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お前らいい加減にしろっ(A)  作者: 加賀函館
第3章 ちんどん欧州訪問()
39/72

038話

 本来の目的を果たすために、鹿島はノーフォークの港を出航した。先頭は、ル・ジューラが勤めている。

 鹿島が出しうる最大速度である55ノットで南下する。アメリカ滞在が思ったより伸びたため、足柄と間宮の前に東ナスカに到着するためには、この船足である必要があったのだ。

「あ、しまった」

「あ?どうした航海長」

「ニューヨークから、速度計を回収してくるのを忘れました」

「あらら、じゃ、後で備品紛失届を出す様に」

「はぁーい」

 と、言うハプニングもあったが、航海は順調だった。と、言うよりも何も無かった。大西洋横断時よりも、遥かに静かになったため、常時に戻りつつあるともいえた。

「前方、ルナ:サエッタ級」

「あれを見ると、中米連合に来たと言う実感が沸くな」

「まぁ、ここは中米連合では無く、ファスサですけれども」

「どちらも同じだろ?ファスサ・アメリカーナがレキシントン語で、「保存帝国保有のアメリカ大陸」って意味なんだから」

 少し進めば、メキシコ湾…もといナスカ湾に面した大軍港、東ナスカが見えてきた。ただ、大軍港と言いつつ、停泊している艦艇はその殆どがルナ:サエッタ級海防戦艦だったが…。

「港湾局よりビーコン取得。第17ポートを使用するようにとの事です」

「了解。索敵長、何か特異な反応はあるか?」

 レーダーやソナーを担当する索敵長は、進行方向には何も無いと報告した。ただし、後方から低速で潜水艦が追尾してきていると報告した。

「先程のルナ:サエッタが、対潜弾を投射」

 後方に過ぎたルナ:サエッタ級が、浅い深度で起爆するようにした爆雷をばら撒いている。これ以上はファスサの領域であると、先ずは警告だった。

「潜水艦停止。緩やかに沈降して行きます」

「やり過ごそうと?バカな、既にバレバレだぞ…」

「ルナ:サエッタ、主砲旋回中」

 雷鳴の様に轟く主砲射撃音と共に、盛大な水柱がそこに上がった。


 鹿島追尾の任務を与えられた我が艦は、低速で航行していた。夜間のみの浮上にて、ずっと待っていたが、つい先ほど鹿島と思わしき大型艦が、直上を通過して行った。

「機関両舷微速」

「アイ、サー」

 時間は1730をすぎたあたりだった。日は傾き始め、これからは夜の闇が支配する時間になるだろう。

「爆雷着水!」

 ソナーマンの叫び声と共に、誰もがハッと手摺などにしがみ付いた。凄まじい揺れと轟音が駆け抜け、ありとあらゆる方向に揺さぶられかき回される。

 確かに、この海域はファスサが自国海域であると主張する海域だが、対応が早すぎる。

「機関停止!様子を見る」

「爆雷の反響から、海底まで50m前後」

 この海域は、島々が多数存在するため、余り海底は深くは無い。この場所だって、深くて70m程度である。

 次の爆雷に備えていると、上の方から凄まじい爆発とそれに伴う猛烈な衝撃が艦を襲った。敷設されていた、対潜水艦用の機雷原に突っ込んだのかとも思ったが、そうではないだろう。

 そんな事を考える余裕は無かった筈だが、その考えが頭をよぎった瞬間に、最も大きな衝撃波が下方から襲いかかり船体が破壊され、意識もすべてブラックアウトしてしまった……。


 東ナスカに到着後、半舷上陸を行い各々に休暇を楽しんだ。その3日後に足柄と間宮も寄港したが、足柄は簡易整備のために、浮きドック入りしたため、滞在が2日増えた。

 その間に、ファスサ兵と合同訓練を実施して、体がなまらない様に配慮した。

「やはり、一部にでも鉄が混じっていると、フジツボなどが付着してしまいますな」

「それでも、そのままよりは大分マシですね」

「ふむ。これは誠に、興味深い」

 と、技官達が目を輝かせて論議を展開している。

 それを横目に、羽生は足柄の艦長と雑談していた。あちらの、ドイツではどうだったと言う話しや、アメリカではどうだったのかなど。そして、足柄の艦長は知る。羽生が自分の先輩に当たる海軍兵学校第49期卒業生である事を。

 なんだかんだ言いつつ、一度も落第せずに卒業したため、優秀な方ではないか。と、考えを改める切っ掛けにもなった。

「これから、どうするのでしょうか?」

「帰国する航路の事でしょうか?」

「ええ、確かに大雑把には聞いているのですが、詳細はよくわからないのですよ」

 羽生は、手帳を開くと予定航路をメモしたページを開いた。予定ではこの後、ファスサが管理する運河を使用して太平洋へ抜け、トラック諸島へ寄港したあと、横須賀へ帰還する予定になっていた。

「ファスサ管理の運河ですか……。私が知っているのは、ベッハーナ運河ですね」

「管理名称は、パナマ運河と言うそうですよ。北から、ナスカ運河、グアテマラ運河、ニカラグア運河、パナマ運河、アマゾン運河、パタゴニア運河が太平洋に抜ける事が出来る運河だそうです。今回は、この中で最も大きいナスカ運河を使用するそうですが……」

「何か問題でも?」

「ええ、イギリスで知り合ったファスサの方に聞いた限りでは、ナスカ運河は大きいだけでは無いようなので……。少し不安になってしまいましてね…」

 そこに、グロス中佐がやってきた。彼は、将兵の訓練を担当していたため、今日の訓練が終わった事を伝えに来たのであろう。

「何か問題でもありましたか?」

「これは、グロス中佐。丁度いいところに」

「なにか?」

「少しお伺いしたい事があるのです。宜しいでしょうか」

「構いませんよ」

 羽生は、ナスカ運河とはどう言った運河なのかを質問した。グロス中佐は、少し考えた後、この後実物を見るのだという考えに到った。

「ナスカ運河は、本来は運河では無いのですよ。それは、通れば一目瞭然です。たしか、予定ではナスカ運河を使用する筈でしたね」

「ええ、まあ」

「なら、楽しみにしていてください。我がファスサ自慢の運河ですので」

「今、運河では無いって…」

 グロス中佐は目をそらして、別の話題を振って来た。日本帝国はこれからどうするのだろうと。

 それは、一介の軍人である2人には、答えられるものでは無かったが、少なくとも今はまだ日本共和国に世話になるだろうと。

 グロス中佐も、レキシントン本土の人間では無いため、立場的には今の日本帝国の軍人とほぼ同じだと言う。トノマツ大佐にこき使われるため、立ち位置的には羽生が最も近いだろう。

「大昔は、保存帝国からの独立のため、多くの血が流れたと言います。ですが、今でも分かるように彼らは強い。しかし、今でも独立派が存在するため、完全に服従した訳では無いのです」

「グロス中佐も、不服と言う事ですか?」

「……。無駄だと分かっていても、抗いたくなってしまうのでしょうが、私には守るべき家族がいます。それと天秤にかければ、今は家族の方が勝るだけです」

「…………」

「まぁ、やめておいた方が無難です。戦闘機人に、生身の人間が勝てる確率はほぼありません。日本共和国の様に、レベルを上げて物理で殴れる訳でもありませんし。まぁ、日本共和国人は「ホモ・サピエンス」…我々人類とは、異なる人類なので比較対象にはなり得ませんが……」

「えっ!そうなのですか!?」

「え、って……。まさか、寿命が数万年もある人類が、我々と同じだと思っていたのですか?」

「えっ!そんなに、寿命が長いのですか!?」

 つまり、何も教えられていないのだと、グロス中佐はため息をついた。自分が知る限りの事を、少しばかり教える事にした。このままでは、ナニカしら起こった時に対処できないだろうと。

「日本共和国人や歴親沌保存帝国人は、所謂「強化人間」です。遺伝子レベルから強化されており、寿命だけでなく身体能力や回復速度も、人間の比ではありません。通常の人間なら、銃で撃たれれば死にますし、頭を撃たれても死にます。が、彼らは違います。完全に脳を破壊しない限り、頭と体を切り離しても生きています。そう、酸素供給が1週間無くとも、脳死をしません。脳死しなければ、機人の機体に脳を移植して復活可能です。まぁ、髪の毛1本でもあれば、全身の再建が可能な科学技術を持っていますが、その様な面倒くさい事は誰もしないでしょうし」

「それは、人間と言えるのですか?」

「強化人間です。我々、人間とは比較できません」

 グロス中佐が言うには、強化人間1人で2000人の人間と戦えるほど強いのだと言う。ただし、これは歴親沌保存帝国人であり、日本共和国人はこれよりも多いと言われているそうだ。

「Oh......、リアルターミネーター…」

「そうですね……。その通りです」

 それだけでなく、頭の回転速度や記憶力もずば抜けており、技術習得能力も高い完璧に近い存在だと言う。ただ、日本共和国人を見れば分かるが、かなりおつむのネジが緩いと言う難点がある。

「保存帝国人も、アルグ=スレイプニュルと言うグレープフルーツに似ており、大玉スイカ大の果実に関しては、凄まじいまでのこだわりを見せるので、同類と言っていいでしょうね……。美味しいのは、否定しませんが」

「あるぐ……、それって鹿島艦長が言っていた、アルグの実ですか?」

「ええ、そうですよ。こちらになります」

 そう言うと、上着のポケットからタッパーを取り出し、ふたを開けた。中には、深緑色の果肉の果物が入っていた。色的には小松菜に近く、果肉的にはパイナップルに近い。

「どれどれ…。…!?」

 足柄の艦長がひょいと一口食べると、目を見開いて驚いた。モグモグと反芻している事から、中々のみ込める様なものでは無いようだ。

 ようやくのみ込んだ彼は、物欲しそうにしている。しかし、既にグロス中佐も羽生も口に入れており、タッパーの中には何も残っていなかった。

「こ、これは美味しい!なるほど、珍味ですな」

「アルグの実は、皮まで食べられるのです。皮の砂糖漬けを、お土産に買っていかれてはどうです?それなら、許可は下りる筈ですから」

「許可?」

「ああ、今年は不作だったので、輸出が制限されているのです。ただし、買い込み過ぎると、没収されてしまいますので、1人1瓶が限度でしょうけれども…」

 ま、この美味しさを知っているなら、余り買いこまれるのは困ると言う事だろう。早速、それを土産にすることを決めた2人であった。


 東ナスカ軍港は、北と南に分かれている。北には軍港と市街地、南にはドックや工場がある。そのあいだには、絶壁の崖が10kmにも渡り続いている。橋や海底トンネルが掘られている訳ではないため、渡しのフェリーがある。

 都市としては、内陸で繋がっているため、別々の都市とは言い難いのかもしれないが、それにしても不思議な構造をしている。と、当初は思っていた。その疑問の答えが、今から示される事となったのだ。

 足柄も無事出渠し、帰国の航海が再開された。先ずは、ナスカ運河に入らなければならないのだが、入口が見当たらなかった。それもその筈で、普段は閉鎖されているのだとか。

 それを先導艦のユカタン級海防戦艦カルフォルニアが、解放する。すると、崖の一部が内側にボコボコと引き込んでいき、それが(かんぬき)だったようで崖が、海中に没して行く……。10分ほどで幅10km、海面上から高さ500mを超える巨大トンネルが姿を現した。

 これが、ナスカ運河なのだ。余りの迫力に、冷汗が背中を伝ったが、カルフォルニアから「我に続け」の発光信号が放たれ、カルフォルニア、鹿島、足柄、間宮の順で運河に進入する。

 運河内部には、照明は設置されていないのか薄暗い。しかし、明り取りが1kmごとに設置されているために、完全に暗くなる事は無かった。

「うっ…。なんだアレは……」

 羽生を含めた日本帝国兵は、天井から吊り下げられたそれを見つけて、目を見張った。

「あれは、空軍の無人戦艦だ」

「せん、かん……?空軍の?」

「ああ、宇宙戦艦って奴だ。まぁ、旧式な上に、モスボール化されていて、すぐには動かないだろうがな」

 鹿島は、いつ見ても不気味な光景だと顔を一瞬しかめた。しかし、この光景は入り口と出口以外では、ずっと続くのである。そして、この光景こそが、ここの本来の使い方だった。

「そう言えば羽生少将は、グロス中佐に質問していたようだが?」

「え、ええ。でも、通れば分かると言われてしまって、詳しくは……」

「そうか。なら、教えてやるが、ここは本来は格納庫用の通路として使われる。大陸中央に格納庫があり、その東西南北に出入り口が伸びている。北方の出口は、今は封鎖されているが、クイーンエリザベス諸島に続いている。南方は、ドレーク海峡に。今回は、太平洋に出る事が目的なので、サンディエゴの南にあるティファナの出口に向かうがな」

 これが、この国の本来の力の姿だと言う。そして、この無人戦艦は、格納庫を防衛するためのガードシステムとして、ここに設置されているとも。その格納庫までは、今の速力なら半日ほどだと言う。広さは不明だが、水平線の彼方まで続くほど広いと説明された。

 そこに、びっしりと敷き詰められた艦艇を、地道に処分している最中だが、これが終わりそうもないと言うのも納得できるだろうとも。

 しかし、既に圧倒されてしまっていた。すぐには動かないとはいえ、天井一面に無人戦艦が敷き詰められており、その数は数え切れなかった。

 今見る限りでも、先を見通せないほど長い回廊に、不安に押し潰されそうになる。

 鹿島は、艦隊電話を取ると足柄に繋いだ。

「今しがた、羽生少将には説明したのだが…」

 そう言って、向こうにも説明した。すると、足柄は上空に向かって探照灯をつけ、まるで辺りを警戒している様であった。

「あまり見ても良いものではないぞ」

『そうでしょうが、兵が怯えているのですよ…』

「こればかりは、仕方ないか……」

『この光景は、いつまで続くのですか?』

「格納庫にさえ入れば、無くなるのだがな。出入り口の通路は仕方無いのだ」

『そうですか…』

 向こうも、不安に押しつぶされそうな声で、そう返事をした。また、普段は使用されていなこともあり、行きかう船が全く存在しない事も、不気味さに拍車をかけていた。

「最低限の人員を残して、兵には休む様に命じろ。どうせ、何も起こらないのだから」

『……、分かりました。ご助力感謝します』

 羽生も休憩するように言われ、気分が悪そうに自室に帰って行ったのであった。


づのごうじ氏のBGMでどうぞ

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