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お前らいい加減にしろっ(A)  作者: 加賀函館
第4章 マインの詩
55/72

SS 明日に向かって追いかけろっ!

内容にイロモノありになっております。飛ばしても、問題は無いので苦手な方はブラウザバックしてください

 これは、英国による北アフリカ反攻作戦が行われる、ほんの少し前の話しだ。

 私は、軍令部に呼び出され、とある作戦に参加する事となったのだった。

「……ホルテ中佐。貴官には、乗艦を移動して貰う」

「……。何故かは、聞いてもよろしいでしょうか」

「勿論だよ。ただ、これは懲罰などでは無く、純粋に貴官の(フネ)では今回の作戦を行えないからである」

 そこに、ドアをノックする音と、1人の男が入室してきた。

確か、ファスサ軍のグロス中佐…と言ったか…。

「お取り込み中でしたか…」

「いや、今その話をしていたところでしてね」

「そうですか。それは、丁度良かった」

 グロス中佐とは初対面であったため、たがいに挨拶を交わし、今回行われる作戦に関して説明が行われる。

 今回の作戦は、輸送任務である。

現在、孤立中であるジブラルタルに対して、物資輸送を行う。

ただし、大西洋側から進入しようにも枢軸側の戦力が多いため、輸送艦を送る事が出来ずにいた。

 そのため、レキシントンの高速輸送艦を用いて、比較的戦力がまばらな地中海を横断しての輸送作戦が行われる事となった。

 たまたま、乗艦がオーバーホールの時期に差し掛かっており、全員が上陸中だった我が艦に、声がかかったのは必然と言える。

「輸送艦自体は、D航路にて向かっている途中になります。また、動かすのに人員が足りないので、オレンテアリス級をお貸しします」

「輸送艦なのですよね?」

「見た目は」

「見た目は?」

「ええ、一昔前は超高速巡洋戦艦と言われていたのですが、改装されて輸送艦に種別変更されています」

「は?巡洋戦艦?超高速?」

「そうです。この世界最速の水上艦と言う事になります。なお、速力は180kt(時速333km)です」

 一瞬聞き間違いだと思ったが、少将がこめかみに手を当てて首を横に振っているため、事実と言う事になるだろう。

 私も、口の端を引きつらせるしか無かった。


 数日後、超高速輸送艦が入港したと連絡を受け、補佐官2名を伴い港に向かう。

その途中で、大量のオレンテアリス級を荷台に乗せたトラックとすれ違ったが、思えばアレが今度指揮下に入るのだと思うと頭が痛くなってきた。

 到底人間とは思えない容姿に、部補佐官達も顔を背けている。

「…こいつか」

 その艦は他の輸送艦が、ダズル迷彩を施しているのに対し、

迷彩と呼べるものを施してはいない。

それが4隻。レキシントン側で1個戦隊になるそうだ。

 丁度いいところに船員と思われる男がいたため声をかけ、責任者がどこにいるかを聞く。

「もしかして、ビーケ・ホルテ中佐でありますか?」

「ああ、そうだが。貴官は」

「これは、申し遅れました。私は本戦隊のレキシントン側責任者を拝命しているオレンテアリスであります」

 青年に様に若い顔立ちに、程良く付いた筋肉。

背は低めだが、キビキビと動き、ベテランを感じさせる。

「む?オレンテアリス?」

「はい。その通りになります」

「アレと同じ?」

 そう言って、トラックの荷台に乗りこんでいくオレンテアリス級を指さす。

彼は頷き、瞬時に同じ姿へと変貌させ元に戻った。

どう言う原理かは不明だが、見た目を変える事が可能だと知って不安と安心を覚える。

 不安は、人に交じっていたら全く分からないのではないか、

と言うもの。

 安心は、補佐官達の不安を和らげる事が出来る、と言うもの。

「聞いた話とは違うな」

「その通りでしょう。基本的に、他の方とは話しはしませんし、したとしても事務的な話になりますので」

 軍人に似つかわしくなく、ニコニコと微笑んで彼はそう言う。レキシントンはほぼ使い捨ての様な扱いをするため、感情などは無いと思っていたが……。

「いつまでも、立ち話も何でしょうからこちらへ」

 彼がそう言うと、何人もが集まってきてイスやテーブルをどこからか調達してきた。

あっという間に、紅茶とスコーンが用意される。

 その様子を見るが、何か指示を出している訳ではないが、指示を出している様に動くオレンテアリス級。

 ただ、誰もが同じ姿をしていると思いきや、集まった14名は全員容姿が異なっていた。

こちらへの配慮からなのかは分からない。

「では、頂こうか」

 正直な話。彼らに味が分かるのかと心配したが、杞憂だった様だ。

久々に美味い紅茶を飲んだ気がする。

「2等中佐、こちらが作戦指示書になります」

「ん。ありがとうね」

「///…」

 少年兵を想わせるオレンテアリス級が、彼に書類を渡すが、

礼を言われ頬を赤く染めてる。

「君達にも、階級はあるのか…」

「臨時的な物ですので、お構いなく。それに、本作戦指揮の為、昇進なさるのですから私が中佐だとしても、あまり関係ないのでは?」

「…昇進の話は、初耳だがね」

「それは、失礼しました」

 階級の話しが出たため、他の14名の階級を聞くが、全員1等水兵であった。

「僭越ながら、2等中佐は歴戦の勇士ですので、2等中佐の階級は当然であると愚考致します」

 先程の少年兵君がそう言うと、あちら側全員が頷いている。

意外なほど士気が高いと思っていたが、そう言う理由があったのか。

「そう言うものかなぁ?私はそう言うのは拘らないので、お好きにどうぞ」

 彼はそう言うと、席を立ち後ろに並んだ全員に指示を出す。

今度は何が始まるのかと思ったが、まだ入港したばかりであるため、今度は出航準備を行わなけらばならない。

そのため、突っ立っているだけなら働けと言っただけであった。

「忙しいところ、済まなかったな」

「いいえ。明日にでも伺おうと思っておりましたので、お手数をおかけしました」

 邪魔にならない様に外側を半周見て、その日は一旦帰ったのであった。


 次の日。彼が司令部にやって来ていた。

先日の作業服とは異なり、制服姿であった。

「準備はどうだね」

「今日中には終了します。後は、輸送する物資を積み込むだけでありますが、先方の方が後4日はかかる。と返答を頂いております」

 グロス中佐と彼が話しているが、もう出航準備が終わったと聞こえ、いくらなんでも早すぎると思わざるを得なかった。

 あの大きさなら、最低でも1週間はかかってもおかしくない。

それを、昨日の今日で終わらせるなど…。

機人は疲れ知らずと聞いたが、本当だったとは……。

「何に手間取っていると?」

「兵員に関してであります」

「……分かった。君は、ホルテ中佐の指示をよく聞く様に」

「了解であります」

 グロス中佐は、こちらに気付き一礼をすると、あとは彼に任せて自分の仕事に戻って行く。

「何か、怒られる様な事でもしたのか」

「そうではありません。ただ、グロス1等中佐もお疲れなのですよ。なので、辛く当ってしまっているに過ぎません」

「そうか」

 これ以上、この会話は意味がないため。

彼は作戦開始前に、艦の乗員を紹介したいと言った。

それに、私の部下から乗艦する人員がいるのであれば、部屋を用意しなければならないとも。

 こちらからは、私1人だけが行くつもりだったが、最終的に補佐官が2名同行する事になった。

それを昨日言い忘れていた事を今思い出し、苦笑する。

「2名でありますね。では、その様に準備させていただきます」

 今気付いたが、昨日の少年兵君が彼の後ろで、一生懸命メモをとっている。

書いている文字が、あちらの文字であるため何が書いてあるかは不明だが、書く量の多さから大量の指示が出ているに違いない。

「そう言えば、聞き忘れていたのだが。君の艦には、何人のオレンテアリス級がいるのかね」

「我が艦に、でありますか?220体でありますが、それが何か?」

「ああ、いや、何でも無い」

「そうでありますか」

 何かを悟ったのであろう。

それ以上は何も言わず、彼は自艦へと帰って行ったのであった。


 出航2日前。輸送される物資の積み込みが始まると同時に、私は大佐に昇進し、超高速輸送艦の艦長を拝命する。

本来なら、もっと早くに拝命していてもよかったのだろうが、出航自体が2週間も前倒しされており、それだけジブラルタルが危機に瀕していると言う事であっろう。

それを彼に聞くと、

「ジブラルタルの状況、でありますか?」

「そうだ。出航が早められたと言う事は、危機的状況なのではないのかね?」

「そうでもありません。スペイン軍の殆どが対ソ連戦に投入されており、国内には警戒部隊程度しか残っていないようでして…。正直、早まった理由は判然としないのであります」

「…………」

「どうかされましたか?」

「なあ、この任務だけで構わないから、敬語はやめにしないか」

「お断りさせていただきます」

「何故だね」

「大佐の精神に悪いからであります」

「親しくなり、君が死んだ場合の事を考えてか」

「死ぬ。と言うのは分かり兼ねますが、我々の様な存在と親しくなっても、貴官にとっては不利益を講じかねないでしょう。なら、なるべくそう言った事は少ない方がいい。本官はそう考えるのであります。ですので、余計な事は考えないでいただきたい」

 完全に拒否されてしまったようだ。それでもと言おうとしたが、真っ直ぐ見るその目にあてられ、言葉を発する事が出来ない。

「…それに、我々には次の命令も出ておりますので。この任務後、すぐにたたねばならないのです。ご了承ください」

「ああ、わかった」

 本当は、分からない。

死ぬ事を厭わないと言い、それでいて私の事を気遣う?

ふざけている。本当に、ふざけている…。

 本当は、元人間のサイボーグなのではないのか。

そう思う事しかできないほど、彼は、彼らは人と何も変わらなかったのだ。

 細く長身長に無表情で喋るのが好きな航海長、笑顔で毒を吐くが気遣いのできる砲雷長、彼の副官の様に振る舞う少年兵君こと通信長、首からかける双眼鏡の整備に情熱を捧げいつも暴走する見張り長、そして、補佐役よりも指揮官が似合う彼こと副長…。

 まだ言い切れないほど、彼らには個性がある。そんな彼らが、消耗品……?

「なーに、辛気臭い顔をしているのだねー」

「コック長…?」

 私が乗り込むこの艦のコック長。

彼女はジト目と言われる表情で、私の方にしゃもじを付き付け言う。

「話を聞いていれば、なんと無駄でつまらない事で悩んでいるんだい。私達は部品なんだよ。君だって、時計が動かなくなったら、部品交換をするだろう?でも、時計自体に思い出はあっても、部品にまで思い出がある訳じゃない。交換されれ、動けば問題ない。そうじゃないのか?まさかとは思うけれども、壊れた部品まで残らずとっておき、大切にしている奇特と言う訳ではないのだろう。君は指揮官だ。なら、多少の感情はあっても良いから、余計な事を考えるべきじゃない。もういっそのこと、私達の事は銃の弾程度に思えばいい。と、言うよりもそう思いなさい。出なければ、この後続かないよ!」

「それは流石に…」

「気にするな!と言うのは簡単だけれども…、そんなに気になるならウチの副長が身代わりになるから、好きにしていいのよ?」

「「え?」」

 コック長はナイチチを張って、彼を差し出して来た。

差し出された彼は、大変困惑しているが、誰も反対しないところを考えると自分に話を振らないでほしいとでも思っているのだろう。

「コック長!?何で、私を突きだしたの!?」

「最初に話を振られて、それを断ったからこんな話になったんじゃねぇか!責任を取るべきだよ」

「れ、連帯責任を所望します」

 なお全会一致で否決され、彼は渋々と言った顔になる。

流石の少年兵君も顔を背けており、説得は無理そうであった。





 英国軍がジブラルタルへ、物資輸送を画策していると言う情報を手に入れたドイツは、地中海に面する同盟各国の軍人を集めて対策を講じようとしていた。

 その会議に、ヒトラーの相談役に就任したミカド・ブラウンも参加する事になり、厳重な警備が敷かれる事となったのである。

 会議に当り現在の英歴軍の状況と、同盟軍の状況が説明される。

現状は、同盟軍が地中海の8割近い海域を制しており、大西洋方面もほぼ制圧状態にあるため、低速な輸送艦を使った輸送作戦を行える状況にはない。

「英国は、喜望峰回りにて戦力をエジプトに集結しており、ファスサも南氷洋航路にて中東方面に戦力を送っている状態になります」

 現在同盟軍が北大西洋にて通商破壊を実施しているが、小型艦の多いUボートでは南大西洋方面にまで足を延ばせる艦は殆どいなかったのだ。

「こう言う時に、日本帝国の大型潜水艦が欲しいところね」

 ミカドが言う大型潜水艦とは、艦隊型と呼ばれる水上速力が水上艦並であり、長距離を移動する事が前提の潜水艦の事だ。

太平洋での戦いを主眼としている日米には、大型の巡洋潜水艦が多数配備されている。

 ただし、大型であるため、通商破壊には向いているとは言い難い。

まさに、一長一短である。

 また、南氷洋航路は最短航路とも言うべき航路である。

ただし、荒天航路であるため、貨物輸送にはあまり向かないが、海が荒れるために潜水艦からの攻撃を受ける確率は極端に低い。

低いと言うよりも、無いと言っていい。

 ファスサはこの航路を使ってエジプトを含む中東方面とシンガポールとインドに対する輸送路としているのだ。

 その中継地点として、南大西洋の島であるトリスタン・ダ・クーナ島、喜望峰、マダガスカルなどを使用している。

本来なら、この中継地点を攻撃できればいいのだが、トリスタン・ダ・クーナ島まで足を運べる艦が存在しないのだ。

「航続距離を延ばす対策として、補給潜水艦を建造する計画があります」

「スペインにカナリア諸島の賃貸を申し出た方が、乗員の負担も少ないのではなくて?」

「…検討いたします」

 ただし、カナリア諸島は英歴軍の勢力圏内に近い場所にあるため、基地を造るのにはあまり向かない場所ではあった。

「では、こちらをご覧ください」

 投影機の準備が整い映し出された写真には、ポートサイドを空襲した空軍機が撮影した大型輸送艦4隻が映し出されていた。

「解析した結果、全長300mを越える大型輸送艦であるようです。この艦に関しては目撃情報があり、北洋航路に網を張っていた潜水艦から報告が上がっております」

 今までに識別された輸送艦は2軸推進であったが、この輸送艦は4軸推進であり、速力が50ktを超える超高速艦である事も判明している。

 小型の駆逐艦が、40kt以上の速力を出している事は知られていたが、この様な巨艦がこの速力と言うのは初めてであった。

「50kt……魚雷の雷速よりも速いのではなくて?」

「その通りです。現在の我々がこの輸送艦を撃沈するためには、高速水上艦隊による一撃離脱か、航空機による空襲を行う以外に方法がありません」

「水上艦での攻撃でも、空襲でも魚雷が使えない以上。撃沈に時間がかかる。そう言う事ですのね」

 その通りだと頷かれ、参加者は深い雛を寄せる事に。

恐らく、輸送艦自体に護衛は付くだろうから、撃沈するためには護衛をある程度削らなければならない。

 その戦力が仏伊の2国に、今現在は殆ど無い状態であった。

地中海海戦の結果、主力と準主力を失った両国は、早急に戦力の回復が望まれたが、1国ではそう簡単に事が進む訳もなく、ミカドがヒトラーに提案して同盟内で戦時共同開発を行う事でそれを補う事になったのだ。

だが、それでも、駆逐艦の建造が始まったばかりであり、それの戦線投入には圧倒的に時間が足りない。

 なら、航空機による空襲だが、洋上を飛行できる航空機と言うのは、殆どが双発機であり、それこそ数を投入しなければならなかったのだが、航続距離の長い双発機の殆どが対ソ連戦に出払っており、この方面に置いてある戦力の殆どが、旧式機か飛行艇かと言う選択肢しか無いのが現実であった。

「仕方ないわね…なら、輸送船に水上機用カタパルトを取り付けて打ち出す簡易空母を用意しましょう。それをいくつか用意すれば、単発機でもなんとかなるでしょう。ただし、帰還は陸上の飛行場である必要性があるけれどもね」

「流石、ミカド相談役。それは妙案です」

 そこからは、簡単であった。

旧式化したJu-87を中心とした攻撃部隊を編成し、輸送作戦を阻止する事となったのであった。

作戦名は「トール」と名付けられたが、そんな中ミカドは浮かない顔をして窓の外から見える地中海に目を向けるのであった。


 潜入させていたスパイからの報告により、輸送艦が出航した事を知った同盟軍はすぐに作戦を決行するべく動いたのだが……。

準備が整った頃には、輸送艦はジブラルタルに入港を果たしてしまっていたのだ。

 別に、初動が遅かったわけではない。

輸送艦の方が速過ぎたのだ。

 索敵行動中に敵輸送艦を発見した飛行艇が、追尾を行うが速力は推定170kt以上190kt未満と言う想定をはるかに超えた速力を出しており、飛行艇の最大速度以上を叩き出す相手では、長時間の追尾は不可能であったのだ。

「180ktってどれくらいよ…」

「時速に換算すると、180(kt)×1.852(km/h)ですので時速333.36kmと言う事になります」

「ちょ、どこの新幹線よ!」

「シ、シンカンセン?」

「そんなのどうでもいいわ!下手したら、スツーカじゃ追いつけないってことじゃないの!」

 最高速度なら340km/hを出せるJu-87に問題がない様に思えるが、航続距離が短いため一度離れると再度追いつく事は事実上不可能となる。

「ですが、この速力のせいでしょう。単艦での行動ですので、攻撃方法を変えれば攻撃も容易になるでしょう」

「容易になるって…、なら、どうやって攻撃を当てるつもりよ」

「そうですな。機関砲によって甲板を攻撃し、機関部を損傷させると言うのはどうでしょう。流石に、これだけに高速を出すのです。防御は低いと思われますが?」

「ま、物は試しね。やるのであれば、徹底的にやりなさい。ついでに、Fw190の新型爆撃型の試験もすれば丁度良いでしょう」

 こうしてJu-87だけでなく使えそうな航空機が、試作・旧式を問わず集められる事になったのであった。





 3度目の輸送が終わり、港に帰還した際に、彼と街へ繰り出す事にした。

最初はあまり乗り気ではなかった彼だが、初めて見るモノが多いせいか、子供の様に目を輝かせている。

 そんな彼を伴ってバーホールに入ると、パシフィック・ヴィクトリー号に乗る部下達がこちらに手招きをしているのが見える。

「お久し振りですな、船長。さて、この間のカリをきっちり返して頂きましょうか!」

「またやるのか…。貴様も飽きないな」

「勝つまで諦めないのが男ってもんです」

 彼を放置してしまったと思い振り向くと、そこに彼はいなかった。

代わりに、私が座ろうとしていた席に彼が座り、私の変わりにカードを手にしている。

「中佐は、カードゲームはできるのかね?」

「多少はできます。流石にローカルルールは分かりませんのであしからず」

 部下達も、私が連れていたため今回の作戦での知り合った仲だと思ったのだろう。

すぐに打ち解けて、酒を酌み交わす様になってしまった。

 しかし、この男強い。

多少はできると言ったが、カジノでぼろ儲け確実な程に、仕組みを理解しているのだ。

まあ、機人だからそう言う事に強いのかもしれないがな。

「ちょちょちょ、ちょっと待ってほしい」

「はい?これで4回目ですよ?もう、待てませんよ?」

「そんな事言わないで下さいよアニキ」

「じゃぁ、ロイヤルストレートフラッシュで」

「ぐわぁぁああああああ!!!!!」

  はらはらとトランプが舞い、彼の目の前には積み上げられたコインが山となっている。

軽く10万ポンドはくだらないだろう。

「ぜんじょぉおおお!」

「取り返してほしいとかは無理だからな」

「ぞんなぁぁぁぁあああああ」

 これに懲りたら、賭けごとを控える様にと言って肩を叩いて戒める。

当の彼は、集まってしまったコインを自らの財布に納め……、確実に入りきらないだろうと思われる小銭入れに次々と消えて行くコイン…。

あれ程の量が収まった小銭入れは、未だに手のひらサイズのままであった。

異次元空間サイフか……。

 その後、彼とエールを2杯飲んだ後帰艦した訳だが、コック長にしこたま叱られたのであった。

解せぬ。


 彼にギャンブル禁止令が出されたのは言うまでもない。

全く分からなかったがイカサマをしたらしく、コック長が大々的に怒っている。

「どんなイカサマをしたと?」

「相手の表情を見て、何をどうするかを予想したのでしょうね。的中確率は97%だし、無表情でも心拍数なんかで分からうからあまり意味ないし…。ほら、イカサマでしょ?」

「イカサマって次元では無い様な気がするのだが……?」

 それは言わない約束だと言われたのだが、仕方ないではないか。

口を滑って言葉が出て行ってしまったのだから。

「で、コレはどうするのですか?」

 そう言われて部屋の隅にあるコインの山を見る。

明らかに、今回の分だけではない尋常ではない量がそこにはあった。

「では、飲み代か飲食代にしてくれ」

「返却しなくても宜しいのですか?」

「誰から巻きあげたか不明だし、巻き上げられた方も悪い。

だから、ありがたく使わせてもらおうではないか」

「え゛っ!?2800万ポンドもありますけれども…?」

 そう言われてコインの山を2度見してしまった…。

勿論、札束ではなくコインの山だ。

年代物から、見た事のないコインまで様々だが、ポンドである事は確かだ。

 なので、事情を聴くべく彼を呼んだのだが、返金を求めて一部の将兵が直談判をしに来ていると報告が入ってきた。

 各々凄く惨めな理由を引き下げての登場だったが、MP(ミリタリーポリス)が連れてこられた事により今日は解散する事となった。

ただし、今夜出航なので彼らには申し訳ないが、待ってもらう他無いのであった。

 そして、肝心のこの量に関してだが、軍役が長い事もあり使い道がないまま貯まる一方だったそうだ。

「長いって、どれくらいなのかしら?」

「ちなみに、コック長は?」

「私は今回が初めてよ」

「まさかの卸したてですか!?」

「なに。新品じゃ悪い訳?」

「いいえ、お気にせず」

「……。で、副長はどれくらい経つの?」

 新品と言う単語にギョっとしつつも、悩んだ挙句彼はこう切り出した。

自分は初期生産型だと。

「しょ、初期!?2千年以上も前じゃないの!?」

「流石に、機体は換装しているよ?それに、何度か壊れた事もあったし…」

「壊れたって…。それ、どう言う事?」

「あれ、知らないの?私達の意識に相当する部分は、本国のマザーコンピュータの中にあって随時情報を更新されるのだよ。だから、機体が壊れても情報をマザーコンピュータの方に送って、不必要な情報をクリーニングして、新たな機体に装填されるんだよ」

「何それ…、初耳よ」

「そうなの?技官に聞いたらそう言う返答が帰って来たよ?」

 つまり、以前の記憶は無くても、コック長も歴戦を戦ってきたかもしれないと言う事だろう。

だが、何故そんな事を覚えているのだろうか。

そんな顔をしていたせいか、彼が神妙な表情でその答えを答えてくれた。

曰く、自分には魂があると。

「タマシイ?」

「艦長達の宗教感覚は分からないけれども、私が言う魂と言うものは大切にされたが故に宿った魂と言う奴でね。日本の宗教感覚で言う、九十九神に当ると学者先生に言われたんだよ。九十九神って言うのは、99年以上大切にされると生命力を宿すと言う考え方で、多神教でも珍しい考え方でもあるんだ」

「それと、記憶があるのはどう言った関係が?」

「関係はあるのですよ。機体に記された記録と、魂に刻まれた記憶の2つを私は持っている事になります。そして、機体の記録に引き摺られる形で魂もマザーコンピュータまで戻され、記録は消されても記憶は残っている。そう言う状態になるのです」

「それは、どんなオカルトなのかね…」

「言っておきますが艦長。我がレキシントンでは、オカルトも科学で証明されていますし、魔法も心霊現象も科学的証明が可能なのです。魂があるぐらいで驚かれても、こちらとしては困ります」

 死んだ人間をポンと生き返らせる様な国である以上、こちらの常識が全く通用しないと言う事になるのだろうが…、それでも、それでは何を基準に話せばよいのか分からなくなってしまうのではないのか。

そう突っ込むと2人は難しい顔をして固まってしまったのである。





 この日、新たに作られた勲章の授与式が、首都ベルリンで行われた。

前人未到と言うよりも、突き抜けてしまった彼専用と言っても過言ではない「黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章」の授章に、彼ハンス・ウルリッヒ・ルーデル空軍少佐はしかめ面をしている。

 写真写りが悪いと言われても、険しい顔はよくならず、撮影班もほとほと困り果てていたのであった。

「ルーデル、正直なところ…」

「はい、ストップ」

 ヒトラーが何かを言おうとしたが、ミカドに容赦なく止められてしまった。

突如現れたミカドにルーデルでさえも驚いていると、ミカドはヒトラーを遮る様に仁王立ちをしてルーデルに質問してきたのだ。

「別に、出撃するなとは言いません。ですが、少しばかり私に貴方の力を貸していただきたいのです」

「む?アンタは…」

「私はミカド・ブラウン。総統の相談役を申し使っています」

「おお、アンタが噂の…!しかし、聞いた話よりも随分と勇ましいお人だ」

「アドルフは怒りっぽいから、これくらいしないとダメなのよ。それでだけれども、どう?特別な瑞雲……じゃなくて、『特別なスツーカ』に乗りたくない?」

「『特別なスツーカ』だって?もちろん、乗りたいさ」

「なら、授章に相応しい顔と態度をとる様になさい。後で説明しますから」

 ヒトラーはどんどんと出撃をする話になって行くのを止めたかったが、ニコリとイイ笑顔になったルーデルに何も言えず、笑顔で授賞式を終わらせることしかできなかったのである。


 次の日の午後。

ヒトラーも参加して、トール作戦の経過とこれからが話し合われる事になった。

 今現在、使えそうな航空機を全てスペイン領バレアス諸島の空軍基地へ送っては、様々な攻撃方法を模索する日々が続いているそうだ。

 そんな中でも、ロケット弾による攻撃は一定の効果が表れており、現地改修にて他の機体にもレールが取り付けられていた。

今回の特別なスツーカにも。

「で、何が特別なんだね」

「この写真を見ればわかるわ」

 ミカドによって渡された写真を見たルーデルは、トチ狂ったそれを見て満面の笑みを見せる。

「主脚の外側に30mm機関砲を1門づつ、計2門搭載した対戦車襲撃機仕様のスツーカよ。落下増槽を機体中央に設置したから、大型爆弾は搭載できないけれども、50mmロケット弾を計30発と30mm機関砲弾が1門につき150発を載せられるわ」

「それでいて、速度は上がって310km/hから380km/h。航続距離も900kmから1450kmですかい…確かに特別だ!特別なスツーカ、いや特別な『ズイウン』だ!」

 そこでそれを言うのかと白目をむくミカドだがもう遅い。

後にJu-87Cから続く対戦車襲撃機は「ズイウン」と呼ばれる事となったのであった。

「えー、気を取り直して。Ju-87Cを今回から出撃させる事となりました。操縦はルーデル中佐になります。本機が成功となれば、旧式化したスツーカを全て対戦車襲撃機に改造する事になります」

 今現在判明している敵艦の武装だが、輸送艦の見た目からは分からないほどの重武装である事が判明している。

 主砲は戦艦クラスであり、それを対空砲として使ってくる。

ただし、命中率はあまり良くないため、脅し以上のものではない。

 しかし、接近すると機関砲で応戦してくるのだが、この機関砲が厄介であった。

先ず、当ると双発機も簡単に大穴が開く。

砲弾の飛翔速度が速く射程も長いため、回避が難しいと言った事が判明していた。

 しかも、今回の出撃は夜になる見通しとなっていた。

そのため、イタリア軍の爆撃機が星光弾を敵艦上空に投下しての攻撃になる。

ルーデルは文句は無いと言って、今すぐに駆けだしかねない様子だったが、もう少し聞いてほしいと言われ着席する。

「今回判明した事を報告します。どうやらこの輸送艦は、ファスサの所属艦であるようです。そして、元は巡洋戦艦であった艦であると」

「巡洋戦艦だと?」

「ええ、その通りよルーデル中佐。旧式化したために輸送艦として武装を減らして、船倉を設けた艦の様です。所謂、戦時急造高速輸送艦と言ったところね。通常は、旧式化した駆逐艦の缶を減らして改造するのだけれども、この艦は機関自体は全く減らしていないのです」

 どこからか持って来た情報ではあるが、かなりの強さを持ったコレが旧式艦だと言う報告に、参加者の殆どが驚きのあまり言葉を失っていた。

「だが、巡洋戦艦なのだろう?防御が低いのならば、撃破する機会もあると言う事じゃないか」

「そうですわ。ですので、防御上の弱点である煙突を重点的に攻撃する様にお願いしたいのです」

「了解した。では、私は出撃してくる」

 ば、ば、ば、と立ち上がり敬礼をして部屋を去ったルーデルに苦笑する一同。

「う…あ……、行ってしまった…」

「止めようとしても無駄だと思うわよアドルフ」

 うめき声をあげて、今からでも遅くは無いと、説得しようとするヒトラーにミカドがルーデルがどれだけ愛国心のカタマリ(ウォージャンキー)なのかを説き、諦める様に宥めている間に、ほかは細々と他の事に関して相談を始めていた。

決めなければならない事は多く、ソ連の事もそうだがこの戦争の終着点も模索しなければならなかったのであった…。






 時刻は1800を過ぎたあたりであり、行程としては半分を過ぎたあたりであった。

そうであるにもかかわらず、対空攻撃警報が鳴ると言うのは想定外の事である。

「夜間空襲だと!?」

「上空爆撃機、数3」

 見張り長の声が聞こえた頃、海上に多数の星光弾が投下され、辺りを明るく照らす。

照らし出された機影から多数のロケット弾が放たれ、噴煙に視界が奪われる。

ただ、それも少しの間の事であり、その一帯を過ぎればすぐに視界は晴れるのだが、今回はそうもいかなかった。

「煙路損傷!機関緊急停止します」

 艦が大きいため分からなったが、どうやら一部の攻撃が煙突を破壊し、排煙が逆流してしまった様なのだ。

「補助機関回せ!」

「煙路が損傷しているため、補助機関始動不能です!」

「なっ!?」

 彼は応急修理班に、煙突自体を撤去してすぐに煙路を確保するように命令を下し、砲雷長に使用が停止されていた武装の使用許可をだした。

 艦自体は慣性の法則により、未だに前進しているがもうそろそろ停まるであろう事は容易に予想できた。

 キュピンと言う音が聞こえたかと思うと、艦橋横の探照灯から光の束が放たれ、上空を旋回していた爆撃機を叩き落とす。

噂のレーザー兵器の威力に、驚きを隠す事は出来なかったが、驚いている暇は全くなかった。

 艦がほぼ停止状態になり、旧式の固定脚機が群がって来たのだ。

「報告、敵機はJu-87Gの模様!」

「な、なんだそれは」

「Ju-87の両翼に30mm機関砲をポン付けした対戦車襲撃機です。一部の機体は37mm機関砲を搭載していました!」

 それがまさに今、機関区周辺を重点的に攻撃している最中であった。

余りの遅さに、高速機を相手にする防御火器が全く役に立っていない。

「煙路確保完了!」

「機関再始動いそげ!」

 その3分後、再始動した機関が唸りをあげて艦を加速させ、一気に襲撃部隊から引き離したため九死に一生を得たのであった…。


 その後、再度の襲撃を受けることなくジブラルタルに寄港したのだが、煙突の修理はここではできないため、せめてポートサイドまで戻る必要があった。

 そのため、煙路の状況を見るためにやってきたのだが、これはすごかった。

何がすごかったのかと言うと、通常ならば大穴があいているだけの筈の煙路に、装甲板が設けてあったのである。

「これは、蜂の巣甲板と言って、煙路防御を目的とした装甲板になります」

「これを考えた技師は頭がいいな…」

「ええ、私もそう思います」

 多数の穴が開いた装甲板が煙路に装着されており、多少の傷はついていたが、破られた形跡は全くなかったのである。

先日の襲撃時も、この蜂の巣甲板が無ければ、煙路を塞いだ残骸が機関に入り込んで、機関を完全に損傷していた可能性があるのだ。

 いくら元が巡洋戦艦だとしても、多数の攻撃を受ければ沈んでしまうだろう。

そう思うと、しみじみとありがたさが沸いてくる。

「出航は夜になってからですね」

「また、夜間襲撃の危険性はあるがな」

「では、昼間に出撃しますか?」

「いや、夜に出航する。航路は喜望峰回りでポートサイドに帰還する」

「……予定を大幅に超過してしまいますが?」

「今の状態で地中海を横断する方が、無理どと思うのだが?」

「そうですね。了解であります」

 命令を受けた彼は、足早に出航準備を行うよう艦内放送にて告げる。

機関再始動にはまだ時間はかかるだろうが、私自身も準備があるため、急いで煙突を後にしたのであった。


 無事に喜望峰回りでポートサイドに帰還した訳だが、やはりというか他の3隻の超高速輸送艦も大破し、輸送作戦は休止状態となってしまったのだ。

 ただ幸いな事に、予定よりも多く輸送できたため、当分の間は持ちこたえられるだろう。

そう予想できると司令部は踏んでいる。

 そのため、私達には艦の修理中は休暇が与えられ、つかの間の安息を得る事となったのである。

 しかし、休暇と言えど本国へ戻れる訳ではないので、街に繰り出す他無いのだが…。

そこで、悪い考えが浮かび彼を伴って街に繰り出す事にしたのである。

 相変わらず、物珍しそうにあたりをキョロキョロと見まわす彼を連れ、やってきたのは遊楽街だ。

「ここは何をするところなのですか?」

「それは勿論、コレをするところさ」

 お決まりのポーズを取るが、やはり彼には通じていないらしく、頭の上に疑問符を浮かべている。

「女を買うでわかるか?」

「飼ってどうするのですか?」

「抱くんだよ」

「抱き付いてどうするのですか?」

「スカッとするんだよ」

「え?なら、コック長でも良いのでは?」

「ちがーう!彼女では意味がないのだ」

「そーなのかー」

「ああそうだよ」

 興味がないから知らないと言うよりも、する必要が全くないから分からないと言った方がいいのだろう。

そんな彼を事前に頼んでおいた女のところに預けた。

さて、どうなるか後でじっくりと聴かせてもらおう。そう、思いながらも自分の方もヤッてくる事にしたのであった。


 とある軍人から頼まれ、知人の男を抱く様に言われた訳なのだけれども、連れてこられた男は小柄な軍人だった。

 訳が分からぬまま連れてこられ、預けられたと言った様相で、アタシの事を不思議そうな目で見ている。

 真面目に、気持ち悪い男だと女の直感が告げている。顔はスッキリとしていて、体は筋肉が程良く付いている。

ただ、ボブカットの髪の色が炎を思わせる赤色をしており、瞳の奥に見える感情が全く読めないのだ。

「さ、するなら早くして」

「何をすればいいんです?」

「は?何をって、ここは女を抱くところよ。する事なんて1つしかないでしょ」

「抱けばいいのですか……、面白いところですね!」

 そう言うと男はアタシの事を、まるで物語に出てくる王子がお姫様を抱きかかえる様に持ち上げてしまったのだ。

一気に顔が赤くなるのを感じながら、男に抗議をする。

違う、そうじゃないと。

「あれ?違うんですか?」

「まさかとは思うけれども、何も分からずにここに連れてこられたのかしら?」

「ええ、その通りです。この様なところは初めてきましたので」

 反応に初々しさのかけらもないが、何も分かっていないところを見ると、本当の事なのだろう。

これは、大変面倒くさい客を押しつけられてしまったのではないか。

「そんな事だと、貴方の親は悲しむわね」

「私に親はいません」

「……」

 満面の笑顔でそう返して来た男に、なんと返事をしたらよいものかと。

「ん?どうかなされましたか?」

「いいえ、失礼な事を聞いてしまったようね」

「んん?どう言う事でしょうか?」

「う…気にしないで……」

 何がどうしたのかと問われたが、それが逆に申し訳なく思えてしまうのだ。

恐らく、戦争などで両親を亡くした孤児なのだろう。

「そ、それでだけれども」

「ええ、それで?」

「ここは、売春をするところなの。分かるかしら?」

「……」

 これでようやく理解しただろうと安堵していると、「売春ってなんですか?」と疑問を返されて、頭が痛くなってきた。

本当にこの人、大丈夫なの?

「そ、そんなの言葉じゃ説明できないわよ!」

「言葉以外に説明できるのであれば、その行動で説明すれば宜しいのではないでしょうか?」

 その顔は純粋無垢で、こんなヨゴレた女には勿体無い代物だと思ってしまう。

 だけれども、だからこそ汚したくなってしまうと言うもの。

だから、彼の言葉通り、行動で示す事にしましょう。

 意を決して、彼の上に馬乗りになって唇を奪う。

流石に驚いたのか、目を見開いてアタシの事を見ているけれども、嫌がる素振りは全くない。

「どう?初めてのキスは?」

「これがキスと言うモノなのですね…。もう一度、宜しいでしょうか?」

「ええ、いいわ」

 アタシは意地悪く、唇に吸い付いて隙間から舌をねじ込んで彼の口の中を味わう。

一瞬、眉を寄せたけれども、彼も負けじと舌を絡ませて対抗しようとしている。

ぎこちないけれども、この反応は面白いモノがある。

「ふふ、キスだけで終わる訳じゃないのよ?」

 彼の口元から離れてそう言うのだけれども、あのまま続けていれば、アタシの方が先にダウンしていた事は間違い無いだろう。

 その証拠に、彼のモノは一向にカタくならない。

実は不能なのではと心配になったが、ズボンのチャックを開けて握ると、想定外に硬く太くなった。

「あらあら、ご立派な息子さんですわね」

「私に、子供はいませんが…」

「そうじゃなくて。今、私の手の中にあるアナタのモノの隠語よ」

「ああ、そう言う…。って、ぬちゃってしましたよ!?」

「ああ、だって、売春ってこういう事。するの…よ!」

 手で導いて、腰を下ろすだけで、彼の息子さんは私の中にご案内されて全身マッサージされるのだ。

「う~~~、キツい…」

「大丈夫ですか?抜いた方が宜しのでは?」

「あ、アタシの方は問題…にゃいかりゃ…。ひぅっ!少しこのままにさせて…」

 今までに感じた事のないほどの圧迫感に、息が荒くなる。それを心配してか、彼が優しく頭を撫でてくれる。

今まで多くの男に抱かれてきたけれども、ここまで心配してくれた男はいなかった。

「なら、どう言う体勢なら辛くありませんか?」

「いいの、このままで…アナタは女の扱い方も知らないのだから…大人しくしてて…」

 少し言い過ぎたと思ったけれども、彼は目を反らして下を見ている。

そこは、私と彼が繋がっている場所だ。

本来ならマッサージする側が、今はされる側になっている気分だ。

よくよく思えば、避妊具さえ付けていない。

 なら、つけ直すべきなのだろうけれども、腰が笑っていて立つ事さえもできないでいる。

今、動くなと言った手前、持ちあげて抜いてほしいとも言えず、膝立ちになって半分くらいまで引き抜くのが精いっぱいだった。

 ただ、中身が引きずられる様な感覚と、やわらかい容器の中身を急に引き抜いた様な状態を一緒に味わったせいで、気絶しそうなほどの快感が体中を駆け巡ったのだ。

「うぐ…、吸わないでくだ…さい…」

 何か言葉を発しようと思うのだが、何も言葉にならない。

それどころか、この状態から全く動けない。

引き抜けば同じ快感を味わって、今度こそ完全に気絶するだろう。

戻せば、タネヅケ確実コースだ。

「やはり…、辛いのではないですか?」

「そんにゃころにゃひ」

「そうですか」

 彼はそう言うと、人形を持ち上げる様にアタシの身体を持ち上げ、アタシの中から彼の息子はそのままの状態で生還を果たしたが、アタシは刺激の強さのせいで気絶して見るも無残な事になってしまったらしい。

 後で聞いた話では、彼が洗濯やらなんやらをしてくれたそうで、また来ると伝言を頼まれたそうだ。

そう、また来てくれるのね……。


「で、どうだったのか。感想を聞かせて欲しいものだな」

「それが、他言無用を申し使っております」

「は?何で?」

「他言無用です」

 彼はそう言って口元で手を交差させ、クロスを作る。

それに少しばかり頭にきたので、両頬をつねって外側に引っ張った。

「メシだ、メシー。って、何してるの?」

「丁度いいところに来たね、コック長。副長が報告義務をストライキしていてね、困っているところだったのだよ」

「おや、珍しい」

 ようやく放され、自由になった頬をさすりながら、そんな義務は知らないと主張する彼。

「なら、報告義務が発生すると言われた時刻のログを見せて。それなら、義務があるかどうか判別できるわ」

「突如街に連れて行かれた私は、何も知りません」

「へぇ~、街に行ってきたのね~」

 コック長の目の色が変わり、怒りの色を見せている。何かマズイ事になっていないか?

「2人は食事抜きね」

「「ホワッツ!?」」

「艦の設備が使えない中、手伝いを命令して貰おうと思って、探せどもどこにもいないのだもの。220人分の食事をこの施設で、たった5人で作る事になったのよ?遊びに出て行った人の事なんて知りません」

 終始笑顔だが、言葉に棘がある。雰囲気もドス黒い。

「そ、そんなぁ…」

「まぁ、副長は条件を飲めば許しますよ」

「…条件とは?」

「命令権を使って、各班から手伝いを2名出させてください。交代でも構わないので」

「ああ、勿論構わないよ。それにしても、済まなかったね。まさか、そんな事になっているとは思わなかったから」

「ええ、悪いのは艦長ですもの」

 問い詰めていた筈なのに、いつの間にか詰め寄られている。

ここは、何とか回避しなければ…。

 そう思っていると、コック長は彼の方を一度見た後私の顔を訝しげに見てきた。なんだ?

「ところで、副長はどこに連れて行かれたのです?」

「ばいしゅうやど?だったかな?」

「なんですかそれ?」

「女の子に抱き付かれる……、何でお玉を振りあ――ゲッ!」

 コック長のお玉が彼の頭を直撃した。

一撃で床に沈んだ彼の頭を何度も叩く、なんとも痛ましい(スコーン、スコーンと)音がする。

 何やら赤い液体がドロドロと流れる様になった頃、ようやく止まった彼女の次の標的は私だった。

「副長は純粋だから良いんです。汚してくれちゃって、何しているんです?」

「何の事か、分からないな」

「死ね!」

 お玉が一瞬で包丁に変わり、それを投げナイフの要領で投げつけてくる。

しかも、数は無尽蔵であるらしく、近くにあった部屋に逃げなければ今頃ハンバーグになっていただろう。

「どうしたん――デフッ!?」

 声からして少年兵君だろうが、投げ包丁の餌食になった様だ。

「コック長、止めるんだ…」

 かすれた声に反応してコック長に一瞬の隙が生まれたので、背後から忍び寄って後ろから覆いかぶさろうとして、一本背負い投げされてしまった。

喉元に包丁を突きつけられたが、それを彼が蹴り飛ばしてコック長を羽交い絞めにする。

「顔が赤いが?」

「副長の顔が近いからです…」

「ん?んんん?」

 訳が分からないと言いたげな顔をする彼と、完全に恋する乙女の顔をする彼女。

ああ、怒っていた理由はそう言う事だったのか…。

それは確かに悪い事をしたな…。

 ただ、彼はすぐに後ろにぶっ倒れ、壁に頭を強打して、赤い液体をなすり付けながら崩れ落ちてしまった……。


 数日後、この間の彼がまた来てくれていた。

ただ、怪我をしているみたいで、頭には包帯が巻かれている。

 どこで怪我をしたのかと聞いても、引きつった笑顔を浮かべるだけで、何も答えてはくれなかった。

「そう言えば、女性に贈り物をすると良いと言われましたので。これくらいしか用意できなかったのですけれども、どうぞ」

 常識的に考えて、言われたから渡すと言うのは失礼だけれども、何も分からない彼ならしょうがないと思えてしまう。

 本当に仕方ないわね。

そう言って受け取った小袋には、数本の香水が入っていた。

 どれも高そうなラベルと装飾の付いたモノで、アタシみたいなのには勿体無いシロモノだった。

「ああ、返品は不可なので」

「そう言うのはちょっと…」

「……、それに返品されても私が使う訳にもいかないと思うのです。ですので、貴女が使うべきでしょう」

 これは、他の女性に贈るべきと言っても、不思議そうな顔をされるだろう。

まだ、会って2回目であるにもかかわらず、大方予想できてしまう私が恐ろしい。

「他に、贈れる女性はいないの?」

「貴女以外に女性と話した事はありませんので」

 聞くだけ無駄だったみたいね。

それにしても、女性と話した事さえないって、変な人。

しかも、それが冗談に聞こえないのだもの。

可笑しいたらありゃしないじゃないの。

「急に笑いだして、どうかされましたか?」

「いいえ、何でも無いわ」

「……」

「ここに来たのなら、シて行くのでしょ?」

「へ、いや、まだそんな時間ではないのでは?」

「アナタなら、別にかまわないわ」

「なら、せめてお金だけでも…」

「勿論、取るに決まっているじゃない」

「全部、コイン払いはダメですか?」

「できるモノなら、やってみなさいよ」

 あの時は、冗談だって思ったのは事実だけれども、本当にコイン払いなんてしてくるなんて思わなかったのは本当よ?

 後で他の客に聞いた限りだと、ギャンブラー潰しで有名だって聞いてびっくりしたわ。

だって、そんなに強そうに見えないわ。

「――でね、アナタ結構有名みたいよ?」

「ええ!?コック長に怒られますよ、それ…」

「アナタって、そんなに下っ端なの?」

「一応軍からは、2等中佐の階級を頂いておりますが…?」

「中佐?……えっ!?中佐(コマンダー)!?」

「ん?どうかしたのですか?」

「ねぇ。アナタの階級と大尉ならどっちがえらいの?」

「私は英国軍人ではないので、比べられないのけれども、階級だけなら私の方が上になりますね。大体4~5階級は上になりますよ」

英国人(ジョンブル)じゃないのは、顔を見ればわかるわ。じゃぁ、アメリカ人かしら?それとも、フランス人?」

「なんと言えばいいのか…、所属は歴親沌保存帝国と言う国なのです。今は、ファスサ・アメリカーナに所属していると言う事にはなっていますが」

「れき…?あ、でも、ファスサは分かるわ。顔の長いキモイ人?のいる国よね」

「……。……、……」

 突如、彼の血の気が引いていく。

笑顔だったのが真顔になり、口元が引きつる。何でかしら?

「それはもしかして、空軍海兵隊の方か、海軍陸戦隊の方では?彼らは確か、少将クラスの司令部要員だった筈ですが…?」

「それって、凄いの?」

「陸軍なら、参謀将校と呼ばれるくらいには」

「だ、大丈夫。本人達の前では言ってはいないから」

 つまり、ここの英将軍の腰巾着クラスって事よね…。

他の皆にも、伝えておかないと大変な事になるわね…。

「あと、私もその顔の長い人(?)なのですれども……」

「へ?どう言う事?」

「この姿は、表面形状を変化させているだけなので。本来の姿は、オレンテアリスと呼ばれる兵器なのですよ…」

「だから、どう言う事よ?」

 なら、お見せ致しましょう。そう言って、彼の姿が一瞬で、あの姿に変わった。

真っ白で、長い顔……、顔の半分が口で目は無い。

太い尻尾が生えていて、人間とは思えないその姿に、驚きと恐怖のあまり固まってしまった。

「…恐ろしいですよね…?」

「…」

 声は、彼のモノだから、恐いと言う感情が薄れて驚きの方が勝って行く。

そんな気がしてきたわ。ただ、恐る恐る顔?に触れると、彼は驚いた様にビクリとした。

「へ?あ、あの?恐いですよね?キモイですよね?」

「アナタだから、大丈夫よ」

 その言葉があまりにも衝撃的だったのか。

その大きな口がポカリと開けられ、固まってしまっている。

それにしても、スベスベしていてしっとりと温かくてプニプニ。

まるで、幼い子供の様な肌をしているのが、羨ま(憎たら)しいわ。

「爪!爪立ててるからっ!」

「あら、失礼したわ」

 突き立ててしまった爪のあとが、顔の先の上の方に5つ出来てしまった。

血は出ていないけれども、赤くなっている。

「本当に、怖くない?」

「ふふ、アナタじゃ恐がらせるのは無理ね。だって、面白いもの」

 おどおどと、確認するように聞く彼は、普段の彼より可愛らしかった。

それに、丁寧な言葉遣いじゃなくて少しばかり嬉しくなってきたわ。

「恐がらせたいなら、襲いかかってみる?ほら、アタシの方は準備万端よ?」

「それ、恐怖に喘ぐと言うよりも、快感に喘ぐって事なのでは?」

「ほら、恐がらせたいのでしょ?」

「話しに乗せられている気がする……」

 そう言いつつも、アタシの身体を抱きしめるって事はそう言う気があるって事でいいのよね?

そう、確認したかったけれども、普段よりも更に表情を読めなくなってしまったため、どんな顔をしているか全く分からなかったのが悔やまれる。

 それに、キスはできないわね…これ。

口から出てきた舌は、幅は私の身体の幅ぐらい、長さは1m以上はあったのだ。

一気に剥かれたあたしの身体を、お腹の方から胸まで一気にベロリとヒト舐めした彼の舌は、まるでシルクの様に柔らかかった。

それでいて、べちゃりと当てられた舌は、敏感なところに引っ掛かる様に動いて、ちゅうちゅうと吸われる感覚もする。と、言うよりもイジメられ過ぎて、切なくなってきてしまった。

 ヒトじゃ、こんな凄い事できないもの…。

吸われて、シゴかれて、揉まれて、摘ままれて……、また、漏らしてしまいそう…いや、漏らしちゃった…。

そんな事は気にしないと言いたげに、今流れ出たところを重点的に舌先で舐められてしまい、その下から更に漏らしてしまった…。

「君、漏らすのが好きなの?」

「られにょせひらひょ…?」

「日本共和国人が、聖水だとか、ありがとう水だとか言っていたけれども、では頂きますか」

「はにゃ…?」

 クルリと筒状に巻かれた舌が私の股の間に宛がわれると、ジュルジュルと言う音を立てて思いっきり吸われた。

中身が全部吸われるのではないかと、思えるほど強力に。

結果、残っていたおしっこを全部と、5回の絶頂時に噴き出してした潤滑液を綺麗に飲み干されてしまった…。

 もう、ぐったりである。

呼吸をするのも辛いのだけれども、彼はゆっくりと最初の時の様にアタシを上に乗せてきた。

力なく、沈み込んで行くけれども大きいのは変わらないので背筋を伸ばさないと、色々と圧迫されてしまう。

「まっれ、ひきゃらひゃひんにゃいにょ」

「それは済まなかったね」

 そう言って引き抜いてくれたのだけれども、少しばかり不満そうね。

「にゃ、舐める事なら、できそう」

「では、お願いしよう」

 全く持って形が違うとは思わなかったので、更に凶悪になった形状に、身の毛もよだつ程だった。

勿論、口に入れる事は出来ない。

私の細腕程もある太さを銜える事なんてできるはず無いわ。

 両手を使って刺激をすると、口の端が更につり上がった。

これ、好きなのかしら?

そう思いながら刺激を与え続けると、耐えきれなくなったソレから見た事もない量が出てきた。

それを頭からかぶってしまい、全身白濁液まみれになってしまった。

「うわぁ…何この量……」

「ヒトの姿だと、姿に応じた量しか出なくてね…。溜まっていて困っていたんだよ。ああ、スッキリしたよ。ありがとう」

「それはもういいわ、お風呂に入るのと片付けを手伝って。これじゃ、仕事にならないし」

「ア、ハイ」

 本当に、昼間でよかったわ。

夕方だったら、今夜の仕事が出来ないところだったもの。






 敵輸送艦の修理が終了し、輸送作戦が再開されるとばかり思っていたが、そうではなくなってしまったようだ。

北アフリカ反攻作戦、「コンパス作戦」が近日中に開始される事になったと、スパイが報告を送ってきた。

 その証拠に、ファスサ側が軍司令部要員と戦車などの戦闘車両を送ってきており、それに合わせる様に英国側も植民地兵を即時招集して望んでいる。

「流石に、ルクス(E-10)ヴォルフ(E-20)では対抗できないと思うわ」

「では、ヤークトヴォルフ(E-25)を送りますか?」

「そうじゃなくて、敵の数が多すぎるのよ。それに、敵主力は長砲身の76.2mm砲を搭載した戦車だと報告がありますわ。転進を考えた方がいい時期かもしれないわね」

「それは無理でしょうミカド相談役。この北アフリカは、同盟国の植民地です。失えば、同盟に亀裂が走るでしょう」

 ヘスはミカドにそう言うと、撤退はあり得ない上に逃げる事も禁止にするべきだと更に続けた。

 ミカドは眉を吊り上げて、それに抗議した。

その上で、無駄な損耗を押さえつつ、多方面作戦もやめるべきだと主張したのであった。

 見ての通り、この2人仲が悪い。特にヘスは、ミカドが相談役に就いてから更に言葉が厳しくなっていった。

「我が、大ドイツと同盟国が負ける…その様な事があり得ると?」

「ファスサ・アメリカーナに既に、ぼろ負けしている同盟国が2つあるじゃない。それに、空軍と海軍もよ?」

 何の事だと言いたげなヘスに、厳しい視線を向け、今にもとびかかりそうな2人。

そこにヒトラーが入室してきて、指示を仰ぐ事になったのだが、同盟国を起たせるために先ずは増援を送る。

だが、余り無理はしない様にすると決まり、ミカドはふくれっ面になりながら、ここは大人しく引き下がる事にしたのであった。

「ところで、ミカド」

「うん?何かしら、アドルフ」

「君の情報網は凄いね。本当に、どこから持ってくるんだい。そんな情報を」

「あら~、乙女の秘密を知りたいの~?」

「そう、はぐらかさないでほしい。これは、真面目な話だよ」

 流石のミカドも真面目な顔になり、少しばかり時間をかけて考えた結果「教える訳にはいかないわ」と返答を返した。

「何故だね?」

「聞いたら、死んでもらうわ。それでも構わないなら…話すわね?」

「それ程、知られたくないとはね…」

「恥ずかしい話、私の情報網なんてちゃちなものよ?ただ、誰も予想もしないところの情報を拾うだけだもの。必要な時に、必要な情報が拾える確率の方が低いの」

 なら、この話はこれで終わりだとヒトラーが宣言したため、これ以上話される事は無かったが、ヘスやヒムラーから色々と更に探られるようになったのは言うまでも無かった。





 輸送作戦はそのまま終了すると思ってはいたが、そこで終わらないのもレキシントンらしいと言えば、そうなのかもしれない。

 司令部から新たに受けた事例では、私は元の艦に戻り、シンガポールに配置転換されると書かれていた。

 短い間であったが、共に戦った仲間に最後の挨拶を済ませ、私はパシフィック・ヴィクトリー号に戻った。

出航自体は、まだかかるためのんびりと準備を進めていると、司令部から出頭命令が下された。

 何事かと出頭すると、彼とその上司であるグロス中佐が向い合せで対峙している。

本当に、何事だこの展開は!

「お忙しいのに済まないね、ホルテ大佐」

「いいえ。しかし、この状況はどう言う事なのでしょうか?」

「それは、私も聞きたいところでね。しかし、彼の言う事が分かりにくいので、翻訳して貰えるだろうか?」

「はい?」

「まぁ、聞けばわかるよ…」

 今までに見た事のない様な、怒りの形相を浮かべた彼はこう主張していた。

「私は死ぬわけにはいかないのです」至ってシンプルだ。

しかし、理解出来ないとはどういう事なのか。

そう質問すると、グロス中佐はオレンテアリスがこの様な事を言うのはおかしいと言った。

工業製品であるため、殆ど感情を表に出す筈のない存在が、生死感がほぼない筈の存在が死ぬわけにはいかないと言いだして、大変混乱しているのだと言う。

「そう言えば、以前自分にはタマシイ?があると言っていたな」

「ええ、そうです。我々を管理する制御機人クロノ・シュタイナー本人から、そう言われましたので」

 シュタイナーなる名を持つ機人に心当たりがあったグロス中佐は、受話器を取ると本国に電話を始めた。

すぐには返答は無いだろうと思っていたが、少女の様な声が受話器から聞こえ、グロス中佐が部屋の中に聞こえる様に拡声ボタンを押す。

『あらあら、また会ったわね』

「どうも、お久し振りであります、クロノ・シュタイナー」

『ええ、貴方を再装填してから500年は経ったかしら?また、色々な経験を積んだのね。そして、ヒトに近付いたって事かしら?』

「それは分かり兼ねます」

『だって、大事なヒトを護りたいから死にたくないのでしょ?そうでなければ、その様な事言うはず無いもの』

「やはり、貴女には敵いません。そうです、今の私には『愛する』方がおります。彼女を護りたいのです。例え、それが力不足であったとしても…」

 電話の向こうの相手は、予想通りだと言いたげに、不気味に笑い声をあげている。

それを聞いたグロス中佐が不愉快そうな顔をし、私も顔をしかめた。

完全に、馬鹿にしているだろうこの女。

『なら、方法はあるわよ?』

「……」

『ただ、覚悟は必要だけれどものね…?』

「大方予想はできますが、宜しいのでしょうか?その様な事をしてしまって…」

『今の貴方をそのままにしておいて、日本共和国人に見つかると相当マズイ事になるでしょうね。そうならないためにも、貴方は機体換装させます』

 グロス中佐は意外過ぎる言葉だったのか、驚愕に固まっている。

「機体換装とは?」

『あら、他にもいらっしゃったのね。紹介も無く失礼しましたね。私はクロノ・シュタイナー、役職はいくつか持っておりますが、今回はオレンテアリス級の管理者の役割を与えられておりますわ』

「ああ、UK所属ビーケ・ホルテ海軍大佐だ」

『それで、機体換装の事でしたね。通常、機体換装が出来るのは、ヒトからサイボーグ化したヒトだけなのです。完全に機械であるアンドロイドでは不可能なのよ。でも、彼の様に稀にその換装可能条件をクリアしてしまう存在もあるの。それが先程の「魂の有無」なのですわ。彼は、とあることが切っ掛けで魂を得ましたの。ですので、この条件に合致するのですわ』

「なら、すぐにそれはできるのか?」

『すぐにはできませんわ。なので、次に投入される作戦で生き残れば換装すると約束しましょう。良いですね、サダメリア・グロス1等中佐?』

 グロス中佐が苦虫を噛み潰したような顔で了承して電話が切れた。

次に開かれたグロス中佐の目は、今まで以上に真剣な目つきをしていた。

「分かっていると思うが、楽な仕事ではないと心に刻みなさい」

「勿論です。ここで壊れれば、彼女に2度と会えませんから…」

「当たり前だ。オレンテアリスの願いを誰が聞き届けると思っているのか?今回は特別だ。……、ただし投入作戦は変わらない。君には予定通り輸送艦隊に兵員を搭載してカサブランカでの枢軸軍の引きつけ部隊に参加して貰う。この際、指揮権も君にやろう。それでいいな?」

「はい。ありがたく、拝命させていただきます」

 彼は自信に満ち溢れた、綺麗な敬礼をするとグロス中佐の部屋を後にした。

 残された私は、自己嫌悪に陥っているグロス中佐を宥めつつ、彼の願いがかなう事をただただ願う事しかできないのであった。


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