010話
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ミツエ・ヨコヤマ
日系アメリカ人系日本共和国人2世です。片言の日本語を喋りますが、ただのシャレですので、真面目な時はフツーに喋れます。なお、日本生まれ日本育ちなので、外国語は不得意です。
大軍縮。
日本共和国が1929年に行った。日本の陸海軍の軍備を一挙に廃棄した、一大軍縮事件の事だ。諸外国では、自殺行為だと言われ大々的に書きなぐられる事となった。しかし、結果だけ言えば、それは正しかった。いや、やり過ぎてしまったが故に、タイミングを逃した国々が多かった。
日本共和国は、軍縮をして国防能力の殆どを失った日本の代わりに、国防を担うと言う気の狂った安全保障同盟を締結。どこの誰が考えたか知らないが、正気を失っている。と、アメリカの有力政治家が唾と拳を振って喚き散らすほどに…。
そのため、今では日本近海は日本共和国艦の巣窟となっており、下手な軍事行動やささやかな諜報活動さえも行えない状態になっていた。また、日本共和国は委任統治領などからも人員を動員して、国防兵力の拡充だけは促進している様だった。
しかし、人員は増えていると言うものの、日本のどこを探しても軍人の数はかなり少なかった。そして、この事をソ連が知ってある事が起きるのだが、まだ誰も知らない事であった。
彼らは、汗と泥に塗れて厳しい訓練を受けていた。カーキ色の軍装に、大型のバックパック、銃剣付きのアサルトライフル。陸や海はこの際関係無い。要するに、戦えればよいのだ。そう言わんと、怒鳴る教官に、誰もが悪態をつきつつも従う。
遠くで雷鳴が鳴り響き、地面が耕される。それをしり目に、航空機の編隊が緩降下して、標的に次々と攻撃を当てて行く。そう、ここは軍事訓練施設である。しかも、日本共和国の……だ。そして、羽生達も今はこの国にいた。ただし、座学のために。
これ以上の勉強をしなくて済むと、海軍大学卒業時に大喜びした羽生だったが、また舞い戻って来てしまった気分になり、相当落ち込んでいた。
日本共和国国防大学校。横須賀市浦賀にある本校は、昔と違い山1つが学校の敷地となっていた。そして、在学生の数は5倍以上になっており、数多くの学科が存在した。
そんな中、羽生達第十艦隊中枢は、日本共和国やその他の国の軍事常識や戦術、戦略を徹底的に叩きこまれていた。国防大学総長は再度の教育を受ける士官達に、「日本共和国がやれと言うならば、やるしかない。実は分かりませんは、通じないからな」と、厳しい一言を贈っている。
そして、真面目に講義をしている日本共和国人講師を前に、感動を覚えつつ轟沈する士官が多く出た。なんせ、二千年は軽く超える量の軍事常識だ。たった、半年で会得しろとは無茶過ぎた。と、言うよりも日本共和国側はワザとそう設定している。そうすることで、脳に直接知識の書き込みをさせる口実を造っているのだ。
その、最初の洗礼を受けてしまった羽生は、死んだ魚のような目をして口からエクトプラズマを吐きつつ、うわ言の様に「もえ~、もえ~」とつぶやいている。こんなのを見せられたために、誰もが協力し合い一致団結したが、無茶な物は無茶だったため、源田達も仲良く仲間入りを果たした。
「うぐ、黒島参謀の服装がフツーの服装に思える…。何と言う事だ!」
流石の羽生も頭を抱えて転げまわるが、源田は達観と言う名の観念で、清々しい笑顔を浮かべていた。
「上層部も無茶をやる…」
黒島はブチ壊れてしまった2人を連れて、新横須賀港にやってきた。車窓から見える空母が2隻、その護衛が12隻の計14隻が姿を並べていた。
「あれが、我が艦隊に配備される新型空母か…」
「はい、そうです」
復活した羽生が黒島に問う。黒島は肯定し、6日後に引き渡しが行われた後、練習空母にれいかな(明治姫)とともに訓練を行う予定だと話した。
「確か艦名は…」
「瑞龍型航空母艦、瑞龍と驗龍です。基準排水量14万6千トン、VP(ヴァイタルパート:防御区画)は97%、甲板は対48cm砲弾防御、舷側は対56cm砲弾防御です。搭載機数は106機、補用57機で、速力は最大55ノット、巡航35ノットです、ですので艦隊巡航速力は30ノット前後になるでしょうね」
羽生が言うよりも先に、黒島がその先を連ねた。日本共和国の基準ではギリギリ中型艦に入り、アチラでは超巨大艦に分類されるだろう。そして、山本五十六の言い分で調達された大鳳型よりも強力な艦となっている。
大鳳型航空母艦。大鳳、龍鳳、神鳳、祥鳳、瑞鳳、海鳳、鶴鳳、千鳳の8隻からなり、基準排水量12万2千トン、VPは82%、甲板は対46cm砲弾防御、舷側は対41cm砲弾防御になっている。最大速力48ノット、搭載機数は132機、補用11機となっている。瑞龍型は継戦能力を求められ、大鳳型は攻撃力を求められていると、解釈できる。
その代わりに、大鳳型は通常の空母と言う型にはまった空母でもある。護衛が必要であり、水上戦闘を苦手としている。
しかし、瑞龍型は戦闘空母としての側面を持つ。ただし、水上戦闘力はおまけの様なもので、軽巡洋艦程度の物だが…。大鳳型の高角砲が10cmなのに対して、瑞龍型は15.5cmと現用日本共和国艦と同じモノを搭載する。それに加え、対魚雷防御用魚雷発射管や近接防御兵器、誘導弾垂直発射管を備え、一定以上の対潜能力も持つ。
予算が少なかった割に、こちらの方が高性能なのは何故なのか。羽生や源田だけでなく黒島も疑問に思っていた。
「それは、ワタシが答えましょー」
空母の停泊する新横須賀港に車が止まると、技術士官と新たに艦隊に加わる事になる2つの人物が近付いてきた。
技官は、「こんなこともあろうかと」と説明と言う名の自慢を始めた。彼女の言葉を整理するならば、軍備整理中の同盟国のスクラップから継ぎ接ぎで造ったため、安上がりにできたとのこと。その分、余った予算で武装が強力なものになっているとの事だった。
「……。!?」
いぶかしむ様に技官を見ていた黒島が、驚愕を顔に出した。
「貴女はもしかして、ヨコヤマ造船中将ですか!?」
「おお、ワタシを知っているのかね?」
「知っているも何も、聖型重巡洋艦の主任設計者ではありませんか!」
そうだともと言いたげに、親指を立てる老女。テンション高いなぁ……。
「中々、オモシロイ物を造らせてもらったよ。ワタシも捨てたもんじゃないダロ?」
「流石と言うよりも、やり過ぎでは…」
「ダイジョーブ!扱いやすい様に制御機人付きだからサ!」
ハイテンション老女はそう言うと、2人の制御機人を紹介した。赤い髪に緑の瞳の女性型機人が、瑞龍の制御機人。黒い髪に茶色の瞳の小柄な女性型機人が、驗龍の制御機人。であると。
瑞龍は無表情だが、驗龍は人懐っこい笑顔を浮かべている。既に、艦の乗員とは顔を合わせ、訓練に勤しんでいる様だが、この落差は何なのだろうか。
「瑞龍は、歴戦艦からこの任務についてもらっているから、楽観視とかはしないタイプなんだよネー。驗龍はこの任務が初めてだからサ。経験が不足してるのヨ」
瑞龍の方に顔を向けると、こちらを見るなと言いたげに眉を寄せる。
「ヨコヤマ造船中将には、色々と義理があるのです。短い期間とは言え、共に闘うと言うのであれば、私は手加減と言う物をしないので、そのつもりで覚悟をしてください」
「義理っていうかサー、親友ナンダケドね」
照れる様に言うハイテンション老女。
「自衛軍に入り立ての時からだしな」
「いやはや、懐かしい」
ハイテンション老女に口元を緩め、皮肉の様に言う瑞龍。腕を組んだその高圧的な態度にしては、優しい目をしている。が、他人が見ているのを思い出したのか、すぐに厳しい目に戻ってしまった。
「瑞龍!よろし、ぴぎゃ!」
驗龍が元気よく挨拶をしようとしたが、瑞龍の拳が直撃して驗龍が地面とキスする。
「例え、共闘する仲だったとしても、礼儀は必要よ。新造艦なら、タクサン教えてあげなくては…ねぇ?」
瑞龍の顔が、加虐に歪み、何だか恐ろしい言葉が聞こえてきた様な気がする。改黄泉平坂ってこんな機人だったか…。植えつけられた知識を思い出すが、その様な事は無いと結論が返って来る。そして、ずるずると引きずられ、驗龍は瑞龍と共に艦に戻って行った。
「あんなカンジだけど、根は良い人なのダヨ。海自の改黄泉平坂にしては良識人だしネー」
「海自の」という言葉に反応した黒島が、ヨコヤマに確認する様に聞く。
「そう言えば、改黄泉平坂……なのですよね?」
「ン?ああ、そう言えば、軍機だからあまり知っている人間は少なかったネ。そう、あの2人は海上自衛軍仕様の改黄泉平坂級…つまり本来の改黄泉平坂級と言う事になる…デネ、陸上自衛軍仕様…キミタチが植え付けられた知識にあるのはコッチなのサ…とは別物になる」
「「「はい?」」」
「海自仕様の改黄泉平坂は、尋常じゃないほど面倒くさいヤツラでね。「自分達は傍観者に徹したいから、命令には背かない様にする。ただし、人間感情に巻き込むのはご免こうむりたいね」と言って聞かなかったので、陸自仕様の改黄泉平坂が造られたと言う訳サ。実際、人間感情に巻き込まれた改黄泉平坂によって、「呪う」事件が発生しているカラ、十分気をつけてネー」
「呪う」って何ですかね?ハッキングじゃないんですか?と、羽生が聞くと、「機人だけの被害だったら、ソーなんだけど、人も被害に遭っているからサー。みんな「呪い」だって」という答えが返ってきた。なお、驗龍はあんな性格で、本人に了承を得ているため大丈夫なのだとか。大丈夫なんですかね?
加賀函館の書く話に登場する機人は、基本的には人間の様な表現をされます。彼ら彼女らは、サイボーグなどの指定が無い限りは、アンドロイドと言う事になります。
しかし、とある事情から、量産品であるにもかかわらず強烈な個性を各々持っています。特に、今回の瑞龍がそうです。




