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お前らいい加減にしろっ(A)  作者: 加賀函館
第3章 ちんどん欧州訪問()
32/72

031話

鹿島出航(遅刻)回です

 大変疲れた様子の鹿島が帰艦したのは、出航予定日の前日の昼だった。

「マジで、もう少しでデキるところだったぞ、あのクソやろう」

 渋い顔で鹿島の愚痴を聞く副長。最終的には、のろけ話になるのだが、今回は愚痴ばかりだった。しかし、これでは出航準備に支障をきたすので、話を切る。

「艦長、帰艦して早々ですが、仕事が溜まっております」

「お゛う?そうだったな」

 鹿島が指示を出せば、あっという間に片付くため、本来ならば見習わなければならないのだが、どうしても楽な方に偏ってしまうのだ。

「取りあえず、今日は寝る。0400時に起こしてくれ」

 夕食を軽く済ませた鹿島は、足取り重く自室に帰っていった。

「艦長、大丈夫でしょうか…?」

「大丈夫とは言い難いけど、仕事に引きずる様な事はしないだろうね。しかし、先代にも困ったものだね」

「でも、一人で頑張っていらしてたのですよね?甘えたかったのでは?」

「この忙しい時期でなくてもよいのではないのかね?砲雷長」

「ぶー。副長の意地悪ですぅ」

 食事を取り終えれば、残った仕事を片付ける。鹿島の帰艦が早まったため、予想よりも早く終わり、艦内にはゆったりとした雰囲気が漂った。

「ようやく、落ち着きましたね」

「ああ、まぁ、これからが本番だけれどもね。さて、航海長、これからの予定だけど…」

 航海長は寝むそうな顔をこちらに向けた。

「んーあー。よていー?」

「そうだ。現在の足柄の位置は?」

「あしがらー、ぶれすとおき50かいりのばしょー」

 予定よりも早い。このままでは、ドーヴァー海峡に入ってからの合流となってしまうだろう。

「眠いのなら、休んできなさい」

「もうしわけないー」

 砲雷長に付き合わせて、航海長を自室に運ばせる。

「機関長、機関の様子は?」

「艦長があんな様子でしたので、心配しましたが問題はありません。逆に、いつもよりも良好ですよ」

「沢山可愛がられたと言う事か」

「副長も辛辣ですなぁ」

「辛辣とは違うと思うが……。それに、なんだかんだで、我々よりも大変だったのは事実だしなぁ…」

「確かに。先代、ある意味無茶苦茶ですからねぇ」

 先代は、鹿島の初代艦長でもある。そのため、鹿島とのかかわりが、最も長い。愛を知らないから、と乗員からは言われるが、皇太子殿下の弟分として育ったため、それは無いだろうと思う。ただ、ただ単に異性に触れ合う事が無かったためではないかと思う。

 防大を上位で卒業して、軍務に明けくれ、ようやく艦長となった。初めての艦が鹿島であり、思い入れは我らの比ではない。

 例え、皇族の役目を果たすために、軍人をやめざるを得なくなったとしても。

「このまま、御結婚なさればいいのでしょうが…」

「皇族に前代未聞の前例をつくる。そう言う事か…。天皇陛下ならば、問題は無かっただろうが、先代は三笠宮家。伝統を重んじる以上、認められないだろうな」

「艦長も、それを御存じだから、文句を言いつつツキ合っているのですね」

「報われないな…。もどかしい…」

「結婚に興味の無い副長から、この様な言葉が聞けるとは…。砲雷長が聞いたら面倒くさいことこの上ないですなぁ」

「そう言う事ではない。そうではないのだが…艦長には幸せになってほしい。ただ、それだけだ」

「同感です」

 言葉遣いが荒いため、外から見れば荒くれの様な印象を受けてしまう。しかし、彼女も列記とした乙女なのだ。

 それに、好き者同士なのだから結ばれるべきだ。一般論からすればだが。皇族の常識からすれば、政略結婚が一般的だ。

 一時期、恋愛結婚が流行った時期もあったそうだが、三笠宮家では認められなかった事もあり、現在も恋愛結婚は認められていない。

 そんな話をしていれば、どこからわいて出てきたか、砲雷長が目を輝かせてこちらを見ていた。

「恋愛…良いですよね!」

「君は、もういい。夜更かしは、乙女の天敵なのだろ。今日はいいから、寝なさい」

「ぶー。副長のすかぽんたん」

「酷くなってないか?」


 久々にぐっすりと眠れると思った鹿島だったが、その認識は甘かったと言わざるを得なかった。瞼を閉じると、思い出してしまったのだ。初日に訳も分からず抱きしめられた事を。何も言わず、鹿島の胸の中で震えていた彼の事を。

 こちらとあちらでは、時間の経過速度が違うため、鹿島にしてみれば数十年ぶり程度だが、こちらでは2千年以上は経過していたらしい。

 抱きしめ返し、頭を撫でてやれば、すぐに落ち付いたようだったが、あれからどこまでも付いてくるようになった事を考えれば、その苦労はとてつもないモノなのだっただろう。

 まぁ、風呂までは我慢できたがトイレまで付いてきたのは、流石に許せなかったので、トイレに行くたびにぶん殴る必要があったのは、面倒くさかった。

 落ち付きを取り戻せば、帰れると思っていた。しかし、そうは問屋がおろさないと言わんばかりに、ひん剥かれてまぐわう事に。安心していたせいもあるが、もう少しでデキてしまうところだった事を考えれば、やはり、警戒するべきであった。

 いや、アレは子供がデキたと言う事実を創って、本当に結婚したかったのではないだろうか。そう思う。二度と離さないと言う当な事を口走っていたため、おそらくそうだろう。

 例え、既成事実があっても、認められない以上。どうしようもない気がする。それに、子供を道具の様に利用しようと言うのも許せない。今度会ったら、お灸を据えなければならないだろう。

「う…ぁ…。なんでぇ…」

 別にさかっていた訳では無かったが、体が勝手に時間だと告げていた。アレを受け入れる時間だと。しかし、ようやく帰って来たのだ。ここは我慢して、元に戻さなければならない。

「……」

 そのため、眠る事ができない。一瞬でも気を抜くと、勝手に手が動いてしまう。そうでなくても、寝返りを打つだけで、気絶しそうになる程、キモチイイのだ。

 気分がそちらに向かない様に、別の事を考えた。仕事の事や、休暇の時に何をするかとかをだ。しかし、恨めしい事に機人であるため人間が、長く考えられるところを1秒に満たない時間で終わらせていまい。意識が朦朧とし始めた。

「ふぅぁああん!浩紀のばかぁ!」

 こんな事になった元凶に文句を言って、自らの急所を強打。一瞬の衝撃の元に、鹿島は失神した…。


 次の日。

 埠頭には、手すきの乗員が並び、音楽隊が招集され1台の車を待っていた。

「副長。アシュリーザには連絡は取れたか」

「取れました。説明をして、随伴の意思を確認しました」

「そうか。彼らも、おおいに焦っていただろうが、仕方ないだろうな」

 英国巡洋艦アシュリーザは、鹿島と足柄に随伴してその様子を克明に記録するために派遣されていた。しかし、足柄が出航し、急遽上海から同型艦の巡洋艦アストレアが足柄に随伴する事になった事に驚いていたそうだ。

 鹿島の出航がここまで遅くなった事に、彼らは焦りよりも諦めを覚えていたそうだ。まさか、一瞬で英国近海に送る事ができるとは、夢にも思っていないだろう。

「来ました」

 音楽隊に緊張が走り、定位置に車がゆっくりと止まると、扉が開かれ1人の軍人が降り立った。

「かしらぁー、前!敬礼」

 いくら略式とは言え、迎えない訳にはいかない。この人物、本埼結衣希幕僚総長に対しては特にだ。

「みな、御苦労だ」

 軍帽を深めに被り、海軍式の敬礼を返し、我々の前まで早足で歩いてきた。

「出迎え感謝する。では征こうか、時間が無い」

「了解。しゅっこー、じゅんびーぃー」

 駆け足で乗員が艦内に戻って行き、音楽隊は軍艦マーチを演奏して送る。もやいを解き、サイドスラスターを作動させ岸壁を離れる。

 長浦の湾内では高速航行はできないため、最低限度東京湾を出なければならない。

「アシュリーザに打電、会合地点に来られたし。瑞穂にアシュリーザのデータを送れ、我が艦と離れた位置に転送するように。衛星データリンク、視野装置作動。ドーヴァーの状況をだせ」

 初夏に近付きつつあることもあり、海は凪いでいた。いや、気象操作艦若宮を使ったのかもしれない。ここまで、波が無く、風もない。太陽は優しく、雲も少ない状況はおかしい。

「若宮…ですか。総長」

「ええ、そうです。折角のおめでたい日なのですから、ハレの日が宜しいではありませんか。我が国からの少しばかりの祝福ですよ」

 いつの間にか後ろに立っていた本埼幕僚総長に振り向き、問いかけてみれば素直に白状した。

 軍帽を取り、腰まである黒髪とそれを頭の上で束ねる桃色のリボンがよく見える。とろりと垂れた目が軍服に似つかわしくなく、藍黒い瞳はしっかりと前を見ている。鹿島は自分の体形と比べて、その美しい曲線に一瞬見惚れてしまった。

「あの、鹿島?」

「はぃ。どうかなされましたか」

「その様な目で、私を見つめられても困りますよ?」

「っっっ!し、失礼しました!」

 頬に赤が灯り、苦笑いで答える総長。ああ、今すぐ抱きしめたいくらいカワイイ…。しかし、鋼の意思で誘惑を振り切り、視線を元に戻した。

「……(はわー、可愛いですぅ)」「……(今すぐ、抱きしめたいっ)」「……(くっ、くっ、治まれ我が右手よ)」

 苦労しているのは、自分だけではない事に、少しばかり安堵を覚えた鹿島。総長本人は、おそらく苦笑しているだろう。背中を向けているため、見えないのが残念だった。

「アシュリーザ、確認。速力16ノット」

「そのまま直進するように通達。全艦転送用意」

 ブザーが鳴り響く。城ケ島沖に停泊する瑞穂から発光信号が送られ、次の瞬間アシュリーザを先に転送した。続いて、鹿島が滝に割って進み入るように転送されていく。

 まぶたを開けば、足柄のすぐ後ろを航行していた。足柄の左方向800mの近距離に、先に転送されたアシュリーザが同航している。

 アシュリーザの同型艦であるアストレアは、足柄の右方向1000mにて同航していた。既に速度を落とし、入港寸前だったのだろう。そんなところに、突如として2隻の軍艦が現れたのだ。驚くなと言うのは無理があっただろう。

「アシュリーザに異常が無いか確認を。機関両舷停止、英海軍司令部に打電。入港許可を取れ」

 その前に、戦艦フッドから打電が飛んできたのは言うまでも無かった。スマンな。やってしまった様だ。


かわいい(かわいい)

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