例えば君に石を投げたら、君は痛いと言うだろうか。
夢から醒めると、いつもどんな夢をみていたのか忘れる。
夢に出てきた人の顔が思い出せない。夢の中で、どんな行動をして、どんな発言をしたのか、誰と過ごしていたのか、どこにいたのか、思い出せない。
思い出さないといけない気がするのに、そういう夢に限って思い出せないままだ。
どうでもいい夢ほど、くだらない夢ほどはっきり覚えているのに、今日みた夢がなんだったのか思い出せない。
もどかしさが残る。
「なんだっけか」
時計に目をやると、時刻は5時00分だった。付けっぱなしだったテレビからはアナウンサー達の元気な「おはようございます」という声が耳に入っていくる。
体を起こしてサイドテーブルに置いてあったタバコに火をつける。今時タバコなんて流行らないのに、なんで吸っているんだろうとぼんやりと考える。なんでだっけ、もう忘れたな、理由なんて初めからなかったのだろうか、タバコを吸う理由なんて人それぞれだけど、大体はなんとなくカッコイイから、この理由が多い。
俺もそんなくだらない理由だったのかもしれない。
「優、起きてたんだ」
背中から聞こえてきた声を合図にタバコの煙を吐き出し、灰皿に置く。
灰皿に置いたら、思い出した、タバコを吸い始めた理由。
「終わりにしようか」
テレビでは速報で入ってきたらしいニュースを女子アナウンサーが神妙な面持ちで原稿を読んでいる。