053話
時間軸としては、4章40話の後の話しと言う事になります
時間は戻りに戻って1937年の10月。
622事件が発生して3か月の時が経ったわけだが、それでも早急に自体が回復する訳ではなく、特に海軍では日本共和国の監査が続いていた。
また同じ事を起こされては困るため、引き締めと不協和の芽を摘むのが目的であったが、出るわ出るわ……。
致し方なく陸軍の方にも監査が入る事になったのは、完全にとばっちりである。
あまりに、言う事を聞かない人員が多かったため、小野田幕僚が緊急会議と言って関係者の招集を行ったのである。
「君達、国を護る気があるのかい?」
その言葉だけは、小野田幕僚から言われたくなかった。そう、誰もが思った。
一番やる気がなさそうに見えるのが小野田幕僚だからだが、それはいくらなんでも小野田幕僚の事をナメ過ぎている。
そして、手錠を後ろ手にかけられた3人は、恨めしげに小野田幕僚の方を見ている。
大体言いたい事が分かる…、おそらく東郷予備役と同じ主張なのだから。
「君達には本当に失望したよ。だから、予定にはなかったけれども、君達を251に改造する事になった」
小野田幕僚に招集されていた天野将軍の血の気が一気に引いて、涙目になりながら震えている。
相変わらず、小野田幕僚は無表情だが天野将軍の状態から、アマリどころかかなりマズイ事だと言う事は伺える。
「小野田幕僚…、いくらなんでもそれは……。それなら、まだ死刑にした方がマシでは?」
「死刑にする人的余裕は無いのだがね?」
「例え…、そうだったとしても、251は……
あの天野将軍に、「死刑の方がマシ」と言わせる程ヤバイのかその「251」と言うのは…。
なので、招集された1人である永野GF長官が、小野田幕僚に251とは一体どう言うモノなのかの説明を求めた。
ただし、それに答えたのはお忍びでやって来ていた天皇自身であった。誰も気が付かなかった事に恥じつつも説明を聞く事になった。
「しかし、よくもまぁ…許可が下りたものだな」
「同期にそういう方面の知り合いがいますので」
「チッ『新玉んズ』かよ…。ちょっと、卑怯過ぎないか?」
「ああそれよりも、説明をお願いします。みなさん、待っていますので」
「あーはいはい。まずこの251と言うのは型番でな、正式名称は『67式半自動歩兵2号51型』と言う。これが開発されたのは、日本共和国が第二次大戦の末期の頃だった…。当時は、戦力が枯渇していたため、老若関係なく戦場に送られていたのだが、それでも限界があった。だから、罪人や捕虜を素材にして、戦力とする研究が行われていたんだ。最終的に、当時は日の目を見る事は無かったが、この研究は敗戦後にアメリカによって秘密裏に接収され研究された。そして、極秘裏に完成した訳だ。完成した年が西暦1967年だった事から67式と呼ばれるようになったんだ。ちなみに、これは通常の機人とは全く異なる。人間から改造されるが、アンドロイドに分類される。なぜなら、コレに自由意思は無いからだ。と、言うよりも自由意思を無くして兵器として使う為のモノとして開発されたから、当然と言えば当然だな。当時、つまり1号1型が旧式化したため、251。2号51型が開発された訳だ。非人道的だが、死刑にするくらいなら、使えた方がマシだからな。それに、安上がりだしな…」
つまり、人間を本物の兵器にする悪魔の所業と言う訳である。
これでは、天野将軍が震える訳である。
「と、言う訳で君達には天皇陛下に抗命した罪で、251になって貰う。これは決定で、覆る事は無い」
そう、小野田幕僚に宣言された3人は、暴れ叫んだが殴られるなどをして大人しくされ、連れていかれてしまった。
以降、こうならない様によく忠告するように周知され、この議は終了となった。
その後更に649名が251に改造され、特別作戦に投入されるのだが、これはまた別の話になるだろう。
その頃、ようやく帰国した羽生は報告書を横須賀鎮守府に提出した後、富岡飛行場からトラック諸島は竹島飛行場に向かった。
理由は簡単で、現在第10艦隊はトラック諸島を拠点として活動していたからだ。
本来なら国際連盟によって軍備の設置が禁止されているのだが、それは今まで日本帝国側が裏も表も無く守っていたからであった。
今の日本共和国には、ほぼ機能していない国連の条約を守る気は全くないのだ。
そのため、飛行場を空軍基地へと昇格させるために、拡張工事と整備拠点を地下に設けて、空襲などによる損害の軽減化が図られる事になった。
それに倣い地下ドックを建設した。
今まで大規模修理は本土でしかできなかったが、長門型までの規模なら修理できる様にしたのであった。
環礁内の島々の防備も増えたが、環礁外縁の島嶼にも砲台や探知装置、見張り台や防潜網の設置が本格的に始まる。
特に防潜網と探知装置の設置は優先的に行われ、環礁内に入るためには、北東に新設された北部水道を通るか、南西に新設された南部水道を通るかの2択となったのであった。
本来ならば、自然にできた水道を使う方がよいのであろうが、ここが以前はドイツ領であった事を考えて、自国の基準で水道の新設が行われたのであった。
今まであった水道や水路には防潜網が設置され、潜水艦はもとより中型以上の船舶の航行はできなくなった。
ただし、島民が外洋に漁に出る事を考慮して、防潜網は海面より1m下げられた位置から設置されている。
これにより、小型の漁船であればわざわざ水道を使用しなくても外に出られるのである。
ただ、実のところ新設された水路はこの2つだけではない。
東西にも1つずつ新設されており、こちらは潜水艦専用の水路となっている。
西側は大型艦も航行できるが、東側は中型艦までとなっている。
西側が大型なのは、非常時に潜水輸送艦によって地下港に輸送を行うためであり、本来ならば小さい事に越した事は無い。
また、水路を敵に使用されないために、水路の入り口は水深250m以上の深海にあり、ビーコン装置がなければ入り口を探せない様になっている。
これは東西両方に設置されており、もしトラック諸島が落ちた場合、この2つの水路は爆破されて使用できない様にする事が出来る。
それか、存在が知られなければ、奪還の為に使われる可能性もある。
まぁ、そうならない事を期待する他無いだろう。
ようやく竹島飛行場に到着した羽生は、黒島の出迎えを受けた。
他には、驗龍の艦長に就任した同期の金田久五郎大佐の姿もあった。
まぶしい位に日に焼けており、蓄えた髭によっておっさん真っ盛りである。
「お久し振りです司令」
「ああ、久しいな黒島参謀。そして、金田艦長」
金田はガハハと笑いながら、背中をバシバシと叩いて帰還と再会を喜んだ。
「金田大佐、叩き過ぎです」
「いいじゃねえか、黒嬢。黒嬢だって嬉しいんだろ?」
「それは、後にししますので。ですので司令、早速ですが艦隊旗艦にお戻りください」
何か問題でも起こったのかと聞くが、何も問題は起こっていないと返答があった。
では、どうしたのかと聞くが、「内緒」の一言で終わってしまった。
なので金田の方を向くが、金田が笑いをこらえられない様子でそっぽを向いている。
ああ、何かあるのだな。
金田と言う男は、昔から顔に出てしまう男なのだ。
金田を連れてきた黒島の、戦術的敗退が決定した瞬間でもあった。
どうせ、一度帰艦して荷物を置かなければ、どこにも出かける事は出来ないので、艦に戻るのは当然だった。
飛行場のある竹島から、内火艇代わりの運荷艇を使って月曜島の北の泊地までやってきた。
現在、この環礁に駐留するのは我が第10艦隊と潜水艦艦隊である第7艦隊だ。
それと、トラック環礁警備を目的とした日本共和国函館鎮守府所属の第1872艦隊第4分艦隊である。
第7艦隊は旗艦として新造の大鯨を基準とした、潜水母艦が12隻。
巡潜型が30隻、海大型が20隻、新造の潜高型が40隻、潜特型が10隻、潜水輸送艦が4隻所属している。
巡潜型は、本来ならば水上を高速で移動できる事を重視した艦だが、現在の軍事ドクトリンには合わないため少しずつ減少している。
海大型は、本来通商破壊などの後方撹乱を重視した艦なのだが、こちらも減少中。
潜高型は、潜航中に高速で移動する事を重視した艦であり、潜高小型は海大型を置きかえる事を、潜高大型は巡潜型を置きかえる事を目的として建造が進んでいる。
潜特型は、本来ならば航空機を搭載した艦なのだが、それだけではなく潜入作戦支援や、巨大な艦体から来る航続距離の長さを最大限利用した作戦に使用される予定になっている。
潜水輸送艦は、輸送を目的とした巨大潜水艦である。
武装はほぼ無いが、物資200tと兵員を200名輸送する事が出来る。
日本共和国函館鎮守府所属の第1872艦隊第4分艦隊は、旗艦である神洲丸級仁淀型と工作艦明石型2隻、補給艦間宮型2隻、砲艇母艦千代田型が20隻、防護巡洋艦改黄泉平坂級乙型が20隻が所属している。
基本的に、砲艇による洋上監視が目的であるため、乙型防巡が外洋に出る事は無い。
なお、使用されている砲艇は特内火艇カヨである。
そんな事を思いながら外を見ていると、黒島が体は大丈夫かや、気分は悪くないかなど、気を使っていると言うよりも、何も話題がない事に焦りを覚えている様な慌てようである。
「全く、煙草でも吸うか?」
「おう、貰おう」
ここぞとばかりに黒島が火を付け、久し振りの煙草を吸う。
肺一杯に煙を吸い込み、少しむせたが、この不味さ……懐かしいものだ。
「なんだ、煙草の吸い方も忘れたのか?」
「いや、あの時から全く吸っていなくてな。ついつい、思いっきり吸いこんでしまったよ」
「あの時……。確か、俺達と煙草を吸っている時に小野田幕僚にとっ捕まった時か?」
「ああ、そうだ。そう言えば、もう9年も前の話だったな……」
あの時は確か、建物内全面禁煙になって仲間内で、喫煙所を仮設で作り終わって、一息ついた時だったな…。
何で、俺だったのだろう…。
何度そう思ったが、もう9年も前だと思うと、早いものだとも思った。
「俺らも随分おっさんになったものだな…」
「言うな。貴様の方が老けているから、余計に年を感じてしまうぞ」
「老けているとか言うなよ、この若造りめ」
「悪いな、俺の血筋は余り歳を感じさせんのでな」
はっはっはっ。と、2人で笑っていると、話しに全く参加できていない黒島の頬が、ぷっくりと膨れている。
それを両方から押して、間抜けな音を立てさせて空気を抜くと、手加減のないパンチが顔面を直撃してよろける。
「黒嬢、やり過ぎだ――ガハッ!」
金田は私よりも激しくボコボコにされてる。「ぶろろろろろろ」と、断末魔をあげて……。
「そう言えば金田大佐とは、同期なのですよね?」
「あ、そうです。それがどうかなされましたか?」
「何故、丁寧語に…」
「お、お気に為さらず…」
ボコボコにされた金田に、心の中で手を合わせ冥福を祈る。
いや、確かに死んではいないが、祈らずにはいられない状態になっている。
そんなこんなで艦隊旗艦である巡洋艦鈴谷に到着した。
鈴谷は最上型の3番艦で、15門もの15.5cm砲を搭載した艦だ。
日本共和国の世界では、ロンドン軍縮条約が締結された影響で、巡洋艦にカテゴリーAとカテゴリーBの2種類が定められたが、こちらではロンドン軍縮会議が開催されたものの、我が国が参加しなかった影響で条約締結には至らず、ジュネーブ海軍軍縮条約が締結され、駆逐艦と潜水艦の保有総トン数が制限されるにとどまっている。
また、最上型がお披露目されていない影響により、6.1インチ砲を多数搭載した大型軽巡洋艦は未だに登場していない。
イギリスがクラウン・コロニー級と呼ばれる6インチ砲を9門搭載した量産型軽巡洋艦が出た程度であった。
こちらは巡洋艦の定義が旧来のままと言う事もあり、水雷戦隊旗艦用巡洋艦は6インチクラスの砲。
戦艦の補佐を行う準主力級巡洋艦は8インチ砲を搭載するのが一般的になっている。
最上型は重巡洋艦の防御力に、軽巡洋艦の速射能力を持ち合わせた艦と言う事になる。
大型の艦ではあるが、阿賀野型の補佐を念頭に設計されているため、大型巡洋艦としては唯一魚雷発射管を搭載しているのも特徴だ。
ただし、鈴谷は艦隊旗艦設備を増設した影響で重量物である魚雷関係の設備を全て撤去している。
その代わりに、同型艦である熊野が共に艦隊に所属している。
つまり、熊野は鈴谷の直接護衛艦と言う事になる。
つまり砲撃力だけなら、2隻で30門にもなり異常な程に強力だ。
元来、水雷偏重と言われてきただけに、砲撃の重要性にも気付けた事は重要だった。
ただ、本来なら水上砲撃戦に生かされるべきであろうが、残念ながら機動艦隊であるため、そう言った事が起こらない方がよいのだ。
そうこうしている内に、運荷艇がタラップに横付けされ、ラッパが吹かれ乗艦の報告を艦長や司令室にする。
今の鈴谷の艦長は、ここトラック出身のベラニオ・ダキオン中佐である。
11年前に日本共和国が行った第1次急募に応募して軍人になったそうで、真っ黒に日焼けしており、縮れた髪の毛と堀の深い顔立ちが特徴的だった。
ただ、陽気な性格であり、笑顔のまぶしい人物でもある。
まあ、この鈴谷も乗員の殆どが、日本人ではない。
日本人なのは司令部要員と機関兵程度だと聞いている。
その機関兵も、現地出身の機関兵に技術指導が終了すれば本土へ帰還するため、艦を動かすのは正に新しい時代の軍人達と言う事になる。
「どうかなされましたか、羽生司令」
「いや、少しばかり昔を思い出していただけさ。さて、報告では大方の予定を完遂しているそうだが、ダキオン艦長は他に要望はあるかね?」
「そうですね…。やはり、我が艦隊内だけで演習をし続けるのは、余りよろしくないと思われます。ですので、他の艦隊との演習を望みます」
「ふむ。よい提案だね、今度上陸した際に申請してみよう」
そのあと、食事を摂りながら艦内の様子や、最近の情勢を話しつつ和やかに1日が終わったのであった。
羽生が一人称を「私」と言うのは、仕事関係に対して。
以前、一人称が「私」だったのは、普段「俺」を使っていた反動で、間違えて言わない様に気を使った結果。自分で考える時も「私」と言って考える様にしたためです。
今は慣れたため、羽生のナレーションと金田と話す時は「俺」。
仕事時は「私」。と使い分けを行っています。
なお、金田に対してだけは「君」または「君達」ではなく、「貴様」と呼びます。
まぁ、同期の桜ですから、当たり前と言えば当たり前なのですけれどもね。




