017話
ワレワレハダマサレテイタンダー(ドイツ語)
ケンペーコワイ(提督談)
帰省の祝いは後日に回してもらい、羽生と黒島は、羽生の両親と照子と共に一番奥の座敷にやってきた。
今の国際情勢下での留学が、どれ程危険なのか。黒島は、ザックリとだが説明した。それには日本共和国の話が必須であり、話せる人間はおのずと選ぶ必要があった。
そのため、誰も奥の部屋には近づかない様に言いつけてある。
「先日…半年ほど前の話になりますが、日本共和国は中華民国の要請により、中国東北部、皆さんには満州、と言った方が宜しいでしょう。に、侵攻したソ連軍を撃退し、その次の侵攻を防ぐために、ソ連本土を攻撃しました。戦闘継続力を失ったソ連は、中華民国と和睦を行い、この戦闘は終結したのです」
それは誰もが知る事だった。ただ、それには続きがある。
「戦闘の後、ソ連は日本共和国軍の強さを外交の中で言いふらしてしまったのです。そのせいで、今、この国の対外情勢は悪いと言ってよいでしょう」
「言いふらした事が、悪い情勢に?強いのならば、恐れるのでは?」
黒島の言葉に、羽生の父親はおかしなことを言うと言うが、国際政治はそうではないといった。
「日露戦争の時、日本は英国と同盟を結びました。それは、余りにも強大な国。ロシア帝国に対抗するためであり、1カ国では無理でも、数カ国の国の力を合わせれば、対処可能だったからです。今回は、日本共和国が強大な国、ロシア帝国。FABDA連合……フランス、アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリアが、日英同盟です。南方に植民地を持った列強各国は、その強過ぎる日本共和国の「チカラ」に屈する事を嫌がり、身を寄せたのです。大変残念ながら、5年もせずに戦争になると言われています。そして、各国国民の対日感情も急激に悪化しているのです」
力の弱い者が集まるのは、世界の摂理であり、例え世界が変わったとしてもそれは変わらないと言う。特に、日本共和国と言う国は、この現代の世から外れた存在だけに、宗教家は「最終戦争だ!」と煽るだろうと。その宗教家を使う政治家も、使っている筈なのに使われてしまっているのだと。
「日本共和国には、その力がある。世界の理を弄れるほどの。……そもそも、全く歴史の繋がりさえない世界に、こうやって来ている時点で、彼らは只者では無いのです。それを理解している方が、日本共和国に居ると言うだけであり、「我が国」の様に、全てを破滅させるだけと言うことだってあり得るのです」
「世界を……破滅さ、せ得る?」
「ええ、日本共和国を生みだした「我が国」も、十分危険ですが、日本共和国の皇居におわす方々は、もっと危険でしょうね。なんせ、破滅をもたらすことしかしなかった我が国を、世間一般的に考えられる国に戻したのですから。ああ、彼らは頭のおかしいヒトタチですね」
少しどころか、多くを語ってしまった黒島に、羽生一家一同がドン引きしている。日本共和国のせいで、色々と危険なのは分かったが、余計過ぎる事をペラペラと饒舌に語った。余計過ぎるよ!
「まぁ、日本共和国がいなくても。どうせ、戦争になるのです。第二次世界大戦に……ね?」
「第二次…世界…大戦!?」
その兆しは既に始まっていると言う。それが、どこでどうなるかは、口をつぐんでしまったが、今、海外に行くのはよした方がよいと言う。
「それが、挽回できれば良かったのですがねぇ。残念ながら、日本共和国の外交能力は、「以前の日本のソレ」よりも低いのです。武力でどうにかできない。と、言うのならば、駄犬を調教する様にするしかない。ソレが日本共和国の考え方ですね」
ただし、短期的な外交能力は低すぎるが、中長期的な外交はウマ過ぎると言う。黒島の所属する国も、その手に引っ掛かったらしい。
短期的にはどうしようもない失敗でも、中長期的には信じられないほどの大成功であったと言う事例を多く輩出する国。それが、日本であり、日本共和国と言う国なのだと。
「まぁ、変な話になってしまいましたねー」
「変ってレベルじゃないだろっ!」
お茶でも啜りそうなほど、急激にほわほわとし出した黒島に、羽生は言葉遣いを崩して突っ込んだ。
「そんな、この国の政治家や、外交官でさえも知らない様な事を、ベッラベラと一般人に喋るな!」
「ああ、やっぱり」
「私も初耳な事だらけだったぞ!特に後半が!世界の理さえ変えられる力とか、どこぞのファンタジーだよ!そもそも、日本共和国は共和制の国じゃないのか!皇族が今も存続しているとか、初耳だぞ!?」
日本共和国と彼らが名乗っているため、誰もが彼らは天皇制を廃止した共和制国家だと思っているが、日本共和国の「共和」の部分は、名ばかりと言う事になる。
衛星国と言う名の植民地を所有しているため、「帝政国家」であると言える国だ。
「うええ!?だって、この国の今上天皇は、日本共和国出身者ではないですか…」
「なっ…にぃ!?」
「だって、そうではないですか。幼かった明治天皇の教育係をし、晩年の明治天皇を支えた摂政。その明治天皇の遺言で、天皇となった。今は皇太子の裕仁殿下が前に立っていらっしゃりますが、今上天皇は最低でも、100歳を超えているのですよ!?ただの人間ではないと分かるではないですか」
それは、あえて誰も詮索しなかった事だった。そして、知ってはいけない真実。おそらく、日本共和国もいつかは公開するだろう。だが、今ではない。
「ま、まさか。日本共和国がこの世界に来たのは…」
「ス、ストップです!これ以上は、本当に駄目ですぅ!」
軍人のその覇気を纏い、黒島に言い寄ったため、両親と照子は恐がっていた。特に、優しい兄が、そんな変わりようをしたのだ。照子は部屋から走り去ってしまった。
その、後ろ姿を眺めるしかなかった4人に、新たな人物が声をかけた。
「黒島統合大佐」
その声に、黒島は「ひっ」と小さく声を上げた。
「面白そうな事をしているなぁ」
「あ、あが…」
「一応、暴走だけはしてくれるなよ?捕まえなければならん、我らの事も考えて欲しい物だねぇ」
ガタガタと震え、その人物から目をそらす黒島。その人物は、右手に持った鞘から、少しばかり刀を抜いて、見せつける。黒島の脅え様を一通り楽しんだ後、こう言い残して彼は消えてしまった。
「敵を騙すならば、先ずは味方から。そうは言うがね、そう言う優柔不断な感情を持たせるのはよくないよ?君は役者には向かないんだ。向かない事はしない方がいい。ね?」
まぁ、あんなあとだったが、両親を騙そうとしたのは、簡単にバレた。しかし、黒島は震えて私の横から離れないため、今この行為が演技かと問われても、違うと断言できる。それに、演技を強要したのは自分なので、黒島が悪いと言う訳ではないとも。
「お前は、変わらんな」
「親父……」
「急に、南蛮渡来の変な日本語を使いだしたときは、変わってしまったのだとも思ったが、根本は変わらんのだ。楽な方に逃げれたが、最後にはやはり面倒になる。昔と、何も変わらんよ」
「それは……」
「照子の学費を稼ぐために、軍に入ったのだろう?そして、今は本来機密事項である事を話して止めようとした。妹思いのいい兄だ」
説教を受ける様に正座をして対面していた2人だが、羽生の父親は不器用に笑い、羽生の頭を乱暴に撫でた。急な事に、呆然としたが、黒島が復活して深呼吸を繰り返している。その背中をさすり、落ち着く様に言い聞かせる。
「はぁ、黒島さんが本当に結婚してくれれば、我が家も安泰なのだろうがなー」
「おい、蒸し返すなよー」
「本当に、残念なのだから。残念がって、何が悪い。こんな残念がる親父に、孫の顔をいつ見せてくれるんだ?ぁん?」
「孫の顔なら、見ているじゃないか、兄貴夫婦の!」
「まだ、お前の孫と、照子の孫を見ていないぞ!いいから、早くするんだよ!」
「そんなホイホイと子供ができる訳ないだろうが!この、エロ親父!」
「男がエロく無くてどうする。そう言うお前だって、黒島さんのおっぱいを押し付けられて、顔を赤くしているじゃないか!」
「しょうが無いだろ!やわらかいんだよ!おっぱいは男の夢が詰まってるんだよ!ぷるんぷるんなんだよ!そもそも、こんなロケットおっぱい初めてなんだよ!」
「俺は、お前が羨ましいぞ!そんなロケットおっぱいな美人を連れて!代われるなら、俺が代わるわ!」
「やるかボケ!」
「誰がボケじゃ、アホ!」
「誰がアホじゃ、スカポンタン!」
黒島はそのやり取りを見て、くすくすと笑っているが、羽生の母親は諦めた様にため息をついている。それをいいことに、更にデッドヒートする男どもを放っておいて2人は部屋を後にした。
羽生の母親は、ああなると止まらないからと、黒島を連れだした。
「大丈夫かしら?」
「あの2人、がでしょうか?」
「あなたがよ」
「……。ええ、大分、落ち着きました」
黒島が、羽生の前であのような反応をしたのは、初めてだった事は伺えた。あの慌てようは、中々見れないと微笑む羽生の母親に、渋い顔をする黒島。
「軍人であるが故に、恐ろしいのですよ…」
「そんなに…?」
「はい、彼ら憲兵は特に」
「……。うん?」
黒島は憲兵の恐ろしさを、また饒舌に語りだした。しかし、その理由は彼女には理解できそうにも無かったが、大体察する事は出来た。そして、こう思った。
この人、大丈夫なの?
ある意味、黒島も日本共和国人に似た者なのかもしれない。黒島曰く「持ち込み禁止だったエロゲーを持ち込んで折檻された」事が、憲兵トラウマの原因だと言う。
エロゲーが一体何なのかは分からないが、凄まじくどうでもいい様なものだろう。心配するだけ損な気がしてきた。
「まあ、兎に角。お酒を持って行きましょう」
「ん?どこへです?」
「今頃、意気投合して語り合っているわよ?貴女の、その胸の事で…」
黒島は一気に頬を赤くした。そんな黒島が面白くて、黒島の胸を右手で鷲掴みにした。
「く……。私よりも大きいなんて…」
「あ、あはは…」
黒島は、「貴女も十分大きいですよ?」と思ったが、言わない事にした。これ以上何か言えば、何か塔がたちそうな予感がしたからだ。
羽生の母親の予想を裏切って、2人はドッタンバッタンと取っ組み合いの喧嘩を始めていた。余りの五月蝿さに、不機嫌そうに照子もやって来ていた。
「何なの…、コレ」
「いつものよ」
「……」
黒島はため息をついて、2人をひょいと分離した。まるで、猫の様につままれる大の大人が2人。シュールである。
「おお、キト」
「あ、もう。それいいです」
呆れる様に羽生に冷たい視線を向ける黒島。
「胸がなんです?こんな姿ですが、私は男ですよ?」
「「はい!?」」
2つの声が重なった。羽生も羽生の父親も耳を疑っていた。
「ただの女が、軍人に成れる訳ないじゃないですか。私は、この戦闘機人の機体を使っているに過ぎません。軍籍をお調べになれば分かりますよ?性別、男と書いてありますので」
「な」
「体に欲情するなんて、所詮は男と言う事。こうも、あっさり騙されては、これから先が思いやられますね」
黒島のその眼は、汚い物でも見るかのようなそんな目をしていた。今までの柔らかな視線は全くない。
まぁ、ショックだったが。羽生は、良かったのかもしれないと、逆に考える様にした。そうでなければ、あまりの衝撃にショック死しそうだったからだ。
「で、本心は?」
照子に言われ涙目で、ポロリと漏らす。
「私の初恋さようなら……。って、何を言わせるんですか!?」
「男なのに、男の事が好きって。頭おかしいんじゃないの!?」
「仕方が無いじゃないですか!男だったのはたったの40数年で、その後の600年ほどはずっと女の身体なんですよ!?男に欲情するななんて無理に決まっているじゃないですか!?」
「じゃあ、貴方は本当はどっちなのよ」
「心も体ももう女ですよ。書類なんて、変更手続き次第で変えられます」
「邦兄さんは渡さないわ!」
「兄弟は結婚できません。つまり、私は可能。それに、そんなまな板じゃぁ、男の人も貴女が本当に女性か疑ってしまいますよ?ふふん」
「なら、その駄肉を寄越せ、うしちち女!」
「ああん、まな板が、追いかけて来るぅ~」
ほかの3人を放って別のところで戦争が勃発。終結は遠いな。そんな予想しか立たなかった。
本来は、重要な話を入れたいのですが、R-18仕様の話しになるため飛ばします。




