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この度もお読みくださり、ありがとうございます。
新たなキャラ「セレイナ」いかがでしょうか?
彼女のことでもお話がかけそうです(笑)
玄関には訪ねてきた男が2人立っていて、執事が応接間に案内した。
応接間の中から男の1人が「娘は無事なのか!」と大きな声を出している。
「お待たせしました、屋敷の主人は留守にしていますが、代わりに留守を預かる者がご挨拶に参ります。」
執事はそう言い深々と頭を下げ一歩下がると、応接間の扉を開けて挨拶をする者を中に入れた。
「主が留守とは…」
留守とはどういうことだ!と立ち上がって言おうとした途端、長身の女性が俯き加減で中に入ってきて正式な礼をとったのでアーノルドは黙った。
「留守の間、私がこの屋敷を守っております。ご息女は現在発熱していますが、昨日雨に濡れたことに加え疲労と心労のためなので心配は無用と医師が診断しておりますので、ご安心を。」
凛とした態度できっぱりと言い終えると、すっと顔を上げた。
「「セレイナ!?」」
アーノルドとシルベス2人が驚いて立ち上がった。
部屋に入って来て挨拶をしたのは22年前に失踪した幼なじみであった。
「ははは、驚いたか?」
先ほどの美しすぎる淑女の仮面をあっさり外し、親しい者にしか見せない素のセレイナに戻る。
「なっ…お前、突然姿をくらまして、今の今までどこに居た?…いや、それになんでここに居るのだ?」
一瞬自体が呑み込めず言葉を失っていた2人だったが、我に返ったシルベスがセレイナに尋ねた。
「ああ、懐かしいなシルベスとアーノルド。ははは、リカルドは私の息子だよ。」
セレイナは前宰相の娘だった。
彼女は14歳を過ぎると名門貴族で美しい少女は、社交界注目の1人となって話題は絶えなかった。
更に稀に見る強大なルーニーの持ち主であり、10年に1人というほどのセンスも持ち合わせていて複雑な術式もうまく組み立て、展開していくことができる逸材であった。
強大なルーニーの持ち主の多くは魔導師学校へ、しかし女性の殆どは女学校へ進む。
そのような中セレイナは勉学にも秀でており、更に宰相家の娘だということで要職を目指すアーノルドやリカルドと同じ王立学校に在籍し、彼女は飛び級を経て彼らとは机を並べていた。
才色兼備かと思われていた彼女の残念な所は、良家の生まれではあったが第3子で次女だったおかげか伸び伸びと、才能を優先に育てられた。
王立学校では男子に負けないように剣技を磨き、淑女教育は二の次で見た目とは裏腹の少々ガサツで言葉遣いも乱暴な美しい女性となっていた。
学校卒業後に就いた魔道騎士という職業はそんな彼女にとても合っていた。
魔道騎士の生活はガサツでも言葉遣いが荒くても、仲間とうまくやる能力と実力があれば務まった。
彼女は魔道騎士となってたった1年で優秀な魔導士に与えられる「光」の称号を王より賜った。
それなのに彼女は、ある日突然姿をくらましたのだ。
その人物が目の前に急に現れ、リカルドは息子だと言う。
2人とも事態が飲み込めず頭が混乱していた。
「まあ取り敢えず今は私のことはいいとしよう。いつか詳しい話をする機会もあるかもしれない。それよりもユリアーヌちゃんだが体の療養に2週間は必要だ。それに事件の根本が解決していないというではないか。それまではどこよりも安全なこの屋敷に置いておくべきだ。」
「若い男の家に置いておけるわけがないだろう。連れて帰る!」
「止めておけ、まだ問題は解決していないのだから。ここより安全なところなど存在しないぞ。リカルドが張った結界は私が見ても完璧であったし、何といってもあの子が留守の間は私が代わって守ることになっているからな。」
光の称号を持った最高ランクの元魔道騎士が守っているのだから、もう何も言えない2人だった。
渋々だがやっと承知したアーノルドとシルベスをセレイナはユリアーヌが眠っている部屋へと案内した。
適切に管理された部屋に入ると、側に付いていた女中頭のマーサが頭を下げて出ていった。
アーノルドは急いでユリアーヌに近づき、ユリアーヌの手を取って「ユリア」と声をかける。
「右足を捻ったらしく腫れている。それ以外にケガや傷は無い。何度かうなされることがあったから、眠れるようにと医師が薬を投与した。明日の朝まで起きることはないだろう。医師は私の実家『サルバドール』のお抱え医師だから秘密は守るし、心配はいらない。」
「ありがとう。」
アーノルドはセレイナに心からのお礼を言った。
「いや、私はただここで危険が及ばないようにリカルドに頼まれて守っているだけだよ。あの子から昨日あったことを聞いたけれど、必死に守ったのはオルスターの御者とリカルドなのだろう?お礼は彼らに言うべきだよ。」
「…ああ、そうだな。」
「ところで気になっていることを聞いていいかい?ユリアちゃんのルーニーはどうなっている?ここにきてからずっと、私には彼女のルーニーは感じられないのだけれど。」
昨日逃げまどう途中でユリアーヌは青い石のペンダントを無くしてしまっていた。
アーノルドもそのことは、治療を受けた後に屋敷に送り届けられた御者のヨハンから報告を受けていた。
ヨハンはユリアーヌと約束をしたからと、安静が必要な体でペンダントを探しに行こうとしていた。
もちろんアーノルドはそれを止めた。
「それは俺から話そうか。」
シルベスとセレイナは部屋の窓側にあるソファーに座った。
ユリアーヌの手を握って動こうとしないアーノルドに代わってシルベスは、ユリアーヌがオルスター家の娘になった経緯とルーニーと『渡り人』ということ、それに今回の騒動で繋がった新聖派の企みで行われたであろう召喚魔法の失敗…全てを話した。
それを話し終えると随分と時間が経っていた。
ユリアーヌと離れ難いアーノルドをシルベスが引きずるようにしてアーバンヒル邸を後にしたのは、昼という時間を随分と過ぎた頃だった。
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