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この度もお読みくださり、ありがとうございます。

アーバンヒル邸は大騒ぎになった。


いつも帰宅が遅くて当たり前の主人が連絡なく騎馬でもなく、雨でびしょ濡れ。

おまけに魔獣の体液も付いた生臭ささも纏った状態で、同じくびしょ濡れの泥で汚れたぐったりとした若いお嬢さんを抱きかかえながら、突然玄関ホールに現れたのだ。

執事のマルクスは腰を抜かし、女中頭のマーサも目を丸くしたまま固まっていた。

その時リカルドの腕の中でユリアーヌは慣れない転移の感覚が辛く、気を失ってしまっていた。


「マーサ、彼女の着替えを頼みたい。冷え切ってしまっている。マルクス!足を捻っていて腫れてきているのだが、彼女の居場所は極秘だ。誰か信用できる口の堅い医師を手配してくれ。」


マーサがユリアーヌの顔色を見て「失礼しますね」と顔や手足に触れる。


「リカルド様、こんなに冷えてしまっていては着替えるだけではもとには戻せません。湯に浸けて体温を上げないとお命にかかわりますよ。女性は私と下働きの者しかいませんし困りましたけれど….とりあえず湯の用意をしてきますから、誰か手伝いの女性を…あっ!、セレイナ様にお願いいたしましょう!坊ちゃま、セレイナ様に急ぎ連絡を!あの方ならすぐに来ることができますしね!医師のことも相談しましょう。」


リカルドは『セレイナ』に急ぎ伝令を送る…ただし速度を早くするには言葉数は少なくしなくてはならない。

取り敢えず暖炉の火を強くし、その前で湯の用意ができるのを待つ。



程なく屋敷に張った結界に許可をされている者が転移で侵入してくる感覚がする。


「セレイナ様、お久しぶりでございます。」


マルクスが玄関に現れた女性に恭しく挨拶をし、足早に暖炉が力強く燃えているリビングへと案内する。


「リーが私を呼ぶとは初めてだな…っと、どうした?女の子を抱えて。」


セレイナはリカルドが大事そうに抱きかかえている女性を覗き込んだ。


「ユリアちゃん?ユリアちゃんじゃないか!」


「母上は彼女を知っているのか?ああ…もう、お互いの細かい話とか詳しい話とかは全て後にして、冷え切った彼女を風呂に入れてくれ。」


その時ちょうど湯の用意ができたとマーサが呼びに来たので、母セレイナにユリアーヌを引き渡す。

因みにセレイナも特殊ランクのルーニーの持ち主のため、重量軽減魔法などでユリアーヌを抱えて運ぶのは朝飯前だ。

その間にリカルドも自分の部屋のシャワー室で身を清め着替えた。


通いで働きに来ている下働きの女性らに急いでリカルドの部屋の隣にユリアーヌが滞在する部屋を支度させた。

1時間ほど経った頃にセレイナが抱えてきたユリアーヌの意識は未だないままだった。

しかし頬は赤みを取り戻し穏やかな顔つきになっていて、リカルドは母から彼女を受け取ると2階に用意した部屋へと運んだ。

ベッドに白いシンプルな夜着を纏ったユリアーヌをそっと横たえた。


「女ものの服などあったか?」


自分の屋敷にはないだろう物を、彼女が着ていて不思議に思ったリカルドが女中頭のマーサに問う。


「こちらのお屋敷を賜ったときにセレイナ様のお部屋もご用意しました。それはセレイナ様がいつ泊まっていかれてもいいようにとご用意させていただいていたものです。サイズは少々合ってはいませんが未使用なので、今日はその1つを使わせてもらいました。」


「あら、すまなかったねぇ。この屋敷に来ることも殆どないうえ、泊まることもなかったからね。」


セレイナは自分のものが用意されていることに驚いていたようだった。

ユリアーヌにはマーサが付いていてくれるというので、1階のリビングでこれまでの彼女との関係をざっと説明し、今日ここに来ることになった出来事も含めて母セレイナに話をした。

母とユリアーヌの関係は思っていた通りで、セレイナが経営する孤児院をオルスター家が支援していた。

以前ユリアーヌが困っていた時に『アシャンテ孤児院』まで送ったが、その名称を聞いたときにリカルドは聞きなれた名前に少々びっくりしたものの、その時は貴族階級の者が慰問を行うことはよくあることなのであまり気に留めてもいなかった。


リカルドは今日あったいろいろなことの終息、報告などを王太子殿下にしなくてはならず、心残りではあるが一度王宮に行くと言って軽く食事を取り、替えの騎士服を着るとユリアーヌとこの屋敷の警護を母に託し王宮へと出掛けていってしまった。


その日の夜はリカルドが戻らないまま、そしてユリアーヌは疲労と心労で熱を出してしまっていた。

セレイナの伝手で夜遅い時間だが緊急事態だと医師に来てもらい診てもらった。

夜中に一度目を覚ましたユリアーヌが「…?…セレイナ先生…?」と呟き、また眠ってしまった。

セレイナはそんなユリアーヌの額のタオルを新しいものに変えた。



一夜明け、昼近くになってだんだんと近づきつつある2つのルーニーを察知し、誰のものか確認すると窓から外を見ながらセレイナは微笑みを浮かべ呟いた。


「さあ、来たね。実に久しぶりだ。ワクワクするねぇ。」


アーバンヒル邸に向かってくる馬車が屋敷の門に近づく。

その馬車が通り過ぎる瞬間だけ門付近の結界を解いてやり、セレイナは客を敷地内に招き入れた。

2人の甘さも少しずつ増やしていきたいと思います♡

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