5 特別な石②
「これをユリアに身につけさせていれば、普通の生活を送っている限り変に思われず問題なく過ごせるだろう。早いうちに訓練でユリアがルーニーを感じられるようになって、コントロールする術を身につければ、普通に暮らしていく分には疑われることはない。」
シルベスはそう言うとペンダントを手に取って、アーノルドの手のひらに乗せた。
「僕らくらいの力があれば意識を石に集中すると、僅かに自分や大気中のルーニーが石へ流れていくのを感じられるだろう?」
と言われ、アーノルドは目を閉じて手のひらに神経を集中させるとスゥーっとミント水を飲んだ時のような感覚がした。
「ああ、感じるな。」
「私も!」とマリアンヌが手にするも、元々彼女からは漏れだすほどのルーニーが無いために、彼女は何も感じることはできなかった。
シルベスがキャッキャと遊んでいる子どもたちを見つめながら言った。
「ユリアは聡い子だ。訓練は早い方がいい。感覚を覚えさせるためにも身に付けさせよう。使い方を習得してもあまり目立たないように、なるべく外で過ごさない方がいい。」
アーノルドは少し寂しそうな表情でユリアを見たあとに、同意を求めるようにマリアンヌを見つめた。
「そうだな。少しかわいそうだが学校ではなく、我々の目の届く所で教師や講師に習わせよう。」
シルベスが責任を持って身元が確かで、口の堅い家庭教師とマナーやダンスの講師を手配してくれるという。
一人で学ぶよりは楽しいだろうと、マナー・ダンス・乗馬などの実技と言語・歴史の授業はシルベスの息子エリックと共に学ぶことにして、週2回はフィルダナ家に通うことも決まった。
そしてフィルダナ家で話をしてから1ヶ月後には、子どもたちの勉強が始まった。
同じ歳の子ども同士は良いライバルになったようで、ユリアーヌの言葉もぐんぐん上達していき、マナーやダンスの授業は良きパートナーにもなっていたようである。
そんな生活はユリアーヌとエリックが8歳になる年まで、3年ほど続いた。
8歳でエリックが学校に行く歳になっても、ユリアーヌは自宅で家庭教師に習って勉強を続けた。
変らず行儀見習いを兼ねて、週に2度フィルダナ家を訪ねている。
主にダンスのレッスンとマナー。
フィルダナ家女主人のステファニーの話し相手や、娘でエリックの妹のロゼリアの遊び相手をしながら、社交についても学んでいった。
その頃には父アーノルドから身につけるように渡されたペンダントの意味と、ルーニーについても理解、習得もしていた。
普通の人が体内に持っているルーニーの「感覚」が、ユリアーヌには欠けている。
それを言葉とペンダントの青い魔石の力を利用して、父娘で毎日毎日根気強く訓練して自分の感覚として覚えていった。
それが身に付きルーニーを自分のもののように自然に扱えるようになっていたので、10歳で個人識別登録をする時にはルーニーを読み取る装置(魔石)での登録も問題なく済ますことができた。
12歳頃から社交の勉強だと言われ、ステファニーが催すお茶会に出るように促され、少しずつご婦人方やその娘たちと顔を合わせるのに慣れ、会話も楽しめるようになった。
ステファニーもユリアーヌを同席させる茶会に招待する人選は、当然厳しく行っていた。