一月の桜
一月十三日。僕の高校受験が終わった。私立の学校で、県内では中程の学力があり、スポーツも中程の成績を持つ。学校のイメージも、良くも悪くもない。
一人称が『僕』だし髪も短いが、僕はれっきとした女だ。今も紺色のプリーツスカートを穿いているではないか。玻璃歩美と言えば、ある筋の人はよく知っていると思う。実は僕には霊感があるんだ。それで気まぐれに除霊をしたりしている。不正は苦手だから試験は真面目に受けたけどね。
家から学校まで、路線バスで一時間くらいかかる。始発から数えて一つ目のバス停に乗り、終点の一つ前で降りると学校に着く。僕の中学校からも半分くらいの生徒が受験している。でも、そのほとんどは滑り止め。僕のように最初からこの学校を目指す人は少ない。
僕は心霊部があるからという理由でこの学校を選んだ。推薦入試も考えたけれど、それだと特進コースに入れられるからやめた。鯛の尾より鰯の頭。鶏口牛後。そういう言葉は今日の国語でも出題された。
全ての試験と面接を終え、バス停からバスに乗り込む。一月ともなると、比較的温暖な福岡でも息が白くなる。そう言えば、地理の問題では長野県の特産品を問われた。林檎で合っているはずだが。
僕はいつも通り一番後ろから一つ前の座席に座る。バスを見渡すと、市内の色々な中学校の制服がある。なんだかオールスターが集合したようだ。通路までぎっしり埋まった。これが皆十五歳だと思うと、不思議な感じがする。
試験を終えた同乗者たちの顔は、割と穏やかに見える。彼らや彼女らの大半にとっては滑り止めなのだから、受かって当然くらいの気分なのだろう。かく言う僕も、結構自信はある。英語が得意な背後霊のアドバイスで、He や She を「弟は」とか「あの子」というようにバリエーション豊富に訳してみた。
バスの人口密度は、博多駅前で急激に低下する。皆それぞれの乗り換えのバスへと向かっていく。僕はそのまま待機。ドアから寒気が流れ込む。セーターやマフラーではとても防ぎきれない。
もうすぐ僕が降りるバス停が見えてくる。いつもは面倒がって押さない降車ボタンを、今日は押してみた。高校受験にピリオドを打つように。あるいは、今日という公演の幕を降ろすボタンを押すように。
ピンポン。次、停まります。
聞き慣れた音声。全てのボタンがピンクに光った。桜が咲いたようではないか。こんなに寒かったらまだ桜など咲かないはずなのに。本物の桜は三月にとっておこう。その頃、僕はどうしているだろう。