035話
なお、「日本共和国の基準」では鹿島は「低速艦」に分類されます
全ての式典が終わり、参加艦艇は各々自国への帰路へ着いた。しかし、注目を集めた足柄と鹿島は、予定通りに東ナスカへ直行する事は叶わなかった。
足柄は山本五十六の意向で、間宮と共に装甲艦ドイッチュラントに導かれキール軍港を訪問し、鹿島は戦艦ニューヨークに導かれル・ジューラと共にノーフォークを訪れる事となった。
予定の詰まっている本埼幕僚総長は、予定通りに転送装置により本土へ帰還した。
そして、代わりに代表者として、足柄側には間宮の艦長に変装していた山本恭治郎海上幕僚長が就いた。足柄の艦長はやはりと思っていたが、そこまで偉いとは夢にも思わなかった様た。
「おう!野郎ども、本物の総統閣下にサインして貰う絶好のチャンスだぞ!」
やはり、こう言う人物だったかと誰もが思ったが、もう遅い。式典が終わったのをいい事に、幕僚長が許可を出してコスプレやらアニメ鑑賞やらが始まり、ドイツ海軍の関係者がドン引きしている。
それを宥めつつ、日本軍も楽しみ出す始末。宇垣が精神注入棒を振り回して、教育し回ろうとして女性乗員に囲まれてもみくちゃにされた揚句、無力化されてしまうハプニングなど、無茶苦茶を遥かに越えたカオスな状態に……。
キール軍港に到着して、更にカオスフルになったのは言うまでも無かった。式典に参加したヒトラー総統は後に、「大丈夫なのか、彼らは……」と言葉を残している。
確かに、色々とやらかしてしまったが、それでもよく見ている人はいるものだ。
日本では、船舶電源が直流から交流に変更されていた。そして、そのままコンセントを挿せば、交流電源で動く電気製品が使えるのだ。
ライトもそうだ。この時代の一般的な電球は、白熱電球だが足柄では蛍光灯電球が使われ、間宮ではLED電球が使われていた。
アニメ上映に使われていた機材は、間宮の物であったため日本共和国の技術がそのまま使われた物だった。画質も音質も、比べ物にならず、フルカラーで迫力のある音響は、この時代の人間にとって魔法を見ている様な感覚を覚えさせた。しかし、それを再現している上映装置は、手提げ鞄に入りきる程度と言うコンパクトさなのである。
上映される映像も、この時代には無い処理方法や編集ソフトを多数用いていたため、映画を創る業界人が多数押しかけてきたりもしたほどだった。
そう、挙げればきりがないためここまでにするが、この度の寄港により、ドイツは更に発展する事となる。日本と言うライバルを追いつき、抜くために誰もが科学の限界を越えようと励んだのである。
そんな事もつゆ知らず、鹿島とル・ジューラは戦艦ニューヨークと共に一路アメリカ大陸を目指した。しかし、遅い。遅すぎた。ニューヨークの最大速力は21ノットしか出ないのだ。
鹿島側がしびれを切らし、ニューヨーク側と交渉した結果。ニューヨークは陸地が見えるギリギリまで鹿島によって曳航される事となった。
「艦尾、トラクタービーム照射開始」
通常、無理に曳航すると曳航索が千切れたり、備品の破損を招くため、高速航行はされないのが常識だ。
しかし、日本共和国はトラクタービームにより曳航される船を包み込み包み込んだ外側を引く方式を開発。これにより、大破した船でさえも高速で曳航する事が可能になったのであった。
勿論。説得にあたって、そんな説明をしたものだからニューヨーク側は困惑した。とは言え、困惑したのは仲介に入ったル・ジューラ側もだが…。
「君達。そんな事が出来ると、喧伝してもいいのかね」
トノマツ大佐が、速攻で飛んできて抗議したのは言うまでも無かった。
「あ゛?そんなもん、どうでもいいんだよ。こっちとしては、早く大西洋を渡りたいんだよ!?いいから、早くするんだよ」
「それは、否定しないが、早く到着しても足柄を待たねばならないのではないのかね?鹿島艦長、もう少し良く考えなさい」
「早く寄港して、アルグの実を調達する時間が欲しい」
「今年は不作でな……」
「不作!?ちょ!なんで、平気そうな顔してるんだよwwwwww」
「自国民用にはある。輸出できないだけだ」
「ぶっ殺してやる!」
「やんのか!」
その後、取っ組み合いの喧嘩になったが、機人同士の喧嘩に人間が仲裁に入ることはできないため、鹿島搭乗の戦闘機人が呼ばれるまで暴れまわったのであった。
あまりの暴れ様に、顔をひきつらせニューヨークの艦長が、「これ以上暴れられては敵わない。なので、大人しく曳航されよう」と言い、早速曳航準備が行われる事となった。
基本的に艦首甲板への侵入は禁止で、艦首側の舷側窓に防水耐圧処理を施し、砲口にも水が入らない様に塞いだ。
この様な大がかりな事になろうとは、誰も思わなかったが必要性を感じた者もまたいなかった。一体何ノット出すつもりなのかと興味深そうに、誰もが噂し、ニューヨーク艦内では賭けまで行われる始末だった。
そして、この珍事にメディアが食いつかない筈も無く、数多くの国の記者が乗り込んでニューヨーク側は大わらわとなっていた。
「曳航準備完了。いつでもいけます!」
「よし、ヤンキーどもに目に物見せてやれ。機関両舷前進、最大速力」
「機関最大速力ヨーソロー」
グイッとニューヨークを引き始めた鹿島だったが、加速が半端なものでは無かった。通常の船の加速では無く、モーターボートに乗っている様な急加速に、掴まっていろと指示があったにもかかわらず、倒れる者が続出した。
「速力…、25ノット……。未だに加速中…」
ニューヨークの航海員が、速度計を読みあげるが、その声は驚愕に彩られている。その、速度計は鹿島側が急遽取り付けたものであった。記者達に分かりやすい様にと配慮したものだが、乗員も驚いている。それが、艦内放送で流れるたびに、賭けに負けた乗員が悲鳴を上げた。しかし、速い。
「速力……、50ノット!?そんな、まだ加速するのか!」
まるで飛行機に乗っている様に加速する鹿島。その加速に付いてくるル・ジューラも凄まじい。
そして、艦首甲板には盛大に海水が流れ込み、甲板は海没している様に見える有様だった。処理を施していなければ、既に浸水で沈没していただろう。
鹿島側の説明通り、船体が軋む事は無かった。しかし、55ノットと言う経験した事の無い速力に、誰もが目を回し始めた。先程まで大きかった陸地も、あっという間に彼方へ消え、既に大西洋に入っているのだろう。
そして、この速力ならば、本来12日かかるであろう道のりをたったの4日もかからずに達成できる事になる。それは、軍人達に更なる衝撃を与えた。
特にブラックシューズと呼ばれる戦艦主戦派は、固まってしまっている。コンゴウクラスなどの巡洋戦艦の機動力の脅威は、ある程度認知していたが、鹿島はその2倍以上速い事になる。つまり、今まで考えられない様な艦隊突撃作戦を行える上に、空母艦載機による空襲に対しても大きなアドバンテージがあると言える。そう、魚雷よりも早いのだ。
アメリカ軍の魚雷の雷速は50ノットに届かない。通常、魚雷は真横から投下されるものだが、この速力では回避されてしまう。
しかも、今回の寄港で、鹿島が単体でタグボート並の機動性を有しているのは、各国の知る事となった。今に至っては、急加減速も容易に行えることも判明した。
正に、バケモノである。
なら、近付いて攻撃すれば当ると言えるが、ハルゼー達と別の便で向かった見学者が聞いた「40mm先進砲弾多連装投射装置(40mmAGGS投射機)」と言う装備の存在により、諦めざるを得なかった。
甲板上に多数存在した連装タイプのランチャーがそうだと言う。このランチャーから山なりに放たれた砲弾は、自ら標的に誘導し命中すると言う常識が通用しない兵器だと説明されたそうだ。
対航空機用の装備では無く、自艦に命中するであろう敵の攻撃を迎撃するための装備であり、戦艦の主砲弾も撃墜する能力がある。そう、説明があった。それは、流石に信じられなかったそうだが、それでも航空機にとっては十分な脅威となる事は考えられた。
また、駆逐艦も魚雷発射管を狙い撃ちされればただでは済まないため、脅威度はかなり高い。
射程が15000mと長い事も、脅威度が高い理由でもあった。
「それってつまりは、投射機などの対空砲を爆弾で無力化して、魚雷を至近で撃ち込めば良いのでは?」
「ほう、そう言う対処もありか…」
「でも、爆撃側にも甚大な被害が出そうなのですが……」
「ぐむ…」
そう、数は少ないが、後部艦橋には対空速射砲が搭載されている。そして、この口径が6.1インチ…15.5cm…もあるのだ。最大射程は10万m、最高到達高度は60万mと言う説明に、何をするための装備品なのかと首をかしげる代物だった。
「あまり、むつかしく考えるものではないと思いますわよ?」
ニーナとハルゼーの会話に、ブラウン提督が割り込んだ。何故にか、こちらに乗り込みたいと記者達と一緒に乗り込んできたのだった。
「では、提督殿。貴官は、どうなさるのでしょうか」
「どうなさるも何も、つまりはAGGSが対応できない兵装で攻撃すればよいのですわ。まぁ、開発するのはありとあらゆる条件が足りないのが現実なのですが…」
「そんな物があるのか!」
「ええ、勿論ですわ」
開発できない理由を聞いてみると、技術力が兎に角不足しているの一言であった。
「この前、鹿島に見学に行きましたわよね?その時に見た第3砲塔、あれと同じ種類の物を用いれば、少なくともAGGSから迎撃を受ける事はありませんわ」
「たしか、電磁砲…でしたか?」
「その通りですわ。でも、技術的リソースが足りない上に、この技術を開発する人間が、ナチスドイツか日本かソ連にしかいないのですよ。私の故郷である国も、開発にあたってドイツの技術を応用して、50年以上をかけたほどでした…。でも、しょぼいものしか作れず、最終的に日本共和国の技術を購入したほどですもの。むつかしいと言うには、あり得ないほどの物と言わさせていただきますわ」
その話しは、ハルゼーとニーナしか受けていなかったため、他の見学者と記者の注目を集めた。
「どんだけ、難しいんだよそれは」
「原理は簡単なのです。仕組みは既に開発されているのですが、射撃に耐えられる素材が無いのですわ」
「素材が無い?」
「はい。鉄も一瞬で溶け落ちる程の熱量が発生するため、最低でも1万℃に耐えられる素材で無ければならないのですわ。そんな素材は地球上に存在しないので……、創り出すしかないのですよ」
つまり、科学技術がこれから更なる発展を始めるであろうこの時期では、それ相応の物を作り出す事は不可能と言う事だ。
「つまり、打つ手なしって言いたいのかよ!」
「そうですわね……。あと、できる事と言えば戦わない事ですわね」
「相手に、その気が無かったら」
「バンザイ突撃でもするしかないのでは?わたくし、そう言うのは御免ですわ。殿方は、お好きにどうぞ?」
もう、政治に丸投げしろと言われ、血管が浮き始めるハルゼー。それを宥めつつ、ニーナが質問する。
「日本共和国の配備艦艇は、それほど多いものなのでしょうか?」
「聞いた話では、30個戦隊。つまり、60隻の戦闘艦と15隻の支援艦艇だと。ですが、その殆どが日本本土防衛の任に就いているため、遠方での戦闘には出てはこないそうですわ」
「これ以上の増援は無い…と、言う事ですか?」
「さて、それは分かりませんわ。でも、日本帝国の再増備計画があるようなので、日本帝国側の行動には要注意が必要でしょうね」
やはりそうかと、誰もが囁き合う。ニーナも予想してはいたが、状況的には余りよろしく無い。
「まぁ、今頃阻止しようとしても、もう遅いと言うしかありませんけれども」
「それは、どう言う意味でしょうか?」
「日本共和国側の計画は、もう完了してしまっているそうですわ。なので、今度は日本帝国側の計画を推し進める事になるでしょうね。その計画も足柄の状況を見れば、終了間近と考えられるのでしょうけれども…」
再増備計画が終了間際と言われ、軍人達は驚き、記者達は真剣な顔でブラウン提督の方を見た。
「その結果は、数年後に行われる「皇紀2600年特別観艦式」にてご覧になれますわ。それに、今どうなのかと問い合わせても、誰も答えてはくれないでしょうし」
「観艦式……って、あの少なさで、ですか?」
「ん?どう言う意味ですの?と、聞き返したいところではありますが、その答えも後でお聞きになられた方が、わくわくできて宜しいと思いますわね。まぁ、鹿島が先に見せてくれてしまいましたが……ね?」
ね?と、言われても訳が分からない。しかし、夕食の時間を告げる放送が流れ、ブラウン提督は流れる様な足取りで、詰めかける軍人と記者を交わし、食堂へ向かってしまったのだった……。
保護者が保護者を放棄した模様




