国である英国に危機がない限りは動かない。貴官はそう言いたいのですね…」
「そうです。しかし、今の情勢では英国の危機を歴国が握り潰しそうでして……。米国政府側が鈍い動きしかできなかった場合、欧州戦線への参戦が行われない可能性が非常に高いのです」
「その場合は日本帝国へ押し寄せる戦力が増え、負担も一気に増えると?」
「そうですね……、ただワシントン軍縮条約によって、主力艦の数は少ないため米国としても39年に宣戦布告してくる事は無いでしょう。まさか、米国が自殺を行う訳ではないでしょうし…」
「自殺って、米国はキリスト教国ではないですか…」
「いや勝ちに行くつもりで、手の込んだ自殺だったと言うこともあり得ますので…」
「そこまで!?」
折角話が盛り上がっているところだったが、名古屋の尊が咳払いをしたところでここがどこか思い出して2人は固まった。
「そう言えば、宮様からの要望があったと報告書にはあったようだが?」
「ああ、小野田海上幕僚の報告ですね」
「は?ヤツはいつまであっちにいるんだ?」
「いつまでと申されましても、神童陸上幕僚長の要請により天野陸上幕僚に教育を施しているため、少なくとも5年はまだあちらに」
「……。なぁ、本埼総長」
「ぅああ、新玉んズの事に関しては何も申し上げられませんので……」
それは問題なのではないかと、名古屋の尊は思う。
『新玉んズ』
現海上自衛隊第零輸送艦隊司令にして、日本国防衛大学校2010年卒業生である新玉霖海将とその同期生。
新玉海将自身は、健康上の理由で自衛隊に残った居残り者だが、他は自衛軍に昇格しており現在の日本共和国を軍と政治の両面で支えている。
少なくとも本埼幕僚総長と直接関わる新玉んズは、陸上幕僚長、海上幕僚長、海上情報幕僚長、海上総監部長の4人である……。
突然の発作の様な暴走さえなければ、有能なだけに排除できないと言う重大な欠点がある。
しかも排除すると国が回らないと、内閣総理大臣である大島霜月も発言している事が厄介であった。
「まさか、ご自分の義理娘である霜月総理の言葉を否定なさると?」
「ぐむむ…、娘に甘い私がその様な事できるとでも?」
「それは、ご自分で申されるものではないと思いますが?」
「いーじゃんか!結婚できなさそうな有名人ワースト1位になろうとも、私にとっては可愛い娘なのだからっ!」
「「「あー、はいはい」」」
こうなると娘愛が停まらなくなるため、本埼幕僚総長は黒家憲兵大佐と、もう1人の報告者と共に国防大臣室から逃げ出したのであった。
数日後、再度呼び出された本埼幕僚総長。
今回は千堂海上情報幕僚長と、鳥頭琥遥観陸上情報幕僚長を引き連れていた。
「前回は話が逸れたが、宮様はどんな要望があると?」
「要望と言うよりも、要請と言えば宜しいでしょうか。皇紀2600年記念観艦式に関してです」
「やればいいじゃないか」
「記念観艦式ですので、海外からも参加者を募る必要性があります」
「知られてマズイモノも、その頃には殆ど無い筈だが?」
「日本帝国側の戦力が知られる事が、マズイと本官は申し上げておきたいのです」
少なくとも鳥頭幕僚長も同じ意見であった。
「ただし、千堂君はそうではないと?」
「ええ、いいえ。そうではありません。観艦式に全ての艦が参加できる訳ではない以上、出せる艦と出せない艦を区別するべきでしょう」
観艦式のメインとして戦艦を目立たせる必要があり、空母の参加数は抑える必要がある。
少なくとも空母は6隻程度にし、戦艦は全て出す方向に持っていかなければならない。
ただ隠すだけではなく、知らしめたい情報だけを見せつけて敵に混乱を与えることも必要である。
千堂幕僚長はそう主張した。
「出す空母はどうする?」
「鳳翔、龍驤、赤城、加賀は確定です。他に出すとすれば、瑞龍、驗龍になるでしょう。大鳳型はこの際、秘匿と致しましょう」
「なら良いだろう。戦艦戦力は全部で10隻だったか?」
「航空戦艦も含めれば、金剛、比叡、榛名、霧島、扶桑、山城、伊勢、日向、陸奥、長門、岩木、有珠、朝比奈、楠木、大和、武蔵、信濃、甲斐の18隻となります」
現在長門は誠意修理中だが、陸奥は改装中であった。
そのため、1940年には姿の違う長門型が2隻観られると言う状態になるであろう。
「ちなみに何が変わるんだ?」
「長門は対空装備強化状態…1944年時の容姿が近いでしょう。陸奥は48cm砲を連装2基を艦首、3連装1基を艦尾に搭載した艦となります」
「まるで加賀函館級の様な配置だな」
「まるでも何も、そのままの流用ですので」
「搭載できるのか?」
案外できると言われ、少しばかり楽しみに思えてしまった名古屋の尊。
「それは楽しみだな」
「「「はい?」」」
「何を3人揃って不思議そうな顔をしている。私も参加するに決まっているであろう?」
それは流石にやめて欲しいと3人同時に言ったが、名古屋の尊の考えは変わら無かった。
後に閣議で参加が承認され、本埼幕僚総長以下軍上層部が大慌てになったのは言うまでも無かった。
政治家の方々を出せるのは、この章ぐらいなので……出ていただきました




