8 お父様は心配性
本文が短めになってしまったので、物語の背景の様なものも付けました。
「仕事はどうだ?勤め始めて2週間経ったか?」
と帰宅したアーノルドが問うと、ユリアーヌは笑顔で答えた。
「ええ、司書のお仕事と違ってカウンターでの受け付けや返却が主だから、そんなに難しいことはないわ。」
実際、貸出は本の情報と本人の情報をルーニー操作で図書管理システムの魔石に記録後、貸出帯の魔石にも共通の情報を持たせ本に装着させる。返却は本に付けた貸出帯の情報を読み取って間違いがないか確認するだけだ。
未返却の本を調べ借主に通知したり、館内の書架を除いた場所の掃除などもする。
本を書架に戻しやすくするために分野別に分けることはするが、実際に本を戻したり検索システムで探せない本の案内は司書の仕事である。
「お父様は心配しすぎなのよ。ペンダントのおかげで図書管理システムの魔石を発動させるくらいは問題なくできるわ。誰も私が皆と違うところがあるなんて気付かないほど自然に。それに…何度もこっそり図書館の外から覗いていること、私知っているんだから。」
ゴホゴホ。飲み物を飲んでいたアーノルドがその言葉にむせた。
「本当に?」マリアンヌが言った後に、クスクスと笑った。
「最初は仕事をこなせるか心配で見に行ったんだが、日が経つにつれて明らかにユリア目当ての男どもが増えてきている。やっぱり『オルスター家』の娘と言って回った方がいいのかもしれない。」
とアーノルドが真剣な顔をして言うのを、ユリアーヌは困った顔をして
「もう!そんなことはないわ。大丈夫よ。図書館なのよ、場違いな話をしてくるような人はいないわ。それに頼りになる同僚がいるの。キャロルのひと睨みで即退散よ。」
と過保護すぎる父親に言った。
オルスター家の名を出せば、ただでさえ人目を引く黒髪と黒目の外見であるのに、さらに注目を浴びるのは必至だ。
「ほら、あなた。大丈夫よ。ふふふっ、これじゃあ、ユリアがお嫁に行くことになったらお相手は相当苦労するわね。」
クスクスと笑いながらマリアンヌが言えば、
「け・け・け・けっこん!結婚なんてまだ早すぎる。」
声を荒げ、立ちあがって言うアーノルドに
「私が誰かさんにプロポーズされた歳は、ユリアより年下の15でしたけどね。」
と笑いながらマリアンヌが言えば、彼は「うっ」と顔を赤く染めて黙って再び席に着いた。
♦♦♦
昔からある王立学校は、今も貴族籍を持つ子弟が多く在籍する。
王が政をしていた時代は貴族社会でもあったので、身分を表す称号はとても重要であった。
今の国王の2代前に王政から民主制に変わったものの、実際はまだまだ貴族制と言った方がよい状態だ。
近年は公正に試験や面接などを行い、採用後も実力や才能のある者は優遇されるようにはなっている。
それでも今も貴族籍を持つ者は「ない者」に比べると、長年領地の運営や交易などで築いた財産やノウハウがある。
そのため豊かな生活ができ自ら手厚い教育を受けることができるので、国政や省庁で働く人は恵まれた家の者=貴族籍の者が多いのが現状だ。
現国王は5年前に有り余る王家の財で国内の学校を整備し、子どもは10歳になると無償で各地にある公立学校で教育が受けられるように国が法で定めたのだが、この試みの成果が出るのは今少し時間が必要である。




