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お前らいい加減にしろっ(A)  作者: 加賀函館
第1章 何が起こるんです?
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005話

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羽生邦説

 俺が軍に入った理由は特になかった。平時ならかなりの安定職であるし、両親に仕送りできる額も貰える。いいじゃないか、軍人。と、思って海軍大学の門戸を叩くが、それが失敗だったかもしれない。俺の様な適当人間が、こう言うところに来るのは間違っていた。が、やめることも叶わず中の中ぐらい。つまり平凡で、卒業はできた。

 海軍大学に入学できた時点で平凡じゃないだって?物は言い方だが、エリート達の中じゃ、叩き上げより劣ると言われる程度だ。好きに解釈してくれればいいさ。

 と、そんなこまけーこたいいんだよ。最大の問題は、一介の少佐が大艦隊の司令官に任命された事だろう?見たことも無いおっさんに、煙草を吸っていたら突然「君、今度新設される空母部隊の司令官に任命してあげるよ」だぞ?

 ただの酔っ払いの戯言だと思ったのに、数日後に呼び出されて任命されたのだ。山本の親父が白目をむいていたのは面白かったが…、どうしてこうなった?

「何を、どうしてその様な、事を決定なさったのですか」

「何となくさ」

 おっさんと山本の親父の構図を見ると、息子のしでかした事を頭を抱えて悩む父親と言ったところだろう。見ればわかるが、おっさんの見た目は若い。俺と同年代なのかもしれん。ただし、見た目は……だ。雰囲気は、圧倒的におっさんの方が年上然としている。これが、日本共和国人って奴なのか?

「小野田幕僚、それでは説明不足です」

「では、何と言えばいいのだ?」

 無表情だった秘書官が、含み笑いを浮かべて意地悪くこう言うのだ。

「ただの嫌がらせです」

「なっ」

「我が軍の主力は巡洋艦なのですから、巡洋艦だけ整備すればよいのです。それを空母も戦艦もと申されたのです。当然、小野田幕僚の裁量を全く無視する事は出来ないとは思われませんか?」

 秘書官は、言葉を続けた。今回の空母建造は上位者が決めた事だが、元々は山本の親父が言い出さなければ、話題にすらならなかった筈なのだと。巡洋艦の配備数を減らすのだ。当然、山本の親父にとって、海軍にとって不愉快極まりない決定も必要だろう?と。

「山本さんの好き勝手にはさせませんよ?」

「では」

「はい」

「彼の補佐官は任命してもよろしいでしょうか」

 おっさんは、構わないと言ったが、秘書官が条件を付けてきた。

「条件?どうするんだ?」

「ああ、黒島統合大佐を任官させようかと」

「は?な、に!?」

「お目付役は必須です」

「いやややや。同盟国とは言え、他国の軍人をそんな勝手に……」

「彼女の予定はあいている様です。それに、もう話は通してありますので。御心配には及びませんよ?」

「私は初耳なんですが。それは?」

「以前、同じような事をしようとした方が、文句を言われるのでしょうか?」

「ぐっ…、サーセン」

 おっさんは折れて、執務机にへたり込んでしまった。話の内容の詳細は分からんが、日本共和国以外の国の軍人を入れようと言うのだろうか。多少は、仕方がないのかもしれんな。俺はそう思うが、山本の親父は顔をしかめていた。恐らく、自分の意図を理解できる人間を配置して、俺をお飾りに仕立て上げるつもりだったのだろう。俺としても、それは大変ありがたい話だったが、秘書官の条件はそれを良しとしないとも取れた。

「ほかはお好きに為さって頂いて結構ですので」

「ちょっと待ってほしいのですがね」

「どうか致しましたか、羽生少佐」

 俺は、確認を含めた意見を述べる事にした。何かおかしいと、思っていたのだ。山本の親父は全く気付いていない様なので、これは重要だ。

「その方は、ただの参謀なのでしょうか」

「はい。そうです。彼女は、我が日本共和国の情勢や軍事力にも詳しいですし、様々な作戦についても精通しております」

「では、私が着任する艦隊の規模と編成はどのようになっているのでしょうか」

「……」

 何故気付いた。一瞬で、そう思っている様な顔を浮かべた秘書官と、さも当然だよなと言う様な顔を浮かべるおっさん。

「空母部隊ですが、空母はありません」

「「はい?」」

 山本の親父と声が重なった。空母が…無い?確か、新造の大鳳型が配備されると、山本の親父の取り巻きは話していた気がするが……。おっさん曰く、大鳳型は第一、第二、第参、第五の各航空戦隊に2隻ずつ配備され、鳳翔や龍驤は内地で搭乗員育成のために使われ、赤城や加賀は改装後に、第五艦隊に編入される予定だと言う。つまり、新設される第十艦隊に空母が無いのだ。

「ま、造ってもいいのよ?」

「一からの新造は却下させていただきますが、既製の船体を利用するのはよい様なので、黒島統合大佐と相談の上で要望書を提出していただきたいのです」

 艦隊が出来てからでなければ、空母の配備は無いと言う事だろう。予備知識が無ければ、目くじらを立てて反対しただろうが、大型空母を数日で就役させる様な技術を持っているのだ。文句の言いようも無い。

「艦隊司令となる君の裁量が試されるな」

「水雷屋の私にその様な無茶を…」

「黒島大佐が居れば問題ないだろう。搭載する航空機に関しても、要望は聞き届ける。が、あの人の事だから、飛燕と流星になるのだろうがな…。兎も角、精進してくれや。はっはっは」

 おっさん…。あんた、何も考えて無いだろう。秘書官がこめかみを押さえて頭を横に振っているぞ!

 非常に納得はできなかったが、話はここまでだと部屋を追い出された山本の親父と俺は、顔を見合わせてため息をつく事となった。


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