046話
報告書…ってことにしてくだしあ
敵性新型戦車に関する報告。そう名を打たれた報告書に目を通す。昨今のギリシア攻略戦で現れた、謎の戦車。いや、国旗章は描かれていたため、それがサラメアに所属している事は、すぐに判明した。
しかし、そこが問題でもあった。当時、サラメアは中立国であり、介入の予兆さえなかった。何がどうして、参戦する事になったのかは不明であった。
当然ながら、外交ルートで抗議と非難をしたため、サラメアは晴れて英国側に付いたのだが、このサラメアを調べる事が、物凄く難しいと言う事実に突き当たってしまった。
全く知られていないことだったが、サラメアはユダヤ人の統治する国であった。その上、人口も少ない。そのため、スパイを送り込む事が相当難かった。
本来ならば、英国によって支援される側である筈の弱小国家だが、現状、サラメアは英国を支援する側に就いており、外部から入る人間の数は限られていた。
戦力の集結に、時間がかかっている英国を横目に、イタリアが艦隊をギリシアに派遣しようとして、停泊地であるタラント軍港を空襲。後に、退避中の艦隊を軍港外で撃沈。イタリア海軍主力は、事実上壊滅したと言っていい。
ムッソリーニが、衝撃のあまり倒れたため、今はピエトロ・バドリオ予備役が代理を務めていた。それでも、陸上の戦闘に大きな影響は無く、ドイツの支援を持ってギリシアを降伏させたのであった。
流石に、この時は演説に立っていたが、市街地戦の顛末を聞くと、また倒れてしまった。
ムッソリーニが倒れた原因である、「アテネ市街地戦」は、議事堂まであと数百mと言うところまでは順調に推移していた。そこに現れたたった1両の「黒い悪魔」によって、前進どころか後退する事になってしまったのだ。
前兆自体は、実は有った事が後に判明している。それは、前日の夜の事で、アテネの港に大型の潜水艦が入港したと、斥候から報告が上がっていた。
しかし、要人の脱出を行うためだろうと、判断して明朝に空軍へ攻撃要請を出しただけであった。なお、この航空攻撃は、全く損害を与えられずに失敗している。そのため、2度目の出撃を準備中していたが、黒い悪魔の出現により取りやめられていた。
この潜水艦こそ、黒い悪魔を輸送してきた大本であり、大問題を引き起こした張本人でもあった。大問題に関しては、後に話すとして。先ずは、黒い悪魔に関してだ。
最初に遭遇した砲兵部隊は、E-25自走砲を4両装備していたが、そのどれもが全損している。次に、砲兵部隊の要請で駆け付けたE-10軽戦車を装備した斥候部隊が到着したが、12両全て全損した。
しかし、E-25は4両が主砲の「榴弾」によって破壊されたが、E-10は砲塔上部の機関砲によって破壊されたと言う違いがあった。E-10の前面装甲は50mmの傾斜装甲だった、そのため57mmクラスの対戦車砲に耐えられる装甲厚だったが、その正面装甲を20mm機関砲弾で撃ち抜かれていたのだ。
これを見たとある技官が、「日本共和国の重戦車の機関砲砲塔とほぼ同じ性能を有する」と評価し、大いに話題となった。自国の技術なのか、日本共和国からの提供なのかは分からなかったが、十分注目すべきであろう。
E-25を破壊したのは主砲だったが、徹甲弾では無く榴弾での攻撃で破壊されていた。徹甲弾は、装甲貫通能力を持つ砲弾の事だが、榴弾でも装甲を破壊できなくもない。そのためには、射撃する時の初速を増すか、大質量によって叩き割るかの2種類が選択肢としてある。
しかし、今回は、この2種類では無かった。榴弾が爆発した時に出た爆炎によって、装甲板を溶かして破壊していたのだ。一瞬で、鉄の塊である装甲板を融解させる温度と、それを発生させる技術は興味深いものであった。だが、通常ならば土嚢や予備履帯を表面にかぶせれば、熱をある程度遮断できるため、有効とされるが、この榴弾の真の恐ろしさは衝撃波で、車内にあるネジやリベットなどを跳ね飛ばす事により、戦闘不能とする事ができる点であった。
試作駆逐戦車として、E-25ヤークトヴォルフが12両送られていたが、その内3両がこの衝撃波によって瞬時に戦闘不能にされてしまっていた。
あまりにも一挙に被害が出たため、混乱を収拾するために、市街地からいったん撤退することが決定されたが、最終的にその日だけで、E-10を68両、E-20を22両、E-25自走砲を10両、E-25駆逐戦車を3両破壊される事となった。
次の日には、航空機による攻撃。つまり、戦車が最も苦手とする空からの攻撃で、圧倒しようとしたが、遠距離は主砲による対空砲火。近距離は、機関砲による防御砲火により、Ju-87を11機、Bf-110を6機も失う大失態となってしまった。
そのため、陸空両軍が同時に攻撃を行う事態に発展。黒い悪魔が撤退するまでの間に、戦車367両、装甲車58両、輸送車など412両、榴弾砲/対空砲48門、自走砲58両、魚雷艇3艇、潜水艦1隻、輸送艦3隻、航空機44機が破壊され、枢軸軍全体で2311名が戦死してしまった。
最終的に、下水道を利用した落とし穴によって、主砲砲身を変形させた事によって、撤退に追い込んだが、被害が想定されてよいものではあまりにも無かった。
だが、話しはここで終わらなかった。
10日間ものあいだ、暴れまわったため、回収しきれなかった兵器が多数、市街地に放置されていたのだが、比較的損傷の少ないモノが、鹵獲された可能性があると情報部が報告してきた。
証拠として、戦闘に参加した数と終了後の生き残りと撃破数を足しても、数が合わないのだ。
当然ながら、犯人は1つしか思い浮かばない。黒い悪魔とそれを輸送してきた潜水艦である。
この潜水艦は、黒い悪魔が損傷すると、支援砲撃を行い、黒い悪魔の撤退を支援している。また、この砲撃が、凄まじいまでに精密であり、威力は30cm砲クラスと大口径であったため、路地に着弾すれば、たちまち広範囲に被害をもたらしたのであった。
しかし、それも50回で終了し、敵潜水艦は夕刻の闇の中へ消えて行った。
目的は達成されたが、そこに到るまでに被害は、甚大と言っていい。人員の消耗もそうだが、車両の被害は看過できない数になってしまっていた。そのため、本来ならば北アフリカへの侵攻を計画するところだが、軍備の再準備が必要になってしまったのであった。
この報告を聞いたヒトラーは、軍備の再準備を命令するとともに、今は防衛に徹するべきだとも言った。取りあえずのところ、欧州から連合国勢力を駆逐し、残る敵はソ連と海を隔てた英国と連合国となっていた。
そして、すぐに行動を起こしそうなソ連国境に、今残っている戦力を配置して、奇襲攻撃を受けない様にする。準備が整い次第、ソ連に対して侵攻する。
そう、基本的な事が決まり、軍人達は慌ただしく会議室を出て行った。だが、ヒトラーの隣に立つ男、ルドルフ・ヘスは戦力の整っていない今だからこそ、英国本土へ攻撃するべきだと主張する。
しかし、その攻撃に使う航空機は、ギリシアに張り付けておかねばならず、有効打を打ちだすためには、航続距離の短いJu-87や、複葉機のHs-126を多数投入する他無く、それならば防衛している間に、新型航空機の開発にリソースを割いた方がいいと言うヒトラーの判断だった。
実際、タラント空襲で使用された爆撃機は、高速で飛行し、マルタ島に一度着陸した後、キプロス島まで飛行して帰島している。
型式及び名称は不明だが、英国に造れるならばドイツにだって造れるだろう。それが、ヒトラーの見解であり、決定だった。
その決定に不満を持ちながら、ヘスは反対しなかった。と言うよりも、軍部が諸手を挙げて賛成したため、誰も反対できなかったのだ。
連戦続きで将兵も、疲弊しているとして、一時小康状態にできないものかと軍部が画策したのも要因ではあった。
「そこでだ。情報部には、調べて欲しい事があるのだが。いいかね?」
ヒトラーの懸念は、米国の欧州参戦だった。そして、日本の現状も。米国が、欧州に本腰を入れてくるなら、先ず日本をどうにかしなければならない。肝心の日本と日本共和国が、以前と変わらない状況なら、まだ米国の欧州参戦は無い。
逆に、ほぼ崩壊状態のFABDA包囲網によって、日本の状況が悪い様ならば、警戒しなければならなかった。一気に、日本を攻め滅ぼして、踵を返して欧州になだれ込んでくるだろう。それだけは、あってはならない事である。
「その事でご報告があります」
ヒムラー長官は、大西洋で英国の活動が活発になり、特に地中海の軍備状況を探る動きが活発化してきていると報告してきた。
「つまり、イギリスが地中海への戦力増強に動こうとしている。そう言う事かね」
「そうであると、推測できます。また、動いているのはイギリスだけではありません。この度、サラメアと共に、我らが同盟国側に宣戦を布告した、ファスサ・アメリカーナも活動を活発化させている様です」
レーダー元帥が、ヒムラーを遮る様にそう発言した。それに、Uボートからの報告で増員される艦船数は、最低でも200隻を超えると報告されており、これも合わせて報告した。
これは、確実に揚陸作戦の前兆である。主な戦力が、欧州にことを探り当て、旧式戦力がまばらにしか配置されていない北アフリカへ、上陸するつもりではないかと、大慌てになった。
「では、レーダー元帥。本当に、揚陸部隊なのかを調べて欲しい。そして、目的地もだ必要ならば、他の部署も使って構わない。ヘス、仲介役を頼む」
異常な発言と言えたが、情報をほぼ得られないファスサを調べるためには、1つの部署ではどうしようもないのも事実だった。
その調整は後でするとして、最後の報告をシュペーアがした。軍備の増強の一環で、戦車開発を全てEシリーズに一本化した。そのため、既に新型のEシリーズの設計が行われていたのだ。
「まず、戦車に関してですが……。これは、ソ連の新型戦車に関する情報を受け、急遽設計されたE-35レオパルトです。車体は計画中のE-50からの流用であり、エンジンと砲塔もE-20からの流用となります」
このソ連の新型戦車の情報は、国境警備にあたっていた部隊からの目撃情報と、亡命希望者から提示された資料から判明したものだった。
それによると、新型戦車T-34/76は、T-35重戦車の後続として設計されたSMK試作多砲塔戦車の車体を一回り小さくした車体に、中型砲塔を1つだけ搭載した戦車であった。前面装甲85mmと重厚で、76mm戦車砲は野戦砲を改造した長砲身タイプを装備していた。
あからさまに、日本共和国に対抗するために開発された事がうかがえる。これが、急ピッチで量産されていると言う情報もあり、E-50完成までのつなぎとして、E-35が開発された。
既に、戦端を開いているフィンランドでは、その数が日に日に増してきている事から、戦車の増援要請が出ていた。しかし、すぐに対抗できそうな戦車を送れそうになかったため、E-10の車体を利用した対戦車自走砲マルダーⅡを多数送り込んでいた。ただ、それが功を奏したのか、フィンランド側の運用とマッチしたのか、戦車などの車両の撃破数はウナギ登りで増えていた。
その代わりに、新型戦車開発の為に、T-34の残骸を調べさせてもらってもいた。これにより、E-50の前面装甲は110mmの装甲を傾斜装備し、側面も85mm装甲板を傾斜装備する事が決定した。
ただし、この車体を高速で動かすためのエンジンの設計に手間取っており、完成はまだかかりそうであった。取りあえずとして、造られたE-35の機動性はそれなりに悪いため、エンジンの強化が急務にもなっていた。
本来ならば、この様な中途半端な戦車を送り出す事に、生真面目なドイツ人は嫌がるが、そうも言っていられないのが現状であるが故に、命令としてこだわり過ぎる事を抑制するようにとされた。
「次に航空機ですが、フォッケウルフ社のFw190Aの量産を承認しました。また、設計者のタンク技師が、戦闘爆撃機型の設計を行っていると報告がありました。後日、資料を持ってまいりましょう」
Fw190はドイツ軍機としては珍しく空冷星型エンジンを搭載した戦闘機だった。当初、Bf-109の開発を合理化するために、他の航空機製造会社の技師をメッサーシュミット社に向かわせたが、肝心のメッサーシュミット博士が難物に過ぎて、空中分解を引き起こしてしまった。
そこで、コンペを行い最も有力な戦闘機を開発した企業に技師を集中させる事にしたのであった。その結果が、このFw190Aであった。本来ならば、液冷エンジンが搭載される筈だったが、メッサーシュミット社がBf-109の製造に影響が出るとして拒否。
それなら、空冷星型でも十分な戦闘機を作ってやると息巻いた、タンク博士とフォークト博士の共同作であった。工程数はほぼ一緒で、武装は6割増、航続距離は50%増、速度も10km/h程度低い程度で済んでいた。そのため、Bf-109の製造は1941年9月で終了し、Fw190の製造に邁進する代わりに、メッサーシュミット社には新型エンジンであるジェットエンジンを使った新型戦闘機の開発が命じられていた。
勿論、単発機だけで戦争はできない。双発機の開発も急務であり、ジェットエンジンの開発に全力を注ぐ事となったユンカース社を除いた、ドルニエ社とハインケル社とブローム・ウント・フォス社が共闘する事となった。
「最後に、海軍の戦力に関してです。とは言え、Uボートの量産体制は維持する方針は、崩しません。また、水上艦による通商破壊は、非効率であるため、水上艦の殆どを地中海方面に配置する計画が上がっております。そのため、建造中の空母と巡洋艦の工事を停止し、解体するよう命令しました」
これにより、グラーフ・ツェッペリン(予定)と、デアフリンガー(予定)、リュッツオウ(予定)、ザイドリッツ(予定)は廃艦になる事が決定した。とは言え、この4隻はつい先日建造が始まったばかりであり、それ程工事が進んでいなかったため、大した苦労も無く解体は終了するであろうが。
とにかく、ファスサの動きを詳しく調べその対応と、ソ連に対する攻勢準備が、優先的に取られる事となったのであった。
ドイツ版SHINSIがタッグを組んだ結果がこれだよ……。
この後、レーダーとヒムラーは、無茶苦茶ヘスに刷り込みをされて、オカルティッカーになります。




