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55 アシャンテ孤児院にて

亀更新で申し訳ありません。

セレイナに抱きついたままユリアーヌはギュッと目をつむり、慣れない感覚を何とかやり過ごしているうちに突然不快感が無くなった。

ユリアーヌが目を開けるとそこは見慣れたアシャンテ孤児院の中庭だった。


「あっ!セレイナせんせい!あれ?ユリアお姉ちゃんも。」

「セレイナせんせい!ニナせんせいもウラエルせんせいも、おなかいたいっていっている。」

「サラせんせいもだよ!」


子どもたちが口々に言いながらセレイナに駆け寄ってくる。

職員10人のうち食当たりで倒れたのは6人。

ここの職員は程度の差こそあれ、何らかの『事情』を抱える女性が多く、殆どのものが孤児院に住み込みながら働いている。

勤務日である・なしに関わらず、外出時である以外は朝食と夕食を皆で食べる。

昼間と夜の勤務は1週間交代。

昼と夜の交代に当たる前日は休日となっているが、朝食後か夕食後に勤務を交代しているので常時大人5~6人が子どもたちに付いている形だ。


セレイナは腹痛を起こさなかった者にいつもと異なった物を口にしたかと聞いた。

昨晩は寄贈された焼き菓子を夕食後に頂いたということだった。

それは子ども用にと1つ1つが小さな包みになっているのものと、菓子の中にたっぷり洋酒が入った大人用のものとがあったそうだ。


子ども用の菓子を食べた者には異常が見られなかった。

大人でも腹が痛くならなかった者は「酒が合わない体質なので遠慮した」と食べなかった者と、遠くへの使いや休暇で帰省し外泊した者であった。


ではその寄付された焼き菓子が原因であるとしか考えられないが、それではあまりにも分かりやすすぎやしないか…とセレイナが顎に手を添えながら考えを巡らせていた。



「きゃあぁ~!」


突然、庭で遊んでいた子どもたちから叫び声が上がった。


どこから現れたのか…もしくはどこかに潜んでいたのか、黒いローブを纏った男が男の子を羽交い絞めにして幼い喉元にナイフを突き付けていた。

セレイナは庭の方へ体を向けた。


「マルコを離せ!」


ローブに隠れた顔に不敵な笑みを浮かべているであろう男が、状況を楽しむような声音でセレイナに言った。


「マルコとやらの命が大切なら動かない方が賢明だ。」


セレイナがローブの男に男の子を離すように言うが聞く様子はない。

ローブの男に気付かれないようにセレイナは術をかけようと構える。


しかし構える前に自分の背中側に居たユリアーヌがどさりとその場に倒れ込んだ。

セレイナがローブの男に気を取られているうちに気配を完全に消した者が背後からそっと近づいて、薬剤がしみこませてある布でユリアーヌの口を塞いで意識を失わせたらしい。


あっという間の出来事で恐怖を感じる前に意識が失われ、リカルドの術が発動することもなくユリアーヌはその場に崩れ落ちた。

ユリアーヌの意識を失わせたのはセレイナの質問に酒が体質に合わないと言った、働いて3年になる職員だった。


「ミディー…」


「セレイナ様ごめんなさい。実家の母が病で倒れたの。難しい病気だけれど教会が!教会がね、治してくれるの!」


泣きながらそう訴えるミディーの手は震えていた。

震えながらもセレイナの右手首を掴み、そこにバングルを通した。

装着させられたバングルはセレイナの手首で光る環となった。

セレイナの向かいに立つローブの男は少年に刃物を突き付けながら言った。


「それでお前のルーニーを封じたから何も出来まい。さあ娘を頂いて行くとしよう。」


魔封じのバングルはセレイナの全身の力を奪い、その場に膝をつかせた。

恰幅のいい男が物陰から姿を現すと、倒れているユリアーヌに大きな麻袋を被せ担ぎあげる。

いつの間にか孤児院の前には幌の付いた荷馬車が止まっており、ユリアーヌを担ぎあげた男はそれに乗り込みローブの男は泣きじゃくる少年に刃物を突き付けたままその後に続く。


荷馬車はミディーが乗るとゆっくりと動き出し、それを確認したローブの男は少年から手を離しその場に捨て置くと、ゆっくりと進む荷馬車に追いつき先に乗り込んだ男によって引き上げられた。

ガラガラという車輪の音とガタガタと軋む音をさせながら、荷馬車はスピードを上げ遠ざかって行ってしまった。



「くっそぉぉぉっ!」


言葉は出るものの、セレイナは自由にならない体を引きずり動かし這いずりながら解放された少年の元へと近づいて行った。

マルコと呼ばれている少年は泣きじゃくっていたが、どうにか近づいたセレイナに抱き付き一層声を大きくして泣いた。

孤児院の前に馬車が着きその中から女性が2人と白い髭を蓄えた老人が降りてきて、少年の只ならぬ泣き声と抱き付き縋っている倒れた人物に気付き慌てて駆け寄ってきた。

降りてきたのはセレイナの後を追って馬車で行くと言っていたサマンサとアリス、それに老医師のバロンだった。


「セレイナ様!大丈夫ですか?」


「…ああ、ケガなどは無い。ルーニーと動きを封じられているだけだ。それよりユリアが攫われた。サマンサ、私に代わって急ぎリカルドに伝令を!」


セレイナの幼少期の番外編を投稿しています。

よかったらお読みください。

感想もいただけたら嬉しいです。

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