023話
このお話では、伊勢型と扶桑型は航空戦艦に改造されています。飛行甲板はアングルドデッキが設けられ、カタパルトも装備しておりますが、基本的に制空戦闘機しか搭載しません。
航空戦艦に改造された4隻は、艦隊戦は行えず、対地攻撃支援や船団護衛が主な任務となります。つまり、主力艦からは外れた事になります。
また、金剛型も今現在は艦隊から外されており、今艦隊に残っているのは長門型2隻のみとなっています。
戦うためには情報が必要だ。情報を制した者が戦いに勝つのは、世の常だ。怠らない意志が必要だった。だからなのか、キンメルは私の事を目に掛けてくれたのかもしれない。
情報にこだわり過ぎるが故に、派閥にさえ興味の無い私を拾い、いろいろと目をかけてくれた……。今度は、私が彼に恩を返す番なのだ。
だからこそ、仮想敵国と晴れてなった日本共和国には、どうしても勝たねばならなかった。勝つためには手段を選んではいられない。
身内贔屓とハルゼーは憤っていたが、その様に顔を綻ばせて言われても説得力が無かった。
「ニーナ・バレンディア・ブラウン特務曹長です」
海軍式の肘を締めた敬礼をする彼女こそ、私の切り札だった。そして、私の娘でもある。
「ニーナ、久し振りだな」
「ハルゼーおじ様」
「ごっほん」
「「……」」
好好爺としたこの人物が、猛牛と恐れられるウィリアム・フレデリック・ハルゼーだ。先祖は海賊だったと豪語しており、海の男然としている。
「ここは軍隊だ。家族当然の付き合いでも、仕事中は階級で呼ぶように」
「し、失礼しましたニールス・ブルーノック・ブラウン大佐!ウィリアム・フレデリック・ハルゼー大佐!」
短く切りそろえられたこげ茶色の髪に、水色に近い青い瞳が真っ直ぐ前を向いた。
「ああ、では宜しくだ。さて、2人に来てもらったのは他でもない。イギリスで、戴冠式が行われる事は知っているだろう。その戴冠式に伴って行われる記念観艦式に、日本共和国が正式に参加する事が発表された。参加艦は「練習巡洋艦鹿島」だ。そこで、君達には情報収集を目的として、観艦式に参加してもらう」
ニーナは目を見開いて驚き、ハルゼーは少し顔をしかめた。この男の日本人嫌いはかなり極まっていると言っていい。だからこそ、見てきてほしいと私は思った。
「また、日本帝国からも「巡洋艦足柄」が参加する。この艦の情報も集めて欲しい」
「新型艦と、言う事か」
「そうだ。大軍縮後に建造された。恐らく日本共和国の指導があり、性能改善が施されていると思われる。比べるべきが当時のフルタカクラスでは、改善点を上げよと言うのが難しいだろうがな」
「ふーむ。つまり、こっちの巡洋艦と比べてみろって事だろう。なら、簡単だな」
まあ、観艦式前の見学だって、各国の情報収集が主な目的なので、多くは語ってはくれないだろうが。外側を見て比べる事は可能だ。
「発言宜しいでしょうか」
「何だねブラウン曹長」
「日本共和国は練習巡洋艦を派遣してくると申されましたが、どの様な艦なのでしょうか?」
「残念だが、日本共和国艦の情報は無い。仮想敵としているのにも関わらず、日本帝国艦の情報も不足している有様なのでな。判明しているのは、台湾島近海に布陣する旧式艦の情報ぐらいだ」
「その情報だけでも宜しいので、お話いただけませんか?」
「む?ああ、少し待ってくれ……。これだな」
ブラウン曹長は任官したばかりであり、相手の情報も民間人が持ち得る程度でしかないのだった。その考えに到り、執務机の後ろに置いてある資料棚から資料を引張り出した。
「この旧式艦隊の主力の殆どが第一次大戦の前後に建造された物だ。ただし、コンゴウクラスは4隻全てが廃艦になり存在しない。また、フソウクラスとイセクラスの4隻は12門の14インチ砲をそれぞれ搭載していたが、フソウクラスは連装3基6門。イセクラスは連装4機8門へ減少させ、艦尾に飛行甲板を設けて航空戦艦となっている。この航空戦艦と言う艦は、簡単に言えば制空戦闘機を搭載している戦艦だと言える。実際、この4隻が所属する艦隊の上空には、常時数機の戦闘機が警戒を行っている。例え、それが複葉機だったとしても、脅威であることには変わりがない」
「ニルス、それはどう言う事だ。複葉機程度おそるるに足らんではないか」
「ハルゼー、それは違うぞ。それに、1隻あたり20から30機の戦闘機を搭載していると言う報告がある。君は飛行操縦士の免許を取ろうとしていたな。なら、空母の指揮官になりたいのだろう。敵の戦闘機50機を突破して、敵艦を攻撃するならば何隻の空母が必要だ?」
「50!?何だ、そのふざけた数は……」
「同型艦同士で行動している。イセクラスなら2隻で50機ほど。フソウクラスなら2隻で60機ほど、と考えられる」
「そ、そんな数の敵機を相手にするだと……。今、合衆国にある空母をすべて投入したとして、1度に出撃できる戦闘機の数を考えれば……。どうにかなる…か?」
「そうだ。だが今は複葉機だが、単葉機になった時が恐ろしいと考えるべき数だ。いくら、艦載機とは言え、フロート持ちでは無く、車輪持ちなのだ。日本人は「近眼」だの「紙と竹で作る」だの言われていようが、侮れば全てが終わるのだ。それに、日本共和国のせいで、その考えでは本物の日本人と対面した時、バカを見るのは我々と言う事になる。なら、その予行練習だと言う気持ちで行ってきてほしい」
「ちっ。分かったよ、ニルス。ま、期待しないでまっていろ」
「あまり、はしゃぐなよ」
途中でハルゼーとの話となってしまったが、ブラウン曹長は、見詰め過ぎて資料に穴が開くのではないかと言うほど資料に目を通していた。
「何か、気になる事でもあったか」
「はい。これは、面白いですね」
「うむ?」
「先程、お話しに上がったフソウクラス、イセクラスの2隻ですが、主砲を換装している様ですね」
「「なっ!?」」
「砲塔の大きさはそれ程変わった訳ではありません。ですので、見逃されたのでしょう。しかし、ここの漁民に紛れた諜報員の証言のところに、「砲身は肉薄になり口径は増している」と書かれています。つまり、日本共和国の技術によって新造された砲を搭載していると言う事になります」
この少ない資料を短時間眺めただけで、この予想もしない答えを導き出したのだ。彼女は天才だ。女性である事を悔やまれるほどに。
「見間違えだと思っていたが…。確かに、日本帝国の技術では不可能だが、日本共和国の技術では可能である可能性があったか……」
「おい、って事は何だ?砲門が減っただけじゃなく、門数が減った代わりに、大口径になったってか?ふざけている……」
「搭載されている複葉機も怪しくなってきたな……。本当に、複葉機か?」
その答えも彼女は探しだしてきてくれた。
「ソ連の満州侵攻時に日日連合軍が、中国の要請で満州に派兵しましたが、その時に複葉機が数機目撃されていますね。特徴から、その複葉機である可能性が高いですね。「92式局地戦闘機二八型」と言われており、艦上戦闘機紫電五八型に着脱可能な補助主翼を付けたシロモノだそうです」
「そんなものまで!?しかも、陸軍の資料だよな…?」
呆然とするブラウン大佐とハルゼー大佐を横に、目を輝かせて彼女はこう言った。
「日本共和国って凄い国ですね!早く会いたいです」
しかし、それどころではない。つまり、複葉機だと思っているこの艦上戦闘機。実は、上面に付いている翼は着脱可能で、緊急時には投棄して単葉機となる事ができると言うのだ。確かに、航空戦艦の速力と甲板の短さを考えれば、短い距離で飛び立てた方がいい。複葉機ならば揚力が稼げるため、短い距離でも発艦可能だ。
着任早々、嬉しい問題を引き起こしてくれたブラウン曹長……。今後の活躍が大いに期待された瞬間だった。
今回4隻の航空戦艦が換装した主砲は、46㎝列車砲を艦載型に改めた、例のヤツです。砲身の直径もほぼ同じ、長さも36サンチ45口径砲(16.02m)と46㎝35口径列車砲(16.1m)では、ほぼ変わらないため、見分けるのは相当難しいです。




