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お前らいい加減にしろっ(A)  作者: 加賀函館
第3章 ちんどん欧州訪問()
33/72

032話

やっちまったんだぜ

 昨日まで降っていた雨は止み。うって変わって快晴であった。波も穏やかで、清々しい風が肌をなでる。この時期と言うよりも、この国にしては珍しいと言わざるを得ないほどの良い日だった。

 戴冠記念観艦式に参加するため、続々と参加艦が入港を果たし、港は様々な国の軍艦で埋め尽くされていた。

 当初、注目を集めていたのはドイツの軍艦ドイッチュラントだった。新聞が「ポケット戦艦」と掻き立て、大きな注目を集めていた。それに対抗するように、フランスは最新鋭のダンケルク級戦艦を参加させてきた。まるで冷たい戦争だった。

 そこに熱い熱湯をぶっかけたのはやはり日本共和国だった。チクショーメェ!と、どこかの映画の登場人物の様に叫ぶしか無かった。


 巡洋艦足柄が入港する事になり、珍しいもの見たさに海岸線には多くの人々の姿があった。しかし、本来ならば同航している筈の鹿島の姿はなく、一部の軍人や政治家は、本当に間に合うのかと囁き合っていた。

「大佐」

「む、来るか」

「はい。瑞穂の起動を確認したそうです」

 しかし、間に合わなかった。足柄はタグボートによって導かれ始めたところであった。が、その過ぐ近くに、鹿島とは違う艦が転送されてきた。その艦の速力は速く、どうにかタグボートを避けた。

 その直後、足柄の後ろから右脇をかすめるように、巨大な艦影が出現した。日本共和国艦の特徴とも言える2つの砲塔が、艦首に集中した配置。艦の中央部にそびえ立つ艦橋。この時代に似つかわしくない、つるりとした構造物。

 間違える事も無く、それは巡察航洋練習艦鹿島であった。

「あの、バカ!タイミングが最悪だ」

「大佐、こちらへ!」

 俺はグロス中佐に促され、彼のバイクのサイドカーへと飛び乗った。人々は、余りの事に動転し、騒がしくなっていたが、そんな事はお構いなしだ。

 緊急停止した鹿島に抗議するべく、早急に自国の艦に戻らねばならなくなった。

「戦艦フッドより、抗議文ですね」

「当たり前だ。水先案内人も無く、湾内に入ってきた。その上、あの登場だ。抗議か、文句しか出てこない」

 車載無線がモールスを拾い、次々と英文が紡ぎ出された。要約すれば、「君達は他人の家の入り方さえ知らないのかね?」だった。しかも、貴族らしい厭味ったらしく遠回しな言い方だ。

「鹿島、後進を始めました」

「もう遅い…、仕方ない…な」

 車載無線の送信機を持つと、戦艦フッドへ打電する事に。横振り式のため、軍用とは比べ物にならない速度での打電だったが、2回繰り返すと「了解」の回答を得られた。

「何を?」

「遅れまいと、急いで来た愛弟子のお茶目だ。再度、教え直してやるのが師匠としての役目だろうとな。ああ、後で頭を下げに行かねばな……」

 鹿島の後進が止まり、フッドから艦載機が飛んで流石に人々も異常事態だと認識できた様だった。海軍基地の衛門で、手続きを済ませ、すぐさま艦に戻る内火艇に飛び乗った。


 突如現れた鹿島に対して、抗議と教育のし直し。その両方を行ったフッド側は、あきれていた。

 教育をし直すために航海員数名を載せたランチを送った訳だが、相手の航海長が凄まじいまでの曲者だったらしい。先ず女性将官だった。以前、報告には上がっていたが、航海長の他に艦長と砲雷長と軍医長が女性軍人だった。

 そして、英語を理解しているのかどうか怪しい…と、言うよりも話せなかった。砲雷長が翻訳したお陰で、話し合う事が出来たが、軍人らしくなさすぎたそうだ。他の航海員は問題なかっただけに、この航海長の元で立派な軍人が育つのか、甚だ疑問を浮かべるしかなかったそうだ。

 ただ、抗議の際。1人だけ軍服の違う軍人がいた、その人物に抗議を行ったそうだが、抗議文を口頭で読んだ副長が、途中で言葉を発せなくなってしまった。そう、報告があった。彼女の涙に、その場にいた全員が絶句。日本共和国兵からの視線が突き刺さった。

 百戦錬磨の副長も耐えられず、抗議文書を渡して退散してきた、と。

 そして、我がフッドに打電をしてきたファスサ軍人のトノマツ大佐が、渋い顔をして本艦を訪れた。顔立ちは日本人に似ているだろう。瞳の色が黄色であるため、東洋人にはあまり見えないが。

「先日の突然の打電。申し訳ございませんでした」

「いいえ。しかし、全くその通りですな。ま、何事もなく終わったのです。今回の事は忘れましょう」

 トノマツ大佐が再度の敬礼をしてきた。そして、言葉を続ける。

「今回の事を日本共和国側に確認しましたが、転送艦の座標指定間違いだったとの事です」

「転送艦…ですか。どの様な艦なのですかな」

「彼らが、こちらの世界にやって来る時に使っている装置を搭載した艦です。座標を入力すれば、艦艇の様な大型構造物から人間大まで、様々な物を送り込む事が可能です」

「む……。それを戦争で使う場合、今回の様な事が起こる…と?」

「今回の様な事、衝突しそうになったと言う事でしょうか」

「それもある。だが、本国から離れた位置に、艦隊をすぐさま派遣可能と言う事なのではないのかね」

「そうです。しかし、転送する海域に何も無い事を確認し、座標の指定を間違わないようにしなければ、衝突してしまいます」

「……。まるで、ファスサもそれを使っている様な、言い草だね」

「ご想像にお任せ致します」

 食えない男だ。しかし、アシュリーザの乗員が話すには、東京湾を抜けた海域からスピアフィッシュ湾まで、瞬きする間の時間しかかからなかったそうだ。

「では、もう1つの質問に答えてくれないだろうか」

「ええ、どうぞ」

「ふむ、君はあの女性について何か知っているのかね」

「どの女性でしょうか」

「1人だけ、違う軍服を着た。背の低い女性の事だ」

 目を瞑り、ため息をついた後、彼は言葉を発した。

「ユイキ・ホンザキ。日本共和国軍の最高責任者、幕僚総長の位に就く、男です」

「む?むむむ?お、男?」

「疑問はもっともですが、あの方は男の方ですよ?日本共和国では、「おとこのむすめ」と書いて「おとこのこ」と言っていますが……」

「まるで、日本共和国に行った事のある様な言い方だな」

「駐日本共和国大使を幾度となく、経験させていただいております」

「ほう……。なに!?」

「そう言うお答を望んでいたのではないのですか?」

 口の端を吊り上げて、そう答えた。この男、一体何者だ…?ただの軍人ではないな。

「本埼総長には、よく注意した方が宜しいでしょう。ご本人は、私よりも遥かにお強いので……」

「それは、どう言う意味かね」

「そのままの意味です」

 彼は話すのはここまでであると言い、部屋を出て行った。あの男もそうだが、日本共和国も更なる警戒が必要となった。そう、思わざるを得なかった。


やらかしたんだのぜ

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