039話
※後半大虐殺注意
ナスカ運河に入って半日。ようやく、目の前に扉が見えてきた。ガゴンという音と共に上下に分かれて開いていき、格納庫へ艦列は進入する。
そこは、格納庫と言うよりも船の墓場だった。
植物が生え、蔦が巻き、自然に還る。そんなような光景が、ずっと向こうまで続いていた。船の墓場、そう言うと中々恐ろしい物を想像するが、ここはそう言う意味では無く、良い意味で捉えるべき場所だった。
「な、んだ、ここは!」
「どうかしましたか?」
鹿島以下、日本共和国兵は驚きうろたえている。
「いくらなんでも、放置し過ぎではないか!ここに、亜空間格納庫に植物が生えるなんて、あり得ん!」
「亜空間格納庫って…、確か別次元に空間を作って、そこを格納庫にする技術ですよね?そのため、劣化や成長は起こらないって……」
「ああ、その通りだ。そして、あっちでも呆れているだろうな……」
海防戦艦カルフォルニアは、レキシントン本国から派遣されてきた艦なので、この惨状は本国に報告される事は間違い無いだろうと。
しかし、この異常状態が起こった原因はあるので、その原因が解消されない限り、この状態は続くだろうと予測された。
新緑の清々しいこの光景も、自然の摂理としては場違いであった。
「もし、ですが。この状態を続けた場合は、どうなるのでしょうか?」
「詳しくは、技官に聞かねば分からんが、格納庫自体が劣化して崩壊するかもしれない。そうなれば、この星自体にも深刻なダメージを与えるだろう。最悪、星ごと滅ぶだろうな…」
「な…………っ!」
「とは言え、まだまだ持つだろう。システムが壊れたようならば、警報ぐらいは鳴る。そうなれば、進入自体できんさ」
こうなった原因は、簡単に言えばファスサ側の管理不十分であった。もっと言えば、管理できる技術を持った人間がいないのが原因だろうと。だからと言って、できる人間がいても、この状態は別の要因があるだろうと予測されると、鹿島は言った。
管理ができないとはいえ、この様な状況になるのは色々とおかしい。
「では、日本共和国も同じ事を起こした事があると?」
「流石に無い。私だって、こんなの初めて見たし、初めて聞いたからな…」
「本当はあるのでは?超兵器が……」
「管理できていないから、把握していないだけで、と言いたいのか?それは、無い。超兵器は特殊な波動を放出する。所謂、「超兵器ノイズ」だ。周囲に影響を及ぼしているならば、超兵器ノイズ警報が鳴っている筈だ。それが無い以上、超兵器はいないと言う事だ。まぁ、その考えは無かったから、あちらさんにも伝えておこう。ありがとうな」
結果だけ言うと、羽生が正解である。しかし、その事を知るのは、全てが終わった後であった……。
ナスカ運河を抜けティファナに到着し、補給を受けた。補給の後、3隻は一気に中部太平洋の大環礁トラック諸島まで無寄港で向かう。その前にと、羽生は今まで世話になったグロス中佐にお礼の言葉を言いに、上陸していた。
カルフォルニアに乗船して、本来の勤務地に戻ってきたグロス中佐だったが、保存帝国人の相手で手一杯の様だった。
くだんの件で、鎮守府に乗り込もうとしている保存帝国人を宥めている。そんな中、わざわざ時間を作って面会してくれた事を、羽生は申し訳ないと思ってしまった。
「とんでもない。私も、貴官には世話になったので、別れの言葉ぐらいは、言わなければならないと思ってたのだ。それに、本土の方達は、今頃鎮守府だろうから……な」
「止められなかったのですか?」
「ああ、トノマツ大佐からの命令では……、どうしようもなかったのでな。ああ、一応まだ、大佐の指揮下にいる事になっていて、休暇後に本来の部署に戻る事になっているのだが……。戻れるかは分からん」
軍をグビになる事は無いだろうと言うが、この先どうなるかは分からないと言う。恐らく、ファスサ上層部の刷新が図られるのは確実で、それを間接的に助力したグロス中佐は、左遷される可能性があるのだとか。
理不尽だが、ファスサ側からすれば、保存帝国側に付いたグロス中佐は裏切り者と言う事になる。肝心のトノマツ大佐も、助けてくれるかは分からないので、半分以上諦めていると言う。
そこに、保存帝国兵がやってきた。
「君が、サダメリア・グロス2等海軍中佐だね」
「はい。そうであります」
「いい返事だ。私は、歴親沌保存帝国1等海軍元帥のクロノ・シュナイターと言う。空軍のイグジ・シャガレニフローデン・朝烏1等空軍元帥から、君の面倒を見て欲しいと言われてね。ついでだが、辞令書を持って来たのだ」
「「!?!?!?!?!?!??!!!!」」
「何を驚いているのだ?まさか、見捨てられるとでも?トノマツ大佐の事だ、折角使える人間なのだ。そんな人員を見つけて、手放すと思っているのか?残念だがグロス中佐、君は厄介極まりない男に掴まってしまったと言う事さ。諦めろ」
シュナイター元帥は、カルフォルニアに乗船して、お忍びで査察に来ていたそうだ。結果がこれである。
「え、えーと、少々宜しいでしょうか……」
「ん?いいが、何か聞きたい事でも?」
「は、はい。その、トノマツ大佐はそれ程上層部の方なのでしょうか……。何故、元帥の位を預かる方が私の様な下っ端を迎えに来るのか……」
「なんだ、聞いていないのか?トノマツ大佐は、朝烏元帥直属の参謀の1人だ。上司である朝烏元帥が、辞令書をしたためて、何がおかしいのだ?つまり、そう言う事だな」
あまりの出来事に、動転してぶっ倒れたグロス中佐。シュナイター元帥は思わず大笑いしていたが、こちらはそれどころでは無かった。グロス中佐が、アブクを吹き始めたため、急いで病院に担ぎ込んだ。そのため、出航までに別れを伝えられなかったのであった……。
「グロス中佐も災難続きだな。ま、何にせよ出世間違いなしって事になるな」
苦虫を噛み潰したような顔をして、羽生の報告を聞いた鹿島はそう呻いた。その隣では、山本海上幕僚長も、同じような表情をしていた。
「しかし、保存帝国に18人しかいない元帥。その内の、元帥2人に目を付けられてしまうとは……。運がいいと言えばいいのか…」
山本海上幕僚長の隣で難しい顔で話しを聞いていた宇垣は、18人は多い方ではないのかと聞き返した。しかし、保存帝国の総兵員数からすれば、少ない。大将だけで1億人もいる様な国なので、元帥の数は本当に少ない。少ない……よね?
「と、ところで私の報告を聞きたいだけでは無いのですよね?」
「おお、そうそう。羽生君、大変な事が起こってしまったんだよ」
「大変…ですか?」
「そう、大変なことだ」
つい、考えられてしまうのは、足柄と間宮がドイツで事件を起こしたのではないかと言う疑念だった。足柄の艦長は、間宮側が暴走したと言っていた。しかし、言い方がふざけているが、顔は真剣そのものだった。
「ブラウン提督が、口を滑らせてしまったらしくてね……。特別観艦式の事が、アメリカ側に漏れてしまったのだ」
「口止めはしなかったのですか?」
「あー、すっかり忘れていてねー。やっちゃった☆」
キャピとポーズを取るが、おっさんのかわいこぶるポーズは、キモいだけであった。
「もう、大々的に宣伝するしか方法は無いのでは?」
「それも考えたんだが、摩耶にダメだしされてね。何とか誤魔化すしかないんだよ。これがさー」
先日、ティファナに寄港した直後に手に入れたアメリカの新聞で、大々的に報道されていた事を知り、小野田幕僚に速攻で相談したそうだが、知らず存ぜぬを突き通せの一言で終わってしまったと言う。と、言うよりも、幕僚に鎧袖一触される幕僚長って……。
「では、山本幕僚長。トラックへは寄港せず、そのまま横須賀に直行する。そう言う事ですな」
「それもダメだと摩耶に釘を刺されたんだなー、これが。直帰したら疑わしいが、完全に黒だって思われちゃうからねー。宇垣君、君に妙案とかないかなー?」
宇垣は、山本海上幕僚長の態度にムッと来たが、抑えて考えた。羽生も、自分に振られそうだったため、その返答を考える。
「では、事実を申せば宜しいのではないでしょうか」
「事実って…、宇垣君。それは……」
「事実。つまり、我々が、我々の都合にそった事実だけを、伝えるのです。それこそ、海外の報道関係者を国内に入れてでも」
「…ほう。興味深いねぇ」
先程のふざけた様な眼では無く、獲物を見付けた肉食獣の眼で、宇垣を見直す山本海上幕僚長。黄金鉄仮面の異名を持つ宇垣が、顔を引きつらせている。
「今、日本各地に報道陣を入れたとしても、軍備がそこにある訳ではありません。また、国土の発展具合を見れば、軍備に予算を注ぎ込んでいない事は、一目瞭然でしょう」
「まぁ、摩耶も同じ事を言っていたしねー。宇垣君もそう思うなら、それでいこうかー」
ただし、鹿島から即座にツッコミがはいった。せめて、もう1人ぐらい幕僚の話を聞けと。
「ああ、そうだな。ウチの新玉んズ首領にでも聞いてみるか」
「それは、それで、結構問題になりはしないのか?自衛隊の軍人だろうに…。せめて、かなこにしろよ…」
山本海上幕僚長が、場違いな相手に相談しようとしていたので、鹿島は山本海上少将に相談するように誘導した。
緊急会議の後、羽生は宇垣に呼び出されていた。
「羽生少将、君にこれを」
そう言って、メモを渡された。そのメモには、山本海幕部長の言葉が記されていた。しかし、凄まじいまでに雲行きの怪しい内容に、羽生は宇垣の方を睨んだ。
「貴官が、今後どの様な選択をするかは分からんが、気をつける事だ」
「……。これでは、選択の余地は無いのではありませんか?平和的交渉を装った、恐喝だ。違いますか?」
「貴官がどう思おうが、こちらとしてはどうでもいい。邪魔さえしなければ、な」
「いいでしょう。私は、貴方がたがやる事には不干渉です。ですが、忠告しては置きましょう」
「やめる気は、我々には無いが?」
「そうではありません。もし、彼らを殺すのであれば、頭を確実に破壊する事です。そうでなければ、終わりですよ?」
「……、忠告感謝する」
メモを宇垣に返した羽生は、姿が見えなくなるまで宇垣の方を睨み続けた。そして、胸ポケットに仕舞っていた懐中時計を取り出すと、それを手の平に置いた。
その懐中時計の形が崩れ、人の姿に変わった。それは、羽生の護衛に付けられていた戦闘機人だったのだ。手の平サイズになった戦闘機人は、その上であぐらをかき、羽生の方を見た。
「既に、連絡はさせていただきました」
「……。すまないな」
「いいえ、それよりもこの様な事になってしまい。申し訳ありません」
デフォルメされた姿だが、申し訳なさそうな顔をしている。とは言え、羽生も少しは考えていた。そして、悪い事は起こってしまった。
宇垣が渡したメモには、家族の命が惜しければ邪魔立てしないようにと書かれていた。日本共和国側も、宇垣がいなくなった事に、少しばかり気が抜けていたのかもしれない。
呉で海軍が、クーデター未遂を起こしたと知るのは、トラックに到着してからだった。
日本共和国軍協力の元、クーデターに参加した将兵全員を、逮捕したと記事には書いてあった。しかし実際は、呉の街は血の海と化してしまったのであった……。
呉周辺には、日本共和国軍は配置されていなかった。いるとしても、佐世保であり、瀬戸内海に面した呉は外敵が直接攻め込む可能性が、極限まで低かったためであった。
また、日本共和国の航空基地は北海道にあり、海自軍基地は横須賀にあった。陸自軍も沖縄に配備されており、呉周辺は正に空白地帯と言っても過言では無かった。
そして、極秘裏に戦力が集まる様に細工をして、海軍陸戦隊と第1、第2艦隊の合同演習と、基地航空隊と航空艦隊の合同演習を呉で行う手筈を整えたのであった。
このクーデターの指揮を執った司令官は、左遷されて呉鎮守府所属となっていた陸軍の軍人だった。そう、宇垣も山本も全く関わりない人物だったのだ。事を起こすと判明して、2人が秘密裏に助力しただけであった。
日本共和国側も、要注意人物が海外出張しているとなって、人員の入れ替えや休暇を取らせるなど、明らかにだらけてしまったため、今回の事を見逃してしまったのであった。
緊急の報せを受け、先に動いたのは天野将軍だったが、それを小野田幕僚が止めたのだった。それに抗議したが、その後ろから現れた天野将軍よりも「上位」の軍人にも止められてしまい、沈黙するしか無かった。
「し、神童陸上幕僚長!?」
「済まぬな、天野幕僚。しかし、引き締めが必要故なのだ。分かってほしい」
「引き締め…ですか……?」
そうであると頷き、今回の制圧を憲兵隊に依頼した事を天野将軍に話した。既に、呉市民の避難は完了しており、残っているのはクーデター軍とそれに賛同する市民グループのみだと言う。
「ま、まさか……。そんな…」
「その通りだよ。あちらにとっても、都合よくクーデターが起こったものだと言えるがね」
日本共和国は、最強の陸上戦力を多数投入して、1日でカタを付けるつもりでいた。そのため、市民とその財産を時空転送艦瑞穂にて強制転送し、呉市街にはイヌネコさえも残っていない状態にしたのであった。
「それで、宜しいのですか!?警告も無く、殲滅するだけなど……」
「警告は既にしている。それでも、意志の固い者はあそこにいる。それに、意志が弱ければ、強制転送は容易だ。それでも、2万近く残っているのだがな…」
天野将軍はいたたまれなくなり、敬礼をすると話の途中だが退室した。これ以上被害を出さないために、陸軍の方を見に行かなければならなかったのだ。
しかし、陸軍は全く動かなかった。海軍から参加する様に要請があったが、突っぱねたのであった。例え、腰ぬけと罵られようとも耐えて…。
戦闘は突如として始まった。市街地に陣取っていた海軍陸戦隊と、日本共和国憲兵隊が正面衝突して、一瞬で海軍陸戦隊が「溶けた」のであった。
つまり、100あった兵力が0にまで「溶け」落ちたのだ。しかも、たった1人によってだ。パワードスーツの様な白色の全身鎧に身を包み、頭だけは露出している。顔立ちや体付きから容易に女性である事は判別できる。
そして、背中。左右の肩甲骨と肩甲骨のあいだに付き出たバックパクに、「天陽」の文字が達筆で書かれていた。
一瞬にして溶けた右翼を攻撃した敵に、他の陣地から機銃や砲弾が、雨あられと降り注ぐが、女性が腕を振るえば、彼らは塩となって崩れ落ちた。
ほんの30秒程度の事だが、海軍工廠正門門前は制圧されてしまったのであった。そして、同じような事が市内各所で同時多発的に起こっていた。
状況が不明なまま、たったの5分で陸上部分の大半を取り戻されてしまったクーデター軍は、艦隊によって敵を殲滅しようと行動を開始した。
第2艦隊に今残っている2隻の戦艦。長門と陸奥は、呉に向けて砲塔を旋回するが、突如陸上から光の弾が飛んできて、護衛にあたっていた駆逐艦に命中。駆逐艦は、白くまばゆく光ると爆発もせずに消え去ってしまったのだ。
「噂に聞く、光子榴弾砲か!?」
誰かがそう叫んだ。あの光弾に当ると、対消滅反応を起こして、全てエネルギーに変換されてしまうのだ。通常ならば、甚大な被害を起こすところではあるが、瑞穂がエネルギーを別次元へ流しているため、消え去るだけだった。
照準もいい加減に、反撃が始まる。しかし、その間にも、護衛艦が次々と消えて行く。有効な反撃を得られないまま、戦艦陸奥は光弾2発を受け、消えてしまったのであった。長門も1発を受け、艦首が消えて前のめりになって停止した。これにより、第1艦隊は降伏し、基地航空隊と航空艦隊も甚大な被害を受けて投降したのであった。
そして、呉は血の海と化した。
一時的に塩に変えられたが、時が来たため「元の物質」へ戻されると同時に、爆風で粉々になっていたソレは、いたる所で血肉へと戻ったのである。声も音も無く、誰かも分からずに……。
郊外の航空基地での死者数は、最小限にとどまったが、それでも転げた衝撃で手が取れたなどの事象で、軍人としては終わる者が多数出て被害は甚大だった。
「我が名は天陽。神の兵にして、禁断の兵器である」
カッコ付けして、記者にそう名乗った天陽の写真と発言が、デカデカと新聞に載ったのであった。
そして、誰もが女の子になる☆




