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お前らいい加減にしろっ(A)  作者: 加賀函館
第2章 ちょっくら、コンビニ逝ってくる
16/72

016話

Q.こんな妹で大丈夫か?

A.大丈夫じゃない、問題だ

 日本共和国の増援派遣艦隊と入れ替えに、第十艦隊がこちらに還ってきた。既定の母港は横須賀だが、今回だけは舞鶴に寄港する事になっていた。

 殆どの艦が、再度ドック入りするため、両舷上陸と、それに伴った休暇が与えられる事となったのだ。

「乗員の疲労も困憊しているだろうしな」

 羽生は久し振りに触れる空気に、顔を緩ませた。同じ日本の空気だと言うのに、こちらの方を懐かしむとは、何だか面白い。

「羽生司令はどうなさるのですか?」

「ここ数年、実家に帰っていなかったからな…。ついでと言っては何だ、帰ろうと思っている」

「……そう、です、か」

 羽生に問いかけた黒島は、無表情そうに見えて、寂しそうにしている。

「黒島参謀はどうするのかね?」

「…………。私は孤児ですので、帰る場所はありません」

「すまない」

「いいえ、良いのです」

 その会話に、気を利かせてか、源田が割り込んできた。

「コホン。黒島参謀、どうだね。司令のお供をお願いできるかな?従兵も久し振りの帰郷なのだ。代われる者がいれば、その者も喜ぶだろう」

 黒島は、源田の提案に目を輝かせて応じた。羽生も異論は無かったが、お供をするなら、その服装は駄目だとも伝えた。

「流石に、それは…な?」

「私服で宜しければ、ありますが…?」


 それ、制服だったのか!


 誰もがそう思った。一体誰が、作ったのかと聞けば容赦無く答えが返ってきた。

「山本です」

「あの、ひと、が?」

「源田も酒の入ったテンションで、賛成していましたので。後で、吐いていましたが…」

「「……」」

 あの「つるぺた令嬢」の印象が、「センス壊滅つるぺた令嬢(笑)」になった。


 私服の黒島を見た羽生の第一印象は、本当に大和撫子なのだな、だった。落ち付いた色合いの和装に、袴を合わせたスタイルだった。旅行鞄に蛇の目傘を持つそれは、1つの絵になっていた。

 普段と違い、おっとりとした雰囲気を纏わせ、羽生を待っていた黒島は、羽生を見つけ手を振った。少し、雪がちらついており、外套を羽織っているが、その可憐さは、全く失われていなかった。

 対する羽生も、外套を身に付けており、その中は冬季軍装となっていた。

「羽生さん、それでは行きましょうか」

「ああ、そうだな」

 黒島の手から鞄を取り、羽生は歩き出そうとしたが、黒島が手を添えてその手を止めた。

「今回は、私が従兵なのです。ですので、羽生さんの荷物もお持ちします」

「それでは、格好がつかないではないか」

「例え、そうであってもですよ?」

 無理矢理、荷物を奪われてしまった羽生は、仕方なく傘を持つ事にしたが、エヅラが凄まじく悪い。いたたまれなくなった羽生は、命令して自分が持つ事にした。

 すぐに列車に乗ったため、疲れる事は無かったが、黒島は不満そうに口をとがらせていた。仕事中の表情とは違い、今は素なのだろう。いや、厳密に言えば、仕事中に分類されるだろう。本人は、その事を忘れている様ではあった。今さっき、自分の事を「従兵」と言ったばかりであるにもかかわらずだ。

「そう言えば、羽生さんの御実家はどこなのでしょうか?」

「ああ、横浜だよ。と、行っても鎌倉寄りなのだがね」

「笠間や原宿の方…ですか?」

「あ、ああ。小雀の山の上だ。よく知っているな…」

「車でよく通りますので(エッヘン」

 胸を張った黒島の胸を、ガン見する事となった羽生。押し潰されても分かるほど盛り上がった2つの丘、黒島は全く気付いていないが、いいオカズになってしまう。黙っていても美女なのだ。男を惑わす様な仕草に、今更ながらフツフツと何かが溜まって行くのが分かった。例え、力が敵わなくても、襲いかかりそうで恐ろしいものだ。

「ん?どうかなさいましたか?」

「!?いや、普段と違うと思ってね」

「そ、そうでしょうか…?なるべく話しかける様にはしているつもりですが……」

 頬を染め、染まった頬に手を添えて悶えるその仕草に、ある言葉が浮かんだ。ああ、これが「萌え」なのか。日本共和国人が萌える理由が、分かってしまった。ただ、こう言う萌えなら歓迎できるとも。

「あ」

「ん?」

 ふと、何かに気が付いた黒島が、呆然とする。

「そ、その。羽生さんはご結婚されていないのですよね?」

「あー、そうなのだよ。そう言った話は一切無くてねー」

「その、ご家族に変な勘違いをされる事は御座いませんか?た、例えば、私が恋人…だとか……」

 その考えは浮かばなかっただけに、羽生も眉間にしわを寄せた。しかし、もうそれでいいかもしれないと諦めた。両親が安心してくれるのであれば、それがいいとも。

「宜しいのですか?」

「いや、それは私が聞きたい。黒島参謀、いいのか?その様な勘違いに巻き込んでしまっても?」

「私は一向に構いません。羽生さんの命令に従います」

 頬を染めるその笑顔は、恋人同士で乳繰り合っている様でもあった。それが、かなり気恥ずかしいため、2人で耳まで真っ赤に染めて、これからの予定を話し合う事となった。


 いくつかの列車を乗り換えて、大船まで帰って来た。しかし、ここもいつの間にか様変わりしていた。私が最後にきた時には、未だ舗装すらもされていなかったのに、道路は舗装され、駅前ロータリーが整備されていた。人力車の代わりに、路線バスが整備された事により、人が増えた印象だ。

 羽生は、手紙に書いてある路線の系統をどうにか探し出した。そして、バスに乗り、最寄りのバス停でバスを降りると、小旗を持った人々が、羽生を出迎えた。

 一挙に出世した羽生を讃える人々。そして、やはり、羽生と共にバスから降りてきた黒島にも注目が集まり、大騒ぎとなってしまった。

 この出世で、女性に縁の無かった羽生に、町長が縁談を持ってきたのだと言う。しかし、羽生の隣には女性がいたのだ。そう言う事は、早く言えと言わんばかりにもみくちゃにされてしまった。

「羽生さん…」

「ああ、そうだな」

 黒島にそう言われ、羽生は黒島を紹介した。

「この人は黒島キトさん。不肖ながら、お付き合いをさせてもらっている」

「黒島キトと申します。皆さま、ふつつか者ですが宜しくお願いしますね」

 深々とお辞儀をした黒島。やはり、男どもはその豊満な胸に目がいってしまった。手を前で交じり合わせたため、二の腕で胸を挟み込む様な形となり、更に胸が強調されてしまっていた。流石の羽生も、ワザとだろうと苦笑するしかなかった。と、1人の女性が羽生の前に現れた。

「邦兄さん、お久し振りです」

「ああ、照子(てるこ)。久し振りだな」

 彼女は羽生の妹だ。羽生には優しい眼差しだが、黒島に対しては、今にも噛みつきそうな目で睨みつけた。口調は穏やかで、言葉も選んでいるようだが、纏うオーラが全く違う。羽生は「私に女性の話が無い最大の原因」だと言った。

「噂は、かねがね」

 黒島は、早速ケンカを売る事にしたようだ。

「どの様な、ウワサなのでしょうか」

「重度のブラコンのヤンデレだと、お聞きしていますよ?」

「ぶらこん?やんでれ?」

「ああ、日本共和国語は、詳しくは無いのですね。ふふん、そうですか」

 照子も山本嬢と同じく平たい方であるため、黒島が胸を強調する事に、青筋を立てている。そして、いつ殴り合いが始まるか判らない状況に、周囲が困惑するが、羽生に止める気が全くない。

「邦兄さん、キトさんをお借りして行っても宜しいでしょうか?」

「あー、あまり無茶はするなよー」

 羽生は黒島に対してそう言ったつもりだったが、照子は黒島を庇うために、照子に言ったのだと勘違いを起こしたようだった。

 2人は、すぐそこのカドを曲がったところで決闘をしたようだが、数秒で決着が付き。気絶した照子を、お姫様だっこした黒島が戻ってきた。

「ちゃんと、自重しましたよ?」

「マジですまんな」

 褒めて褒めてと、目を煌めかせていたため、頭をナデナデする事となった羽生だった。


 道すがら、話せる範囲ではあるが、日本共和国に行った事を話す。こちらでは、夢の様な国と語られるかの国だが、ある意味そうなのかもしれない。と、羽生は思っていた。物事が便利になっている。

 一方で、文化が全く違う国だった。それはまさしく、「日本共和国と言う惑星」と言うべきだろう。そして、その世界には、国が3つしか無かった。知っている国名は無く、ハワイとレキシントンと言う2つの隣国が存在するだけだった。

「キト、君はこの2国について何か知っているのかい」

「あー、それ軍機ですよ?」

 既に、黒島が軍人である事は話している。

「そうですね。、ハワイ共和王国は環太平洋の島々が集まった国。歴親沌(レキシントン)保存帝国は、日本共和国の数万倍以上の国力と軍事力を持った国です」

「な…」

 黒島は人差し指を立て、羽生の口元に当て、それ以上言葉を発するのはダメだと示す。

 その様子を見た照子は、ドス黒いオーラをより一層黒くして、2人の背中を見ている。軍人だと聞いた時は、周囲を納得させるために、無理矢理話を創ったと思っていたが、この様子では正真正銘本物なのだろう。

「なら、私の国の話はどうですか?」

「キト…の?ああ、そう言えば、君は日本共和国人では無かったね」

「うっ…。彼らと一緒は、流石に困りますよ…。私の国でさえ、彼らは頭がおかしいと言われているのですから」

 日本共和国関係に造詣が深かったため、勘違いをしていたようだが、黒島は日本共和国人では無い。ただ、今所属している国の人間であった訳でもないと言う。

「状況は、今のこの国と似ていますね。ただ、あの国は日本共和国の様に、手をかけてはくれませんでした。ですので、この様な急速な発展では無く、少しづつ。ゆっくりとでしたが…」

 色々と込み入った理由で軍人をしている黒島だが、その表情は故郷を想う1人の女性そのものだった。その顔をマジマジと見つめていると、羽生に照子が飛びついて来た。

「なら、私の話も聞いてくださっても宜しいですわね」

「ええ、照子さんのお話しもお聞かせ下さい」

 黒島に促されたのが気に入らなかったのか、羽生の首筋に回す腕の力が強くなった。

「む、ま、いいでしょう。私は、今は女学生ですが、来年には留学する予定なのですよ。ですので、邦兄さんに色々とお聞きしたい事があるのです」

「留学?この情勢で?」

「え?ええ。そうですけれども…」

 羽生は黒島にアイコンタクトを取ったが、今の国際情勢が国内に全く反映されていない状況に、焦りを感じている。

「それは、ご両親が居る時にお話ししましょう。流石に、これはマズイですので……」

 険しい表情となった羽生と黒島は、歩く速度を早め家路を急いだのであった。


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