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お前らいい加減にしろっ(A)  作者: 加賀函館
第5章 皇紀2600年記念大観艦式
58/72

055話

はんぼーきって、いっそがしいなー

 目の前にピシリと決まった土下座が2つ。

それはもう、見事と言うしかないほどの。

 1人は先日の憲兵少佐…もとい白沢基助(しろさわもとすけ)憲兵中佐。

もう1人は、以前実家に帰省した際。

黒島を監視していると語った憲兵であった。

 彼の事は、余りにも分からない事だらけだが。

少なくとも、日本共和国人ではない様であった。

「もう、面を上げて貰えませんか」

「そうは申されるな。これも、我が身から出た事故…」

 相当義理堅い人の様だ。

黒島があれ程恐ろしがっているので、もっと傲慢な性格なのだと思い込んでいたのだが……。

 とはいえ、黒島はこの状態でも恐がっており、俺の背中に隠れて震えている。

正直、しょうもない理由で忌諱感を持っている黒島が悪いのだがどうしたものかとも悩む。

「本当にやめてください。これ以上は、こちらとしても迷惑ですので…」

「……そうですか、なら致し方なしですな…」

 彼は申し訳なさそうに顔を上げ、額や服に付いた砂埃を払った。

残念ながら、年齢は分からない。

声からして男であろうと言う事は分かったが、 見た目は朴艦長よりも若く、下手をすれば10代にも見える…。

グロス中佐と同年代と言われて、納得できる程の見た目だが、グロス中佐もああ見えて俺より年上なので見た目では判断できない。

「ええと、それで…」

「はい。我は、加賀函館白焼深郷茶菓月有利型比良実則濱由良美琴(かがはこだてしらやしんごうさしづきゆうりかたひらさねのりはまゆらみこと)と申します。現在は、ここ南洋省にて警察を統括する部署の責任者を申し使っております」

「そうでしたか、加賀函館…殿……」

 彼は「いつもの事です」と苦笑すると、自らの事は「濱由良」と呼んでくれればいいと言った。

「我が両親が、中々もって拘る方々でしてね…。縁起の良い名前をと悩んだ結果、全て繋げたそうなのです…」

「そうですか…」

「そーなのだー。……、失礼…」

 ああ、この人もそっち系の人なのだなと思った。

いや、「日本共和国と同盟を組む日本」と言う危険漂う言葉で察するべきであろう。

 まぁ、黒島も彼も同じ国に所属しているから、推して察するべきなのではあろうが…。

「そう言えば濱由良殿、貴官の階級はどれほどのものなのでしょうか」

「我の階級でありますか?憲兵少将を申し使っております。ですが、階級はお気にせずにお願いできないでしょうか…。我も精進せねばならない身であるが故に…」

 それに対する返答をすぐに出す事は出来なかった。

そもそも、少将の時点で同階級だが年上である事は確定している。

 彼自身が出世に邁進する人物出ない限り、実力で這いあがってきたと言う事になる。

そうなると、俺の様な小童がタメ口と言うのも気が引けてしまう。

 気が引ける筈なのだが、ほのかに漂う日本共和国人臭が悪さをしてしまっているらしく決めにくい。

 そう言う事なので、黒島に丸投げする事にした。

指名された黒島は、更に顔を青くして驚愕の色を顔に映している。

「憲兵少将…!?そ、そんな上級階級者だったのですか!」

「いや、先に会った時は憲兵大佐だったのだ。この任に就くにあたり、昇格したに過ぎないのだが…」

「憲兵大佐から自動で昇格できる時点で、本物の実力者って事じゃないですか!ヤダー!」

 少なくとも、彼らの国の憲兵は実力主義であるらしく、媚びたり恩を売ったりでは上には立てないらしい。

 隣に立つ白沢憲兵中佐もそれには驚いており、目を見張っている。

 確かに、以前喧嘩の仲裁をしてくれた時も、片時も徳利を手放さないなど自由な人だと思ったのだ。

今はそう言ったモノは持っていないが、一度付いたイメージから自由人であると思わざるを得ない状態になってしまっている。

「我はその様なものではないぞ?以前、左腕を失った事もある。本物の実力者とは『瀧山(たきやま)』の様な男の事を言うのだよ」

「誰です、その瀧山とは?」

「大昔に大暴れした竜鬼でな…。ああ、竜鬼とは、龍と鬼の合いの子の事だ。我もこの竜鬼ではああるが、瀧山は凄まじいまでの負の力を持った神であった…。どうにか捕まえたが、今は国外追放されてしまっていてな。どこでどうしているのやら…」

 腕を失う程の大怪我を負わされた相手が、瀧山と言う八百万の神であったと言う。

今は左腕は元通りになっており、その傷跡はうっすらと残る程度だと見せてくれた。

「流石に我も、あれ程強くなる事は出来ないと思っている。だが、戦う強さだけが強さなのではないのだ。そう、思わされてな。こうして人と触れ合っておるのだ。だから、黒島大佐。過去には貴官と多少の事はあっただろうが、水に流せとは言わん。少しばかり、協力してはもらえないだろうか?」

「……、ええ、まぁ。羽生司令も、別に嫌いと言う訳ではないでしょうから…」

 俺は別に感情があった訳ではない。

彼らと事がうまくいけば、多くの利点が生まれるであろうとは思っていたが。

 何はともあれ、先日の事はもうおしまいにして、今後同じ事がない様に誠意を持って職務に当る様に厳重注意すると言う事で話が終わったのであった。


 そんなこんなで1937年も終わり、新年を迎えた訳だが、職務故に本土ではなくここトラック諸島での迎春であった。

 春と言っても、ここは年中無休の常夏の島であり、時よりスコールが襲う様な場所だ。

それでも、洋上から望んだ旭日(あさひ)は素晴らしいものであった。

 洋上の言葉通り、現在は航海訓練を行っている最中であった。

1隻の空母を中心とした輪形陣が2つ。

事前に発艦させた艦載機による、模擬襲撃訓練が行われている。

 それを鈴谷から眺めつつ、搭乗員の練度が上がっている事を喜んだ。

以前観た第1航空戦隊の演習を思い起こし、肩を並べる事は難しくても、ようやく同じレールの上を走る事が出来る様になった。

少なくとも、今はそう思っている。

「瑞龍命中2。驗龍命中0」

「あの巨体で命中0か…。流石は金田だな」

 模擬弾はゴム製で大口径噴進弾(ロケット弾)の様な形をしており、威力は無いが狙い通りに真っ直ぐ落ちる様になっている。

ただし、軽量なので風の影響を受けやすい難点があるが…。

 本日の風は西寄りの風が吹いており、時たまに吹く強風により思わぬ方向まで模擬弾が飛ばされる事が起きている。

それを回収するのは駆逐艦の役割であり、マーカーによって位置が分かりやすいようになっている。

「羽生司令、瑞龍が金田艦長に何やら言いがかりを付けている様ですが…?」

「は?」

 また始まってしまったと言うのか…。

ヨコヤマ造船中将は、「案外面倒見のいい人」と言っていたが、自分が面倒を見ている相手が負けるのは嫌という事でもあるのだろう。

「もう一掃の事艦長を交換して、艦長の技量の差を見せつけた方がいいと思うのだが…。なあダキオン艦長」

「それは名案ですな。寄港した後に、提案致しましょう」

 こうしてただの思いつきが実行される事となった。

これで本当に艦長の技量の差なのか、それともたまたまの不運だったのかが分かるだろう。


 結果だけ言えば、艦長の技量もだが、乗員の技量が付いて行けていないと言う結果が得られた。

 確かに瑞龍は厳しいが、厳しいが故に空回りしていたらしく中々に成果として結びつかなかった様であった。

これもお国柄なのかもしれない。

 驗龍は比較的に太平洋諸島方面の人間が集まり、瑞龍は大陸側の人間が多い。

金田さえも現在の瑞龍を戦力として使うのは、かなり難しいと言っており更にそれが瑞龍を不機嫌にさせている。

 ただ、その怒った顔がかわいいのは卑怯である。

「こうなったら、『呪う』わ」

 涙目になりながら、何やら恐ろしい事を言い始める瑞龍。

おい馬鹿やめろ、と周囲が説得するが暴れる。

それを面白がって驗龍も「呪った」ため、次の日の瑞龍は酷い有様になっていた。

 いや、酷いと言う言い方がマズイのであろう……。

だが、模範的軍人の様にキビキビと動く彼らに違和感しかない。

 瑞龍と驗龍は満足しているが、やり過ぎなので鉄拳制裁を加える。

ただし本当に拳で語っても、こちらが怪我をするだけなので精神注入棒でシバキ倒す。

「と、言う事でこれは艦長の責任でもある」

「へ?あ、あの…これ(精神注入棒)をどうするのですか…?」

「部下を鉄拳によって制するのは上司の役目だ。ほら、金田の様にキッチリ職務を全うしなさい」

 そう言って驗龍の尻を精神注入棒(ハエ叩き)で叩く金田の方を指さした。

ビュッ、パシッン。ビュッ、パシッン。と痛そうな音が聞こえる。

 それに瑞龍が頬を赤くしながらも怯え、朴艦長の顔が真っ青になっている。

朴艦長が真っ青になる理由は大方分かるが、瑞龍の反応が意味が分からない。

もしかして、こう言う行為が好きな方なのか……?

いや、彼女の性格では違うだろう。そうだよね?

「は、はう゛しれい……。小官には任が重い…いえ、なんでもありません…」

 殺気を込めて睨みつけ、早く実行するように顎を使う。

 ああ、しかし、なんだ…。瑞龍の表情が非常にやり難い。

本人は無意識なのだろうが、怯える子犬の様な有様である。

これに手を挙げろと言うのは、かなり酷なのかもしれない。

「んで、いつ終わるんだ?」

「いつまでたっても終わらんかもな」

「何でd……。うぉ!?」

 金田は余裕綽々で戻ってきた訳だが、瑞龍の表情と雰囲気にあてられて大困惑している。

プルプルと震えて頭を抱え、涙目になりながら頭を左右に振っている。

普段の凛々しさの欠片さえもない瑞龍に、金田だけでなく黒島や源田参謀も困惑しているのだ。

 朴艦長から精神注入棒を奪い取って、代わりにやってくれる人物が出てこないため、この酷い有様も見ているしかないのだが……。

「い、1回だけで済ましますので…」

 そう言って力弱くポンと優しく瑞龍の尻を叩いた…。

叩いたと言うよりも当てたと言った方が正しいだろう。

 誰もが安堵したその時、朴艦長が大きく振りかぶって思いっきり叩き飛ばしたのであった。

 流石の瑞龍もこの不意打ちには驚き、尾てい骨を打ったと言って医務室に直行する事となったのであった。

「やる時はやるのだな。見直したぞ」

「そそそそそそそ、そう言う訳では…。小官、瑞龍の見舞いにいってまいります!」

 全力疾走でその場を去る朴艦長は、更に青くなったのであった。

 次の日、朴艦長が抜け殻の様になっていたのは言うまでも無かった……。


日本帝国も少しずつですが、日本共和国色に染まりつつある…ようです

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